カンパニーデザインNo.3
「一人一芸」が、会社をワクワクさせる
2019/11/07
「営業全員が、一人一芸を持つ会社になりませんか」
プレゼンテーションの場で先方の社長に、こう投げかけました。最初は目を丸くして驚かれていましたが、その意図や狙い、具体的なプランを説明すると、にこやかな表情で「面白い提案ですね。ぜひ挑戦してみたい」とおっしゃっていただきました。これは、オートベル社の「一人一芸プロジェクト」が産声を上げた一幕です。静岡県下に14店舗を構える中古車買取・販売会社のオートベル。県民にとっては、テレビCMでも古くから馴染みがあり、知名度の高い会社です。
カンパニーデザイン、初の取り組み
あれから3年がたった現在、40人を超える営業が20種の「一芸」を身に付け、それがお客さまへのおもてなし(接客サービス)に活用されています。これは本連載の#01と#02でご紹介したカンパニーデザインの初の取り組みとして公開させていただき、2019年度のグッドデザイン賞に選出されたこともあり、チームメンバーにとって思い入れが深いものになっています。
本連載の#01は、こちら。#02は、こちらまで。
2019年度のグッドデザイン賞の受賞について、詳しくはこちら。
コトの発端は、宣伝担当の方からの「テレビCMをつくり変えたい」というお声掛けです。そのままCMを企画し、絵コンテを提案するのではなく、「一度、社長とお話をさせていただきたい」と申し出て、その機会を得ました。そうすると、これまでの会社の経緯や市場環境、社内で取り組んできたことなどの話題の中で、経営トップが抱えているさまざまな課題について言及されました。
「大手全国チェーンの競合他社が続々と静岡にも進出していて、価格競争が激化しています。この競争から一歩抜け出すために、地域密着型で長年やってきたオートベルらしさを生かし、接客サービスの強化に取り組んでいます。営業社員の教育に力を入れているところですが、もっと加速させていく必要があります。加えて、社員の働きがいや生きがいも上げたいし、モチベーションの高い人材の獲得も課題です。知名度はあっても、接客サービスの良さはまだまだ伝わっていません。ブランディングも急務なんです」
まずは、営業現場の方々との雑談から
経営トップとしては当然ですが、課題は事業からヒト(社員)のことまで広範囲で、テレビCMをつくり変えただけでは、解決できそうにはありません。そこで、社長に二つのお願いをしました。一つ目は「われわれ広告会社ですが、テレビCMだけではない提案をさせていただいてもいいですか」ということ。二つ目は「現場の最前線で活躍している営業の方々と雑談をさせてほしい」ということ。
これら二つの要望を快く受けていただき、まずは後日、10人ほどの若手・中堅の営業の方々、それぞれ一人一人と1時間ずつ話をする機会を持つことができました。社員教育に力を入れられていることもあり、皆さんとても礼儀正しく、仕事への熱意も高い。「お客さまのためになる」「感謝の言葉を頂く」「契約後も長くお付き合いがきる」ことが働きがいであることも分かり、潜在パワーの高さも実感できました。
中でも、それぞれが自らの特技や趣味を生かして、お客さまとの距離を縮め、信頼関係をつくっているエピソードに心を打たれました。「中古車には家族の思い出がたくさん詰まっています。愛車とのお別れの瞬間に立ち会うとき、自分の趣味であるカメラで記念撮影をしています」「音楽が趣味なので、普段の会話の中からさりげなくお客さまの好きな音楽ジャンルを聞き出して、納車をするときにお勧めのプレイリストをプレゼントしています」
現場の最前線で見つけた、磨けば光る原石
こうした営業現場の自発的な取り組みに、大きな可能性を感じました。一方で、それはもちろん世の中には広く伝わっていません。現場の先端で見つけた、磨けば光る原石。オートベルらしさの表れであり、それは会社のカルチャーとは相性がいいはず。うまく会社全体の仕組みや仕掛けにして、社長が抱えているさまざまな課題解決のためのエンジンにできないだろうか。それを現場でやり切るだけの営業社員の潜在パワーはありそう。
そんな考えを巡らせていると、「自らの特技や趣味を生かした営業」という視点から、「一芸」というキーワードが浮かび上がり、「営業全員が、一人一芸を持つ会社になる」という発想に至りました。これを元に、チームで企画を練り上げ、「一芸」という入り口から、最終的には、元々のオーダーだったテレビCMまで、「一人一芸プロジェクト」として一貫した提案を行ったというわけです。
起点は、新たに導入した社内制度「一芸手当」
具体的には、2017年秋から、次のように実現されています。
まずは、最初に導入したのが新たな社内制度「一芸手当」。これはカメラ、バリスタ、アロマセラピー、占い、けん玉…など、お客さまへのおもてなしに役立つ「一芸」であれば、習得のためのサポートを会社が全面的に行うという制度です。具体的には、社員がその道のプロの下で半年間にわたって弟子入り修業をします。その後、一芸を習得した社員は、それを接客サービスに反映する企画担当、加えて社内に弟子をつくり広める「社内師弟制度」担当となります。
一人一芸プロジェクトのウェブムービーは、こちらまで。
二つの社内制度で全社に広がった多種多様な「一芸」を活用し、待ち時間にこだわりの豆で入れたコーヒーの提供、お店の香りや装飾の演出、お礼状やDMのデザイン、お子さま連れの家族に向けた企画など、現場社員の自律的な取り組みにより、お客さまとの関係を深めています。
同時に、この一連の活動をコンテンツ化し、テレビCMやSNS、ウェブムービー、名刺、店頭ツールなどで社内外に発信。そうした結果、実際の来店客数も年々伸びており、さらに、社員の働きがいや生きがいの向上、モチベーションの高い新卒人材の獲得など、お客さまとの接点以外でのメリットも多く生まれています。
攻めのフェーズでも、良きパートナーに
さらに、2019年より新たに掲げた、中長期的な成長戦略「生涯取引(お客さまのカーライフ全般を継続サポートする)」策定に当たって、「一人一芸プロジェクト」がその礎として貢献しています。当初、社長からお聞きした課題を解決するだけではなく、これから展開していく攻めのフェーズでも、パートナーとしてご一緒できそうで、ワクワクしています。
まとめとして、この事例を「カンパニーデザイン」の4ステップに当てはめてみましょう。
カンパニーデザインは「組織の最大の資源である現場社員(=会社の仲間)にスポットライトを当て、あらゆる課題に立ち向かっていく」と打ち出しています。オートベルの「一人一芸プロジェクト」は、カンパニーデザインを具現化した実践事例になりました。こうした取り組みを今後もさまざま実現させていくことが、チームの目標です。ぜひご一緒に、社員の現場力で、会社を変えてみませんか。(#04へ続く)
興味を持っていただいた方は、プロジェクトサイトも併せて、どうぞ。