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電通イージス・ネットワークで世界のビジネスを学ぶ EIBAレポートNo.4

2019/10/29

NYのメディアエージェンシーで見た人と仕事の流れ

速過ぎる人の流れと仕事の継続性の両立

2019年2月からV2(New York)にEIBA(※1)の研修で来て、8月でちょうど半年がたった。V2は電通イージス・ネットワーク(DAN)グループのメディアエージェンシーVizeumと同じ系列で、メディアバイイングとプランニングに特化した会社である。特に従来のマスメディアとデジタルを組み合わせた統合プランニング力は優れており、クライアントからも高く評価されている。

V2は某グローバル企業がメインクライアントで、仕事量のほぼ99%はこの1社のみ。誰でも知っているような有名な商品を多数持っているクライアントで、とにかく予算規模が大きいのでスーパーボウルやオスカーなど有名イベントとのコラボも多く、普段経験できない大変貴重な環境で仕事をさせていただいている。

私の仕事内容は、日本にいたときとあまり変わらないものの、チームの組み方や仕事の進め方、上司と部下の関係など、企業文化が根本的に異なるので、何かと新しい発見や気づきが多い。今日はその中でも自分が一番不思議に思っていたことについて書きたい。

アメリカは転職大国というのは皆さんもご存じだろう。今所属している会社の例でいくと、実際私が来てからのこの半年間だけで、少なくとも全体の15~20%弱は入れ替わった気がする。半年でこの調子だから年単位でみると30~40%台の離職率ということになるであろう。

最終出勤日の夕方に丁寧にメールをくれる人もいるが、ほとんどの人は無言で去っていく。これはクライアントにもいえることで、メールを出したらいきなり自動返信になっていて初めて退職した事実を知らされることもしばしば。

離職率がここまで高いと、ビジネスに支障が出ないのだろうか?どんどん人が入れ替わる中で、引継ぎなども含めて仕事の継続性、それからクライアントサービスの一貫性はどのように保っているのだろうか?また、人材の教育はどうなっているのだろうか?

新入社員を紹介するテレビ
新しく入ったメンバーはこのように社内テレビで紹介される。歓迎会も全員の前での自己紹介も、あいさつ回りもない。

オペレーティングの話が中心になるが、日本でも労働市場の流動性が高まりつつある昨今、DANでこの問題にどのように取り組み、収益を保っているのか、少しでも参考になるのではと思い、この半年間の気づきを整理してみた。

人数で勝負?

そもそも、1人や2人辞めたぐらいで、すぐには困らないくらい人数を確保しているように見えた。私の日本での経験からすると、「何が何でも人が多過ぎるのでは?」と思ったほど。

どのぐらい多いかというと、クライアントの商品別に担当チームが編成されているわけだが、メディアのプランニングチームだけで5、6人はいる。プランニングヘッドが1人、実際手を動かすアソシエートプランナーが2人、アシスタントが2、3人といった具合である。ここにデジタルのプランナーやターゲット分析などを行うアナリティクス、インサイト担当者(いわゆるストラテジックプランナー)が入っていないのがすごい。東京では下手すると、これらの役割をほぼ1人でこなすことになる。

このように十分な人数を確保することは実は非常に重要なポイントで、三つほど効果があるように思えた。

まず、人が急に辞めたとき、次の候補を見つけるまで困らない。情報がチーム内で常にシェアされているので1人辞めても残りのメンバーでカバーできるようになっている。

次に、1人当たりの仕事のボリュームが少なくなる点だ。これが昨今日本で話題の“働き方改革”や“ワーク・ライフ・バランス”の問題解決につながっている。

そして、一番大事な点として、アメリカはメディアのマージンではなくフィー制度なので人を確保すればするほどフィーが増え(人件費+ランニングコスト)、会社の利益率改善にも直結する。もちろんクライアントの承認を得ないといけないので、なぜそれだけの人数を確保しなければいけないのか、クライアントの購買責任者を納得させる必要はある。

SOPの存在

SOPはStandard Operating Proceduresの略なのだが、仕事の各工程を事細かに解説したドキュメントで、仕事の内容別に存在する。中身としては、
① プロセスの目的
② どの部署の誰がこの工程の何を担当しているのかを明確に記述
③ いつまでに何をすべきかを述べたタイムライン
④ 成果物はなんなのか、サンプル付きで説明
⑤ プロセスの詳細及び注意点
といった具合である。

最初は広告会社の仕事というより、どこかの工場のマニュアル本のように思えたほど。メディアバイイングのSOP、請求プロセスのSOP、レポーティングのSOPなどいろいろ存在するが、一つのドキュメントにつき、短いものでも十数ページ、長いものは30~40ページもあったりする。これが大変分かりやすくできているので、例えば誰かが辞め、新しいチームメンバーが入った時はトレーニング素材として使える。

