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未来商店街SKETCHNo.2

新しい暮らし方を提案する「不動産屋」ならぬ「移動産屋」とは?

2020/08/06

未来商店街スケッチは、「消費する」だけでなく「生み出す」ことを価値とする、これからの新しい暮らし方・生き方を模索するプロジェクト。未来潮流を踏まえて「こんなお店があったらいいな」というプランを、電通のプランナーと外部有識者たちが共創していきます。

今回のテーマは「キャンピングカー」。ライフスタイルが多様化する中、キャンピングカーのような移動する不動産、“移動産”にはどんな可能性があるのでしょうか。育休中にキャンピングカーで日本一周の旅(2019年6月~9月)をした電通・池田一彦氏、茅ケ崎でキャンピングカー事業を行うネイティブキャラバン代表取締役の滝島大介氏、滝島氏とプロジェクトを企画するシェアエックス株式会社 Founder&CEOの中川亮氏を招き、小布施典孝(電通 Future Creaitive Center)と小柴尊昭(電通ビジネスデザインスクエア)と共に「未来にあったらいい、キャンピングカーのお店」を考案。一枚のスケッチにまとめました。

リモート取材
ディスカッションのメンバー。左上から滝島大介氏(Native Caraban)、左下中川亮氏(シェアエックス㈱ Founder&CEO)、右上池田一彦氏(電通)、小布施典孝(電通)、撮影は小柴尊昭(電通)

100日間、キャンピングカーで日本一周した「育休キャラバン」

小布施:多拠点生活や、アドレスホッパーと呼ばれるような、家を持たない生活が近年注目されてきました。その中で、キャンピングカーはこれからもっと利用したい人が増える気がしています。そこで今回、キャンピングカーのお店を考えてみることにしました。

池田さんは、100日間の育休中にキャンピングカーで日本一周する「育休キャラバン」をしたんですよね。お子さんと奥さまと一緒に。

池田:そうですね。子どもが2人いるのですが、もともと1人目が生まれたときに、3カ月の育休を取ったんです。ただ、意外とその3カ月がゆったりしていて、ちょっとヒマなときもあったくらいで(笑)。もし2人目が生まれて育休を取るときは「何か面白いことをしたいなあ」と思っていて。

で、上の子が6歳のときに2人目が生まれて。これは「旅に出られるぞ」と(笑)。上の子が学校に通い始めたら行けませんから、ベストのタイミング。それで、家族と長期で旅に出ようと思ったんです。最近は育休が“義務”の風潮になりつつありますが、実はすごく楽しい時間のはず。それなら、思いっきり楽しもうと。

撮影  大塚 光紀

小布施:そこからなぜキャンピングカーを?

池田:家族4人で100日間旅すると、やっぱりお金がかかる(笑)。毎日2〜3万のホテルに泊まったら200〜300万くらい。それならキャンピングカーがいいと思って計画したんです。

小柴:やってみてどうでしたか? 実は池田さんの話を聞いて「やってみたい」と思っている人は電通内にもたくさんいるのですが(笑)。

池田:結論から言うと、もう最高でした。キャンピングカーはコスパだけじゃなくて、圧倒的に自由なんです。海の見える場所に止めれば、そこがオーシャンビューのホテルに早変わりするし。ルートもざっくりと決めるだけでいいし。

何より、小さな子どもがいる旅は、むしろキャンピングカーが便利なんですよね。子どもが寝た後に移動できますから。旅って、子どもが眠くなったりグズったりするとストップしますよね。その不安がない。どこでも寝させられるし、オムツ替えもできる(笑)。キャンピングカーの子連れ旅、しかも長期旅は本当にオススメですよ。

不安定な時代には、いざというときに動ける「移動産」が価値になる

小布施:そのキャンピングカーはレンタルで?

