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競技プログラミングで、日本を高度IT人材大国に!No.6

2020/05/01

数学好きの高度IT人材、これからの就職先は「金融業界」が王道に!?

優れたアルゴリズム開発能力を持つ「高度IT人材」は、今やIT/非ITを問わず企業の成長に欠かせない存在です。本連載では、競技プログラミング界のキーパーソンであるAtCoder社長 高橋直大氏とともに、高度IT人材の育成・採用を考えてきました。

今回は「金融業界」での高度IT人材の活躍に着目。野村ホールディングスの瀧川孝幸氏、野村證券の相澤比氏を訪ね、金融ビジネスにおけるIT技術の役割や、事業成長との関係について聞きます。

前編:金融業界で求められる高度IT人材、「クオンツ」の仕事とは? 

※クオンツ
数学的手法で市場動向分析や金融商品開発を行う専門職
 
瀧川氏、相澤氏、高橋氏のスリーショット
左から野村ホールディングス  瀧川孝幸氏、野村證券 相澤比氏、AtCoder 高橋直大氏

金融ビジネスが求める高度IT人材とは

高橋:金融業界、中でも野村ホールディングスが求めるIT人材とはどんな素養を持つ方でしょうか。

瀧川:クオンツに関していえば、数理的、統計学的なバックグラウンドを持つ人が活躍しています。数理的な素養がある方は基本的にウエルカム。その観点でいうと、数理的な素養を問う色彩が強いAtCoderのような競技プログラミングに慣れ親しんでいる方は大歓迎ですね。

最近でこそ、さまざまな企業でデータサイエンティストを積極的に採用していますが、当社では数理やデータの分析を専門に行うクオンツの採用・育成を30年以上にわたって行っており、国内に限らずロンドン、シンガポール、インドなどさまざまな拠点で多くのメンバーを抱えています。

高橋:競技プログラミングに参加すると、クオンツの業務に良い影響を及ぼすことはありますか?

瀧川:はい、あります。物事を数理的に体系立てて考える経験を積むこと自体が良い影響を及ぼします。金融機関の中でも証券業は特にその傾向が強いのではないでしょうか。

金融機関の中には、証券会社以外にも、銀行や保険会社などさまざまな業種があります。本来、銀行の中核事業は「貸出」であり、四半期ごとに開示される財務情報を見たり、貸出先の担当者とのコミュニケーションで得られるその他の情報を基に、1年なり3年なり、貸し出しを行う期間全体を総じて見た時にその企業が健全といえるかなど企業の分析を行います。生命保険は、分析の対象とする期間が更に長くなり、死亡保険であれば、加入者が死亡するまでの30年、50年といった超長期の人口動態について、人口統計などを使って分析を行います。一方、われわれのような証券会社では、マーケットは日々刻々と動いており、過去に起きたことが二度と起こらないというのもよくあります。そのため、「今マーケットで何が起きているのか」を数理的に説明づけながら、それをアルゴリズムに落とし込み、本当に正しいかどうかを自分で検証しなければなりません。

日々起こっていることを数理的に分析・検証し続けるというのは、数理的に物事を考え抜く経験がない方ですと、つらいと感じがちです。でも、AtCoderのような競技プログラミングコンテストに欠かさず参加するのは、数理的な思考に飢えている方ですよね(笑)。そういった方は、クオンツの適性があると思われます。

瀧川氏

相澤:競技プログラミングによってクオンツの分析能力が身に付くわけではありませんが、数理的な考え方、コーディングスキルなど、基礎力は確実に培われると思います。

どういう処理をしたいのか、そのためにはどうすればよいかを整理し、頭の中にある道具を持ってきてうまく適応する。システムを正確に実装する。これらは、基礎体力をつける筋トレのようなものです。アルゴリズムを理解し、「この局面にはこのアルゴリズムを適用できるのではないか」と考えることは、頭の使い方の訓練になっていると感じます。

高橋:先ほど、国外からもクオンツを採用・育成しているという話がありました。どの国の方が多いのでしょうか。

瀧川:この国の方が有利というような偏りは、特にありません。英語が話せて、優れた数理能力を持つ方なら国籍は問いません。重視するのは個人の力。グローバルで連携を取りながら、多様な人材を採用しています。

高橋:競技プログラミングの世界では、ロシアと中国が強いんです。ロシアは国内でのコンテストが盛んです。中国は、国策のおかげで若年層が多いのが特徴です。というのも、中国で開催しているコンテストの上位約50人は、進学先の大学を選び放題なんです。10歳から入れる競技プログラミング塾もあり、南京で視察したところ1000人もの生徒がいました。国を挙げて、IT人材の育成を推進し、育った人材を優遇しているんですね。他に強いのは、東欧、日本、韓国、台湾です。

