令和女子のキザシNo.3
勉強も居場所もシェア。令和女子のひとり時間はひとりじゃない
2020/02/25
令和女子と大人たちとの認識の「ズレ」を解消することで、これからの若年女性とのコミュニケーションのヒントを見つけるためのギャルラボの連載第3回。
今回は、女の子たちの時間の使い方の変化に着目します。特に、今までひとりで取り組む、ひとりで過ごすことが当たり前だった「ひとり時間」がスマホやSNSによって「シェアする時間」に変わってきています。
今回、企業のティーン向けマーケティング・プロモーションを支援しているマイナビ・ティーンズのご協力の下、6人の女子高生にインタビュー。そこから、大人の想像を超える、いろいろな「ひとり時間」のカタチが見えてきました。
ひとりで勉強する時間をシェア
これまで「勉強」は、学校や塾の授業の時間以外はひとりでするものでした。机で教科書や問題集と向き合って孤独に耐えながら、集中力を高めて頑張る。そんな受験勉強の思い出を持っている人は多いのでないでしょうか。しかし2016年ころから「勉強アカウント」(通称:勉強垢)という、勉強時間を人とシェアするSNS文化が生まれました。
これはもともと受験大国である韓国で生まれた文化で、Instagramでは「#studygram」(590万件ヒット)「#勉強垢」(140万件ヒット)といったハッシュタグで世界中の10代の間で広がっています。例えば、かわいい文房具に囲まれた勉強机と自分の手元を長時間録画して早送りした動画や、勉強した合計時間が表示されたタイマーの写真(こんなに頑張ったよ!という報告)、きれいなノートの取り方や年号や数式の独自の覚え方を専門に発信するアカウントがあります。
では、彼女たちは勉強アカウントをどんなふうに、どんな理由で利用しているのでしょうか。
勉強のモチベーション維持や、孤独の回避
●TikTokやInstagramでいろんな人の勉強垢を見てて、#勉強垢とか、#勉強垢さんとつながりたい、みたいなハッシュタグをフォローして、自分の勉強のモチベを上げるようにしています。
●私はとにかく、勉強とかで落ち込んだときは他人の力を借りたい。孤独感がものすごく嫌い。だから、SNS見て、「頑張ろう、ひとりじゃない」って思いたい。
このように、自分のやる気を勉強垢を利用してうまくコントロールしているようです。
いろんな人のきれいなノートの取り方や難問の解き方を知れる
●ノートの取り方が、皆すっごいきれいで結構見てますね。
●自分のこだわりでやっちゃうと、それが間違っていたときに取り返しつかなくなっちゃうので、他の意見も入れつつ、盗めるところは盗んでます。
昔は成績のいいクラスメートのノートをコピーさせてもらうのが主流でしたが、今や彼女たちは、日本中、世界中の子たちのノートや解き方を見て選択肢を増やし、自分に合ったスタイルを上手に探しているようです。
「分からない」を瞬時に解決する勉強アプリも
会話の中で「クァンダ」というアプリを利用して分らない問題を解いている、という子がいました。クァンダは韓国発の家庭教師アプリで、分からない数学の問題をスマホで撮影するだけでAIが回答を教えてくれる、という先生いらずのアプリです。ただ正解を教えるカンニング的な目的ではなく、解き方の解説を見ることができるので、学校や塾の先生に質問する時間をとらなくても「分からない」がすぐに解決するのです。このように、一人で悩む時間は彼女たちには必要ないのです。
彼女たちの多くは、勉強垢を活用し始めてから「成績が良くなった」と回答しています。スマホはどうしてもしょっちゅう見てしまうものですが、そのスマホを見る時間を勉強に生かす機会へと見事に変えてしまったのです。大人から見ると、勉強もしないでスマホをいじっているように見えるかもしれませんが、「一緒に勉強している」のです。昔から友達と図書館で勉強する、といった行動はありましたが、それがこうしたSNSのつながりにより、直接会わずに、しかも世界中の友達と一緒に勉強できるようになったといえるでしょう。
この現象の裏にあるのは、「ひとりじゃ頑張れない」という孤独やさみしさから逃れるためにやる気や元気をもらいたいという気持ちや、自分にとってベストな選択肢を探したいという気持ち、そして「時間を無駄にしたくない」という徹底した効率を求める時間意識が関係しているようです。
睡眠や移動時間もシェア
他にも睡眠をシェアする不思議な文化があります。
寝落ち枠
特にラジオ配信アプリにみられるのですが、「寝落ち枠」という名前で、「自分が寝るまで一緒に話をしよう」という趣旨で集まってきた視聴者とおしゃべりを楽しみます。時には本当に配信途中で寝てしまうこともあります。それに対して「主、寝ちゃったね」「今日も寝息かわいいね」などと睡眠時間を一緒に楽しむのです。
さらに、MixChannelやSHOWROOMなどの動画配信アプリを普段使っている子に話を聞くと、面白い使い方をしていました。
移動中や洗面所を中継
●配信するときは、家から駅まで歩くときとか、顔の手入れをしてるときに雑談をする。
なぜ、そんな時まで誰かと話がしたいのかを聞いてみると、親友には話せないが、自分のファンの子になら話せることがある、といいます。隙間時間に、自分のモヤモヤや今日あったことを話すことで彼女たちはストレスを発散しているのかもしれません。リアルの友達でもなく、家族でもない、SNSコミュニティーでもない、「今」を共有できる、もう一つの居場所がここにはあるようです。
