未来の難題を、こう解いていく by Future Creative CenterNo.19
「いい会社」の定義を考える。Well-being Initiative始動
2022/03/31
電通のクリエイティブ横串組織「Future Creative Center(FCC)」は、広告の枠を超えて、未来づくりの領域をクリエイティビティでサポートする70人強による集団。この連載では、「Future×クリエイティビティ」をテーマに、センター員がこれからの取り組みについて語ります。
長い間、世界では経済成長を「豊かさ」の指標としてきました。GDP(国内総生産)はその代表です。しかし、豊かさは必ずしも物質的なものだけでは測れないと感じている人もいるでしょう。
そんな中、物質的豊かさだけでなく、人々のWell-being(実感としての豊かさ)が評価される世の中をつくろうと2021年に創設された企業コンソーシアムがあります。公益財団法人 Well-being for Planet Earthと日本経済新聞社、そして国内19の企業(本記事公開段階)が参画する「Well-being Initiative」です。電通はそのプランニングやプロデュースをサポートしています。
本イニシアチブは、企業経営においてもWell-beingが評価されることを目指しており、そのツールとして、業績中心だった従来の財務諸表に変わる「統合諸表」を開発しています。
そこで今回、日本経済新聞社メディアビジネス 広告コミュニケーションユニットの島めぐみ氏と、電通新聞局の藤井統吾氏、電通FCCメンバーである電通 zeroの村山二朗氏が、イニシアチブの目的や活動内容、統合諸表の開発について語り合いました。
GDPとは違う尺度で、豊かさの新指標を企業が一緒に考えていく
藤井:「Well-being Initiative」は、これからの時代に、Well-beingという概念とそれを評価する新指標を社会アジェンダにしていく企業コンソーシアムです。
いま多くの企業が取り組んでいるSDGsは、2030年がゴールに設定されています。それ以降の“ポストSDGs”として、2030年からのグローバルアジェンダを主観的Well-beingにすることが長期的なビジョンです。このビジョンを達成するために、GDPと並ぶ新指標としてGDW(Gross Domestic Well-being:国内総充実)をつくろうと考えています。
とはいえ、Well-beingの概念はまだ固まっておらず、指標の測り方は議論が必要です。このイニシアチブは、Well-beingについて参画企業の皆さまにさまざまなトピックを共有させていただきながら、共に考え、実践していくコミュニティと捉えた方が正しいかもしれません。
島:戦後、経済成長を表す重要指標としてGDPが使われてきましたが、GDPだけでは測れない豊かさがあるはずです。コロナ禍はそのことに気づくきっかけになりましたし、Well-beingに目を向ける企業も増えてきたと感じます。
特に日本は、GDPは世界3位でありながら、国連の関連団体が発表する「世界幸福度ランキング」では54位になっています(2022年3月発表)。経済的には豊かなはずなのに、幸せを体感できていない背景には何があるのか。その意味で日本がWell-beingと真摯(しんし)に向き合うことが必要だと思いました。また、GDPとは違う尺度で、かつGDPに並ぶ指標としてGDWをつくり、企業の方々と一緒に考える必要があると感じました。こういった理由から、日本経済新聞社もこのイニシアチブに関わっています。
藤井:このイニシアチブは、公益財団法人Well-being for Planet Earthの石川善樹さんから「日本発でSDGs後のグローバルアジェンダをつくりたい!」という壮大な相談をいただいたところから始まりました。
産官学を巻き込むこのテーマであれば、日本経済新聞社さんしかいない!と思い、お声がけし、2021年3月に創設されました。企業の方のお力添えをいただきながら、現在19社に参画していただいています。
島:多くの企業に興味を持っていただけたのは、企業はすでにSDGsの先となる2030年以降に何をすべきかを考えているからです。ポストSDGsの企業経営を考える上で必要な視点だったのではないでしょうか。
また、藤井さんがおっしゃったようにWell-beingはまだ固まっていない概念でもあります。決まっていることに受け身で参加するのではなく、一緒につくっていくことに意義を感じてご参加くださった企業も多かったですね。
2021年は日本にとっての“Well-being元年”
藤井:このイニシアチブは、世の中にWell-beingが浸透するだけでなく、多くの企業が世界をWell-beingにする取り組みを行い、その活動がきちんと評価される社会をつくることを目指しています。
とはいえ、「だれもやったことのないチャレンジ」のため、参画企業、石川善樹さん、日本経済新聞社の皆さんと悩みながら一歩ずつ進んできたのが実際のところです。
そうやって一緒に考えながらこれまでに大きく4つの活動を行ってきました。1つ目は、参画企業の経営者が集い、Well-beingをどう社会に広めるか、企業が取り入れるかを議論する円卓会議です。
村山:私は円卓会議の設計を一部サポートさせていただきましたが、大事なポイントは会議で“何を話し合うのか”ということでした。単に各社の活動を発表する場にするのではなく、「いい会社とは何か」をWell-being視点で話し合うなど、円卓会議という場を使って、みんなが議論する場にできたらな、というふうに考えました。その結果、議長・副議長の進行もあいまって、「いい社会ってなんだろう」「企業はこれからの社会に対して、どんな視点で何を対応していくべきなんだろう」など、大きなテーマについてさまざまな意見が交わされる場になったと思います。