その他にも、
・ミスが少なくなる
・アウトプットの質をコントロールできる
・クライアントサービスを同じレベルでキープできる
・何より仕事のノウハウや知見は属人的な形ではなく、しっかりした書面で共有・保存される
・これがあると仕事の引き継ぎという作業はほぼ必要ない
・クライアントとも共有・合意されているのでクライアントの期待をコントロールできる上、何かもめ事が発生した場合、SOPにきちんと沿って業務が行われていたかを確認すればよいので、問題点が発見しやすい
といったメリットがある。

余談だが、最初は「EIBAはいくら実務研修とはいえ、私は外国人だし、マーケットのことをあまり知らないし、最初の1カ月ぐらいはゆったり勉強できるのでは?」と思っていたが、その期待は見事に外れた。

1週間もたたないうちに女性の上司に呼ばれ、「はい、あなたにはこの作業のリードをお願いするね!」と言われ、びっくり!クライアントにもまだあいさつしてなければ、社内だって誰がチームメンバーで、誰が何の担当なのかよく分かってないというのに。

ビールサーバー
本文の内容とあまり関係ないが、オフィスに設置されているビールサーバー。15:30以降は飲みながら仕事してOKということになっている。

「来たばかりなのでよく分かりません!」とはさすがに言えず、上司の紹介なしで、クライアントに直接私からメールを出していいものか、といった必要最低限のマナーを確認して仕事を始めた。こういう時、SOPは大活躍する。何しろマーケットのこともよく分からない新参者の外国人が、すぐにチームの一員として働けるようにできているのだから。

情報の共有でひとつ付け加えると、チームの情報は日本と同じで共有フォルダーに保存・管理されているわけだが、その運営が一大事で、最初は「ちょっとそんな大げさなっ!」と思ったほどだ。何しろフォルダーのレイヤーとそのネーミング&内容について管理職だけのミーティングで議論されるぐらいだからどれだけ重要視されているかが分かる。

シンプル・イズ・ベスト

その他にも、人が入れ替わることを前提に、誰でもすぐに仕事に取り掛かれるよう工夫されていると感じる点はまだまだある。

汎用性の高いシステム
日本もその傾向にあると思うが、自社で独自のシステムをつくるのではなく、誰もが知っているような汎用性の高いシステム、もしくは外部のプラットフォームを使う。こうすることで、転職してきた人が社内システムの違いに戸惑うことなく、すぐに使えるようになる。トレーニングの手間と維持管理費を抑えているように見えた。

メディアツールの分かりやすさと充実っぷり
ツールの自動化が非常に進んでおり、最低限の基礎があれば、誰でもすぐに使いこなせるようになる。日本のDAS(※2)のような広告統計ツールがあるが、ローデータを出すだけでなく、自分が必要とする情報を一つずつ選択するだけで、昨年対比なども含めて自動的にデータを分析してくれる。しかもキレイな表やグラフに落とし込んでくれることにも驚いた。

競合他社を選択するだけで簡単な市場アナライズなどもやってくれる。日本でどれだけの時間をこれに費やしていたか考えるだけで涙が出るほど感動した。

※2=DAS(Dentsu Advertising Statistics) 
日本の広告統計データベース。広告主別の広告費と広告量、CRマテリアルなどの検索ができる。
 

クライアントごとにフォーマットを共有
またV2に来たとき、上司に“〇〇クライアントの仕事をする際の便利キット”的なパワーポイントを渡された。そこには、クライアント専用のパワーポイントのテンプレートやフォント、ロゴとその正しい使い方をはじめ、メール返信の速度とタイミング、自動返信やCC、BCCのルールまで詳細に書かれていて非常に分かりやすい。逆に、その他のものは使えないので、迷うことがなく、非常に効率がいい。

これは、クライアントサービスに個人差が出ないように最低限のルール/ビジネスマナーを周知するためだけでなく、どんな人でもすぐに会社に慣れてもらうための工夫でもある。

今回は自分の今働いている会社でのオペレーティングの話が中心になったが、機会があればどこかで仕事の中身の話も共有できればと思う。

(※1)=EIBA (Emerging International Business Assignment)
次世代を担う人財育成の一環として、電通イージス・ネットワークの拠点に、若手社員を1年間派遣する実務研修。異文化環境下で業務経験を積み、国内外を問わず、プロジェクトの現場リーダーとして必要な視点、スキル、人脈の獲得を目指す。