未来の難題を、こう解いていく by Future Creative CenterNo.5
未来への成長を生み出す「中心概念」とは?
2020/07/08
電通のクリエイティブ横串組織「Future Creative Center」(FCC)は、広告の枠を超えて、未来づくりの領域をクリエイティビティーでサポートする集団。この連載では、「Future×クリエイティビティー」の枠組みで、想定外の未来づくりに関わった取り組みを、担当したメンバーが制作秘話を明かしながら語ります。
今回は、予防医学の研究者であり、FCCのアドバイザーを務める石川善樹氏と、FCCのセンター長である小布施典孝氏が対談。企業やビジネスの未来づくりにおいて、2人がキーワードに掲げる「中心概念」をテーマに話し合いました。
FCCの原点は、「電通プランニング・センター」
小布施:石川さんとは、とある仕事でご一緒してから、仲良くさせてもらっていて、石川さんが研究されている予防医学やWell-beingといった、「人がよく生きるとは?」というテーマに、非常に興味を持っています。
企業というものは「法人」とも言われますよね。なので、僕は「人」の成長や幸せと、「法人」の成長や幸せには共通項が多いのではないかと常々感じています。であれば、石川さんの「人がよく生きるとは?」という研究や視点は、「企業の生存戦略」にも転用できるのではないか。そうした理由もあって、今回FCCのアドバイザーをお願いしました。
そして、いきなりびっくりしたんですが、石川さんは電通の歴史をすごく勉強されていますよね。
石川:気になっちゃうんですよね(笑)。僕は「Origin(起源)を知れば、Originalはつくれる」という言葉が大好きです。今回FCCのアドバイザーを引き受けるに当たり、そもそもFCCの起源はなんだろうか、と疑問に思ったんです。
小布施:石川さんらしい問いですね!どうでしたか?
石川:やはり、小谷正一さんに行き着きました。1962年7月に電通プランニング・センターを作られた方です。FCCと同じく、広告の枠を超え、まさに「未来づくり」をビジネスの核に据えたのですが、こんな名言を残しています。
「他の業界のセールスマンのカバンには『商品』が入っている。
電通の広告人のカバンには『アイデア、プラン』が入っているべき」
そしてプランニング・センターは、最初に「あること」に取り組むのですが、もうそれがすご過ぎて……
小布施:石川さんのリサーチ力がすごいです(笑) それでプランニング・センターが取り組んだのは?
石川:プレゼンの「標準化」です。もっと具体的にいうと、「コンセプトに基づいたキャンペーンを、複数のメディアを活用して展開する」というプレゼンのやり方を標準化したみたいです。(参考資料)
小布施:今や当たり前になっていることの原点は、小谷さんにあったんですね!
石川:そうなんです。一方で、疑問も生まれました。たしかに小谷さんたちは、プレゼンの標準化を行いました。それは図にすると次のようなものです。
つまり、入口にある「コンセプト」がめちゃくちゃ重要なのに、肝心な「コンセプトのつくり方」についてはマニュアル化が行われなかったのです。
それで思ったのです。もしFCCが「コンセプトのつくり方」を標準化できれば、それはとても意義あることではないか。それだったら、アドバイザーとして僕は貢献できそうだなと。
小布施:なるほど。ある意味「コンセプト」って、広告業界では使い古されたものですが、改めてそこに光を当ててみようと。
石川:まさにそうです。言うまでもなく、これまでありとあらゆる天才クリエイターたちが、「コンセプトのつくり方」について一家言を残しています。なので「天才たちの作法」はもうたくさんあるわけです。
その一方で、これは小布施さんのキャラクターもあると思いますが、一人の天才性に頼るというより、「みんなでコンセプトをつくる方法」をうまく標準化できるといいなと。
小布施:すごい僕のこと分かってますね(笑)。たしかに僕は、作家性が重視される表現物ではなく、コンセプトをつくるという点においては、誰か一人のすごいアイデアよりも、「みんなでアイデアを重ねる」ということを重視しています。というのも、アイデアって生み出すだけでなく、その先で「社会実装」までしないと価値がない。
その実装フェーズでみんなの力を引き出すには、関わった人全員が「このアイデアは僕が/私が考えたんだ!」って自分事化されていた方がいいと思うからです。
なので、「これは他の誰かのアイデアだから、自分はもういいや」ではなくて、「これはみんなでつくったアイデアなんだ」と思ってもらうことを、ディレクションする上で重視しています。
石川:いやー、いいすね。僕はそういう小布施さんが大好きです(笑)。
「概念」とは何か?!
小布施:さて、石川さんが考える「コンセプト」って何でしょうか?!
