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膨大な「IR情報」を「一枚絵」で見せる。NewsPicksの新番組「ONE.IR」とは?

2024/08/07

ONE.IR

スタートアップの成長を支援している、電通Startup Growth Partners(以下、SGP)は、IR(Investor Relations)領域で、さまざまな取り組みを行っています。

SGPが携わった案件の一つとして、企業のIR情報を分かりやすく伝える番組「ONE.IR」が「NewsPicks」にて6月にスタート。オンエアから4日間で4万視聴回数を記録し、注目を集めました。

本記事では、番組を企画した、NewsPicks Studiosの井上浩樹氏、牛山彰太氏、ファンズ社の永田創一郎氏、SGPの高井嘉朗氏による座談会の様子をお届けします。番組を立ち上げた背景、IR情報を伝える工夫、番組の反響や今後の展望について語り合いました。

※本記事は、投資および、特定企業への投資を推奨するものではありません。
 
ONE.IR
左から、NewsPicks Studiosの井上浩樹氏、牛山彰太氏、SGPの高井嘉朗氏、ファンズ社の永田創一郎氏


 

投資熱が高まる中、「情報の民主化」がなされていないことが課題

高井:2024年6月にスタートしたIR情報番組「ONE.IR」について改めて振り返りたいと思います。初めに自己紹介を。私はSGPのビジネスプロデューサーであり、ユーザベースと電通のジョイントベンチャーである「NewsPicks Studios」のCOOも兼務しています。SGPでは、電通グループのアセットを活用しながら、さまざまなスタートアップの成長を支援しています。私は、以前、永田さんが在籍するファンズ社にも出向していました。SGPは、現在も出資およびバリューアップ支援に取り組んでいます。

永田:ファンズ社のクリエイティブディレクターを務めています。当社は、個人が上場企業を中心とする成長企業に間接的に資金を貸し出す形で投資ができる、資産運用サービスを提供しているスタートアップです。社内には、大手銀行、大手証券出身者など金融のスペシャリストが在籍しています。私は、マーケティング活動全般のプロデュースやプランニングなどを行っています。

井上:NewsPicks Studiosで広告番組プロデューサーを務めています。皆さんと一緒に「ONE.IR」を立ち上げました。

牛山:NewsPicks Studiosのビジネスプロデューサーを務めています。「NewsPicks」の広告番組制作において、クライアントの窓口となり、クライアントのメッセージがユーザーに届くように働きかけています。

高井:では、番組を立ち上げた背景から振り返りましょう。IRとは、企業が株主や投資家向けに経営状態や財務状況、業績、今後の見通しなどを広報するための活動を指し、投資の重要な判断材料になります。普段IR情報を見ていて、永田さんはどのようなことを感じますか?

永田創一郎

永田:真の意味では、「情報の民主化」がなされてないことが大きな課題だと感じます。IR情報は膨大であり、資料が100ページ以上に及ぶこともあります。投資を生業(なりわい)としていない一般の投資家が内容を正しく理解するのは相当大変です。IR情報、特に有価証券報告書や半期報告書、中期経営計画などがしっかり把握されていないがために、本当の魅力に気づいてもらえない企業は少なくありません。

高井:SGPはIR領域でさまざまな企業とストーリー構築の支援を行っていますが、私も同じことを感じています。2022年度から高校で金融教育が義務化されたり、2024年には新NISAがスタートしたり、誰もが個人投資家になる時代ですが、正しい情報を分かりやすく伝えるという点で課題がありますね。

永田:まさに、です。膨大なIR情報を整理して分かりやすく届けるには、クリエイティビティが求められます。

高井:さらに、伝えるための場所も同時に限られていたため、経済メディア「NewsPicks」で番組を作れないか、井上さんと牛山さんに相談に行きました。「NewsPicks」の番組を制作しているNewsPicks Studiosは、電通とユーザベース社のジョイントベンチャーです。社会の課題を起点に、SGPとNewsPicks Studios、そしてファンズ社の3者で、いま永田さんや私が述べた課題を一緒に解決できないか、と。

牛山彰太

牛山:お話を聞いたときは、「?」という感じでした。「NewsPicks」は、1000万人(2024年8月2日時点)の会員登録者がいて、経済メディアとして大きな信頼をいただいています。IR情報との親和性は感じましたが、番組のイメージはすぐには浮かびませんでした。

ただ、「専門用語が飛び交う膨大なIR情報から企業の本質的な価値を見いだし、視聴者にとって分かりやすく魅力的に伝えることができる番組プロデューサーは井上さんだ!」と、高井さんから熱く語っていただき、まず井上に聞いてみよう、と相談に行きました。

膨大なIR情報を「一枚絵」で表現

高井:ミーティングでは、さまざまな意見が飛び交いましたよね。番組を作るにあたり、「IR情報をどう見せるか」というのが、最初の難関で。

井上:私は「膨大なIR情報を分かりやすく伝えるには、見せ方に制約をつけた方がいいのではないか」という提案をしました。数字を使わないとか、いろいろ提案したんですが、永田さんにすべて否定されて……(笑)。「だったら、永田さんも何か提案してくださいよ」と振ったところ、「IR情報を一枚絵で表現するのはどうだろう」というアイデアをいただきました。

永田:IR情報は膨大だし、一般の人が見て楽しいものではないし、投資初心者が理解するにはハードルが高い。それなら100ページの資料で語っていることを、シンプルに一枚絵で見せたらどうかと思ったんです。

