電通ビジネスデザインスクエアのこんな未来どうでしょう。No.4
子どものための「気づき」の場を創造する
2019/10/04
大型ショッピングセンターなどで、アミューズメント施設を展開するイオンファンタジー。ゲーム機コーナーに加え、小さな子どもが遊べるプレイスペースも備えた「モーリーファンタジー」など、親子のニーズに応える多様な施設を運営しています。同社の藤原信幸社長は、これからどんな未来を創造していきたいと考えているのでしょうか。
電通ビジネスデザインスクエア(以下、BDS)のメンバーが、パートナー企業と行っている未来創造の現場を紹介する本連載。今回は、藤原氏とBDSプランナーの西井美保子が語り合いました。
「あそび」の中から得られる「まなび」を育てていきたい
西井:イオンファンタジーと電通BDSの出合いは、まだ藤原社長が中国支社の代表の時でした。「あそび」の会社の代表として、もっと会社の中にも外にもアソビゴコロを注入していくという、「+アソビゴコロプロジェクト」を担当させていただきました。また、今回お邪魔している本社オフィスのコンセプト立案からオフィスデザインもさせていただきました。
藤原:中国支社から日本に出張してきて、新しいオフィスをパッと見た瞬間に“あそびの森”という印象を受けたのを覚えています。同時に「イオンファンタジーらしいな」と思って、それで中国のオフィスも日本と同じデザインにしたんですよ。
西井:前はスーツもオフィス全体もグレーのイメージでしたが、オフィスを一新してから社員の皆さんの表情や動きも含めて、まさに「あそび」の会社に変わったと思います。「あそび」は子ども大人問わず普遍的な概念だと思いますが、藤原社長は「あそび」についてどうお考えですか?
藤原:今は、僕自身が子どもだった頃に比べて、子どもが一人で遊ぶ機会が増えているのが気になっています。僕が子どもの頃は学校から帰るとランドセルを放り投げて、日が暮れるまで野球をして遊んでいました。今の子どもは携帯ゲームなどで一人で遊ぶ時間も多いですよね。もっと友達と遊んだり、自然に触れたり、体を動かしたりする機会も必要でなはいかと思います。
僕が中国に赴任しているときも、教育熱が高く、遊ぶ時間がないので、「子どもたちがかわいそうだ」という声をお母さんたちからよく聞きました。学校で6、7時間授業があって、学校から帰ってご飯を食べたらすぐに塾に行って、休む間もない状況です。
そういう環境を肌で感じながら思ったのは、子どもたちに必要な教育は学問だけじゃないということです。野球だったら友達と9人で助け合わなければならないとか、そういった「あそび」の中から得られる「まなび」を育てていきたいと思いました。日本でも一人っ子が増えてきていますし、友達とコミュニケーションをとる中で学ぶことって重要だと思うんです。
そこで、公園的な位置づけのものが施設の中にあるといいな、という思いから当社ではゲーム機の横にプレイグラウンドや、3歳~小学2年生のお子さまがひとりでも入場できる遊び場「スキッズガーデン」をつくっています。体を動かすことができますし、友達と触れ合うことも目的としています。
これから子どもたちのためにつくりたいのは「気づき」の施設
西井:私がはじめてイオンファンタジーに来たのは約6年前になりますが、その頃はアミューズメント事業が基軸だったと思います。そこからプレイグラウンドなど「あそび」の領域を拡張されていて、これからは「まなび」の領域にも拡張されていきますよね。
提供する「あそび」もただ楽しいだけじゃなくて、子どもたちの自立性を伸ばしたり、考える力や創造性、社会性を育んでいるところがイオンファンタジーの特徴だと思います。「まなび」の領域としてはこれからどんな施設をつくっていきたいとお考えですか?
