電通イージス・ネットワークで世界のビジネスを学ぶ EIBAレポートNo.5
シンガポールで知った、グローバル プランナーズ ネットワークの強み
2020/01/31
赤道直下の小さなクリエイティブエージェンシーで働く
日本から飛行機で約7時間、熱帯に位置するシンガポール。高層ビルが立ち並ぶビジネス街のど真ん中に電通イージス・ネットワーク(以下、DAN)Singapore はオフィスを構えている。海外電通グループの複数のエージェンシーが協業しており、全体で500人近いスタッフが日々業務に励んでいる。
私は、その一つである“Dentsu Singapore”に2019年3月からEIBAプログラム(※)でストラテジックプランナーとして赴任している。クリエイティブソリューションを得意とする小さな組織で、20~30代の社員が大多数を占める若くエネルギッシュなエージェンシーだ。
私が所属するプランニングチームは、イギリス、スリランカ、インド、スウェーデンの出身者が在籍。さまざまなバックグラウンドを持つチームメイトの中で刺激的な毎日を送っている。
プランニングチームの仕事の進め方は、日本と大きく変わらないように感じる。しかし、使えるデータベースやリソースが限られているため、効率的にアイデアを収集するべく“100BOX”と呼ばれる全社員を招集したブレストミーティングが頻繁に開かれることはユニークな点の一つだ。担当クライアントを超えてアイデアを出し合い、強いクリエイティブアイデアを探求している。
DAN Singaporeには、シンガポール単体マーケットを対象としたローカルプロジェクトの推進とAPAC(アジア太平洋)各国を対象としたリージョナルプロジェクトの推進という二つの機能がある。
現在では、広告作業のローカライゼーションが進んでいるため、シンガポールにAPACを統括する拠点を置いてリージョン(地域)全体のブランディングや販促キャンペーンを統括する企業は減ったそうだ。それでも着任後、自動車会社や他のメーカーの案件など、いくつかのリージョナルプロジェクトに携わることができた。
今回は、DAN Singaporeの機能としてユニークであるリージョナルプロジェクトでの経験をもとに、実際に体験した仕事の難しさや、電通のソリューション力について感じたことをシェアしていきたい。
リージョナルプロジェクトで感じた大きな壁
着任後、言語の壁と同じくらい大きな障壁を感じたことがある。それは、クライアントを知らない、商品を知らない、国民を知らない、つまりインサイトの感覚が自分にないということだ。
当然、担当するに当たっては、時間をかけてクライアントや商品に関する情報、マーケットの状況や消費者のニーズについてのインプットを行うのだが、必ずしも必要な情報がすぐに手に入るとは限らない。
私が担当した自動車会社のリージョナルプロジェクトでは、タイ、インドネシア、フィリピン、インド、マレーシアなどに展開するブランド戦略を立案するために、各国の人々の意識や価値観を収集し、各国で共通するキーとなるインサイトを発掘していく必要があった。
シンガポールのことですら理解し始めたばかりにもかかわらず、アジアの周辺国の人々のインサイトを考えることは非常に難しいことである。しかし、それはクライアントも同様で常に課題に感じており、そして、これこそが電通に求められている価値の一つであると強く感じた。
「アジア各国の消費者のここ10年の購買行動の変化をマーケット情報としてこの企画書に加えたい」
「このコンセプトに関して、アジア各国の人への簡単なネガティブチェックを行いたい」
「アジア各国に拠点を持つ電通の経験則をもとに、うまくいくキャンペーンとうまくいかないキャンペーンの違いを分析してほしい」
クライアントから上記のようなリクエストをされることは日常茶飯事だ。
重要なのはセンスチェックによるPDCAを回すこと
こうしたリクエストに対して、リサーチデータの分析や消費者へのインタビュー、関係者へのヒアリングなどを通じて、一定程度の“答え”を出すことは可能だ。しかし、最後に重要なのは、その答えが本当にその国々の人々の“センス”と合致しているかを確かめ、ブラッシュアップのPDCAを回していくことにあると思う。
実際、前述の自動車会社のプロジェクトでも、各国の電通拠点のストラテジックプランナーと定期的にプロジェクトをアップデートする会議を行い、共にリサーチや消費者インタビューの結果の読み込みを行った。
特に、インサイトの抽出においては、仮説のアイデアや切り口の視点が重要となるため、各国のプランナーと協業できることはアウトプットの質を大きく高める。ストラテジックプランナーのネットワークが各国にあるからこそ、広範で詳細なインサイトの探求をグローバルに行うことが可能なのだ。
と、ここまで書くと万能で無敵なネットワークのように感じるかもしれないが、実は一筋縄ではいかないことも多かった。
例えば、昨日までやりとりしていた担当者が突然退職していたり、あれこれ理由をつけて、大きくデッドラインを過ぎた上に、明らかに求めているものと違うものが送付されてきたり、現地の言語(非英語)で行われたインタビュー映像が送られてきたり…。
人的リソースの連続性と質の統一性はこのネットワークを活用する上で、常に意識しなければいけないテーマであるように思う。
優れたアイデアを創出するために必要なもの
それでも、先述のクライアントからの要望にあるように、各国のプランナーとのネットワークへの期待は大きい。
オープンデータなどを活用することで、われわれはかつてと比べると容易に各国の消費者情報へアクセスできるようになった。Skypeなどを活用することで、直接消費者へ問いかけを行うこともできる。つまり、世界中のどこの国のデスクに座っていてもある程度のアイデアを考案することはできるかもしれない。
しかし、優れたアイデアを創出するためには、その背景を読み解く研ぎ澄まされたセンスが必要で、そのセンスはその国の歴史や文化を十分に理解し、豊かなプランニング経験を持つプランナーと協業することで、ブラッシュアップされていくように思える。
アジア太平洋広告祭(ADFEST 2019)において電通グループは、3年連続で「ネットワーク・オブ・ザ・イヤー」に輝いた。優れたクリエイティブネットワークには、こうした人的ネットワークの強さが貢献していると私は考えている。