未来商店街SKETCHNo.1
暮らしの衣替えをコンサルする
「街のテキスタイルバー」
2020/05/14
未来商店街スケッチは、「消費する」だけでなく「生み出す」ことを価値とする、これからの新しい暮らし方・生き方を模索するプロジェクト。未来潮流を踏まえて「こんなお店があったらいいな」というプランを、電通のプランナーと外部有識者たちが共創していきます。
今回のテーマは「テキスタイル(布)」。テキスタイルデザイナーの鈴木マサル氏、設計事務所imaの小林恭氏、小林マナ氏を招き、電通の小布施典孝(電通 コミュニケーション・プランニング・センター長)と小柴尊昭(電通ビジネスデザインスクエア)と共に「未来にあったらいい、テキスタイルのお店」をディスカッション。その結果を基にして、最後にアイデアをスケッチでまとめました。
※この記事は2020年2月6日に取材を行いました。
「作品であり素材でもある」。テキスタイルに引かれたワケ
小柴:支払いがキャッシュレスになったり、クリックひとつで買い物ができたり、「生活の無実感化」が進んでいると思います。その反動として、暮らしの中に“ぬくもり”や“実感”を取り込もうとするニーズが高まっていくのではないでしょうか。という予想から、今回は「テキスタイル」に着目してみました。
今日来ていただいた皆さんは、テキスタイルとの関わりが深いですよね。まずは未来のお店を考える前に、そもそもテキスタイルに関わり始めたきっかけを伺いたいと。鈴木さんは、テキスタイルデザイナーとしてmarimekko(フィンランドの老舗テキスタイルブランド)のデザインを手掛けるなど、活躍されています。どんな経緯でテキスタイルとの関わりが深まったんですか。
鈴木:テキスタイルを始めた理由は、大学受験でこの分野の学科しか受からなかったから(笑)。ただ、勉強しだしたら面白くて、すぐハマってました。特に引かれたのは、どんな使い方もできることです。絵画のように飾るだけではない、カーテンにもクッションカバーにも、テーブルクロスにもできますよね。一枚の布にはいろいろな色やデザインが落とし込まれていますが、それが目的を持たずにプロダクトとして存在している。その面白さに引かれたんです。
小布施:ある意味、「完成品ではない」ともいえますよね。テキスタイル単体で完結せず、そこからいろいろなものを作れるという可能性がある。
鈴木:そうですね。布を見たときに「これで何を作ろう」とか「何に使おう」とか。それは、テキスタイルから生まれる独特な感情だと思うんです。
恭:すごく分かりますね。作品であり、素材でもあるというか。例えば好きなデザインの部分だけ切り取ってクッションにもできるし。その自由度が面白いですよね。絵画だとそうはいかないから。この部分を切り取って何か作ろうと考えられるのは、テキスタイルの特徴ですよね。
小柴:設計事務所のimaでは、テキスタイルを取り込んだ設計が多いですよね。何かきっかけはあったんですか。
マナ:marimekkoの店舗とインテリアのデザインを手掛けたことに尽きると思います。最初は2006年ですかね。半年ほどかけてテキスタイルを猛勉強したんですけど、すごく面白くて。
例えば、フィンランドではカーテンの柄を家の外側に向けて掛けることがあるというんですね。普通、柄は内側、部屋の中に向けて掛けるじゃないですか。どうして外側に向けるかというと、街や通りを明るくするためなんです。
恭:フィンランドは、冬になると空が本当に暗いんですよね。だから、カーテンの工夫で少しでも街の雰囲気を明るくするのだと。それを市民がやっているんですよ。
マナ:もちろん、家の中を好きなテキスタイルであふれさせている家庭もヨーロッパには多いですよね。カーテン、クッション、テーブルクロス。いろんなところに好みの色やデザインを取り込んでいる。そういう部屋を見ると、気分が上がりますよ(笑)。ちょっとした間仕切りにテキスタイルを掛けるだけでも、部屋の印象は全然変わりますし。
そもそも、人は生まれた瞬間から布に包まれている!