ひとりの時の居場所をシェア
さらに、ひとり時間の「居場所」も彼女たちはシェアしています。女子高生の多くが使っている位置情報共有アプリ、Zenly。マイナビティーンズが発表した、2019年ティーンが選ぶトレンドランキング「モノ」部門では5位にランクインしています。これは、親しい友人間で、互いの位置情報を共有することができるもので、家にいるのか、原宿にいるのか渋谷にいるのか、その場所に何分滞在していたのか、今どれくらいの速さで歩いているのか、スマホのバッテリーはあと何%か、まで分かるのです。
では、彼女たちはこのアプリをどんなふうに、どんな理由で利用しているのでしょうか。
遊ぶ約束をしないで済む
●Zenlyを見てたまたま近くにいたら、「今から夜ご飯行こう」って流れで誘う。
●そもそも約束してないからドタキャンが減った。
なんと、彼女たちは「約束」をしないのです。携帯の登場によって、会えないかもしれないという心配がなくなって待ち合わせをしっかり決めなくなった時代変化はありましたが、もはや令和時代は会う約束自体をせずに、近くにいる人を確認してから遊ぶ人を決める、というのは驚きです。
仲の良さが透けて見える
●見てて楽しい。今、この男子とこの女子が一緒にいるんだ~とかが分かる。
これまでも、SNSに映った写真の奥にいる男性の存在感や、投稿時間などから推測して、あの2人は一緒にいるんじゃないか、と推測する現象はありましたが、このサービスではそれが事実として見えてしまうのです。
ひとり時間の居場所をシェアする現象の裏にあるのは、約束をすること自体が面倒くさい、もっとノリやその時のテンションで会う人を決めたい、だから公開しとくね、といった思考で成り立つ効率の欲求のようです。それによって親しい間柄でのみの利用とはいえ、人間関係まで明らかになってしまうことや詮索されてしまうことも分かっていても、わざわざ「今どこ?」と聞かずに察しあうラクさや、「近くにいたのに知らなかったから会えなかった」というチャンスロスを防げるメリットの方の優先順位が高いようです。
ひとり時間のシェアの裏に潜む危険
しかし、ひとり時間のシェアには危険が伴います。
ひとりでいるときの位置がバレてしまう、自分の毎日の行動が分かってしまう、そんなことに不安や恐怖は覚えないのでしょうか。サービスを利用していない側からすると、ひとりの居場所や移動中の音が人にばれてしまうのは不快であるし、プライバシーの侵害という感覚を持つ方が多いかと思います。
使い分けているから大丈夫
SNSに関しては学校の友達とのアカウント、趣味のためのアカウント、ファンとのアカウント、宣伝用のアカウント、などと分けて自分に関する情報の出し先を選んでいるので安心だと考えている子が多いようです。
危険に遭遇した経験が意識を変える
ただし、元カレに自分の位置情報を知られていて、後をつけられた経験から利用をやめた子や、男の子と一緒にいるのかと勘違いされて相手の彼女に浮気を疑われた経験から、位置情報を隠す意識を持った、という意見もありました。
まとめ
~令和女子がひとり時間をシェアする理由~
❶ 時間を無駄にしたくない
→誰かが正解やいい方法を知っているなら、ひとりで悩んだり探したりする時間がもったいないから教えてほしい。情報をオープンにすることで、選択肢を増やしたり、チャンスロスを防ぎたい。
❷ ひとりでもうまくモチベーションを保ちたい
→つらい時間を過ごしているのは自分だけじゃない、みんなも頑張っているという事実に鼓舞されたい。今、友達が塾にいる位置情報を確認したり、同じ瞬間に勉強している人をハッシュタグで見つけたりすることでやる気を出す。
❸ 孤独をシェアしたい
→ひとりでいるとついつい暗く考えてしまうが、ライブ配信の世界でだけ話したり相談できることがある。今いる居場所に気付いてもらえれば、そばにいる人と会って元気をもらえる。
昔から、女の子たちは孤独な時間が嫌いなものでした。だから友達と夜遅くまで長電話をしたり、放課後なかなか帰らなかったり、お泊り会をしたりしていましたが、スマホやSNSの進化により、ひとりでいても誰かとつながっていられるようになり「孤独」な時間がぐっと減ったのです。つながれる時間が加速したことで、彼女たちの本当に「ひとりの時間」はどんどん減っているもかもしれません。
昨今、モーメントやシーンを狙ったデジタル広告が増えていますが、スマホの先にいる彼女たちの姿をどれだけ想像できているでしょうか?今後さらに、お風呂や、トイレや、授業中などこれまできっとひとりだろうと思ってた時間や、まさかそんな時間までスマホを触っていないだろうという時間ですらも、彼女たちは誰かとその時間を共有する可能性があります。
これから、令和女子に対してサービスやプロモーションを企画していく際には、どんな時間に寄り添うのか、その時間をいかにして奪いにいくのかを、よりリアルに考える必要があるのではないでしょうか。
次回は、令和女子の「キャリア意識」に注目。どんなキャリアや会社を選択しているのでしょうか?お見逃しなく!
2010年3月設立。若い女の子を中心とする女性たちのパワーを活用し、企業だけでなく社会の活性化までを目指すプランニングチーム。
さまざまな角度から女の子たちのインサイトを分析し、幅広い事業領域でプランニングします。