電通クリエイターによるアート展「ONE CREATIVE」ReportNo.4
生活様式の変化に合わせて、伝統工芸もアップデート。
2020/04/14
2月16~29日、東京・日本橋のgalerie H(ガルリアッシュ)で電通クリエイターによるアート展「ONE CREATIVE」Vol.2を開催。
普段、広告をつくっているクリエイターが、クライアントの課題解決という形ではなく、内面から湧き出るものをカタチにしたらどうだろう、というこの企画。 シリーズ第4回では、第1CRプランニング局の若田野枝アートディレクターに話を聞きました。
手触り感や、一点ものとしての存在感。
ギャラリーに入ってすぐのところに、なにやら独特な雰囲気を醸し出しているコーナーがありました。「漆で制作」とありますが、これまでなんとなくイメージしていた漆作品とは全然違って、とてもカジュアルな感じがします。
──これらの作品を作ったきっかけを教えてください。
私は既視感のないものに触れた時、気持ちの良さを感じます。そういった観点で、「漆塗りなんだけど漆塗りらしからぬ物を見てみたい」と思ったのが始まりです。漆塗りでヘンテコリンな物があったら、面白いんじゃないかと。じゃあ、作って見よう!となりました。
──漆でも、こんなにいろいろ鮮やかな色が表現できるのですね!これまでずっと漆を使って作品を創作されてきたのでしょうか。作品のインスピレーションはどういうところからくるのでしょう?
特に決まったインスピレーションを得るパターンはありません。自分をパターン化するのが好きではない…と言うか、飽きっぽいのかもしれません。学生の頃は、与えられた課題に対して、筆で絵を描いたり、衣装を作ったり、映像を作ったり、大きな立体物を作ったり…、いろいろな素材や媒体を用い、その時々の表現をしていました。
一度作ってしまうと、もう違うことをしたくなってしまうのです。なので、パターンが生まれないんですよね。そんな性質もあり、大学4年間を通して、最後まで自分が何をしたいのか、決めることができませんでした。なので、いろいろできそうな電通に入社しました。
仕事はアートディレクションが主なので、手触り感が少なく、量産型の制作物を作り続けているのに対し、工芸品などの手触り感のある物作りや、一点物にある存在感の魅力を年々強く感じるようになりまして、ちょっと我慢ができなくなって、漆塗りの門を叩いてみた…と言うところです。
しかし、飽きっぽい性質は変わらないので、いつまで続けられるのかはわかりません。ガラスや陶芸、金属の加工にも興味があります。熟練しないうちに目移りするのが、私の悪い癖なので、漆はマイブームで終わらないように、ちょっと粘って続けていきたいです。漆は扱いがとても難しくて、簡単に技術習得できるものではないですしね。
伝統工芸に、新しいデザインを。
──広告をつくるのと、こういった工芸作品をつくるのと、同じ「物作り」でも、そういう意味では対照的なのかもしれませんね。一方をずっと作り続けていると、ときどき無性にもう一方を作ってみたくなる、というのはちょっと分かる気がします! 今回これらの作品を制作する上で、一番こだわったことはなんですか。
伝統工芸の技術の継承がされていかない現状などを見聞きしていますが、その根本にあるのは、「売れない」ということだと思うんです。では、なんで売れないのか。私が日本の伝統工芸品に度々感じるのは、「技術は素晴らしいのに、デザインがちょっとなぁ…」ということです。
ここのシェイプがもっとこうだったら色っぽいのになぁ…とか、角の丸みが野暮ったくてもったいないなぁ…とか、ここのイラストがない方がカッコイイのに…とかとか。ほんの少しのところで台無しになっているものが多くて、常々気になっています。
「伝統工芸=和風」というところから離れ、現代の生活様式に即したデザインのアップデートだったり、もっと身近に感じることができる表現にすれば、伝統工芸も敷居の高いものではなくなり、需要も保てるのではないかと思います。
漆塗りは日本の伝統工芸の中でも、「日本らしさ」が強いものだと思いますし、漆を扱ったことのない人にも、その技術習得の難しさ、素材の性質によるハードルの高さは知られています。私がデザイナーとして、伝統工芸品を現代に馴染むようにデザインできるのなら、漆が最もハードルが高いだけに、やりがいがあって面白いのではないかと。
初めは電通人らしく(?)、アートディレクターとして、熟練の職人さんとコラボして商品が作れたらいいなぁ…と考えたのですが、職人さんに対して「そのデザインだと売れないと思うんですよ」とは、なかなか言えないなぁと。
だったら、デザインから制作、パッケージングまでをワンストップで作るしかないなぁ…。そんな思考のプロセスがありました。
実際に漆を扱ってみて、技術の習得には長い時間を要するのを、身にしみて感じましたし、本当は制作とデザインは分業の方が効率良いし、良いものができるなぁとは思っています。ですが、久しぶりに木を削ったり、ヤスリがけしたり、筆を使っている時間がとても凝縮されていて心地良いので、続けたいなぁとも思っています。
──とてもいい気分転換になりそうですね。 アートディレクターとしての仕事と「アーティスト」活動。その違いなど、もう少し教えてください。
自分を「アーティスト」だと思ったことはありません。 「アーティスト」の定義もよく分からない。というのが、正直なところです。
もし自分の思いや主張を伝えるのが「アーティスト」なら、私には「アーティスト」になるほどの強い主張が無いなと。ですので、自分のことは「手芸好き」くらいに思っています。仕事においてもそうですが、「誰かを喜ばせたい」と言う気持ちが強くあります。それは、家族の為に料理をしたり、掃除や洗濯をしたり、手芸をしたりするのと、私にとっては等価値なのです。
お客さんがいて、ニーズや課題があって、それを十二分に満たすものを作って、喜んでもらいたい。その気持ちは、仕事でない制作の根底にも強くあります。「これを作りたい」と言う自分目線の思いよりも、「これを見た人がどう感じるのかな」という、他者目線の方を強く意識します。仕事では、圧倒的に後者を優先していますが、自由な制作においては、両者を意識しながらも、後者をやや優先しています。手触り感のある制作は、仕事にはない「癒やし」があり、精神的にとても良いです。
──今後の作家活動の予定があれば教えてください。
ONE CREATIVEの為の制作で浮き彫りになった課題を踏まえ、今後どうしていくのかを考えています。それがまとまりつつある現状です。
仕事と違うのは「期限がない」ことと、「テーマや課題を自分で決める」ことです。課題と期限を与えられて燃えるタチなので、今回、ONE CREATIVE に参加の機会を頂けたことは本当にありがたかったです。実際、短い制作期間にしては大きな成果物を生むことができました。
現状、次の展示などの予定はありませんので、何かしらまたチャンスがあればと思っています。それまでは、ボチボチ実験しながら自分なりの表現を探り、手触り感のある制作を楽しんでいきたいと思っています。
──ありがとうございました。
鑑賞を終えて
「誰かを喜ばせたい」と語る若田さん。今回、ピアスやブローチなど身につけるものが多く出品されていたのも、その表れなのかなと思いました。 古くから伝わるジャンルに、新しい風を吹き込む。簡単なことではないかもしれませんが、大きな可能性を感じました。
電通クリエイターは、それぞれ独自の自己表現の方法を持っています。 次回は、くぼたえみさんの作品をご紹介します。