通販広告と心理学のタッグで見えてきた「現代人の購買心理」No.2
売れる広告のカギは、「呼びかけ」型の導入にあり!
2020/04/02
通販広告と心理学、異色タッグのプロジェクトチームが、3年かけて通販広告のデータを解析。その成果をまとめた「売れる広告 7つの法則 」(光文社新書)より、全7回シリーズでトピックスをご紹介します。
「AIDMA」に「AISAS」、購買心理モデルの大半は「A」からだけど…
みなさんこんにちは!3人のヘンタイによる現代人の購買心理研究。第2回の今回は、購買の「出発点」について考えていきたいと思います。
かのローランド・ホールが1920年代に提唱した購買心理モデルといえば、「AIDMA」。「Attention(気づき)」から始まり、「Interest(興味)」「Desire(欲求)」「Memory(記憶)」を経て「Action(行動)」するという、言わずと知れた購買心理モデルです。
そして、私たち電通が21世紀に考案したのが、「AISAS」。こちらも同じく「Attention(気づき)」「Interest(興味)」から始まりますが、その後「Search(検索)」を経て「Action(行動)」し、さらにその後に「Share(共有)」をするという、インターネット時代の行動を反映したモデルとなっています。
この他にも、世の中にはさまざまな購買心理モデルが存在しているわけですが、前述の二つの例に代表されるように、その多くは、「A」から始まります。そして、その「A」が示すのは、ほとんどの場合「アテンション(Attention/気づき)」。そりゃそうですよね、情報への「気づき」がない限り購買行動なんて起きようがない。だから、こうしたモデルの最初が「アテンション」の「A」になるのは、疑いようのない事実のように思えます。何を隠そう私たちも、研究当初は、まさかそこに疑いの余地があるなんて、夢にも思っていませんでした。ですが…。
アテンションの内容次第で、ガラリと反応が変わるという事実。
当たり前と信じ込んでいたこの事実に疑問を持つきっかけとなったのが、売れたテレビショッピング番組と、売れなかったテレビショッピング番組の冒頭部のデータを解析した時の結果でした。
二つの映像をインターネットでモニターに見てもらい、「いいね(ポジティブ評価)」と「悪いね(ネガティブ評価)」と「買いたいね(購入意向)」という三つの要素で時系列的に評価してもらったところ、驚きの事実が発覚したのです。
上の二つのグラフにご注目ください。それぞれ、「売れた」テレビショッピング番組と「売れなかった」番組の冒頭部の反応データなのですが、売れた番組の方はグラフの折れ線が乱高下しているのが分かります。これは、見た人の心がポジティブにもネガティブにも振り回されたことを意味しています。それに対し、売れなかった番組の方は折れ線が平坦。これは、この番組を見た人はたいして心を動かされなかった、ということを意味します。この例に限らず、売れた番組とそうでない番組の反応を計測すると、たいていの場合、冒頭部分で同じような明らかな差が観測されます。
当然のことながら、売れなかった番組だって無策だったわけではありません。注目してもらうために、アテンションを意識したさまざまな演出が盛り込まれていました。にもかかわらず、心の動きに大きな差が出てしまうという事実。これは、「単にアテンションさえあれば人の『買いたいスイッチ』が押される」、という従来の考え方が、実は正しくない可能性があることを示唆しています。
大事なのはアテンションそのものではなく、どんなアテンションをするかの「中身」にあるようなのです。100年近くも世界中で定説とされた「アテンション」の概念の奥に、もう一つの扉があっただなんて、なんだかインディ・ジョーンズの映画のようで、ワクワクする展開です。
答えのカギは、「呼びかけ」て「問いかけ」る通販広告にあった。
通販の世界で、広告の導入部における鉄板とされるのが「呼びかけ&問いかけ」型です。「お肌に合う化粧品が見つからないあなた!」「何を意識して化粧品を選んでいますか?」のような、対象者を名指して、その方への質問から始める広告の手法です。実は、先ほど提示した「売れたテレビショッピング番組」も、まさにその手法を用いたものでした。