石川:すごく単純に考えると、コンセプトは漢字にすると「概念」です。これは「概(おおむ)ね、今、(みんなの)心にあること」と読み解けますよね?
小布施:確かに!漢字ってよくできてますね。
石川:この話をFCCの小野さんにしたら、「……てことは、概念=ふつうってことか」と。
小布施:なるほど!概念とは「ふつうのこと」であると。
石川:さらに小野さんの隣にいた池田さんは、「……すると、コンセプトづくりの第一歩は、「変えるべきふつう」を見つけることですね」と。なんか小野さんも池田さんも表現が上手でズルいと嫉妬しました(笑)。
小布施:なんと(笑)。でも僕らもそうやって石川さんに問いを投げ掛けられて、コンセプトづくりの本質が見えてきた部分もあります。この「変えるべきふつう」を「新しいふつう」にシフトすることが、コンセプトづくりの骨子になるなと。
そして改めて思い知ったのが、「変えるべきふつう」を見つけるのが、そもそも難しいと。
石川:まったくその通りです!僕は「人の思考力はそんなに大差ない」と信じています。そうでないとやってられないですから(笑)。
仮に考える「プロセス」に違いがないとすると、考える「スタート地点」をユニークにすることが重要になります。そして、コンセプトづくりのまさにスタート地点になるのが、「変えるべきふつうとは何か?」ということで、ここに個性が出るのだろうなと思います。
小布施:変えるべきふつうというのは、僕らでいうと、クライアントから頂くブリーフをどのように読み解くのか、その前提となっていることをどう疑うのか、ということかもしれませんね。
そして、コンセプトづくりで何より重要になるのが、どのような「新しいふつう」を創ると、想定を超えた企業成長を生み出せるかですね。
石川:おっしゃる通りだと思います。そして、ここで僕は言いたいことがあります。FCCのアドバイザーとして、「想定外の未来づくり」に関わった電通の皆さんの事例をたくさん教えてもらう中で、驚愕の事実に気が付いてしまったのです。
それは何かというと、「もったいない」ということです。
クリエイターの価値は、「表現物」だけでなく、「概念」にもある
石川:電通のクリエイターはこれまで、クライアントの課題に対してさまざまな「アイデアやプラン」を提示してきました。主には広告コミュニケーションやプロモーションですね。ただ、その打ち手を出すまでに、まず土台となる大きなコンセプトを考えているはずです。
小布施:そうですね。まずはコンセプトを明確にして、それに基づいて具体的な表現アイデアやプランが展開されていきます。
石川:さきほども述べたように、表現アイデアやプランが「出口」なら、コンセプトは「入り口」。電通は、これまで入り口・出口の両方をつくってきたけれど、どちらかというと実際に世の中に出ていく出口の表現アイデア・プランに目が行っていた。あるいは、比重が置かれていた。でも、土台として作ったコンセプト・概念の価値も、実はとても高いはずなのです。
小布施:確かに、土台となるような良質な概念やコンセプトは、広告コミュニケーションに限らず、商品開発やサービス企画、事業再定義、経営戦略などにも展開できるときがあります。なので、企業の成長原動力につながるような骨太で質の高い「中心概念」をつくることができると、企業はそれに沿ってさまざまな打ち手を繰り出すことができると思います。「概念」という無形価値は、なかなかその価値を測ることができないですが、本当はとても重要なものですよね。
石川:はい。出口の表現アイデア・プランは、課題解決の答えとして、とても明確なものです。広告コミュニケーションを使って、クライアントの課題にズバッと一問一答で答えるので。でも、そのときに土台としてつくった概念は、クライアントの課題に一問百答できるほどの可能性があります。なぜなら、一つの考えからいろんな領域の打ち手をつくっていくことができるからです。
小布施:クリエイターは、良い意味で出口のクラフト力へのこだわりが強い。当然、世の中に出す責任があるからだと思います。だからこそ逆に、出口と共につくっていた入り口、概念の価値に気付きにくい部分があるのかもしれないですね。
石川:僕から見ると、出口のアイデアより、むしろ土台になった入り口の概念のすごさに目がいくケースはたくさんあります。概念だけでご飯何杯もいけるような(笑)。
小布施:クリエイターの提供価値は、「表現物」という出口だけでなく、その手前にある「概念」という入り口にもある。しかも机上の空論としての「概念」ではなくて、世の中の人が触れる「表現/アウトプット」までをイメージした上での「概念」になっているので、実効性が高い。それを、企業の未来づくりをサポートしていく際にも生かしていきたいなと思っています。
