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テレビ史のハザマで、テレビを語るNo.1

2020/01/06

マーケティングへの疑問

フジテレビの敏腕プロデューサーとして名高い黒木さんと、電通でチーフ・ソリューション・ディレクターを務める北風さん。異なるようで近しいフィールドで活躍するお二人の対談では、同世代ならではの鋭い視点や葛藤も浮き彫りに! テレビや広告のミライは、“狭間の世代”にかかっているのかも…。お二人の日々の奮闘の様子や熱い思いがあふれる対談を全5回のシリーズでお送りする本企画。

初回のテーマは、「マーケティングという手法で、本当に優れたコンテンツは生み出せるのか?」です。

“年齢の壁”をどう捉えるべきなのか?

黒木:僕が1969年生まれで、北風さんが1970年2月生まれだから、同じ学年ですよね。北風さんは小学生の頃からタモリさんを尊敬されているとか?! 僕もずっと「笑っていいとも!」を担当していたので、何かご縁を感じます。実は子どもの年齢も近いんですよね。うちは娘が24歳で息子が22歳なんです。本日はよろしくお願いいたします。

黒木彰一氏(フジテレビ)
黒木彰一氏(フジテレビ)

北風:そう! 同じ学年、うれしいです(笑)。タモリさんファン暦は40年になります。子どもは娘が20歳で息子が17歳なので、確かに似ていますね。こちらこそよろしくお願いいたします。たくさん伺いたいことがあるのですが、最初に「年齢の区切り」に対する黒木さんのお考えを聞かせてください。テレビも広告も「生活者と向き合う」という点では共通していて、年齢で区切ってターゲティングをするケースが多いのですが、最近私はそこに懐疑的になっていて。

例えば、インフォマーシャルは50代以上の方々が主なターゲットになっていますが、30代の方でもインフォマを見て物を買うことはありますよね。なので、20代や30代、もっと若い10代向けのインフォマみたいなものが、世の中にあってもいいんじゃないかと思っているんです。人が物を欲しくなるときのスイッチって、若い方も年配の方も、あまり変わらない気がします。それと同じように、人がおもしろいと思うことや笑えることにも、もしかしたら年齢の壁はないのかも…と思っているのですが、いかが思われますか?

北風祐子氏(電通)
北風祐子氏(電通)

黒木:北風さんのおっしゃる通り、見ておもしろいと思ったり、引かれたり、興味を持ったりする事柄は、年齢差がなくなっている感じがします。例えば番組の構成会議でも、「3層(M3、F3層)には、この情報が好まれる」なんていう話を、若いディレクターたちほど、あまりしなくなってきている気もします。でも、一方でまだまだ根強く「年齢層のイメージ」もあります。

北風:自宅で家族4人でテレビを観ていても、同じところ、同じエピソードでみんなおなかを抱えて笑ったりしますからね。結局、おもしろいと感じることやワクワクすることは、根っこはみんな一緒だと思うので、人を年齢で区切るのはやめた方がいいんじゃないかなって。

F1層(20~34歳女性)とF2層(35~49歳女性)の区分も、35歳になった途端に変わるという考え方はちょっとおかしい。人は歳の区切りで生きているわけではないのに、42歳の誕生日を過ぎてから「42歳のあなたへ」というネット広告がたくさん来るようになったときも、すごく違和感がありました。黒木さんの手がけてこられた番組って、あまり視聴者の年齢を問わないものが多いですよね?

黒木:僕は長いスパンで同じ番組に携われてきたのは本当にラッキーだったと思います。「番組が視聴者の皆さんと一緒に成長してゆくことができる」という感覚で制作することができたんですよね。「皆さんの人生の中に番組が存在できる」というか。そうなってくるとターゲットとか年齢層とかはあまり関係なくなってきて、2世代3世代にわたって番組を見てもらえたり、自分の“日常の中の大切なもの”として認識してもらえたりする。「SMAP×SMAP」や「笑っていいとも!」を作っていて、そう見てもらえることを願っていましたし、また、信じていたのもそういう部分でした。

黒木彰一氏(フジテレビ)と北風祐子氏(電通)

n=1にこそ、価値がある。

北風:黒木さんはテレビの世界でおもしろい方やおもしろいことをたくさん見てきたと思うのですが、あたりまえのように“そこにタモリさんがいる”という人生を歩んでこられた中で、今はどんなことを「おもしろい」と感じていますか?