藤井:このイニシアチブが行ってきた活動の2つ目が、企業の皆さんが参加するワークショップです。これは後ほど詳しく説明します。そして3つ目は、有識者が集まってのシンポジウム開催です。
4つ目の活動となるのは、Well-beingを普及するためのメディア発信です。おもに日経グループのメディアを活用して、啓発広告や特集番組などを作ってきました。
島:Well-beingを理解している方はまだ多くない状況ですので、目に触れる機会を増やすことが重要です。まずは広告企画で世論に投げかけ、少しずつ浸透すれば、自然と編集記事で特集される機会も増えてきます。
創設からここまでの1年は、まさに種をまく活動でしたが、実際に編集記事として取り上げられることも増え、また取材の中で経営者の口から自然とWell-beingという言葉が出てくるようになったと感じています。
藤井:昨年の成果として、日本政府でも動きがあったのは大きな前進です。イニシアチブ創設前から政府にも提案しており、2021年2月には、当時の自民党政調会長を務めていた下村博文氏が「GDPに並ぶ新たなGDWを提唱すべきではないか」と国会で発言し、チームメンバー全員で感動していました(笑)。
その後も、「骨太の方針」(経済財政運営と改革の基本方針2021)や、さまざまな政策でもWell-beingについて触れられており、2021年は日本にとってのWell-being元年になったと思います。
財務だけではない、目に見えない企業価値を明らかにする「統合諸表」とは
村山:イニシアチブの活動で今後重要になるのが「いい会社の定義を変える」ことです。これまでは、おもに会社の業績から企業価値を測っていましたが、従業員の状態(社員)、環境への取り組み(環境)、社会への貢献(社会)といった非財務情報、無形資産も重要です。
いま企業価値の測定に使われている財務諸表は、約70年前に生まれたものであり、そこからアップデートされていません。財務諸表は企業の業績や財務面はわかりますが、それ以外の貢献はどう開示し、どう評価されるべきかという課題があります。
そこで新たに開発したのが「統合諸表」です。Well-beingやESGなど、非財務情報に対する企業の価値や状況が一目でわかる一枚絵モデルであり、Well-beingを経営に取り入れる際のプランニングツールでもあります。こちら、ウェブサイト にて無料公開をしていますので、ご確認をいただけたらと思います。
企業経営においては、事業だけでなく、社員、環境、社会の4象限をバラバラに分断せず統合することが重要です。そのためには会社の存在意義(Purpose)をまず明らかにし、それを中心に各領域(象限)を考えていく必要があります。
統合諸表は、Purposeを真ん中に置きながら、事業、社員、環境、社会の4象限におけるマテリアリティ(戦略)に加えて、企業の具体アクションを可視化させます。その先に非財務指標などのKPIを置くことで、その企業がどういう考え方で、何を行っているのか、という企業の現在の状態を一枚絵で表現することができます。
こういった作業を各企業が共通に行うことで、Well-beingが企業経営にも取り入れられていったらと思っています。
藤井:実際に、統合諸表を使ったワークショップもイニシアチブの参加企業を中心に行いました。先ほど少し触れた、企業の担当者が参加したワークショップです。
島:ワークショップでは、企業の方から好意的な声が多く聞かれました。統合諸表を埋めながら、自社でアクションが足りない領域や、具体的な戦略について話し合えたのがよかったようです。また、各社が課題や悩みを他社の前で発表し、意見交換を行ったのですが、可能な範囲でお互い腹を割って議論できたのも意味があったとのこと。今年もこういったワークショップを続けていきたいですね。
村山:今後、統合諸表は電通のソリューションサービスとして展開していきます。統合諸表に書き込む中で自社に足りない領域を把握し、解決策としてのアクションを起こす企業が増えればと思います。さらには、企業の具体的なアクションを考える際に、インパクトが強く、社員や世の中への強いメッセージとなるような「シンボルアクション」について、電通のクリエイティビティで支援できればうれしいですね。
島:今後のイニシアチブについては、まず2030年をめどにGDWの完成と、国・世界への働きかけを積極的に進めたいと考えています。と同時に、企業経営でもWell-beingのような非財務情報が評価される文化を醸成していきたいですね。
藤井:さらに長期的な目標として、2030年以降のグローバルアジェンダをWell-beingにしていきたいと考えています。民間企業の協力とともに、多くの国のコンセンサスを得ることも重要になるというふうに思っています。
島:いま行われているSDGsは、「負の遺産」を減らすアクションといえるかもしれません。さらに今後は、負の遺産を減らすだけでなく「正の遺産」を増やすアクションも大切です。Well-beingはそこに寄与できると信じています。この概念を広め、賛同いただける企業や人、国を増やしていきたいと思います。
リリース:企業の無形価値を可視化する新しい経営設計図「統合諸表 ver.1.0」を開発
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