一億総デザイン思考時代。日本初!「CIID Winter School」開催No.2
北欧発デザインスクールに、世界中の経営者が殺到するわけ。
2019/11/25
電通ビジネスデザインスクエア(以下、BDS)では、デンマーク・コペンハーゲンの教育機関「CIID」(Copenhagen Institute of Interaction Design)と連携し、デザインの手法やアプローチを学ぶことができる「CIID Winter School」を2020年2月に日本で開催します。
今回は、BDSビジネスデザイナーの齋藤陽介氏が登場。コペンハーゲンで開催された「CIID Summer School」経験者の視点から、CIID の魅力やBDSと連携する意義について語ってもらいました。
新しい知恵が生まれる、壮大な実験場
CIIDは2006年にコペンハーゲンで創立されたデザイン教育機関です。「クリエーティブな発想からソーシャルインパクトを創造し、ビジネスにつなげていくこと」が、CIIDの目指す姿。
コペンハーゲンで毎年開催されるサマースクールには、「People Centered Research」や「Design for Sustainability」「Designing Interactive Spaces」など、デザインに関するさまざまなプログラムが用意されています。
カリキュラムは参加者主体のグループワークが中心で、参加者は数名のチームに分かれ、5日間を通して与えられた社会的な課題に対してデザインの手法を実践。最終日に向けて作品やアイデアなどのアウトプットを完成させ、同時期に開講している他のコースの参加者も含めて全体で発表を行います。
欧米では非常に有名な学校で、私自身、2016年にロンドンのデザインスクールに留学していた時、よく名前を耳にしていました。しかし当時はUXデザイナーやエンジニア向けのインタラクションデザインの学校だと、彼らの取り組みを狭い視点でしか捉えていませんでした。
しかし、実際にサマースクールに参加してみて感じたことは、CIIDはデザインという共通言語を通して新しい知恵を生み出す「壮大な実験場」だということです。
各プログラムの講師は、NASAの研究所でリサーチャーとして活躍する方や、Spotifyのシニアプロダクトデザイナー、WeWorkのデザインディレクターなど産業界のトップランナーばかり。彼らは、一方的に知識を教えるのではなく、いわば“ファシリテーター”の役割を担います。つまり、参加者同士が自由に意見を交わす環境をつくり、時折、最新のセオリーや知見をエッセンスとして加えていきます。
トップランナーたちの最先端の知見に触れられる機会とあって、世界中のトップ企業から多種多様な人材が集まってきます。私がサマースクールで参加したコース「People-Centered Research」でも、UI/UXデザイナーらデザインに直接関係する職種の人だけではなく、経営者や建築家、考古学者など、さまざまな人材が13カ国から集まりました。
そうした異なる国籍・バックグラウンドを持つ参加者から出る意見が集積することによって、新しい知恵が生み出される。本当にワクワクする体験でした。
5日間で「デザインアプローチ」を身につけ、ビジネスの武器にする
大量生産・大量消費の時代は、「データ」を重視するマーケティングを行うことで人々のニーズを捉えられていました。例えば、「20代男性のうち、〇%の人たちがこういう価値観を持っている。だからこういうものを欲している」という考え方です。
しかし、これからの時代は、人々が求めるものや行動パターンがさらに多様化し、データだけで人々の本質的なニーズをとらえるのが困難になっていくことが予測されます。
そこで、世界の有力企業が経営に取り入れているのが、
共感→定義→アイデア開発→プロトタイプ→テスト
を基本とするデザインアプローチです。
「デザイン」は「人」に深くフォーカスします。例えば、同じ20代の男性でも、子煩悩な父親、大学院で研究に没頭する人など、立場はいろいろ。フィールド調査やユーザー観察などを通して、人のリアルなストーリーや文脈を掘り下げていきます。
デザインリサーチにおいて中でも重要な要素の一つが、「すべてを見える化」すること。調査で得た情報を付箋などに書き出すなどして壁一面に張り、それを見ながら情報を統合していきます。そして、拡散と収束のプロセスを繰り返しながら、ソリューションのアイデアを導き出します。思い付きではなく、「リサーチ→インサイトを発見→問いの設定→事業機会の特定」と、体系化されたプロセスはデザインアプローチならではです。
