未来の難題を、こう解いていく by Future Creative CenterNo.17
新しい街づくり「北海道ボールパークFビレッジ」に学ぶ、未来創造型プランニングとは?
2021/12/06
電通のクリエイティブ横串組織「Future Creative Center(FCC)」は、広告の枠を超えて、未来づくりの領域をクリエイティビティでサポートする集団。この連載では、「Future×クリエイティビティ」をテーマに、実際の取り組みを紹介します。
今回は、企業や産業全体の変革をドライブする「突破考」は、どのように生まれ、どんな未来をもたらすのか? 知られざるストーリーに迫り、明日のビジネスへの糧を見つけるオリジナル番組『突破考』からお届け。
スポーツビジネスに変革をもたらそうとしている「北海道ボールパークFビレッジ」の事例から、「これからの価値創造のあり方」を探ります。
モデレーターは佐々木紀彦(NewsPicks NewSchool 校長)。そしてゲストMCに予防医学研究者の石川善樹氏を、さらに株式会社電通・Future Creative Centerセンター長の小布施典孝氏、株式会社ファイターズ スポーツ&エンターテイメント事業統轄本部の小川太郎氏のお2人にご登場いただきました。
※本記事はNewspicksからの転載記事です。
「概念のシフト」で新たな価値を生み出す
佐々木:様々なビジネスが変革する中で、必ず必要とされるのが“新たな価値創造”です。今日はその事例の1つとして、スポーツビジネスに変革をもたらそうとしている「北海道ボールパークFビレッジ」を取り上げたいと思います。石川さんはボールパークについてどのようなイメージをお持ちですか?
石川:アメリカに留学していた頃、ボストン・レッドソックスの本拠地であるフェンウェイ・パークのすぐそばで暮らしていた経験があります。
ボールパークは単なる野球場ではなく、文字通り公園とセットになったものですから、日中から多くの親子連れが訪れていたのが印象的です。これまでとは違った形でスポーツと触れ合える場所ですよね。
佐々木:日本でも広島や北海道でボールパークの建設が進められ、少しずつ広がりを見せています。
石川さんはまさに、ファイターズと共に「Fビレッジ」を手掛ける電通FCC(Future Creative Center)のアドバイザーを務められていますが、この電通FCCというのがどのような部署なのか、小布施さんから簡単にご説明いただいてもいいですか。
小布施:電通のクリエイティブというと、テレビCMや新聞広告などを作るイメージが強いと思いますが、FCCは未来を創っていく上での構想や企画のサポートを行う、80名ほどのチームになります。
例えば最近では、ロッテのアイスクリーム「爽」のプロモーションをお手伝いさせていただきました。「爽」は何十年も前から存在する商品なので、その存在やおいしさはすでに多くの人に知られています。
そこで、商品の認知度アップを目指すのではなく、食体験を変えようと、柄の先に鉛筆を模したデザインのスプーンを取り入れたところ、アイスの表面に絵を描く消費者が急増しました。
絵を描いたら誰かに見てほしいのがユーザー心理で、実際にSNS上には今も、「爽」に描かれた多くの作品が投稿されています。つまり、従来の「味の戦い」を「食体験の戦い」にシフトしたことで、CMとは異なるアプローチで売り上げの向上に繋げたわけです。
石川:FCCの特色は、複数のクリエイターのアイデアを片っ端から取り入れていく小布施さんの手法によく表れていると思います。アイデアを受け入れてもらえる土壌があるので、単純にお仕事をご一緒していると、承認欲求のようなものが満たされてみんな楽しいんですよ。
佐々木:なるほど。1人の有力なクリエイターのスキルに頼るのではなく、全体のアイデアのいいところを取り入れて発展させていくやり方ですね。
小布施:新しい未来を構想するというのは非常に難しいことですが、一人ひとりが持っている気付き、あるいは違和感のようなものがヒントになるケースは多いと思います。ですから、日頃の議論においても、おのおののそうした思いを意識的に拾い上げるようにしています。
石川:現実とかけ離れた未来を構想したとしても、そこからの逆算ができず、掲げただけで終わってしまいがちです。かといって現実に立脚して考えると、ありきたりなアイデアしか出てきません。そこで重要なのが、小布施さんが今おっしゃったような概念のシフトなんですよ。
例えば「人生80年」という概念が「人生100年」に変わったことで、人の人生設計や考え方も大きく変わりました。そういった中心の概念を探すことを、FCCでは日頃から心掛けています。
ボールパークで共通言語を作る
佐々木:北海道ボールパークFビレッジは、まさにそうした概念の部分に変化をもたらす取り組みだと思います。そもそもなぜボールパークに着目したのでしょうか?
小川:これには球団経営の観点から、大きく2つの理由があります。
まず、球団の更なる成長を実現する上で、自前の球場を持つのは非常に重要であるということ。そしてもう1つは、球場周辺の街づくりに寄与することで、野球に関心のない層にもアプローチし、競技人口の急激な減少による影響を受けない成長シナリオを描く狙いがあります。
今回のFビレッジでは“共同創造空間”というコンセプトを掲げ、多様な主体と協業しながら新球場を核にした周辺の街づくりを行います。開業は2023年春を予定していますが、その時点で飲食店や宿泊施設、住居、教育施設など、想定するすべての機能を実装させようというのではなく、段階的に街を成長させていくプランです。
佐々木:ちなみに、Fビレッジ完成後の経済効果についてはいかがでしょう。
小川:色々な試算があるので一概には言えませんが、北海道の北広島市では10年間で1500億円、北海道全体では10年間で8000億円という試算もあります。
佐々木:では、計画を進行する上で一番の課題は何ですか?
