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事業共創拠点“engawa KYOTO”No.4

イノベーションの本質を、イノベートする。
その方法論の一端を、公開します。

2020/02/06

グローバルで年間1000社を超えるスタートアップ企業とのプログラムを展開するplug and play社(以下、PnP社)Japanの代表取締役社長を務めるヴィンセント フィリップ氏に、ビジネスにおけるイノベーションの本質について、パートナーである電通・京都ビジネスアクセラレーションセンターの志村彰洋氏がさまざまな角度からの質問を投げ掛けた。二人をつなぐ場は、engawa Kyoto(※)。

engawa京都:京都にある電通のイノベーションオフィス。engawa Kyotoは個人・企業を対象とし、そこに集う人々の“縁”をつなぎ、これからの日本の活力となる事業創造支援を行う場となることを目的とし、2019年7月に開設されました。世界トップクラスのアクセラレーターであるPlug and Playも、日本での二つ目の拠点“Plug and Play Kyoto”として入居し、京都という地の持つ発信力を味方につけた今までにない事業共創拠点として期待されています。

 

左から、plug and play社Japan代表取締役社長・ヴィンセント フィリップ氏、電通京都ビジネスアクセラレーションセンター・志村彰洋氏
左から、plug and play社Japan代表取締役社長・ヴィンセント フィリップ氏、電通京都ビジネスアクセラレーションセンター・志村彰洋氏

イノベーションを起こすには、「出会いの場」と、
それを膨らませる「座組み」が必要


 

志村:ウェブ電通報で過去に4回、engawaのことが紹介された。今回は、engawaにオフィスを持ち、engawaの「共創パートナー」ともいうべきPnP社について迫っていきたい。フィリップとの出会いは、2年半くらい前かな?それこそPnP JAPANができる前からの付き合いなので今さらなんだけど、そもそもPnP社とはどういう会社なの?

plug and play社Japan代表取締役社長・ヴィンセント フィリップ氏

フィリップ:僕らは「イノベーション・プラットフォーム」と呼んでいるんだけど、一言でいうなら「世界中のベンチャー、スタートアップ企業に対して、業態別にアクセラレータープログラムを行っている会社」ということかな?バッチという名の3カ月間のプログラムを、年間グローバルで1000社以上、日本では年間200社近く提供している。パートナー企業がグローバル300社以上。いうなれば、イノベーションを起こすための「出会いの場の提供」だね。

志村:その会社が、電通が立ち上げたengawa京都を第2の共創拠点に選んだ。まず伺いたいのは、なぜ京都だったのか?ということ。

フィリップ:イノベーションというと、日本ではどうしても東京に集中しがち。対して京都は、「産・官・学」のバランスがいい。まず、京都という街には、グローバルな大手企業が密集している。行政との連携もとりやすい。そして、もっとも重要なポイントは、京都大学を始めとする「学」の要素。

志村:欧米では、スタートアップ企業が「学」と密接に関わっているケースが多いからね。

フィリップ:バッチという3カ月のプログラムを通して、スタートアップ起業をめざす人に対して、大手企業とのコネクションをつくってあげる、と考えてもらうとイメージしやすいと思う。

志村:その説明は、分かりやすいね。イノベーションのための出会いの場を提供するだけでなく、「産・官・学」と連携した大きな「座組み」をつくるというわけだ。

イノベーションを、ビッグビジネスへ。
その際、もっとも有効なのが「産・官・学」の連携
 

フィリップ:「産・官・学」との「座組み」をつくる上で、「カテゴリー」を立てることが重要なんだ。

志村:冒頭で説明してくれた「業態別にアクセラレータープログラムを提供していく」の部分のことだね?

フィリップ:京都では、バッチを行うための「カテゴリー」が立てやすかった。たとえば、engawaと組んで最初に実施したプログラムのテーマは「ハードテック&ヘルス」。単なるヘルスケア事業じゃない。京都に集まっている企業や産業を巻き込むことを視野に置き、プログラムを構成した。

志村:ハードテックまで幅を広げることで、最先端技術を持つBtoB企業、不動産業社、保険会社など、一見すると「ヘルスケア産業と、なんの関係があるの?」という企業が協賛しやすくなる。そうすると理系文系を問わず、さまざまな分野の人たちが興味をもって集まってくる。

フィリップ:企業にとっても、メリットがある。例えば、学生たちとプログラムを共にすることで、その企業の魅力をアピールできる。違った業種の企業とのつながりも生まれてくる。

志村:単なる研修や、就活セミナーとは違って、PnP社のプログラムに参加した時点で、すでに新たなビジネスが生まれやすくなっている、と。

フィリップ:そういうことなんだ。

志村:そうしたプログラムを実施していく上で、京都という街の持つ独特な文化は、やっぱり大きいよね。100年、200年続く老舗の「したたかさ」というか。
その「したたかさ」を街全体がつくっている、というか。

フィリップ:歴史とか、文化とか、雰囲気、みたいな言葉で表現すると、それがこれからのビジネスにとって何の意味があるのか?という話になっちゃうけど、みんなの心を引き寄せる「磁場」みたいなものだと考えると、分かりやすい。
京都という街がもつ「磁力」が多くの人を引き寄せ、そこから新しいビジネスの「グローバルフォーマット」が生まれていく。

PnP社が電通、あるいはengawaに期待することとは?

engawaKYOTO

志村:改めて質問するのはちょっと照れ臭いけど、PnP社にとって、engawaとはどういう存在?