また、「プロトタイピング」を頻繁にすることもデザインの良いところです。アイデアを実際に紙などでつくりながら進めることで、スピード感をもってアイデアを磨き上げていくことができます。
失敗を恐れがちで、初めから完成度の高いアイデアを出そうとする傾向がある日本では、こうしたデザインの考え方を現場レベルで実践しているのはまだ珍しいのではないでしょうか。手を動かして失敗から学び、多様なメンバーでコラボレーションしながら、実践的に新しいアイデアを形作っていくアプローチを伝え、このスクールを、日本企業のマインドセットや視点の変化、そして未来に対するアクションを促す機会にしていくこと。そこにCIIDとBDSが連携する意義があると考えています。
2020年2月に開講の「CIID Winter School」は、8種類のカリキュラムを設けています。
・People-Centered Research
・Service Design
・Intro to Interaction Design
・Prototyping as a Process
・Designing for Impact & Inclusion
・Designing Interactive Spaces
・Change Management through Design
・Future Casting
<各コースの詳細はこちら>
CIIDが提示する20種類以上のカリキュラムの中から、日本人に合いそうなものやニーズが高いと思われるカリキュラムをBDSがピックアップしました。新規事業を生み出すためのブレイクスルーを得たい人、既存事業を別のアプローチ方法で見つめ直したい人など、誰もがビジネスに役立つ武器を身につけられる5日間になるでしょう。
地球規模でサービスを考える「サーキュラーエコノミー」がグローバルスタンダード
CIIDで学べるデザイン思考は、「人」にフォーカスするだけにとどまりません。同機関が提唱するのは「相互に作用するデザイン」。ユーザー1人ではなく、その人を取り巻くコミュニティーや地球環境にまで価値がある仕組みをつくって初めて、よい製品やサービスが生まれるという考えです。CIIDでは“Life-Centered Design”とも表現されています。
カリキュラムは、ジェンダー平等、気候変動、持続可能な生産消費といったSDGs(持続可能な開発目標)で掲げられているテーマに沿って構成されています。CIID自体、国連と提携をしている教育機関なので、社会課題と向き合う姿勢にブレがありません。
デンマークをはじめ北欧諸国では「サーキュラーエコノミー」という考え方が広く産業界で実践されています。「作って、使って、捨てる」という直線的な「リニア型エコノミー」ではなく、廃棄物を出さずに価値を循環させていく、大量生産・大量消費モデルに変わる環境負荷の低い新しい経済の仕組みです。「地球環境が持続可能でなければ人間は生き残れない」という強い認識が、日常レベルで息づいていると感じています。
CIIDが提唱する「相互に作用するデザイン」とも非常にマッチする「サーキュラーエコノミー」の考え方をもとに、上記の国々ではどんどん新しいサービスが生まれ、イノベーションを起こすパイオニアとなっています。すでにグローバルスタンダードとなりつつあり、近い将来、必ず日本企業にも必要になってくるでしょう。
しかし現在のところ、日本で「サーキュラーエコノミー」が浸透している企業はまだ多くありません。その根底には、「地球環境保護はできれば達成した方がいいけど、それは自社のビジネスとは関係ない社会貢献活動である」という発想があるのではないでしょうか。そうではなく「事業を成功させるために欠かせない考え方である」と認識しなければ、世界から取り残されてしまうでしょう。
その一方で、「サーキュラーエコノミー」と密接に関わるSDGsの考え方が日本社会にも浸透してきており、企業も積極的に取り入れるようになってきています。しかし、大切なのは、企業が社会貢献活動としてSDGsにある項目を個別にピックアップして対応することではなく、「自社が世の中にどのような価値を提供する存在なのか」「社会にどんなインパクトを与えるか」といった本質的な議論をし、実践をしていくことです。
SDGsは共通のアジェンダではありますが、SDGsのどのゴールに軸足を置いて事業を展開するのかを決めるだけでは、その先行き詰まってしまいます。自分たちの掲げるビジョン対して向き合っていく視点や姿勢、マインドセットを身につけ、行動していくためにCIIDの考え方やツールは非常に有効だと思います。
ぜひこのCIID Winter Schoolで、多くの人に体感していただきたいと考えています。