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b.tokyo2019レポートNo.2

ブロックチェーンはメディアのマネタイズにいかに寄与するのか

2019/11/28

btokyoカンファレンス

日本最大級のブロックチェーンカンファレンス「b.tokyo2019」が10月2、3の両日、ホテル雅叙園東京で開催された。

ブロックチェーンのような“分散型台帳技術”は、メディアビジネスにどんな影響を与え、どんなマネタイズを生むのだろうか。

3日に行われた「ブロックチェーンから始まる『メディアのマネタイズ革命』」と題したセッションでは、渡辺大和氏(電通イノベーションイニシアティブ・プロデューサー)、松原裕樹氏(Link-U代表取締役)、古田大輔氏(ジャーナリスト/メディアコラボ代表)、モデレーターとして久保田大海氏(CoinDesk Japanコンテンツプロデューサー)が登壇。

ブロックチェーン技術を応用したメディアの新たな収益化手段について、それぞれの立場から熱いディスカッションを繰り広げた。

ニュースメディアが窮地に追い込まれている理由とは

今世界中で、「インターネット時代にニュースメディアはどう生き残るのか」が議論されている。ニュースメディアは窮地に追い込まれているのだ。その要因は二つある。

一つは「信頼性の揺らぎ」。多くのニュースが発信される中でニュースメディアの信頼性は相対化され、むしろ攻撃の対象となってしまっている。

そして、もう一つが「収益性を維持することの難しさ」だ。ニュースメディアのマネタイズの厳しい現状について、朝日新聞記者とBuzzFeed Japan編集長の経歴を持つ古田氏は次のように語った。

「新聞業界全体の収入は年々縮小の一途で、そのうちデジタルでの収入はたったの1.2%(2018年)です。破竹の勢いで伸びているインターネット広告の収入は、グーグルやフェイスブックなど一部のプラットフォームが全体の7割を占め、各メディアには残りのお金しか落ちてきません。加えてメディアの競争相手の数は、20年前と比べて1万倍になりました。メディア全体のパイは増えているものの、分け合う相手が莫大に増えたため、それではお金になるわけがないという状況なのです」(古田氏)

メディアコラボ古田氏
メディアコラボ代表の古田大輔氏

そんな中、ニュースメディア界隈では、「信頼性と収益性の課題を解決する上で、ブロックチェーンは一つの鍵になるかもしれない」と言われているのだという。

参考になりそうなのが、漫画をはじめとするコンテンツビジネスだ。日本の漫画は海外でも高い人気を誇る。そして国内における漫画のデジタル市場は年々拡大傾向にあるため、ニュースよりもマネタイズは進んでいるように見える。

しかし、漫画アプリをはじめとしたウェブサービスや動画配信などを行うLink-Uの松原氏は、「今の漫画ビジネスで最も問題なのは、海外配信におけるライセンス管理」だと指摘する。

「例えば日本で配信されている動画に海外からアクセスすると、視聴できないことがよくあります。漫画でも同様に、日本語のコンテンツは基本的に日本でしか閲覧できず、権利者が自分たちの権利を守ろうとすることが、一方で海外展開を阻む要因になっています。でも、時間や国境の概念を超えてライセンスを管理できるブロックチェーンを使うことで、世界中どのエリアに配信しても、著作権を保持する企業や団体にお金が落ちる形にできるんじゃないかと思っています」(松原氏)

Link-U代表取締役の松原裕樹氏
Link-U代表取締役の松原裕樹氏

また、漫画はアニメ化された際に製作委員会が発足し、ライセンスが多岐に分散されることも特徴だ。そのため、海外企業が日本のアニメを商用利用したい場合、どこにコンタクトを取ればよいのか分からないという事態が起こっている。つまり、アニメも含め、海外向けにライセンス管理の仕組みを確立するメリットは大きいといえる。

「ブロックチェーン上でライセンスの管理がきちんとできれば、漫画やアニメに限らず、日本のコンテンツにおけるマネタイズの可能性は広がっていくでしょう」と松原氏は未来像を語った。