こちらが、先ほどの折れ線グラフに、用いた手法を対比させたものです。詳しい内容は書籍をお読みいただきたいのですが、簡単にいうと、冒頭の呼びかけに合わせて「悪いね」、すなわちネガティブな反応が高まり、次の問いかけでポジティブな反応が引き出され、さらに再度の呼びかけで再びネガティブな反応が高まっているのが分かります。その結果、商品紹介の際には「いいね」が高まり、結果的に商品に対してポジティブな感情を持ってもらえたことが読み取れます。
先ほど触れた通り、売れた番組は、「いいね」はもちろん、「悪いね」も高い反応を示すのが特徴です。直感的に考えると、「悪いね」が高まる、つまり広告に対してネガティブな反応が高まるのは良くないことのように思えますが、実際にはそんなことはありません。
例えば、「太っている人が、太っている自分にネガティブな気持ちを抱くことで、ダイエットを決意する」といった例のように、ネガティブな感情を抱くことは、人に行動を促すきっかけとなり得るのです。そして、そんな反応を引き出す上で、「呼びかけ」や「問いかけ」は非常に重要な役割を果たしているのです。
まさにそれを証明するのが、「売れなかった広告」の導入部の反応です。同様に、グラフに番組の演出内容を対比させたのが次の図となります。
「呼びかけ」や「問いかけ」をせず、あえて悩みの声や喜びの声をストレートに紹介したのですが、冒頭から「いいね」も「悪いね」も鈍い反応となっています。結果、商品紹介部分でも「いいね」は高まらず、このやり方では商品に対して前向きな感情を持ってもらえなかったことが、一目見るだけで分かります。
購買行動の出発点は、自分のニーズに目を向ける「Awake」。
「呼びかけ」て「問いかけ」たら反応するのに、そうでない場合は反応してくれない、なぜこのような差が生まれるのでしょうか。
答えは、現代人が持つ「ニーズ」にあります。現代人はニーズが多過ぎて、その一つ一つを常に意識していない、だからこそ「呼びかけ」たり「問いかけ」たりして、自身のニーズに目を向けてもらわない限り、商品の価値はなかなか伝わらないのです。ニーズに目を向けてもらう工夫をせずに、いきなり商品の特徴を語るのは、聴衆の足を止める工夫をせずに、皆が素通りする状況で街頭演説をしているのと同じ状態なわけです。
このような事実を踏まえ、私たちが定義した現代人の購買心理モデルが、「A・I・D・E・A(×3)」となります。
注目すべき、その最初のステップは、単に気づいてもらうだけの「Attention」ではなく、自身のニーズを呼び起こし、自覚させる「Awake(目覚める、自覚させる)」です。膨大なニーズに囲まれて生きている現代の消費者に商品の価値を伝えるためには、「呼びかけ」、そして「問いかけ」ることで自身のニーズに「Awake」してもらう、そういった話の入り方が非常に大切なのです。もしもあなたの商品の価値が思うように伝わっていないのであれば、この「Awake」が欠けている可能性が大。自身のニーズに気づいてもらえていない、つまり、情報の受け皿を用意できていないお客さまに、情報を配っている状態になっているのかもしれません。
通販広告のデータ解析から導かれたこの推論、実は、心理学の面からもその有効性が裏付けられています。一例を挙げると、2002年にノーベル経済学賞を受賞した心理学者のダニエル・カーネマンが名著『ファスト&スロー』で打ち出した、システム1とシステム2という脳の判断プロセス、そしてペティとカシオッポという二人の心理学者が1983年に発表した「関与(Involvement)」に関する研究。詳細は書籍のコラムでたっぷりと解説しておりますので、ご興味のある方は『売れる広告 7つの法則』をぜひ手に取っていただければと思います。
…というわけで連載2回目、いかがでしたでしょうか。呼びかけ、問いかけることで自身のニーズに目を向けてもらい、そのうえで商品の価値を提示する。このような伝え方をするには、一覧性のある平面媒体より、時系列で話が展開する動画媒体の方が向いています。近年、インターネット広告において動画広告が大きな伸びを示していること、あるいは、媒体力が下がったといわれつつも、いまだにテレビ広告が大きな力を持っていること、その裏にも、このような人間の購買心理が関係しているのだといえます。
すべては人間の心理から。そんなことを意識しつつ、クリエイティブからメディアまで、視野を広く持ちながら、これからも日々マーケティングに向き合っていきたいと思います。