未来の難題を、こう解いていく by Future Creative CenterNo.18
“スキップされる広告”からの脱却。カルピスウォーター®「放課後10分ドラマ」
2022/01/27
電通のクリエイティブ横串組織「Future Creative Center(FCC)」は、広告の枠を超えて、未来づくりの領域をクリエイティビティでサポートする70人強による集団。この連載では、「Future×クリエイティビティ」をテーマに、センター員がこれからの取り組みについて語ります。
デジタルネイティブ世代へのアプローチ方法が問われる昨今、“スキップされる広告”ではなく、ターゲットが自ら見たくなるような「ブランデッドコンテンツ(※)」のニーズが高まっています。
※=ブランデッドコンテンツ
広告の形をしていないが、ブランドのメッセージを伝えたり、広げたりする機能を果たすコンテンツ
ロングセラー商品であるアサヒ飲料のカルピスウォーター®は、2020年から若年層向けプロジェクト「放課後カルピス®」を展開。その2021年版のテーマである「日本中の高校生の“片想い”をエンカレッジする。」を実現すべく、本格的なウェブドラマ作りに挑戦し、計13話の放課後10分ドラマ「すべての恋は片想いからはじまるっぽい(通称:恋ぽい)」を制作しました。
総再生回数は500万回を超え、ドラマ視聴者からは「見るごとにハマってくドラマ」「10分とは思えない内容と伏線!」などの熱いコメントが続々と。事後調査での「青春飲料ブランド」のイメージ想起で1位を獲得し、まさにブランデッドコンテンツを起点としたブランドイメージ向上に成功しています。
今回はアサヒ飲料宣伝部の小林正寿氏、監督を務めた松本花奈氏をゲストに迎え、本企画にプランナーとして参加した電通FCC所属の上脇辰一朗氏とプロジェクトの狙いや制作プロセスを振り返りました。
「高校生のリアルな声」と「過去ヒット作の徹底分析」から、最適解を導き出す
上脇:「放課後10分ドラマ」は、2020年から実施している高校生向けプロジェクト「放課後カルピス®」の一環として生まれた企画です。はじめに、今回のプロジェクトの背景にあった狙いを改めて教えていただけますか?
小林:カルピスウォーター®は2021年に発売30周年という節目の年を迎えることができました。多くの方々に親しんでいただいているブランドですが、カルピス®特有の甘ずっぱいおいしさや爽快感をより身近に感じていただき、日常のさまざまなシーンで飲んでいただきたいという思いがありました。その取り組みの一つが、高校生や10代の方々に向けた「放課後カルピス®」でした。
上脇:そうでしたよね。カルピスウォーター®のブランドイメージと親和性の高い「青春」を切り口に、放課後をもっと楽しくするさまざまなコンテンツを企画し、若年層のブランドイメージを高めることに成功しました。
小林:一方で、「青春」というテーマは非常に幅広く、他のブランドのキャンペーンでも取り扱われる頻度が高いものです。次はもう一歩シャープな切り口にしようということで、ご提案いただいたのが「片想い」でした。
上脇:それこそ、「片想い」はカルピスウォーター®が長年テレビCMで描いてきたテーマですが、特に、片想いの中にあるピュアな気持ちや甘ずっぱさはブランドのイメージそのものです。そんな高校生の片想いを応援することで、カルピスウォーター®ならではの説得力が生まれるのではないかと考えました。
小林:多くの高校生に興味を持っていただけそうなテーマで、かつ、カルピス®というブランドが築いてきた資産を存分に生かせる点が非常に良い企画だと思いました。
上脇:今回の取り組みでチャレンジしたことの一つが、実際に高校生の声を聞きながらコンテンツに落とし込んだことですよね。企画段階からヒアリングを重ね、「短い動画に慣れている」とか「動画を見るならインスタよりYouTube」といった意見を参考にしながら、「1話10分のYouTubeドラマ」というフォーマットにたどり着きました。
小林:はい、動画の接触状況だけでなく、ふだんの高校生活や“片想いあるある”などもヒアリングして、ストーリーや細かい設定にも高校生のリアルを反映していましたよね。
上脇:リアルな声を拾うのと同時に、過去にヒットしたウェブドラマを徹底的に分析して、高校生に響くポイントを抽出し、ストーリー作りに生かしました。例えば、スマホ画面での見やすさを追求して明るくポップな世界観をつくる、登場人物の誰かに必ず共感できるような個性豊かなキャラクター設定、彼らにとって等身大の悩みを各話のテーマにする、といったポイントはこうした分析結果から導き出されたものです。
「1話10分」という尺で、視聴者を引き付ける方法
上脇:小林さんとは「高校生の心に響く本格的なドラマを作りたい」と話していたので、脚本や監督、制作会社などはドラマや映画のプロの方にお願いしたいと考えていました。その中でも、企画の初期段階から話題に上っていたのが松本監督です。数々のヒット作を手がけられていて実績が十分にある上、若い方なので高校生の感性にも近いものをお持ちだろうと思いました。松本監督は、オファーを受けた時の印象はいかがでしたか?