小川:共同創造空間ということで、周辺の街づくりにおいては特に、これから多様な事業パートナーの力をお借りして、一緒に取り組んでいかなければなりません。今後どう理解を広め、パートナーを増やしていくかが目下の課題ですね。
小布施:電通もその一社なわけですが、スポーツを中心に据えた街づくりというのは、可能性に満ち溢れたプロジェクトだとすぐに直感しました。幼児のスポーツ教育からシニア層の孤独解消まで、スポーツを介して行えることは非常に多いですから。
石川:実際、スポーツファンというのはウェルビーイングが高いんですよ。応援しているチームが強くても弱くても高いのが面白いところで、それはなぜかというと、スポーツは世代を超えて交流できる数少ないものの1つなんですね。
ひいきのチームが同じというだけで、老若男女を問わず共通言語が生まれるわけで、その意味でも大きな可能性を秘めたプロジェクトだと感じます。
目指すべき未来を共有する「突破考」とは
佐々木:では、そんなボールパークを実現するための突破考は何か。最初の突破考を示す、1枚のイラストがありますのでご覧ください。
小布施:こちらはボールパークを造るにあたり、「こういう未来にしよう」というイメージを皆で出し合ったフューチャービジョンです。
大きなポテンシャルを秘めた事業であるだけに、今回のプロジェクトに関してはステークホルダーそれぞれが個別にビジョンを持っています。しかし、それらすべてを寄せ集めてもうまくまとまらないので、目指すべき未来を共有するために作ったのがこのイラストです。
小川:こうして絵にした意味は大きくて、我々としても「新球場を創ろう」、「それに伴い住宅や商業施設を造ろう」、「だったら学校も必要だ」などと口々に言い合っていても、どのようにまとめるのが正解なのか、最初は誰も確たる自信が持てずにいました。
しかしこのフューチャービジョンによって、自分たちが目指しているのはどういう体験が提供できる街で、そのために何が必要なのかの共通イメージができ、より明確になりました。
小布施:また、今回のプロジェクトではもう1つ、「PLAY HUMAN.」という概念を設定しています。
これはこの街が提供する価値を一言で言い表したもので、端的に言えば「人が人らしく生きられる場所でありたい」という願いが込められています。これは野球ファン以外の方にも来てもらえる街にするためにも大切なメッセージだと思います。
佐々木:こうして目指すところをイラストによって明確化し、そこで実現すべき概念を一言化したところで、今度は事業を進めるための人材を揃えなければなりません。
ではその人材をどう集めるかというのが、第2の突破考です。今回のプロジェクトでは、「家族の皆様へ。ファイターズへの転職のご相談」と掲げたリリースを用意されていますが、ここにはどのような狙いが込められているのでしょうか。
小布施:我々としては手を挙げてくださる方には、全国から北海道へ来ていただきたいと思っていますが、考えてみればこれは非常にハードルの高いことです。
北海道移住を実現するためには家族を説得しなければならないでしょうし、これを普通の求人告知でやるのは困難であると考えました。冒頭で「家族の皆様へ」としているのは、ご家族を説得する材料にしていただきたいからです。
石川:これ、SNS上でも非常にバズってましたよね。僕も最初、誰の仕事なのか知らずにこのスライドを目にしていたのですが、ページを進めていってすぐに「これは小布施さんだな」とピンときました。小布施さんはストーリー仕立てのスライドを作るのが本当にうまいですからね。
小布施:大切なのは情報の順番なんです。例えば、スポーツビジネスがこれからどう魅力的になっていくのか、北海道へ行くとどんな良いことがあるのかが、求める人が知りたい順番で並ぶように配慮しています。
小川:結果、求人ツールとしては大成功で、7人の採用枠に対して、5000人以上の応募がありました。これまで球団が募集をかけた時にはリーチできなかった層から多くの反響があったのはよかったですね。
佐々木:それはすごいですね。欧米ではこうしたスポーツ関連のビジネスは「ドリームジョブ」と呼ばれて人気がありますが、日本では透明性が欠けているためか、不安を持たれることも多い業界だと思います。
そうした不安を払拭するのに、まさにうってつけの手法だったということなのでしょう。
石川:大勢の力を結集させて1つの目的地に向かうには、やはりこうしたひと目でわかるフューチャービジョンや、一言で伝わる「PLAY HUMAN.」といったメッセージが欠かせません。さらにそこに、明確なストーリーが提示されることで、初めて大きなうねりが起こせるのだと思います。
未来創造型の事業を成功させるには?
佐々木:最後に、このボールパークを中心に、実際にどのような街が生まれようとしているのか、具体的な展望をお聞きしてもよろしいですか。
小川:まず、球場の開業と同じタイミングで、レジデンスの販売がスタートします。ボールパークに住むことでどのようなライフスタイルを創出するかを検討した結果、入居者の方には10年間、球場への無料アクセス権を提供することになりました。
また、新しい観戦体験の演出として、球場内のレフト後方に、4層程度のフロアを設けて客室や温泉・サウナ、フードホールを用意します。球場内で温泉につかりながら試合が見られるのは、世界初の試みです。こうした施設は試合のない日でも集客要因になるのではないかと期待しています。
佐々木:なるほど。まさしく電通が掲げる未来創造の一端に触れる思いです。本日の総括を石川さんにお願いしましょう。
石川:まとめるならば、「概念の一言化・一目化・一発化」ということだと思います。
関わる人が皆、おおむね頭の中に持っている概念を、いかに一言で、一目で、そして一発でわかるものに落とし込めるかが、未来創造のカギとなります。もっとも、それは非常に難しいことなのですが。
佐々木:ありがとうございます。変革する社会の中で企業に求められる新しい顧客体験について、本当に様々なヒントをいただきました。Fビレッジが創り出す未来を楽しみにしています。
番組視聴はこちらから。
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