一億総デザイン思考時代。日本初!「CIID Winter School」開催No.3
企業戦略×SDGsで新たなビジネスチャンスを生む。「CIID」のアプローチ
2019/12/26
2020年2月に開催される、デザインの手法やアプローチを学ぶことができる「CIID Winter School」について紹介する本連載。
今回は、同スクールを主催する教育機関「CIID」(Copenhagen Institute of Interaction Design)の創立者の一人でもあるCEOのシモーナ・マスキ氏にインタビュー。同スクールを設立した狙いや日本でスクールを開催する理由を伺いました。
「People Center(人間中心)」から「Life Center(生命中心)」のイノベーションへ
ーCIIDを立ち上げた当時の思いと、スクールのビジョンについて教えてください。
まず、CIIDが存在する目的は、人々の、あるいは地球の、より良い将来をつくっていくことです。そのために大切なのは、地球を持続可能なものにしていくためのイノベーション。私たちはこの目的に対して、教育、戦略、インキュベーション(事業創出)の三つのサービスで貢献していきたいと考えています。
CIIDを設立したのは、アメリカ、インド、イスラエル、イギリス、イタリアなどさまざまな国から集まった6人でした。起業当初は、スタートアップですから当然予算がありません。しかし幸運なことに、初期の段階でデンマーク政府から投資してもらえることになったのです。
当初私たちは、人々にポジティブなインパクトを生み出すイノベーションに焦点を当てました。しかし、数年後、「人間」を中心に据えるだけでは不十分だということ、そして人間と等しく「地球」をも中心に据える必要があることに気付きました。
人のためだけにつくられたイノベーションは、地球に悪影響を及ぼします。産業廃棄物や気候変動、大気汚染など、私たちがどれほどのものをつくり出してしまったか、考えてみてください。地球にとっても価値のあるものを生み出さなければならないことは明らかです。
これからは、データ科学者や生物学者と緊密に協同してイノベーションをデザインしていく必要がありますし、環境に精通しているエキスパートと協同して持続可能な未来を実現しなければなりません。
今や、イノベーションとはただ単に新しい製品やサービスを生み出すことではなく、それを持続可能なやり方で生み出す、ということなのです。そのため、当初は「People Centered Innovation」と呼んでいましたが、今は、「Life Centered Innovation」と呼んでいます。
実は今、CIIDはコスタリカで事業を拡大しています。コスタリカは100%持続可能なエネルギーで自国のエネルギーを賄っている、持続可能な政策を牽引している国です。私たちはこの状況に非常にインスパイアされています。
世界的デザインスクール「CIID」が日本を選んだ理由
ースクールを開催する場所として、日本を選んだ理由は何ですか。
第一に、日本は常にCIIDに好奇心を抱いてくれていたからです。事業を立ち上げてから、共に学び、働いてきた日本の企業や人々がたくさんいました。
第二に、文化的に発展した国に対して私たちがどのような支援ができるのか、興味深い事例を見せてくれると思ったからです。CIIDは国連と連携しており、SDGs(持続可能な開発目標)に沿って全てのカリキュラムのテーマを設定しているのですが、その中にはデザインによってサポートすることができる重要課題もいくつかあります。例えば、持続可能な移動手段などです。日本のようにテクノロジーの発展した国で、テクノロジーを生かしてどのように支援できるか、興味があります。
日本はテクノロジーのロードマップ、実践、リサーチの分野でリードしている国として知られており、経済的にも財政的にも成功を収めています。しかし、残念ながらこれらの成長の中には社会の発展とバランスが取れていないものもあります。実際に今の日本は、地域レベルでのさまざまな新たな課題に直面しています。
私たちは、日本という国全体をサポートしたいですし、そしてそれぞれの社会への支援をどのようにデザインするか考えたいと思います。ただ、日本に課題があるから興味があるというわけではありません。もっと地球や命を中心に据えたアプローチで、日本の企業をサポートすることができる素晴らしい機会だから、興味を持っているのです。
電通をパートナーに選んだのは、企業戦略をベースにSDGsに対応するという、この支援の形に興味を持ってくれたからです。日本企業は、社会への価値を生み出し、社会的に成長するとともに、財政面でも成功を収め続けるにはどうすればいいかが、明確ではないのだと思います。
電通とのパートナーシップを通じて、日本企業のための新しいアライアンス、ビジネスモデル、戦略を支援すれば、日本企業がSDGsに対応するスピードを上げることができると考えています。
サーキュラーエコノミーは素晴らしいビジネスの機会でもある
ー日本ではSDGsやサーキュラーエコノミー(循環型経済)の考え方が根付いているとは言いがたいのですが、デンマークではこれらの考え方が浸透していると聞きます。その理由はどこにあるのでしょうか。
デンマークに限らず、サーキュラーエコノミーの考え方はスカンジナビアで根付いています。定着している理由は、政策や法的枠組みでインセンティブを設けており、政府や公的機関がサポートしているからです。
今ある資源をリサイクルしたり、再利用する行動を推し進めるようなインフラ設計によって、企業や市民、政策をつくる側の人のすべてが、ビジネスモデルとして持続可能な仕組みをつくることが必要だと意識しています。
それだけでなく、持続可能な仕組みをつくるアプローチが、実は新たなビジネスを生み出すことにつながると認識しています。スカンジナビアには、サーキュラーエコノミーに取り組むことで、利益を出したり、優位性を獲得している企業があります。ただ単に良いことをしている、ということではなく、素晴らしいビジネスの機会でもあるのです。
日本で、サーキュラーエコノミーの考え方を根付かせるために何が必要かは、まだ分かりません。しかし、日本もまたビジネスにおいて変革を進めなければならないと感じています。
日本の経済を牽引している産業同士で、多くのアライアンスが結ばれていますが、今は、利益向上のために結ばれることが多いでしょう。しかしこれからは、サーキュラーエコノミーを目指すことや、SDGsに取り組むためにパートナーシップやアライアンスを組む文化をつくらなければなりません。そのためにどうすればいいかを考えていきたいと思います。
ー「CIID Winter School」を受講する方へメッセージをお願いします。
このスクールに参加した方は、デジタル技術、デザイン、イノベーションが交わる場所で新しいスキルを使用する方法を実践的に学びます。このスキルセットは、企業がSDGsに沿ったイノベーション戦略を策定する際に効果的に活用できるものです。
また、この取り組みは、多くのネットワーク(つながる)、プロトタイプ(試す)、メーキング(作る)、コネクション(結び付く)を引き起こすでしょう。CIIDのプラットフォームによって日本企業のSDGs戦略やアライアンスが刺激されること、そして日本で長期的にCIIDのアプローチを広めていく第一歩になることを期待しています。