フィリップ:プログラムを運営していく上で欠かせない「出会いの場」。それが、engawa。ぼくらはイノベーションの爆発を、「0→1」「1→10」「10→100」と表現するんだけど、PnP社が得意とするのは、その中の「1→10」。生まれた芽を育てる、ということだね。engawaにはビジネスのタネを芽吹かせる「0→1」を生む「場」を、電通にはPnP社が育てた10を100の規模のビジネスに広げてくれることを期待している。だから、engawaと組んだ。

志村:別のいい方をすると、クリエーションとアクセラレーションの二つの部分でのプロデュース力を買ってくれた、と。

フィリップ:イノベーション・プレーヤーと接触できる「場」があって、そこで出た芽を、プログラムを通じて育てて、ビッグビジネスにしていく。

志村:それぞれの段階で大切なことは、コミュニケーションということになるよね?

フィリップ:そう。そこが、ポイントなんだ。イノベーションというと、ひとりの若き天才が、突然ひらめいたアイデアで事業を起こして大成功する、みたいなイメージでしょ?ノーベルとか、エジソンとか。でも、天才の才能を発見して、それを育てて、事業に昇華していくどの段階でも、最も大事なことは、実はコミュニケーションなんだ。

志村:イノベーションを生んで、育てていく原動力はコミュニケーションにあるのだ、と。

フィリップ:その意味で、engawaも電通も、PnP社のビジネスにとって「ハブ」となる存在といえるだろうね。

志村:今日も、企業との提携を目指しているスタートアップ企業のプレゼンテーションを電通のプロジェクトメンバーが受けたよ。

企業との提携を目指しているスタートアップ企業のプレゼンテーション風景
企業との提携を目指しているスタートアップ企業のプレゼンテーション風景

キーワードは、「オープン・イノベーション」

志村:イノベーションを生む「場」と「座組み」の話が明らかになったところで、世界のビジネスの潮流について、聞かせてもらえるかな?

フィリップ:よくいわれることだけど、「大きい魚が小さい魚を食う時代」は
もう、終わった。これからは「大きい魚より、速く動ける魚」が生き残る時代なんだ。

志村:多くの、それも大企業が頭を抱えている問題だね。

フィリップ:速く動ける魚には、情報やコネクションがどんどん入ってくる。だから、余計に速く動ける。

志村:意思決定の速さも、大事だよね。

フィリップ:そう。スピード(速さ)も大事だけど、アーリネス(早さ)も大事。ライバルに先んじて、もう動いちゃってるという行動の早さ。意思決定を待っている間に、その先までいっちゃってる、という速さ。そのためには、常にフロントにいないとダメ。

志村:これからの企業に求められるスピードとは、実は「速さ」と「早さ」のことなんだ。

フィリップ:そのスピードを生むのが「オープンイノベーション」ということ。

志村:いよいよ、核心の部分だね。

フィリップ:「1+1=2」ではなく、「1+1」を3に、10に、100にしていかなければ、イノベーションとはいえない。日本人は、「1+1=2」をやらせたら世界一だと思うけど、それではダメ。イノベーションは生まれない。

志村:「1+1=2」は、オポチュニテイー・ロスともいえるよね。

フィリップ:そうなんだ。先ほど、コミュニケーションこそが大事、という話をしたのも、そこ。つまり、情報を抱え込んで、ひた隠しにして、自分だけ成功しようとするのではなく、初期段階でアイデアをオープンにすることが大事なんだ。オープンにするからこそ、そのアイデアに乗っかる人が出てくる。そのアイデアを膨らましてくれる人が出てくる。そこにスピードとスケールが生まれる。これが、オープンイノベーションということ。

イノベーションのゴールは、「ビッグディール」にあり

志村:オープンイノベーションというマインドが、日本になかなか根付かないのは、どういうわけなんだろうね?やはり、既得権益を守りたいとか、そういうことなんだろうか?

フィリップ:オープンイノベーションの「リターン」が何なのか、あるいはオープンイノベーションを起こす上での「リスク」をどう対処すればいいのか、が
分からないということだろうね。

志村:ぼくらでさえ、分からないことだものね。

フィリップ:そう。その「分からないもの」に人材とリソースをとお金をどこまで投じられるかが、勝負だと思う。

志村:いわゆる「ビッグディール」というやつだね。

フィリップ:「小さく立ち上げて、コツコツ育てる」みたいなことをしていては
イノベーションは起こらない。

志村:フツーの「ロジック」から生まれないものこそが、イノベーションの本質だからね。

フィリップ:でも、ギャンブルではないんだ。ひとつのアイデアにいろんなひとが「いいね」と乗っかってくる。そうしたコミュニケーションの力が、「ビッグディール」を生んでいく。この仕事をやっていて一番楽しいのは、いろんな人と会えるということ。

志村:フィリップは、誰と会わせても、物怖じせずに分かりやすく話をしてくれるからね。

フィリップ:だって、楽しいんだもの。物怖じしてる場合じゃない。

志村:考えてみれば、ラッキーだよね。フツーでは絶対に会えない人に会えちゃうんだもの。

フィリップ:フツーでは絶対にありえない出会い。そこから生まれるコミュニケーションこそが、イノベーションを生み、ビッグディールを可能にする。

志村:うまくまとめたね。今日は、ありがとう。