相澤:面白いですね。

高橋:AtCoderのレーティングで上位を占めるのは、ロシア人が多いですね。ロシア国内で十分楽しいコンテストがあるのに、さらに日本のAtCoderにも挑戦するわけですから、競技プログラミングに飢えている猛者ばかり(笑)。ちなみにITに強いイメージのあるインドは、実はコンテストではあまり成績が振るいません。ただ、登録人数はとても多いですね。

また、アメリカは時差の影響もあってか、自国内での活動が多い印象があります。アメリカからAtCoderに参加しようとすると、午前4時から始めなければなりませんから。

相澤:確かに、スタート時間が夜遅くなると参加するのがつらいですよね。私も一時は海外のコンテストに参加していましたが、夜遅く参加するのでつらくて。その意味でも、日本にAtCoderがあるのは大変ありがたいです。

競技プログラミング愛好者にも注目してほしい、金融ビジネスの面白さ

高橋:相澤さんのようなクオンツが在籍することで、証券の事業にもたらすインパクトについてお聞かせください。

瀧川:データ分析を重視する金融ビジネスにおいて、誰も考えないようなアイデアを生み出すには数理的な思考能力と、そのアイデアに正当性があるかを検証するためにアイデアをアルゴリズムに落とす必要があり、プログラミングスキルが重要となります。数理的な思考能力とプログラミングスキルを有するクオンツは、これからも金融機関における競争力の源泉といえるのではないでしょうか。

相澤:金融ビジネスは競争が激しく、なおかつデータや数理モデルに大きく依拠しています。そういう特性があるがゆえに、クオンツのような専門職でなくても数理的な能力が求められます。例えばデリバティブを販売するセールス担当者と「今のマーケット状況なら、モデルはこういう振る舞いをするからこういう価格になります」と数理モデルについて話すこともありますし、トレーダー自身がマーケット分析、リスク分析をしてコードを書くこともあります。

ポジションによって比重は異なりますが、どの立場でも数理的な能力、場合によってはコーディングスキルを使い、業務に当たっています。当社においては、クオンツに限らず数理的人材がビジネスを回しているといえます。

相澤氏

瀧川:会社によっては、データ分析やモデル開発のスペシャリストは社内の片隅に追いやられ、細々と仕事をしているというケースもあるそうです。しかし当社では、長年にわたってクオンツが活躍し続けてきた歴史があり、社内で最も役職の高いマネージング・ディレクターを務めるクオンツも多数在籍しています。そうした側面からも、数理的な思考能力を駆使してさまざまな金融サービス、ソリューションを生み出しているクオンツが、当社の中核として位置付けられていることがお分かりいただけるかと思います。

高橋:数理的思考はもちろんですが、アルゴリズムを理解する能力、プログラミングスキルも御社の事業にとって有益でしょうか。

相澤:非常に有益です。数理モデルを実際に用いる際には、システムへの実装が不可欠です。アルゴリズム的な処理、コーディングが欠かせません。

瀧川:金融業は製造業のように、商品を手に取って確認できるようなものでもありませんので、曖昧なイメージをお持ちかもしれませんが、実は数字で白黒はっきりした世界。分析対象がもともとは曖昧だからこそ、数理的思考能力とプログラミング能力によってそれを具現化できるスキルを持つ方を求めています。

高橋:実は金融業界については門外漢で、アルゴリズム取引くらいしか思い浮かばなかったんです。「アルゴリズム取引があるから、金融業界にはアルゴリズムが必要なんでしょう?」というレベルで、考えが止まっていました。

でも、お話を聞く限りでは、アルゴリズムの塊のような企業ですね。IT系エンジニアとしてシステム開発に携わるよりも、よっぽどアルゴリズムを考える会社だなという印象を受けました。お二人のお話を聞くととても楽しそうで、僕もクオンツとして働きたいと思ったほど(笑)。

競技プログラミングの参加者は、IT系企業、特にウェブやゲームの制作会社を目指す方が多いんですが、金融業界に進むのが王道になっても、おかしくないのではないかと思いました。

競技プログラミングの参加者に、金融業界の楽しさを伝えたいし、「数学なんてビジネスの役に立たないでしょう?」と思っている世間の方々にも、「こういう場面で役立っているんですよ」と伝えなければならないと改めて思いました。今日は、ありがとうございました。

高橋氏