黒木:「あたりまえのようにタモリさんがいる人生」(笑)! その言葉が非常におもしろいです。まさにそれこそずっと「いいとも!」を見てきてもらった皆さまの人生!かも。すみません、脱線しました。(笑)

さっきの年齢の話でいうと、ターゲットを年齢層に置くのではなくて、より具体的で個人的な誰かに見せたい、と思うことが大事なんじゃないかと思い始めています。何を作るときでもまず「大事なひと目線」というか。

ピチカート・ファイヴの小西康陽さんにお願いして「慎吾ママのおはロック」を作ってもらったとき、家に帰ったら子どもたちが踊りまくっていたのがすごくうれしくて。いまでも忘れられません(笑)。「ある年代をターゲットにして作る」というよりも、「家族に見せたい」「両親に見せたい」「彼氏に見せたい」とか、誰かに見せたい感覚が、実は一番大事なのかなと思います。

北風:私も「自分が欲しいかどうか」「子どもにあげて喜ぶかどうか」という視点から考え始めるので、よく分かります。マーケティングの世界では、よく「n=1でモノを語るな」といわれます。nというのは母集団の数を表す数字で、世論調査なんかだとn=3000くらいが必要とされています。「n=1でモノを語るな」とは、要は「たった一人の意見でモノを語ってはいけない」という意味なんですが、私はその“1”で十分だと思っているんですよね。3000人の平均値よりも、一人の生々しい声から得られる示唆の方が多いです。

黒木:広告や商品開発など、生活に密着したお仕事をされている北風さんの視点から見て、“生活者を引きつける”ためのコツみたいなものはあるのですか?

北風:番組と同じ動画ジャンルの広告を例にとると、私の息子の世代は「デジタルネイティブ」と呼ばれていて、スマホと共に生まれて育ってきた人たちです。そうすると、広告は最初の5秒の間に印象に残る何かが起きないとダメなんです。息子に「15秒とか見続けるのはちょっと無理」と言われたことがあって(苦笑)。5秒くらいのところで飽きるんですって。確かに、彼の好きなCMでは、全部、頭の5秒以内に何か事件が起きているんです。おもしろいと感じること自体に世代の壁はないけど、もし若者に買ってほしいなら、早く見せる、山を何個か作るなど、若者ならではのアジャストは必要だと思います。

この対談の出典は、こちら

黒木彰一氏(フジテレビ)と北風祐子氏(電通)

編集部の視点 #01

お二人の対談のキモは「テレビは決してオワコン(=終わっているコンテンツ)ではない。進化の過渡期にあるだけだ」というスタンス。その視点が、新しいと思った。お二人と同じ世代なので非常に共感するのだが、僕らの世代は、テレビと共に成長してきた。番組作りからマーケティング戦略に至るまで、常にドンピシャ。この年齢に欲しいな、と思うものは寸分の違いもなく、テレビから提供されてきた。

幼少期には、ヒーローものや魔女っ子もの、国民的なお笑いタレント。思春期には、アイドルがてんこ盛りの歌番組と、若干のエロコンテンツ。大学生の頃には討論番組…。その年齢、その年齢に欲しいものは、常にテレビが提供してくれた。だから、見た。食い入るように、見た。でも、今は違う。明らかに、違う。しかしながら「もはやテレビは不要なか?」と問われれば、そうではない。その「そうではない」の部分が、なんとなく曖昧なまま、平成の時代が終わってしまったような気がする。そこを掘り下げてみたい。いや、テレビっ子世代としては掘り下げる義務があるような気がする。

「テレビのハザマで、テレビを語る」2回目となる次回は、「チームの力って、なんだ?」をテーマにお送りします。