テレビ史のハザマで、テレビを語るNo.2
チームの力って、なんだ?
2020/01/07
フジテレビの敏腕プロデューサーとして名高い黒木さんと、電通でチーフ・ソリューション・ディレクターを務める北風さん。異なるようで近しいフィールドで活躍するお2人の対談では、同世代ならではの鋭い視点や葛藤も浮き彫りに! テレビや広告のミライは、“狭間の世代”にかかっているのかも…。お二人の日々の奮闘の様子や熱い思いがあふれる対談を全5回のシリーズでお送りする本企画。
第2回のテーマは、「チームの力って、なんだ?」です。
全員が盛り上がって生まれるモノ
北風:黒木さんご自身はどういう番組に引かれますか?
黒木:番組の出演者の皆さんはもちろん、スタッフやマネージャーさんまで含めて盛り上がっている番組は、魅力的で強いです。「流行ってて活気があるお店」のイメージです。逆に、キャストやスタッフとのストーリーが持てない番組は、視聴者とのストーリーも持ちづらくて。
北風さんがやっていらしたプロジェクトも、たくさんのスタッフの方がいる、ある種の“集団芸”ですよね。テレビも同じで結構人数が多いです。どんな企画だったら面白いのかはそのチームのメンバーの反応で分かるので、そこを大事に考えています。もちろんスターが1人で引っ張っていく番組もありますが、ディレクターが何人かいて、みんなでやっている感じになると、うまく回っていきますね。
このことはいわゆる「内輪ノリになること」とはちょっと違うことで。「内輪ノリ」というのは一つの手法でしかないんです。いまはあまり好まれなくなっている手法ですが。もちろん、僕自身は80年代に「オレたちひょうきん族」でスタッフが画面に出ちゃうようなノリが当時は強烈にカッコ良かったし、もしかしたら僕自身もフジテレビもそういう時代を忘れられないのかもしれないです。それはそれとして、「チームのノリの出し方」は時代によって当然かわりますし、今は今の手法があります。若手の制作者たちはこれから自分たちがどうやってゆくのか当然、考えています。実はこれは楽しみにしているところでもあります。
北風:でも、「中で盛り上がっていないのに外をどうやって盛り上げるの?」というのは絶対にあると思います。クリエイティブでも同じなんです。どのプロジェクトでもスターは1人くらい必要ですが、コピーを考えてくれるスターが必要なときもあれば、全体の仕組みを考えてくれるスターが必要な場合もあって、ケース・バイ・ケースです。いつも特定のスターを置くのではなく、その時々に必要なスターを見つけてきて、一緒にやってほしいとお願いするのが私の仕事の醍醐味ですね。
黒木:なるほど、よく分かります。
北風:いまどきの広告プランニングというと、「全領域ができるスーパースターになれ」と求められがちですが、それは無理です。自分に欠けているものをよく理解して、それが分かっているからこそ、自分にできないところを誰かにお願いして気持ちよくやってもらえるよう、私も自分自身の領域を全力でがんばっています。そうやってチームができていくと、みんなで「いくぞ!」となるのがすごく楽しくて、それがおもしろくてずっとこの仕事を続けている感じですね。なので、スターはいるけどスタッフやメンバーが全員で盛り上がって、家族みたいな雰囲気で一体となったときに初めてモノを創れるみたいなところが、黒木さんの番組作りとすごく似ているなと思いました。
だから、チームの中でうまくいっていない人や面白くなさそうにしている人がいないように気をつけています。ケンカしてもいいから、黙っているよりは、みんな言いたいことを言え!と伝えていますね。その方が、企画がどんどん良くなっていくんですよ。
この対談の出典は、こちら。
編集部の視点 #02
クリエイターの大先輩の金言に「雄弁は、銀。沈黙は、金メッキ」というものがある。大人の事情や忖度を重んじる世界では、沈黙こそが最も価値のあるものなのかもしれない。しかしながら、クリエイティブの世界では、そんなものにつゆほどの価値もない。「これ、面白くない? 面白いでしょ?」というメッセージを、周りにいる仲間に発信し続ける。「あれ、つまらなくない? つまらないよね」という発言だって、ありだ。上も、下もない。経験の深さ、浅さも関係ない。ただ、世の中に響いて、世の中から愛されるコンテンツを作りたい。思いは、そこにしかないのだから。「おまえは、バカか?」「相変わらず、センスねえな」と否定されたっていい。否定されるからこそ、議論が始まる。こなくそ!というチャレンジ魂が、メラメラと沸き起こる。その思いは、チームを鼓舞し、電波に乗っかり、最終的にはテレビ画面を通して世の中に伝わる。必ず、伝わる。そんな、お二人の熱い思いが伝わってくる回だった。
「テレビのハザマで、テレビを語る」3回目となる次回は、いよいよ本対談の核心ともいうべき「テレビ史の“ハザマ世代”論」について語っていただきます。