NEWSPACE PROTOTYPE OF ART DIRECTIONNo.4
思ったよりもいいヤツだった?
人工知能の実力を探る“AIグラフィック”
2019/11/26
アートディレクションの拡張を目指す“NEWSPACE NEW PROTOTYPE OF ART DIRECTION”プロジェクト。発足以来、次々と注目のアートディレクターが実験的な試みを発表しています。第4弾の作品は、人工知能にグラフィックデザインをさせる“AI GRAPHIC DESIGN PROJECT”。
アートディレクションを手掛けたのは、普段はアナログ志向だという江波戸李生です。異色のチャレンジによって体感したAIの素顔、デザインにおける可能性を語ります。
AIさん。世間で騒がれてますけど…何ができるんですか?
最新のAIグラフィックの作品をご覧いただいた上で、記事もご覧ください!
──AIにデザインをさせるという発想へは、どのように行き着いたのでしょうか。
私は、大学でファッション、舞台美術、インテリアなどを学んでいました。自分も同級生も、全て手作業で作品を完成させていくことが多く、その影響かアナログ大好き人間になりました。デジタルって聞くと、距離を置いてきました…。
ですが、今回立ち上げられた“NEWSPACE”はアートディレクションの実験の場だと聞いて、普段は手を出さない領域にあえて踏み込んでみることに。「世間ではもてはやされているけど、本当にデザインができるのか!?」と、半ばケンカ腰でAIへの挑戦を決めました。
まず、僕には人工知能に関する知識がほぼなかったため、AI研究とメディアアートの制作をしている東京大大学院特任助教の山岡潤一氏とアーティストの草野絵美氏に教えを請うことに。そこで紹介されたのが「DCGAN(ディーシーギャン)」という画像版のディープラーニングAIソフトです。AIが大量の画像素材を学習し、新たな画像をつくり出す。この技術からAIにグラフィックデザインをさせてみようという発想に至りました。
約200点の画像素材から16×4500通りものビジュアルを生み出す
──AIにグラフィックデザインをさせるプロセスとは?
工程として、まずAIに学習させる画像のデータを収集する手順があります。今回の一連の作品に対しては、シンプルな色面構成のような画像を集め、200点ほどに絞ってDCGANに与えました。
最初に全ての素材を与え「あなたが考えたグラフィックデザインを見せてください」と、繰り返し結果を求めていきます。今回の実験では、4500回以上結果を出させて経過を観察しました。
1回の結果につき、16点の画像がDCGANから提示されます。膨大な結果の中から、過程が読み取れる画像を以下にピックアップしました。
AIも混沌から試行錯誤してオリジナリティーを絞り出す
──4点の作品と、AIによるデザインの特徴について教えてください。
どんな素材を与えても、初期には一番左上の画像に代表されるようなもやもやとした画像が提示されます。初めて見せられたものから何かを紡ぎ出そうとしている感じ、いろいろな情報によって頭の中をかき回されている感じが出ています。
回数を重ねるごとに形を見せ始め、構成がシンプルになったり、ベタになったりしながら、オリジナリティーを出そうと奮闘しているさまには親近感すら覚えます。途中で画面がブレークしたり、変化が止まったりと、過学習による現象も観察できました。
後半にかけては、結果が似てきます。明度のバランス、形の複雑さなどは変化しますが、徐々に方向性が固まっていきます。
人間が触れることで個性やキャラクターが芽生え、育つ
──実際にAIと向き合って得た成果、感じた将来性とは?
この実験をする上で一番意識したのは、いかにこのAIらしさを引き出すかという点です。実は、ポスターや商品パッケージなども素材としてDCGANに与えてみました。すると元の素材に近づこうとする性質が働き、まるでパクリのような画像が多出。
学習させる内容をしっかりと精査することで、オリジナリティーのあるビジュアルを導き出すことができたと思います。
実験前と今で、AIの印象は「よく名前を聞くけど、距離を置きたい偉そうなヤツ」から「結構がんばる、いいヤツ」へ変わりました。必死に何かを生み出そうとする力を感じられたし、今回の結果だけでいうなら「まだまだだな」と安堵した面もあります。
AIにゼロから学習をさせる過程は、子どもに言語を教えるようなもの。相手は育てなくちゃいけない赤ん坊のような存在で、僕らが触れることで個性やキャラクターが形成されていきます。
今回の実験結果はまだグラフィックデザインとして主張できる段階にはありませんが、人工知能ソフトは速いスピードで進化しています。同じプロセスを踏んでも日に日に精度が上がっていくはずなので、楽しみですね。AIがつくるグラフィックをアートや音楽、ファションなどの分野に転換してアウトプットすることも考えています。
研ぎ澄まされた感性で生き残るアートディレクターに
──将来AIに取って代わられる職種もあるという説ですが、アートディレクターはどうでしょうか?
自分たちの仕事がなくなるかもしれない、ターゲットへ端的に届く情報の羅列のような広告が量産されるようになるかもしれない、という危機感はどこかに持っています。
一方、新しい技術がもたらす利便性に対し、手触りや重みを感じられるものや体験の価値はなくならないとも感じています。音楽産業に例えるなら、CDが衰退してデータが進化すると同時に、アナログレコード盤の価値が高まっていくように。
広告で表現をする基礎体力があれば、どんなジャンルのアートディレクションにも対応できる。グラフィックデザインの傍らで空間やプロダクトを手がける周囲の先輩たちがそうでした。
アナログとデジタルのちょうどいいところを突く、感覚の研ぎ澄まされたプロのアートディレクターであれば、時代が進んでも適応していけるのではないでしょうか?そうなるためには人間もAIと同じで、学習とアウトプットを重ねるしかない。だからAIに親近感が湧いたのかもしれないし、まだ自分にやれることがあると思えました。
よい広告デザインをつくるために、AIに仕事をアシストしてもらう関係もありですよね。そんなワガママな夢も今回の実験から生まれ、どう発展するかは未知数ですが、AIとはこれからも付き合っていきたいと考えています。
人工知能に長けている社内外の方々とリンクをし、可能性を探っていきたいと考えています。“AI GRAPHIC DESIGN PROJECT”プロジェクトに興味を持っていただけたら、ぜひinfo@newspace.galleryまでご一報ください。