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NEWSPACE PROTOTYPE OF ART DIRECTIONNo.7

日用品の回転体が柔らかなフォルムを生み出す“ROTER PRODUCTS”

2020/04/24

平面の領域を飛び越えたアートディレクションの可能性を打ち出す“NEWSPACE”プロジェクト。当連載ではこれまで6回にわたり、アートディレクターたちが自由な発想で生み出した創造性あふれるプロトタイプをご紹介してきました。

最終回はアートディレクターの宇崎弘美が手掛ける“ROTER PRODUCTS”が飾ります。独特な形状の花瓶がどのような発想と手法によって生まれたのか、聞いてみました。



「生理的に好き」な有機性のある幾何形態をつくってみた


—“ROTER PRODUCTS”とはどんなプロダクトですか?また、誕生した背景とはいかに?

ROTERとは、回転体という意味です。「ものはどんな形をしていても、回転させてアウトラインをかたどれば幾何形態ができる」という仮説を立て、回転体を3D CADで花瓶に仕立てたのが“ROTER PRODUCTS”です。

もともと六面体や球体、円錐や円柱のような幾何形態には興味があり、そのようなモチーフを使って個人的にアクセサリーを制作していました。

あと、昔からなぜだかぽてっと丸みを帯びたフォルムをしたものに引かれる傾向があります。キリッとした線ではなく、ちょっと歪んでいるような柔らかい曲線が好きなんですね。

最近私はよく「生理的に好き」という造語を使うのですが、自分でも理由は分からないけど好きなものってありませんか?よく言われている「生理的に無理」の逆の感覚です。今回“NEWSPACE”プロジェクトへ参加するにあたり、ずっと自分の中にある「生理的に好き」を形にしてみることにしました。

どうにかして、幾何形態の中に有機的な表現や柔らかなラインを生み出せないか?と考えた結果、行き着いたのが、身の周りにあるものを回転させて新しい曲面を生み出すというアイデアでした。

水平回転させて際立つフォルム、メリハリのある配色


—日用品がユニークな花瓶に変わるまでのプロセスを教えてください。

プロダクトの制作に加え、もうひとつの試みとして、モチーフを回転させて撮影した写真を使ったグラフィックポスターもつくりました。

“ROTER PRODUCTS”

モチーフを回転台の上に乗せて回しながら、定点から長時間露光の設定で撮影しています。背景に漂っているオーロラのような色彩は、撮る際に背景へ写り込んだモチーフの影を利用したものです。どうしても反射してしまうのを逆手にとり、ビジュアルへと生かしました。

“ROTER PRODUCTS”
“ROTER PRODUCTS”ポスター

花瓶のモチーフは上から時計回りに招き猫、洗剤のスプレーボトル、植物のラベンダー、ハサミ、天むす(!)です。いろいろなものを用いて実験し、最終的に残ったのがこの5点です。

モチーフは、形も重要ですが、実際のものの色を反映してつくりたかったので、色もひとつの要素として、そもそもの色がかわいいものを選びました。

●招き猫の置物が持つモコモコッとしたフォルムがきれいなカーブを描いてくれました。赤い首輪のラインもアクセントになっています。
●洗剤のスプレーボトルは、丸みとくびれと配色で選びました。
●最初はお花シリーズでつくってみたくて、お花の回転体にお花を生けたらかわいいなと思っていたんですが、実際に撮影してみたら華奢で形になりづらいものが多くて、思ったように3D化することができず、断念したという感じです。繊細すぎると向いていないようです。ラベンダーだけは物体感があるので、1点つくってみました。
●天むすは、2トーンに分かれているたたずまいが向きそうだなと思いました。
●ハサミは、回転させるとキュッとくびれができることを想定して選びました。

3Dプリンターを用いて実際のプロダクトにするためのステップについて説明します。まずモチーフを30ほどの多角度から静止画で撮影。それらをつなぎ合わせて作成した3Dデータが、中央と右のものです。右のデータを画面上で回転させ、花瓶状の3Dデータへ発展させます。それをもとに花瓶を制作していきます。

“ROTER PRODUCTS”制作過程 招き猫

広告の仕事でも、自分の好きを提案してみる価値がある


—“NEWSPACE”プロジェクトで実際に「生理的に好き」を形にしてみた感想は?

自分の頭の中で妄想していたものを表出し、完成させることができたのはありがたくも貴重なチャンスでした。

「次はあんなものを回転させてみよう」とか「ランプシェードにしてみたい」とか、新たな発想が生まれたり。また、既存の商品から“ROTER PRODUCTS”を制作し、広告や販売促進に活用することもできると考えています。自分の領域のひとつとして「このような技法があります」と言えるようになるのかな、と。

“NEWSPACE”プロジェクトでは皆さんが独創的なプロトタイプを発表しており、ハタから見ると「一体何をやっているの?」と思われることがあるかもしれません。でもこのように自由な実験をする場が、凝り固まった発想を解放するチャンスになると感じました。

電通のアートディレクターは多くが美大卒で、グラフィックデザインだけをやってきたわけではありません。いろいろな能力や発想を持っているのに、可能性を限定してしまうのはもったいないですよね。

受注する仕事にはさまざまな制約がありますが、一度は自分の「生理的に好き」を盛り込んでアプローチしてみる価値があると思っています。私たちが持っている独自の目線で提案すると、意外に喜ばれたり、受け入れてもらえたりすることがあるので。



情報を伝える+αの感性が既成概念を変え、人を動かす


—アートディレクション、アートディレクターの仕事の本質はどのようなものだと思いますか?

これまで広告会社におけるアートディレクターの仕事の領域は平面、グラフィックに偏ったところがありました。私の仕事に関しては、ここ数年、新店舗のブランディングやパッケージデザインなどもやらせていただく機会が増えてきました。

最近では渋谷スクランブルスクエア B2F 東急フードショーエッジ内にオープンした北海道のコロッケ屋さん「COROMORE」のブランディングや、2019年の3.11に開催されたYahoo!のイベントのアートディレクションなどを手掛けています。六本木ヒルズで実施された「Yahoo!防災ダイバーシティ」のイベントはTokyo ADC賞ノミネートを頂くことができました。

「COROMORE」のポスター
「COROMORE」のポスター
「COROMORE」の紙袋
「COROMORE」の紙袋

どのような切り口で防災のイベントをつくるかを考えた時、Yahoo!の検索履歴から防災にも多様性が求められているということに気付いたんです。例えば、がれきでペットがケガをしてしまったとか、高齢者に乾パンは固すぎて食べられなかったとか…。そこで、防災の情報やグッズを描いた100種類以上のイラストカードを用意し、訪れた人に自分が必要なものを選んで持ち帰ってもらうスタイルを提案しました。

「Yahoo!防災ダイバーシティ」のイベント 
「Yahoo!防災ダイバーシティ」のイベント
防災情報・グッズのイラストカード
防災情報・グッズのイラストカード

後に「カードがすてきで欲しくなった」とか「選ぶのが楽しくて見て回っているうちに防災の知識がついた」という声をいただき、それはアートディレクションの力だったのかな?と感じました。

災害や防災は暗くなりがちな題目なので、イラストレーターの方たちには「できるだけポップなイメージで描いてください」とお願いしたんです。情報を伝えるものに対し、すてきだとか、かわいいという感覚が加わるだけで関心が高まったりします。そういう視点からアプローチできるのは、アートディレクターならではでないでしょうか?アートディレクションには誰かの気持ちを動かす力がある。私はそう思っています。
“ROTER PRODUCTS”へ興味を持っていただけたら、ぜひこちらまでご連絡ください。