トレーサビリティーシステムの構築が、メディアや社会にプラスとなる

ニュースメディアの世界では今、トレーサビリティー(追跡可能性)の重要性が叫ばれている。ネット上で日常的に横行している報道写真の偽造や改ざんなどにより、ニュースへの信頼性が揺らいでいることへの危機感が発端だ。

今年7月、ニューヨーク・タイムズが「ニュース・プロビナンス・プロジェクト」を発表した。これは、メディアが発行した写真などの素材について、撮影日時や場所、撮影者、編集・掲載された方法などのメタデータをブロックチェーン上に記録し、オリジナルの写真を可視化するプロジェクト。

例え写真が改ざんされてもオリジナルの写真を簡単にトレース(追跡)できるので、すぐに不正を突き止められる。「トレースするだけなら従来の技術でも可能だが、なぜわざわざブロックチェーンなのか。そこは信頼性の話に戻ってきます」と古田氏。さらにこう続ける。

「今、アメリカ、そして日本でも社会の分断が起きていますが、ニューヨーク・タイムズを信用していない人は、ニューヨーク・タイムズが作ったプラットフォームを信用することができません。だからこそ、ブロックチェーンを使って非中央集権的なトレーサビリティーを確保することで、信頼性の担保が生まれるのではないでしょうか」(古田氏)

さらに「信頼性が高まるということは、長期的に見ると必ず収益性に結びつく」と強調。「メディアビジネスはすべて信頼に紐付いている。中長期的に見ると、トレーサビリティーの存在はメディアにも社会にもプラスになります」と希望を込めた。

CoinDesk Japanコンテンツプロデューサーの久保田大海氏
CoinDesk Japanコンテンツプロデューサーの久保田大海氏

デジタル時代における記事のコピペ問題をどう捉えるか

100ページ単位のパッケージで販売される漫画に比べて、ニュースコンテンツのマネタイズはやはり難しい。というのも、今や記者が苦心して取材・作成したニュース記事の一行だけをコピペして、感想を付け加えれば一つのコンテンツになってしまう時代だからだ。それが元の記事よりも多くのPVを稼ぎ、お金が流れてしまうことも往々にしてある。

こうしたコンテンツ無断利用に対する対抗策にも、ブロックチェーンが使えるのではないかという議論がなされている。

「これは夢物語のような話ですが、アメリカで、メディア界のフューチャリストであるエイミー・ウェブが、ブロックチェーン技術を使うことで、すべてのコンテンツのすべてのセンテンスにトレーサビリティーがつき、1次情報を取ってきた人にお金が流れ込むという、ニュースの明るい未来を提示しました。今はオリジナルの記事とそれを元に書かれた2次的な記事は、同じ1記事としてしか評価されていません。そこでトレーサビリティーを元にした傾斜配分でお金が流れる仕組みをつくり、オリジナルの記事を出した人に配分される割合を大きくすれば、1次情報を努力して取ってくる人がもっと評価される社会になるはずです」(古田氏)

こうした未来像を受けて、国内外のブロックチェーン技術の応用に詳しい電通イノベーションイニシアティブ・プロデューサーの渡辺氏は、「中国のBaidu出身者が創業したPrimasというベンチャー企業は、メディアの社内システムとして、プラットフォーム上でウェブ上にある記事を自動クロールして80%以上類似したコンテンツを発見し、それが無断転載の場合、裁判所に自動的にデジタルの内容証明が送られ、訴えることができるというブロックチェーンベースの仕組みをすでに提供しています」と発言。コンテンツ無断利用への対策において、ブロックチェーンの社会実装が進みつつあるとした。

電通イノベーションイニシアティブ・プロデューサーの渡辺大和氏
電通イノベーションイニシアティブ・プロデューサーの渡辺大和氏

引用は、要件さえ満たしていれば無料・無断でできると法律上定められている。しかし、コピペが簡単にでき、引用した人間の方がラクをして稼げるようになった今の時代にも、その法律は適応可能なのだろうか。古田氏は「トレーサビリティーシステムをつくり、例えば“引用したら一律100円”という方が現実的な社会になっていくのかもしれません」との見解を示した。

