通販広告と心理学のタッグで見えてきた「現代人の購買心理」No.1
3人のヘンタイが3年かけて見つけた、「モノを売る答え」とは?!
2020/03/18
通販広告と心理学、異色タッグのプロジェクトチームが、3年をかけて通販広告のデータを解析。そこから分かったトピックスを、全7回シリーズでご紹介する、1回目です。
皆さまこんにちは!私、電通九州ダイレクトマーケティング部所属の香月勝行と申します。通販王国と呼ばれる九州の地で、15年以上にわたり通販広告に携わっておりまして、以前、このウェブ電通報で「通販王国発!マーケティング新発見!」 という連載もしておりました。「あ、それ読んだよ!」「カッパの話、覚えてるよ」という方がいらっしゃいましたら、とてもうれしく思います。この場を借りて、改めてお礼申し上げます。
さて、前回連載から5年。その間、私が何をしていたかといいますと、もちろん仕事はしていたのですが、それと並行して、通販広告をさらに極めるべく心理学の専門家とタッグを組んで通販広告のデータ解析を行っていました。
というのも、前回の連載でご紹介した「AIDBAモデル」や「アクアパッツァ理論」などの法則は、通販広告の実務経験に基づいてはいたものの、一方で科学的なエビデンスのない、単なる経験則にすぎませんでした。せっかくならこれらを、科学的な裏付けのあるまっとうな“法則”にしたい。そんな思いから、専門家の力を借りて、正しい“法則”の確立に挑むことにしたのです。
スケールはまったく違いますが、経験則を科学で捉え直した江戸時代の名著『解体新書』のごとく、お買い物行動を心理学的に解析する、「“買いたい”新書」ともいうべき本プロジェクト。その成果は、まさに新書となって、光文社から 『売れる広告 7つの法則』として刊行されました。
今回の連載では、このプロジェクトから見えてきた、「現代人の購買心理」のポイントを、全7回に分けてご紹介していきます。どうしたらモノが売れるか、そんな永遠の問題と向き合う全ての方のヒントになればと思っておりますので、ぜひお読みいただけると幸いです!
始まりは、 2人のヘンタイ心理学者との出会い。
それではまず、本プロジェクトに名乗りを上げてくださった、二人の心理学者をご紹介しましょう。
お一人目は、人呼んで“考える闘魂”、心理学博士の妹尾武治先生。東京大大学院人文社会系研究科修了後、現在九州大准教授。心理学と脳科学、そしてプロレスをこよなく愛する人物。ちなみに先生が在籍する九州大の図書館には、あの『解体新書』の初版が所蔵されているそうです。
そして二人目が、“歩く心理学データベース”こと、心理学博士の分部利紘先生。こちらも東京大大学院人文社会系研究科修了後、現在は福岡女学院大講師。過去のあらゆる心理学研究データがストックされた、恐ろしい脳みその持ち主です。
もともと通販ビジネスとは無関係だったお二人の先生が通販広告に興味を持ったのは、当社にストックされた膨大なレスポンスデータを目にしたのがきっかけでした。というのも、通常の心理学の研究は、被験者は数十人程度、しかも研究費の関係上そうしょっちゅう実験するわけにもいかないそう。
そんな中、通販広告は、四六時中、さまざまな表現に触れた何千万人もの反応を、データとして記録しています。この膨大なデータは、研究者にとってはとてつもなく血が騒ぐ、まさに「宝の山」。この宝の山を紐解けば、今までにない真実が導けるはず!そんな探求心からスタートしたのが、このプロジェクトだったのです。
「赤いユニホームが勝つ」など、衝撃の心理学エピソードの数々。
『解体新書』よろしく、大量のデータと向き合ったこのプロジェクト。当初は1年くらいでいろいろ分かるだろう、と高をくくっていたのですが、実際はそう簡単ではありませんでした。
なぜなら、大半の通販広告は、売るためのノウハウがこれでもかと盛り込まれています。そのせいで、例えば「冒頭で呼びかけた方が反応が高まる」とか「街頭インタビューを入れた方が話に引き込める」といった、一つ一つの“法則”の真偽が分からなかったのです。
そこで私たちが行ったのが、各種の“法則”を一つずつ抜き出し、その手法の有無でどのように反応が変わるのかを実験してみること。ダミーの広告をわざわざ制作し、調査にかけ、その結果を心理学的に分析する、そんなことを幾度も繰り返したのです。