小柴:今のお話にもつながりますが、改めてテキスタイルの良さ、魅力ってどんなところですか。
恭:部屋という空間に、自分の好きなデザイン、色を自由に取り込めることかなと。テキスタイルって、とにかく気軽に替えられるんですよね。季節や気持ちに合わせて、テーブルクロスでもカーテンでも、取り替えは簡単にできるじゃないですか。
マナ:私も、自分が気に入った布を何枚も棚に保管していて。この生地は「春から夏にかけてテーブルクロスに使おう」とか、「ちょっとした間仕切りにしよう」とか、考えているだけで楽しいですよ。
小布施:自分の好きなデザインや色を生活の一部にする。その豊かさがテキスタイルの根幹にあるのかもしれません。
鈴木:しかも替えるのは手間がかからないですから。そろそろ暖かくなってきたなと思って替えるのもいいし。
恭:さっきはヨーロッパの話を出しましたが、日本も昔から生活に色を取り込む文化があったんですよね。白と青の市松模様が使われた桂離宮の障子はその典型です。お花を生けたり掛け軸を掛けたりというのも、色を取り入れる文化のひとつかもしれません。
鈴木:以前、太宰府天満宮にテキスタイルアートを展示するイベントがあって、小林さんたちが手掛けられましたよね。僕も見に行ったのですが、テキスタイルが掛け軸のように部屋に飾られていて。和室なんですけど、すごくマッチしていました。カーテンやテーブルクロスだけじゃなく、掛け軸のように何げなくテキスタイルを部屋に掛けるだけでも、空間が大きく変わると思うんですよね。
恭:太宰府天満宮の方も、テキスタイルと部屋の相性の良さに驚いてましたね(笑)。
小柴:絵画などのアートを部屋に飾るのはハードルが高いですが、テキスタイルならもっと気軽に、自分の感性で飾れるかもしれないですよね。おっしゃる通り部屋に掛けるだけでもいいですし。
恭:その意味で、一番身近なアートピースかもしれません。しかも、テキスタイルの良さは質感があることですよね。綿や麻など、生地一つ一つで肌触りが違う。どんなにデジタルの時代になっても、肌触りや質感はバーチャルで体験できないものだし、布だからこその良さですよね。
鈴木:そもそも、人って生まれて10秒後には布に包まれて、そこからずっと布に包まれて生きていくじゃないですか。だからこそ、布と接すること自体に特別な感情を抱くのかもしれませんね。
マスターがオススメしてくれるマイクロショップがあればいい
小柴:これまでの話を踏まえて、どんなテキスタイルのお店が未来にあったらいいと思いますか。
小布施:テキスタイルを掛け軸のように飾る発想は面白いですね。掛け替えも簡単なので、季節や気分に合わせられる。そういうテキスタイルを、自由に、日常的に選べるお店があったら面白そうですね。
恭:テキスタイルって本当にいろんな使い方ができるし、アイデアひとつで可能性が広がる。種類も無限にありますよね。逆にいろいろあり過ぎるので、専門家がオススメの布や使い方をアドバイスしてくれるお店があるといいですね。ソムリエやバーテンダーから薦めてもらうように。
小布施:ふらっと行って「これからの季節に合うテキスタイルある?」みたいな(笑)。
恭:そうそう。最近、小さなコーヒースタンドが増えていますけど、そのくらいのスペースのお店でいいかもしれない。テキスタイルのアドバイスをするマスターがいて、お客さんの話を聞きながら「その部屋ならこういうのは?」と、オススメの布を出してくれる。
マナ:マイクロショップみたいな感じで。商品のテキスタイルは後ろの棚に保管してあって、店頭には毎日1枚、その日の気分や季節に合わせて厳選のテキスタイルを飾っておくとか。バーや喫茶店のマスターが「今日はこのレコードをかけよう」と音楽を選ぶように、毎日違うものを飾っていたらすてきですよね。
小柴:そのテキスタイルをきっかけに、マスターと話しながらオススメの一品を教えてくれると。
鈴木:僕も日々テキスタイルを探していますけど、コミュニケーションって意外と大事ですよね。目の前の布を見るだけじゃなく、解説やストーリーを聞いて、途端に欲しくなることがあるんです。
マナ:コミュニケーションの要素は絶対に必要。マスターの審美眼が良ければ、信頼が生まれて、またいろんな人が買いに来る。それはテキスタイルに限らず、どんなお店も一緒です。
恭:本当に小さな、駅の売店くらいのショップで、相談できるマスターがいて、店頭には大きなテキスタイルが一枚。後ろの棚には、いろんなテキスタイルが保管されている。
鈴木:毎日替わるその一枚がカッコ良ければ、きっと人の目を引くし、訪ねる人も増えるかもしれません。
小布施:365日、毎日違うテキスタイルが掛け軸のように飾られている。そしてマスターがいろいろ相談に乗ってくれる「街のテキスタイルバー」。そんなお店、見てみたいですね。