世界と戦うために、業界全体でブロックチェーンを使った革新技術の構築を

セッションの終盤は、業界全体のパイを広げるために「ブロックチェーンを使っていかに新しい価値を生み出すか」が議論の中心になった。

松原氏は漫画コンテンツについて、「ブロックチェーンを使って、プレーヤーを横断したサービスを作り、すでに活躍しているプロだけでなく、アマチュアやプロを目指している人の作品も配信・販売ができるようになれば、コンテンツ市場を広げる後押しはできるのではないでしょうか」と具体案を提示した。

古田氏は「インターネット広告の世界だけでなく、インターネット課金の世界もパイは年々広がっています」と前置きした上で、「問題は圧倒的にお金の配分」と改めて強調。

「数個の巨大プラットフォームが7割の配分を得て、何万ものコンテンツ作成事業者が残り3割を分け合うという今の仕組みでは、コンテンツ作成側は生き残れません。その配分を変えるための核になり得る技術の一つが、ブロックチェーンだと思います」と語気を強めた。利益配分を変え、真っ当なコンテンツ作成側にお金を回すことができれば市場が拡大する―。そんなポジティブな方向性が見えてきた。

渡辺氏は、「インターネット広告の枠だけがどんどん増えていっても、スクリーンの数が増えなければその価値は下がっていきます。その場合は価格帯が下がっていくか、アドフラウドが起きるかのいずれかです。そうしたアドフラウドを防ぐためにブロックチェーンを活用するという取り組みは、特にクライアント主導で行われている例があります。今後クライアント側がメディアやエージェンシーに対してこのブロックチェーンベースのツールを使ってくださいと指定し、インターネットメディア側はその条件を飲むという構図になっていくシナリオも考えられます」と述べた。ブロックチェーンによって、データのごまかしがきかなくなり、アドフラウドを防止することで信頼性が担保できるという。

コンテンツ業界の今後について、渡辺氏は「日本のコンテンツ産業は、中国やアメリカが簡単には入ってこられないような、独自の優位性を築いてきました。今こそコンテンツ・メディアという領域において、日本が世界に先んじて、ブロックチェーンを使った“価値のネットワーク”のインフラ整備をコンソーシアム型でスタートし、業界全体が協調しながら新市場を作っていくことが重要ではないでしょうか」と呼びかけた。

さらに渡辺氏は、「ブロックチェーンに関しては、スマートコントラクト(契約の自動化)も重要です。例えば、映像の二次利用の現場では使用許可を得るために、書類に判子を押してもらうだけでも時間がかかっています。一方で確かに判子を押すこと自体は経済的な価値があり、情報だけでなく判子を押す人と押される人の間の信頼の確認が発生しているという側面があります。その価値や信頼の側面を生かしたままスマートコントラクト上に乗せることで、ただの情報のやりとりではない、複層的なやりとりが会社間でこれまでよりもスピーディーに行えるようになります」と述べた。

松原氏は、「漫画は日本国内の市場が強かったために、海外へのアクセスが遅れてしまいました。世界の隅々にまでコンテンツを配信するためにも、業界のプレーヤーがコンソーシアム型で戦っていく必要はあると思います」と述べた。

メディアのデジタル化において、日本はこの20年で圧倒的に後れを取った一方、アメリカは急速な進化を遂げている。「日本も一気に革新的な技術を取り入れていくしかありません」と古田氏。「日本ほど安定的に民主主義を維持してきた国はアジアで実はそれほどなく、アジアの中で日本は核にならないといけない。業界全体で協力して新技術を取り入れ、東京から発信することが重要になってくるでしょう」と最後に展望を語った。

今回紹介したセッションの他にも、「b.tokyo」では、ブロックチェーンについて幅広い角度からさまざまな議論が交わされた。ブロックチェーンと仮想通貨の今を知るために、『ブロックチェーン白書2019』も参考にしたい。

ブロックチェーン白書2019
A4判・326頁、(冊子+PDF)180,000円+税、(PDFのみ)150,000円+税、(冊子のみ) 150,000円+税、N.Avenue発行、https://navenue.jp/white_paper/