一例を挙げると、「先着1000名様に限り〇〇円OFF」のような情報は赤い文字で表現した方が反応が高まる、という経験則があります。実際にこの要素を入れた広告と、外した広告を作って調査にかけてみると、やはり「あり」の方が高い反応を示しました。
実は、人間は赤い色を見ると競争心理に火が付く、ということは心理学的に疑いようのない事実なんだそう。赤い文字で条件を提示すると、他人に先んじてお得に商品を手に入れたいという心理が働く、だからこそ赤い文字で表現した広告の反応が高まったのです。
余談ですが“赤”の力はすさまじく、心理学の研究によると、各種のスポーツにおいて、赤いユニホームを着ている方が勝率が高い、という驚愕のデータがあるとのこと。2004年のアテネオリンピックで赤と青のユニホームを着て戦う競技(レスリング・テコンドーなど)の全試合を集計したところ、赤いユニホームの勝率が青を上回っていたそうです。青と白が対戦する柔道においては五分五分だったにもかかわらず、です。
こんな情報を隠し持つとは、心理学恐るべし。紅組と白組で対決している全国の運動会関係者はもちろん、日本中のスポーツ関係者が知ったら、ユニホームの見直し議論が巻き起こりそうな衝撃の事実です。
そして分かった現代人の購買心理、「A・I・D・E・A(×3)」。
こうして3年の月日をかけて、各種の経験則を一つ一つ検証する中で分かったのが、現代人の買い物の心理には一定のパターンがある、ということ。それが、次に示す「A・I・D・E・A(×3)」という購買心理モデルです。
現代人は、「まず自分のニーズに気づき」「その商品がニーズを満たすモノであると認識し」「その商品が、本当に自分にとって価値を持つものであるかを検証し」「感覚・感情の面でも商品をポジティブにとらえ」、さらに「商品の価値が対価を上回ると判断する」ことでモノの購入を決めているのです。しかも、この心の動きを3回繰り返さないと、最終的に購買行動を起こさない。
そして、何より重要なのは、このモデルにたどり着いたのが、各種の“法則”を検証した結果だということ。つまり、私たちが発見した各種の“法則”こそが、お客さまの心を「A・I・D・E・A(×3)」に沿っていざなうことのできる、「モノを売るための確かな答え」なのです。
…というわけでまずは初回、プロジェクトの全容からご紹介させていただきましたが、皆さまが気になるのは、具体的にどうやったらモノが売れるのか、の「答え」だと思います。そこで、次回以降、6回に分けて、「 A・I・D・E・A(×3) 」の各ステップに沿って、そのポイントと、実際にお客さまの心を動かすことが立証された“鉄板法則” を、詳しくご紹介いたします。
果たして、通販広告の試行錯誤から生まれた、人の深層心理に刺さる手法とはどんなものなのか?そして、それを応用することで、どんな効果が得られるのか?そんな疑問に答えられる連載にしていきたいと思っておりますので、引き続き読んでいただけますと幸いです。
共著の先生からも、一言
妹尾武治先生
今回の共同作業は、心理学における異種格闘技でした。広告業界の法則が本当に正しいのか?ただの思い込みなのか?実際の売り上げデータを解析する中でいろいろなことが分かりました。大興奮の共同作業、否、真剣勝負でした。プロレスと同じで、相手を輝かせた上で自分が勝つ。広告業界を輝かせた上で、心理学を勝たせる。そんな思いで執筆しました。
今は、戦い終わって清々しい気持ちです。本連載を読んでもし興味持ってもらえたら、『売れる広告 7つの法則』も読んでもらいたいですし、他の拙著もお手に取ってもらえたら幸甚です。2020年の秋冬にも光文社より新刊が出る予定です。お楽しみに!
分部利紘先生
「なぜ消費者は“あれ”ではなく“それ”を買うのか?その背後にある心理を理解し、より効果的な広告表現の開発につなげたい!」こんな思いから2015年12月、電通九州の方々との共同研究が始まりました。実際のデータを分析するにつれて分かったこと、それは、通販広告で用いられるあの表現もこの表現も実は驚くほど心理学に根差しているということでした。
消費者の態度変容を目指す広告業界と、人間の心の理(ことわり)を探究する心理学、両者がしっかりと合わさった本連載をぜひご一読ください。