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電通ビジネスデザインスクエアのこんな未来どうでしょう。No.5

サステナビリティー革命で日本から世界の価値観を変える

2019/11/11

TBMは、紙やプラスチックに代わる革新的新素材「LIMEX(ライメックス)」を開発し、急成長中の企業。LIMEXは、主原料の石灰石と、ポリエチレン樹脂からつくられており、貴重な資源である水や木をほとんど使わずにつくることができます。

石灰石は地球上にほぼ無尽蔵にあり、日本でも100%自給自足可能な資源です。
さらに、LIMEX製品は可燃物として処理しても環境への負荷が少なく、回収すれば元の製品よりも価値の高いものをつくるアップサイクルが可能です。

今回は、この地球環境保護に大きく貢献する事業を推進するTBMの山﨑敦義社長と、電通ビジネスデザインスクエア(以下、BDS)クリエーティブディレクター兼コピーライターの澁江俊一が語り合いました。創業時に出会い、会社のミッション、ビジョン、クレドを共につくり上げてきたという両者。持続可能な未来を実現するために、これからどんなことを仕掛けていこうと考えているのでしょうか。

TBM山﨑敦義氏(右)と電通BDS澁江俊一氏
TBM山﨑敦義氏(右)と電通BDS澁江俊一氏

想いを言葉に。ミッション、ビジョン、クレドが道しるべになる

澁江:初めて山﨑さんにお会いしたのは2011年でした。僕たちも今はビジネスデザインスクエアという名前になり、人数も60人ほどまで増えましたが、当時はその前身である未来創造グループという、会社の中でもインディーズな少人数のチームでやっていた頃です。

かなり濃密な時間を一緒に過ごした記憶があります。まだTBMを立ち上げたばかりで、山﨑さんにはこんな会社をつくり上げたいという熱い想いがあり、本当にいろんなことを語り合いましたよね。そこから、その素材はどんな未来を創造し得るか、という今後の事業戦略を描いた100ページぐらいの提案書を、われわれの意志も込めて提出させていただきました。

山﨑:渾身の提案書でしたね。まだベンチャーにも程遠いくらいの小さい会社に、これだけの熱量と時間をかけて提案してくれるのかと、僕たちにとっては衝撃的なことでした。「この事業は、これだけの人がこれだけの想いを込めて応援してくれるんだ」と、弱っていた自分を奮い立たせてもくれました。

澁江:僕たちとしても、大手企業ではなく、TBMのように「これからまさに」という会社との仕事は初めてでした。革新的な新素材で世界を変えるという、実現しようとしていることがとてつもなく大きくて、「実現できたらすごいけど、なかなか難しいだろうな」というときに、「では自分たちに何ができるのか?」ということを考えながら向き合っていたことを思い出します。

山﨑:TBMのクレドをつくるときも、会社に何回も足を運んでくれて、これからつくっていきたい組織像などの話を上手に聞き出し、スッキリと整理してくれました。今もオフィスの入り口の壁に印字しています。

TBMのミッション、ビジョン、クレド
TBMのミッション、ビジョン、クレド
LIMEXのコピー「地球は石の星でもある。」
LIMEXのコピー「地球は石の星でもある。」

澁江:僕がやったのは、山﨑さんがすごい熱量で一気に語られたことを、第三者が初めて見たときに、その価値がしっかり伝わるように「整える」仕事だったと思います。情熱に順番をつけたり、どこに向かうべきなのかを整理したり。そのためにはまず、情熱を丸ごと受け止めることが必要でした。この仕事の仕方は、実はその後の僕の指針にもなっています。

山﨑さんの話を伺って多くの驚きがありましたが、最も感動したのが「石灰石はほぼ無尽蔵。日本でも自給自足ができる資源」ということでした。その感動を「地球は石の星でもある。」という言葉に集約しました。

日本は資源が少ないのが当たり前だと思っていましたが、今まであまり価値がないと見過ごされてきた石を使って、人類にとって大事な紙やプラスチックに変わり得る新素材をつくるという発想が素晴らしいと思い、このコピーを考えました。その後もいろんな会社のビジョンを言葉にする仕事をしていますが、自分の中では納得度が高い仕事です。

LIMEXロゴの制作もさせていただいています。最初はストーンペーパー(石灰石を主原料とする紙)から事業が始まっていましたが、もう少し広い価値観、紙だけじゃない新素材という発想で可能性を広げていけるといいなと思いました。

また、基本的にBtoBですが、商品を選び、実際に使うのは消費者なのでBtoCでも応援されるべきブランドだと思い、骨太で美しいものをと、電通の中でもトップクラスのアートディレクターに依頼して制作しました。

LIMEXのロゴ
LIMEXのロゴ。デザインは電通 第4CRプランニング局の窪田新氏

山﨑:LIMEXは石灰石のLIME STONEに、無限の可能性のXを付けて名付けられました。振り返ってみると、ロゴや名前に育てられていると思います。今は世界的にも人とプラスチックがどう向き合っていくかという局面にきていますが、当時の僕の価値観はそこまで追い付いていませんでした。未来創造グループの皆さんの方が圧倒的に未来が見えていましたし、「製品として無限の可能性があるから、いろんな製品の開発に力を入れていこう」と思えたのはこのロゴや名前のおかげです。

澁江さんが当時から言っていた「循環型イノベーション」も、今や世界中が言っていますよね。当時つくったミッションやビジョン、クレドなどの言葉が道しるべになっていると思います。