松本:送られてきた企画書は、100ページ以上(!)ありました。とても熱量のある企画書で、意図やコンセプトも丁寧に説明していただき、今までにないウェブドラマが作れるのではないかとワクワクしたことを覚えています。
上脇:1話10分という短い尺で、ストーリーを組み立てるのは大変でしたか?
松本:はじめは、10分でどこまで表現できるのかが不安だったのですが、10分×13話だと考えると2時間以上の作品になるので、いろいろと工夫できることがあると思いました。とはいえ、毎回10分の終わりに次が見たくなるような仕掛けを作る必要があるので、そこは新しいチャレンジでしたね。
上脇:毎回ラストで次回予告が入るのは松本監督のアイデアでしたよね。次が見たくなる秀逸な構成になりました。もちろん、1話ごとのストーリーも緻密に作られているので、見ているうちにどんどんハマっていく感覚がありました。
小林:YouTube動画は冒頭で視聴者が離脱しやすいメディアだと思うのですが、そこも、オープニングの壁一面に付箋を張り巡らせたカラフルな世界観で、視覚的に引き込まれる工夫がされていると思いました。
松本:先ほどおっしゃっていただいた、「明るくポップな世界観」を表すオープニングにしたいという想いがありました。片想いがテーマではあるものの、全編にわたって暗くならないように心がけました。
上脇:ブランド側として、コンテンツ作りで意識したポイントはありますか?
小林:自らに言い聞かせていたのは、「企業の自己満足になってはいけない」ということ。カルピスウォーター®のウェブドラマではありますが、高校生の心に響くコンテンツを作ることが何よりも重要です。広告っぽさが出ていないか、ストーリーやメッセージが大人の押し付けになっていないか、皆さんと何度も意見交換しながら進めていきましたよね。
松本:商品が出てくるシーン自体があまり多くないですし、出てくる時も目立ち過ぎない映り方なので、「大丈夫かな?」と心配になるくらいでした(笑)。
そのおかげもあって、純粋にドラマを制作することが出来ました。
小林:でも、さりげなくキーワードとしてセリフに入っていたりして、脚本も非常に工夫して作ってくださったと感じています。
ブランデッドコンテンツが、YouTubeの新しい使い方になる
上脇:配信がスタートしてから、手応えを感じた瞬間はありましたか?
小林:毎日のようにコメント欄やSNSの反応をチェックして、僕の生活はほぼ「恋ぽい」で占められていました(笑)。でも、回を重ねるごとにコメントがどんどん増えていき、登場人物に共感するコメントや応援するメッセージもたくさん頂けて、非常にうれしい気持ちになりました。
上脇:「10分とは思えない内容」とか「残りの高校生活を大事にしたいと思った」とか、中には「甘ずっぱくて、カルピス®飲みたくなった」というありがたいコメントまで出ていましたね。
松本:6人の異なるキャラクター、それぞれに共感してくださる方がいたことも良かったです。
上脇:6人6様の片想いが描かれていた点や、最終回の結末も含めて、ストーリーに多様性があるところも、今の高校生が共感しやすいポイントなのかもしれませんね。実際に、YouTubeの高評価率も約99%と、非常に高い数値を記録しています。
小林:接触してくださった方の購入意向が高まったというデータも出てきています。「広告じゃなくても、そういう仕掛けができるのか」と率直に驚きました。
上脇:「広告ではなくブランデッドコンテンツを作る」という英断をしていただいたおかげです。YouTube自体のビジネスモデルも変化していて、広告自体がスキップ・カットされる機会も増えていくと考えられる中で、「自ら見にいきたくなるものをつくる」という今回の取り組みは、時代に合った挑戦だったと思います。また、広告業界という枠組みを超え、ドラマや映画のプロの方々と共創して新しいチャレンジができたことに大きな手応えを感じています。
小林:今回制作した動画の広告配信も、視聴率が平均50〜60%、初回に至っては65%に到達しました。これは驚異的な数字ですよね。ユーザーが本来見ようと思っていた動画コンテンツに割り込んできた広告で、しかも10分という長尺。それなのに、スキップせずに見てくださった方が60%もいるのは、まさにコンテンツの力によるものだと思います。
上脇:今回はキャスティングに関しても、ネクストブレイク候補の方々を起用させていただきました。キャストのこのドラマにかける気持ちも強かったので、彼らのSNSでも積極的に恋ぽいのことを発信してくれました。その結果、有名な俳優が出ているから見るというより、ドラマの世界観が好きだったり、キャラクターやストーリーへの共感で見ていただいた方も多かったのかなと思います。だからこそ、「高校生のピュアで甘ずっぱい気持ちを応援したい」というブランドのメッセージがより伝わるドラマになったのではないでしょうか。小林さんをはじめとするアサヒ飲料チームの皆さまのチャレンジ精神がなければ絶対に実現できませんでしたし、松本監督をはじめとする制作チームの素晴らしいクリエイティブなくして成り立たない企画だったと思います。
松本:制作期間はかなり短かったのですが、ギュッと凝縮された時間を過ごせました。恋ぽいシーズン2を心待ちにしています(笑)。
上脇:続編にも期待しつつ(笑)、ぜひ今後ともよろしくお願いいたします!