物量や資金で劣るときにこそ、クリエイティブ参謀をつけて、知恵で勝ちにいく
小布施:企業成長の原動力になり得る「中心概念」というものは、さまざまなステークホルダー向けの打ち手を統合する役割も担えそうです。
石川:大企業になればなるほど組織が縦割り化する問題もあり、各方面でバラバラの打ち手が実行されていることが多いので、すべての打ち手が、中心概念から広がるイメージになるのが理想です。加えて、この中心概念をつくる上でのポイントは、事業をどう変えるか、企業をどう変えるか、という目線ではなく、その上にある、産業をどう変えるのか、という目線を持つことなんです。
小布施:その産業における戦いの構図をどう変えていくのか、という大局視点ですね。
石川:クリエイティビティーというものは、よく右脳で生まれるといわれていますが、最新の理論だと、そうではなくて、右脳と左脳の往復で生まれるといわれています。そして、その行き来をさせるには、ものごとを俯瞰して見る大局視点が大切だといわれています。
小布施:良質な概念をつくるには、大局視点が必要で、それがつまりクリエイティビティーということなんですね。ロジカルシンキングは多くの企業ですでに実装・搭載されているスキルだと思うので、クリエイティビティーというスキルを持つことが、競合に対する競争力として有効な気がしています。競合に対して物量や資金で劣るときにこそ、クリエイティブ参謀をつけて、知恵で勝ちにいく。膨大なR&D費用をかけるより、ある種安価なので、効率的な方法論ともいえますし(笑)。
石川:時代の流れとしても、概念やコンセプトが重視されていて、レストランも最近は味だけでなく、コンセプトで勝負している。電通も、広告やアイデアだけでなく、「コンセプトを生み出す会社」として認知されるといいなと思います。
小布施:いいですね。企業の飛躍可能性を高める中心概念をどう生み出していくのか。僕らが持っている「言語化」「可視化」「物語化」「実装化」というスキルを生かして、想定内ではなく想定外の未来をつくるサポートをしていきたいと思っています。
一つ目は「楽しい」こと。真面目に楽しく、ゲームをして遊んでいるようだけど、すごく真剣にやっている。その雰囲気があります。新しいアイデアは楽しくないと出ないと思うので、これは仕事をする上ですごく重要です。
小布施:僕も、楽しんでいる人にこそアイデアは落ちてくると思うので、うれしい意見ですね。アイデアって、不思議ですけど、眉間にシワを寄せた深刻な人には落ちてこないんですよね。
石川:二つ目は「安心感」。会議をしていると、必ず最後に希望や未来が見えた状態で終わりますよね。何も見えない状態、落とし所のない状態で終わらない。これは会議を仕切る人のディレクションのうまさかもしれませんが、希望に向けてディレクションしている。その安心感があります。
小布施:あー、なるほど。クリエイティブディレクション、というのは、実はこの業界にまだ隠されている奥義なのかもしれませんね。ディレクションは社内で行うことが多いので、ディレクションをしている機会に社外の方が立ち会うことはあまりありません。しかも、なかなか言語化できない、身体知的なものなので、意外と知られていないスキルのような気がします。
石川:最後の三つ目は「やさしい」こと。これが一番重要で、いろいろな人、いろいろな発想をすべて包み込むやさしさがある。だからその時間が楽しいし、多様な意見を包むので、最終的にまとまったアイデアが誰に対してもやさしくなります。消費者にも従業員にも経営者にも。
小布施:確かに、先ほども述べましたが、みんなを巻き込むことは重視していますね。アイデアを選ぶ打ち合わせではなくて、アイデアをみんなが重ねていく打ち合わせをすることで、耐久性のある強い概念・コンセプトを生み出していきたいと思っています。
やっぱり人って、先が読める「想定内の日常」を生きるだけでは、どうしてもこなすだけの人生になってしまうような気がします。一方で、どうなるか分からない「想定を超えた未来」への可能性があることで、目を輝かせながらワクワクして生きていける。
とするならば、法人である企業も、片手には「想定内の安心」をしっかり持ちながら、もう一方の手で、「想定外の未来」を持てるといいなと思っています。そうすることで、従業員のモチベーションが上がり、企業カルチャーが強化され、アクシデントへの対応力も高まり、投資家からの評価が高まり、時価総額も上がっていく。
僕らFuture Creative Centerは、その企業のまだ見ぬ「飛躍可能性」を描くことで、こうしたいい循環をつくっていければと思っています。石川さんとは、概念づくりの研究をこれからもどんどん詰めていきたいので、引き続きよろしくお願いします。
石川:こちらこそ。楽しみながら考えていきましょう。