TBM山﨑敦義社長

想いに共感して、協力者が掛け算で増えていく

澁江:当時から、山﨑さんの想いに共感して、協力してくれる方がたくさんいらっしゃいましたが、素晴らしい方ばかりでしたよね。

山﨑:例えば、日本ベンチャーのレジェンド野田一夫先生が参戦してくださって、一緒に経済産業省に行くなど大援軍をしてくれたのは、本当にうれしかったです。協力してくれる方は、今でも掛け算になってどんどん増えています。

「絶対にやり遂げますのでお願いします」という、何を犠牲にしてもやるという強い気持ちが伝わったから、協力者が増えたのではないかと思います。

未来創造グループの皆さんもそうでしたよね、2011年にあんなに熱く夢を語り合って、でも2012年に一つ目のプラントをつくる資金がなかなか集まらず、事業資金が底をついて、危機的な状態になってしまいました。本当にどうしようもなくなって、多くの方にご心配をお掛けしました。

そして、2013年の2月6日に経済産業省から補助金が下りることが決まり、「お待たせしました、絶対に復活しますんで、今から」って電話をしたら、順番に電話代わって、電話口で泣いて喜んでくれてね。本当に待っていてくれたんだなって感動しました。

澁江:いまだに思い出します。本当にうれしかった。こういう関係で仕事ができるのが、理想ですし、できるだけ多くのパートナー企業とそうなりたいと思って仕事をしています。僕らの組織もまだ小さくて、山﨑さんの夢もまだまだこれからという時期に切磋琢磨できたことは、奇跡的なタイミングでした。僕たちにとっても初のベンチャーであり、大成功事例です。

電通BDS澁江俊一氏

山﨑:BDSは、どこの企業も自分ゴトとしてやっていると思いますが、「自分たちの会社」という感覚で見てくれていることはすごく感じています。0から1になるまでをご一緒できたことは、自分の人生の中でも宝物です。

澁江:対人間としての付き合いで大事に関係を築いて、やっと今がある。BDSのメンバーは増えましたが、途中から入ってきたメンバーにも、パートナー企業と一緒に大きくなるとか、与えながら貰っているということを味わってほしいなと思います。これから僕らもBDSを電通の新しい柱の一つとして確立するべく、頑張っていかなければならないフェーズに入っています。

山﨑:僕たちも一緒です。世界に向けて形にしていくスタートラインに立ったところ。澁江さんたちがつくってくれた言葉を僕たちが人生をかけて担いでいくわけです。これから何千人、何万人になっても。

サステナビリティー革命。それは起こるし、起こさなければならないもの

澁江:山﨑さんはどんな未来をつくっていきたいとお考えですか?

山﨑:皆さんにお世話になって、LIMEXがやっと産声を上げ、時代の追い風もあって世界中から問い合わせを頂いています。地球規模で未来を持続可能にしていくために、われわれの新素材に期待してくれているというお話も多くいただいている。

そこで、われわれのやっていることの意義や想いを改めて再認識しようとしている中、よく出てくる言葉が「サステナビリティー革命」です。

農業革命、工業革命、デジタル情報革命の次として、世の中ではAI革命とよくいわれていますが、僕たちとしては間違いなく次は「サステナビリティー革命」が起こるし、それは起こさなければならないものだとも思っています。

LIMEXを使った“サーキュラーエコノミー”(※)を世界中に広めていきながら、サステナビリティー革命を推進して、そのトッププレーヤーになりたいと考えています。

※サーキュラーエコノミー
従来は廃棄されていたものを「資源」と捉え、廃棄を出さない経済循環の仕組みをつくることで、持続可能な社会を実現させる経済活動のこと


澁江:プラスチックもそうですが、人と自然の関係性に対して、いろんな課題が出てくる時代になると思います。人と自然の関係性をサステナブルなものに変えていくことが、企業のミッションになっていくのではないでしょうか。

山﨑:アップサイクルなどの仕組みづくりをしていく中で、人の価値観を変えていけると思っています。世の中に影響を及ぼして価値観を変えていくことは、BDSが得意とすることですよね。そこを日本発で一緒につくり上げていきたいです。

新幹線をスピーディーに清掃することとか、電車が正確に来ることとか、日本の価値観やおもてなしの精神は、SDGs達成に向けた取り組みを実行に移していくには向いていると思うんです。この国の仕組みや技術、価値観は競争力になる。これをもって世界で勝負をしたら絶対に勝てると思っています。

澁江:以前、TBMという社名は、「100年先のTIMEに向かって、新しい価値をBRIDGEしていく。それを持続可能にできるようにMANAGEMENTして、日々を良くしていく」という意味が込められていると伺いました。これからの世界は、まさに射程距離が長い先のことまでを見る必要がある時代になっていくと思います。

山﨑:そうですね。僕がいなくなった後も、何百年も残り続ける、時代の懸け橋になるような事業をつくりたいです。ハングリーに挑戦し続けることで、謙虚になれるし、感謝もできる。それを続けていくことが、企業を持続可能にする姿勢だと思っています。

澁江:僕は、昔の日本人は100年先のことを当たり前のように考えていたと思うんです。いつの間にか半年先とか、1年先までしか見えなくなっていますが、それを長期的な視点に切り替えるのが、このサステナビリティー革命なんじゃないかなと。そのきっかけを山﨑さんから教えてもらった気がします。

石って、人類にとって最初の道具ですよね。その原点にある石で大きな循環を生むというのが面白いし、感動するんです。石だけに、「意志」が大事で。未来を予測するだけではなく、予測をどう覆すか、どう違う方向に持っていくかが意志です。これから必要なのは「未来予測」ではなく「未来意志」ではないでしょうか。

石灰石イメージ
電通ビジネスデザインスクエア WEBサイト
https://www.dentsu-bds.com/