高井:動画コンテンツなのに、あえて一枚絵で見せるというのは、クリエイティブな発想だなと思いました。内容については、かなり議論を交わしましたね。

ONE.IR
初回の番組で紹介した都築電気のIR情報をまとめた「一枚絵」

井上:企業が番組に出てIR情報を紹介するということは、自社の株を買ってもらいたいという目的があるわけです。とすると、「企業に対する期待値」を作ることが、一枚絵の制作のゴールだと考えました。ただし、その「期待値」はウソのない正しいものでなければいけない。足場のない未来を語るのではなく、企業の過去、現在、未来という文脈に基づいてIR情報を見せることが大事です。

高井:IRはPRとは違う、と。一枚絵を含め、番組全体においても、企業がいいたいことを一方的に盛り込むのではなく、課題も含めて正しいことを伝えようと、番組プロデューサーの井上さんに非常に丁寧に取り組んでいただきました。

井上:一枚絵についてはもう一つポイントがあります。視聴者は番組で取り上げる企業に、すごく興味がある人ばかりではありません。だとしたら、どう興味を引きつけるか。番組にご出演いただいた都築電気さんは、DX市場で戦っている企業なので、都築電気さんのIRをひもとくことで、DX市場の今後の展望が見えてくる形がいいんじゃないか、と。

企業の細かな財務状況や成長目標など、おっしゃりたいことはたくさんあると思うんです。でも、自社情報だけに終始せず、いまDX市場にはどんな課題感があるのか、それに対して都築電気はどんな戦略を取っているのかというように、世の中と企業がリンクした形で落とし込まれていると、見るモチベーションが高まると思いました。

高井:番組作りのポイントとしては他に、経済アナリストの馬渕磨理子さんをMCに起用して、出演企業のIR診断のコーナーを作りましたね。

井上:番組作りの考え方として、番組のゴールをどこに設定するかが大事でした。一枚絵を企業の方に解説してもらうだけでは予定調和になりかねません。企業の方とのトークを通して見えてきたことを踏まえ、最終的に馬渕さんがその企業のIRをどう診断するかという、「不確定要素みたいなもの」を入れたいと思ったんです。

井上浩樹

高井:予定調和を崩す、エンタメ的要素が必要だと。

井上:そうですね。IR情報は、「こう成長していきます」という、企業のプレゼン資料だと思うんですが、反対側からの何か批判的な目線がないと、コンテンツとして成立しないと思いました。

高井:株式投資のための用語解説コーナーを設けたのも番組のポイントですね。

井上:番組を見て株式投資の意欲を高めてほしいという狙いがあったので、株式投資に役立つ知識を入れ込みたいと思いました。そこで、トークの中で出てきた株式用語を解説することにしました。番組の途中にショートコーナーとして入れ込み、馬渕さんをモチーフにした「馬ちゃん」のキャラクターが、分かりにくい用語をかみ砕いて、1分程度で解説するコーナーです。

ONE.IR

高井:井上さんに、短時間で分かりやすくまとめていただきました。

井上:用語解説は1分ぐらいにして、さらにどのくらいで終わるのかバーで示しました。番組の尺はかなり意識しましたね。「長くて分かりにくいIR情報を短く分かりやすく」がコンセプトなので、番組全体は20分以内に収めたかった。

番組構成は、まず一枚絵を見せて、どういう分野でどういうストーリーで戦っている企業かを紹介します。投資番組なので気になる株価の推移を通して、どのような成長戦略を描いているのか、投資する目線で気になるところを最初の5分ぐらいで、企業の方にお話しいただきます。そのうえで、一枚絵をベースに、過去、現在、未来の文脈でIR情報を深掘りしていく流れになっています。

4日間で4万回の視聴回数を記録

高井:番組の反響を改めて振り返りたいのですが。

牛山:配信スタートから4日間で、視聴回数が4万回を超えました。予想以上に多くの方に見ていただけました。

永田:私たちが考えた番組と視聴者が見たいものが合致した結果ではないでしょうか。

牛山:視聴者のコメントでは、「NewsPicksにこういう番組を求めていた」という声をいただき、自信にもなりました。配信後、企業からのお問い合わせもいくつか頂戴しています。

井上:IR情報はセンシティブなので、あれもこれも入れて補足したいという思いが、制作の途中で湧いてきました。でも、これだけの視聴回数を目にして、徹底的に視聴者の立場に立ち、ワーディングも精査して、分かりやすいものを作る必要があると改めて感じました。

高井:確かに難しい情報を引き算していくのは実はものすごく大変な作業ですよね。永田さんはいかがですか?

高井嘉朗

永田:投資家の皆さんに説明がしやすく、自社としても有意義な番組だと感じています。出演された都築電気さんも、IR情報を伝えるという点で手ごたえを感じておられました。「ONE.IR」が、世の中の企業がIR情報をもっと分かりやすくしていこうと考える一助になるとうれしいですね。

高井:最後に、今後の展望について、それぞれお聞かせください。

牛山:できるだけ多くの企業に出ていただくことが、IRの情報発信の課題解決につながると思うので、ビジネスプロデューサーとして番組をアピールしていきたいです。

井上:企業の大小を問わず、いろいろな企業のIR情報を発信していきたいですね。

永田:当社は「未来の不安に、まだない答えを。」のもと、お金に対するいろいろな不安を解消するプラットフォームを目指しています。今後も、いろいろなアプローチで企業の価値を伝えていきたいです。

高井:SGPでは、スタートアップのIR支援もしており、エクイティストーリー(投資家に向けて会社の特徴・成長戦略・企業価値の増大の道筋についての説明をするストーリー)策定やIPO支援、上場企業の決算資料策定なども行っています。今回、番組を制作して、社会や企業から求められているIR情報発信の解決について一つの形を示せたのではないかと考えています。今後も、IR領域でのご相談を受けながら、社会視点で企業と生活者双方に価値のあるソリューションを提供していきたいと考えています。本日はありがとうございました。

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