藤原:今後の成長戦略としては、プレイグラウンドやテーマ性を持った施設を中心に考えています。学術的な学びは他の企業がやっているので、その学びに興味を持つきっかけになる「気づき」の場をつくっていきたいですね。
例えば中国では科学をテーマにしたテーマパークをつくりました。パーク内で楽しく実験をしたりする中で「なんでシャボン玉ってできるの?」といった「気づき」が生まれます。そこから「まなび」への興味が湧いてきて、将来の夢につながったりすると思うんです。そういう施設をできるだけたくさん何種類も提供できるといいですね。
西井:あまり押し付けがましいものじゃなく、「気づき」ぐらいのヒントを与えられる。それが「まなび」の本質だと思います。私自身も2歳の子の育児中なのですが、興味を持つことって、その子によって全く違うと実感しています。一人の親としてもそういう「気づき」の施設が何種類もあったらうれしいですね。
BDSが以前提案した資料に「おまんじゅう理論」というものがありました。おまんじゅうの皮の部分が「あそび」で、食べるとおまんじゅうの中身に「まなび」があって想像力や創造力が身につくというのが、イオンファンタジーらしい「あそび」と「まなび」の融合だと。どんなものにもイオンファンタジーの「あそび」の要素を皮として付けていけるし、そうすると子どもたちもハッピーになるんじゃないでしょうか。
藤原:親もハッピーですよね。設備の安全・安心やただ楽しいだけでなく、子どもにとって得るものがあれば親の満足感につながりますし。
働くお母さんが増える中で、より良い環境を用意するためにできることはまだまだあります。今は「遊育」というキーワードで事業を展開していますが、知育、体育、保育、食育、徳育と融合させる考え方もありますし、健康という視点で医療のプロと組むこともあるかもしれません。子どもの森というテーマで、一ヵ所で「あそび」も「まなび」も満たせるような場所がつくれればいいと思っています。
どんな業種もパートナーになりえる。人がものを生み出す原動力。
西井:マレーシアなどで、フィンランドをテーマにしたプレイグラウンド「FANPEKKA(ファンペッカ)」も展開されています。私も先日、上海のFANPEKKAを視察に行かせていただきました。イオンファンタジーは常に「遊びと何を掛け合わせようか」と考えている社員の方が多い印象ですが、新規事業は事業性や実現性も重要ですし、選別されるご苦労もあるのではないでしょうか。
藤原:基本スタイルはテーブルで議論するより、「やってみよう」というのがベースですね。僕はホンダの本田宗一郎さんの本を読んで感銘を受けていることもあって、チャレンジするべきかなと。当然失敗も多いですが、失敗しても会社はつぶれません。失敗からしか人間は学べないし、成長できないと思っているので。
「FANPEKKA」は日本の新規事業開発チームがフィンランドに視察に行って、街並みもいいし、教育も最先端というところに目を付けたのが企画の発端です。
西井:私がご一緒するようになって驚いているのが、どんな業種でもパートナーにしてしまう柔軟さです。
0→1にするのはどこの会社も難しいと思いますが、1→100にするのは結構できたりしますよね。この0→1の部分のノウハウがないのなら、得意な企業に協力してもらってつくり上げていけばいいということで、チャレンジをしまくっている印象です。
私たちも「あそび」の未来を創造していきたいと考えているので、一緒に「あそび」のプライベートブランドをつくりましょうということで、電通も出資して「GRID AIR HOCKEY 」という新しいホッケーのゲームマシンをつくらせていただきました。こういう実験をしながらプロジェクトを前に進めていく姿勢が、新しい価値を生み出すためには必要だと実感した事例でした。
藤原:人こそがものを生み出す原動力。社員もそうだし、お客さまもそうだと思います。他の企業とのマッチングとか、社内では思い付かないような全く新しいアプローチとか、今は存在していない「まなびをあそぶ」市場をつくり出す同志として、西井さんたちには期待しています。会社の冠はあれど、一緒につくっていくパートナーだと思っています。私自身は、新規事業は百発百中じゃなくて、100個やって1個当たったらいいよね、と思っていますので、100個クレイジーアイデアを持ってきてください(笑)。
西井:はい! 1000個じゃなくて大丈夫ですか?(笑)電通はどうしても広告会社というイメージが強いのですが、広告というバイアスがないのがうれしいです。私たちも今後も本当の意味で、並列の関係で、パートナーとしてお手伝いしていけたらと思っています。
電通ビジネスデザインスクエア WEBサイト
http://www.dentsu-bds.com/