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「レレバンス」でブランド力を測る時代のコミュニケーションとは?

2019/11/08

「レレバンス」でブランド力を測る時代のコミュニケーションとは?

デービッドアーカー氏セッション

「ブランドの父」と呼ばれ、企業とブランド、消費者の関係を長年研究してきたブランド論の世界的権威、デービッド・アーカー教授。2002年から約10年電通顧問に就任していた縁で、5年ぶりの来日に際し、2019年10月に電通本社でQ&Aセッションが実現しました。その内容をダイジェストでお届けします。聞き手は、電通ソリューション開発センターの緒方玲子氏です。

デービッドアーカー氏と緒方玲子氏
デービッド・アーカー教授(左)と電通の緒方玲子氏

ブランドは、ビジネス戦略と密接に関連した経営課題へ

緒方:「ブランドを企業資産と捉え、正しく戦略的に管理することで、企業価値や事業を成長させることは可能である」と、アーカー教授が1980年代後半に初めて唱えてから約30年。ブランドの果たす役割やブランドの意味はどのように変わったのでしょうか。

アーカー:ブランドマネージメントという概念自体は、既に1930年代から存在しています。ただし、当時はコミュニケーションの戦術的、または販促的な意味合いで使われてきました。ところがこの数十年、商品単体だけではなく、複数の商品群をまとめるブランドが必要になり、さらには一つの国ではなくグローバルにブランドを管理することも求められるようになりました。すると、広告キャンペーンやプロモーションといった戦術的なことだけではなく、事業全体のビジネス戦略を踏まえる必要が出てきました。

その結果、ブランド戦略はブランドマネージャーではなくCMO(最高マーケティング責任者)、さらには経営幹部が判断する課題となっています。事業戦略にのっとったブランド戦略を正しく理解しなければ、コミュニケーション戦略も立案できない時代となってきたのです。 

緒方:世の中にはブランド力を測定するランキングが、さまざまな企業から発表されています。このようなランキングの推移を、どのように見ていますか?

アーカー:まずこのようなランキングを見るときに大事なのは、ブランド価値のうち、本当にブランドが寄与している比率はどのくらいかという視点を持つことです。業績が良くて売上規模が大きければ、実際はブランド投資をほとんどしていないのにランキングの上位に入ってくることはよくあります。そのような場合、ランキングが高い=ブランド力があるとはいえません。

最近のあらゆるブランド調査では、アマゾン、グーグル、アップルなどのハイテクブランドが上位を占めています。これらのブランドは、事業・業績が好調であるだけではなく、消費者から常に革新的で活力のあるブランドと見なされています。いずれも消費者の生活スタイルを一新し、今や毎日の生活に欠かせない、代替不可能な存在です。このように強いブランドの在り方も明らかに変わってきています。

デービッド・アーカー氏
緒方:今の時代の「強いブランド」の共通点とは何でしょう?

アーカー:アマゾンやグーグルなどは、いかに機能価値を高めるか、より便利になるかを追求し続け、独自価値を生み出しています。その他のブランドに目を向けると、力のあるブランドはいずれも、機能性以外でも顧客を引き付けています。ブランドパーソナリティーや世界観、パーパス(ブランド理念、目指す世界)への共感など、生活者と絆をつくる工夫がなされているのです。

「レレバンス」(顧客の愛着度)という尺度で測るブランド力

緒方:ブランド力を測定する新しい指標として、顧客との関連性を示す「ブランド・レレバンス・インデックス」を提唱されていますが、その背景にある考え方を教えてください。

アーカー:一般の人々を調査対象者としているブランド調査では、単にブランドの名前を知っているだけで、使ったことはおろか名前以外は何も知らない人がサンプルに含まれてしまいます。その結果、市場シェアが高くて人目に触れる機会の多い、古くからあるブランドが上位になってしまいますが、それではブランド力は測れません。

ブランド認知率、知名度があるというのは当然大事ですが、本来ブランド力はユーザーベースで測るべきです。最も重要なのは、ユーザーのうち、ブランドへの忠誠心が高いロイヤルユーザーのボリュームはどの程度か、彼らはどの程度ロイヤルなのか。ブランドの何を評価し、どの程度ブランドに愛着を持ち、ブランドとどのような関係性を持っているかを見ることです。

私が副会長を務めているプロフェット社の「ブランド・レレバンス・インデックス」では、調査対象者は、ブランドを知っているだけでなく、ユーザーもしくは利用を検討したことがある人を対象として、ブランド力を測っています。

「自分の日常生活に欠かせない」「圧倒的に実用的な」「インスピレーション・刺激を受ける」「常に進化し続ける」といった切り口でブランドへの愛着の強さ、コアユーザーとの関係性を見るのです。このような測り方をすると、ITデジタルサービス系以外の業種でも上位に入ってきますし、知名度や利用率が高くても下位というブランドも存在することが分かります。

「ストーリー」視点で新しいブランド・コミュニケーションを

緒方:日本では2019年10月に、先生の最新著書『ストーリーで伝えるブランド』が発売となりましたが、「ストーリー」を題材にしようと思ったきっかけは何でしょう?

アーカー:そもそものきっかけは私の長女、ジェニファーです。彼女はスタンフォード大学のMBAコースの教授として「ストーリー」のクラスを7~8年受け持っています。あらゆる情報、刺激が氾濫するこの時代に人々の記憶に残る存在になる鍵がストーリーだ、と私を説得してきました。

良いストーリーとして語れたブランドは、まず人々の記憶に残ります。そして興味喚起や共感だけでなく、実際のビジネスにもさまざまな成果が出るということがデータでも証明されています。顧客との関係構築を図るブランディングの主軸がデジタルでのコンテンツ勝負になると、ストーリーがますます重要になります。

緒方:良いストーリーとはどのようなものでしょう?

緒方玲子氏
アーカー:第1に物語仕立てであることです。特長や魅力を箇条書きで伝えるのではなく、「昔々あるところに~」ではないですが、自分の言葉で語れること。第2にストーリー自体がただのいい話ではなく思わず誰かに話したくなるような驚きや感動、発見の要素があることです。

そして何よりも大事なのが戦略性を持ってつくられているかという視点です。その受け手に何を感じとってほしいのか。品質へのこだわりなのか、崇高なビジョンなのか、伝えたいメッセージをより印象づけるために数字やファクトを入れた方が効果的な場合もあります。どのような効果を狙うか、そのためにふさわしいストーリーは何か、という発想が求められます。

緒方:ブランディングが、デジタル中心、コンテンツ中心の時代になると、われわれのような広告会社にはどのような役割が求められるのでしょうか。

アーカー:まず、クライアントに対してストーリーがいかに効果的か、説得する必要があります。その上で、「シグネチャーストーリー」(心が動くストーリー)と呼べるような、効果的なストーリーの種を探し出し、より魅力的に仕立て上げること。そして、ターゲットにどう伝えるかを考えること。これらは従来の広告キャンペーンを立案するのと同様かそれ以上の専門性が求められるのです。ストーリーを創り、戦略的な活用方法を立案する役割を担うことは、今後非常に重要だと考えます。

緒方:自分たちが伝えたいことではなく、受け手側の視点に立って、心に響く、記憶に残るようなストーリーを創り、その伝え方を戦略的に考える、という役割ですね。本日はどうもありがとうございました。