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ろーかる・ぐるぐるNo.170

2020/03/12

「ひとこと」の威力

人生で一度も筋トレをしたことがないぼくが、ここ3年ほど、信じられないくらい体を動かしています。きっかけは某テニスクラブに入会したこと。以来、平均して週に3回くらい、暑い夏はもちろん、凍えそうに寒い真冬の夜中もボールを追いかけまわしています。

腕前は惨憺たるものなので、周りの方からアドバイスをいただきます。困るのは、いっぺんに五つも六つも修正点を言われちゃうこと。「ラケットを引く時には肩をこうして」「その時、股関節は閉じて」「振り出しの手首には力を入れず…」なんて思い出しているうちにボールは脇を通過しちゃっています。

逆にスゴイと思えるのは、チェックポイントを「ひとこと」にして教えてくださる方。「左手で壁を作って。あとは何でもいいから」というような一点であれば、運動神経の鈍いぼくでもチャレンジできるからです。

おかげさまで少しは体重も減り、楽しい毎日を過ごしております。

さて。

商品開発の過程では、ファッションならデザイナーさん、製薬なら研究所の方々、加工食品であれば味づくりをする開発チームの皆さんなど、それぞれの業界特有の技術を持つプロフェッショナル、いわば「職人さん」とご一緒します。

先日「山田さんはいろいろな業界の人たちと、どうやって話すんですか?」と聞かれました。う~ん。ふつうに会話をしているだけなのですが、あえて申し上げるなら「ひとこと」を大切にしています。

20年近く前、とある食品会社で商品開発のお手伝いをしていた時、徹底的に鍛えられたのが、この「やりたいことを『ひとこと』で表現する」チカラでした。今考えるとこれは、スタッフメンバーに対して具体策の良し悪しを一つ一つ指摘するのではなく、「コンセプト」ひとことで直感的に進むべき道を共有し、みんなの力で新しいものをつくっていく能力鍛錬の場でした。

目指すべき言葉の品質はスターバックスの「サードプレイス」や格安航空会社の「空飛ぶバス」といった傑作レベルですが、なかなか簡単にはできません。

最初のころは、ついつい「正しく」考えようとして間抜けなことになったものです。例えば「今度の商品は、ひとこと『簡単・便利』です」とか。そんなもん、加工食品なら当たり前で、全然「新しさ」を表現できていません。

それからしばらくすると、今度は「その手があったか!」を勘違いして言葉つきを変に尖らせることに夢中になり、「ひとこと、『極楽浄土なお粥』」とか、中身が空っぽで、開発の方々を「ぽか~ん」とさせる失敗を重ねました。

そうした試行錯誤を繰り返して、次第に「いまの常識」に対する「ツッコミ」というか、「いまの常識的なつながり」と何が違うのかを直感的に伝えられる新しいサーチライトを意識してから、少しずつ上達したように思います。

サーチライト

実は、この「ひとこと」こそ、曖昧になりがちなアイデアでチームを導く、「クリエイティブ・ディレクションの神髄」です。残念ながら、世の中のクリエイティブ・ディレクターにはこれを怠るひともいるようですが、そうするとチームへの指示は「なんかいいじゃん!」「なんか違うよね!」という個人の感性頼りになってしまいます。

ぼくは(たぶんとても珍しいことに)商品開発の現場で最初にそれを身につけ、のちに広告でも実践するようになった訳ですが、多くのすぐれたクリエイターが広告領域で身につけた「ひとこと」技術は、他のどの業界であっても通用し得ます。もっと多くの人々が領域を超えて、本気で商品や事業開発に取り組めばいいのに…。

ビール

さてさて。

仕事終わりのテニスコートで、一番の楽しみと言えばビール。22時過ぎまでプレーした後、飛び込むのは揚げ物が旨いカフェレストラン。実は体重は着実に減っているのに、コレステロール値が下がっていないことは、妻にひとこと漏らしたら最後の「恐ろしい秘密」なのでした。
 

どうぞ、召し上がれ!

書籍
おかげさまで「重版出来!」