池田:そうです。今日来てもらったネイティブキャラバンの滝島さんは、僕と同じ茅ケ崎に住んでいて、キャンピングカーのレンタル事業をしているんです。他にもキャンピングカーを使った企画をいろいろ行っていますよね。

滝島:はい。キャンピングカーは「動く家」のような存在なので、使う人次第でいくらでも可能性があるんです。例えば以前企画したのが、企業の採用面接をキャンピングカーで行う「採用キャラバン」。九州などの広いエリアを対象に採用活動をする場合、どこか一箇所でしか説明会ができないことがありますよね。企業からすれば「他の地域にも面白い人がたくさんいるはず」と。そこで、企業側がキャンピングカーで採用面接の旅をしました。現在地をツイッターでリアルタイムに表示して、希望者がいれば近くの大学に行って即席の採用面接をしたり。

池田:面白い企画ですよね。

滝島:あとは「キャラバンワーク」といって、企業にワークスペースとしてのキャンピングカーを貸し出すサービスも始めています。パートナーやクライアントと街中で打ち合わせしたり、チームのメンバーと大自然の中に行って、リフレッシュと仕事の両方を味わったり。中川さんと一緒にこういった企画を考えていますね。

中川:僕自身も今までスタートアップを5社立ち上げていて、シェアリングエコノミーや渋谷のコワーキングスペース事業などに携わってきました。その中で、今後は不動産の対照として、動く“移動産”の可能性を感じていて。例えば移動中にテレビ会議ができたり、働く場所がさらに自由になったり。そう考えて、滝島くんといろいろ企画してきました。

池田:しかも3人とも茅ケ崎在住で、近所なんだよね(笑)。それで気が合って。

小布施:そうなんですか(笑)。中川さんが話した「移動産」という考えは面白いですね。定住しない価値観が広まり、さらにオフィスの在り方も大きく変わっていくであろう時代の中で、すごく重要かも。

中川:ビジネスもそうですが、動けることは一種のリスクマネジメントでもあるんですよね。経済や社会が安定しているときは動かなくてよいかもしれませんが、ベースが大きく変動する時代には、むしろタイヤがついて動ける方がいいかもしれない。コロナはまさにそういう状況を生んでしまったので、これからは安定の概念が変わる可能性もありますよね。

小布施:止まっていることが安定ではなく、動いている方がリスクヘッジの意味で安定するということですね。

「旅するように暮らす」。その装置としてのキャンピングカー

滝島:個人的な話ですが、私もこれまでいろいろな場所を転々と移り住んできて、妻とも「暮らすこと自体が旅だよね」と。最初の出会いも、オーストラリアの同じキャンピングカー場を訪れていたのがきっかけなんですね。向こうはキャンピングカーで旅しながら暮らしている人も多くて、設備や文化も充実している。日本もいずれそうなればいいなと。

池田:滝島さんの言う「旅するように暮らす」というのは憧れだったけど、育休キャラバンを経て「実現できるんだ」と思いましたね。今までは、会社と家を往復する毎日がマインドセットとしてデフォルトだったけど、それだけじゃないと。

小布施:もしかすると、その装置としてキャンピングカーがあるのかもしれませんね。

池田:実際、日本にも旅するように暮らしている人はたくさんいるんですよね。キャラバン中には、ティピという大きなテントを持ってキャンプ場を転々としている人とも会いましたし。

小布施:ちなみに、育休キャラバンで「旅のような暮らし」を実践してみて、一番の魅力ってどこに感じましたか。

池田:出会う人の多様性ですね。全国には本当にいろんな人がいる。電通も多様性のある会社だと思いますが、それどころじゃない(笑)。たとえば北海道で出会ったのは、パーマカルチャー的に自給自足生活をする家族で。その家に伺うと、出迎えた子どもたちが「昨日トイレに電気がついたんだよ!」と目をキラキラさせて言うんです。これだけトイレの電気で喜ぶ子が日本にどれだけいるのかなと。

普通の旅では出会えないけど、キャンピングカーで旅と暮らしを一体化させたから、これだけ多様な人や価値観に触れられる。旅するように暮らすことのおみやげかもしれませんね。

中川:さらに今後は、ライフスタイルの変化や自由度が間違いなく加速しますよね。コロナによってリモートワークが普及しましたし。僕自身、「沖縄に住みたいな」と思ってますから(笑)。

キャンプ場

物件のような“モノ”だけでなく、何をするかの“コト”まで提案

小布施:今までの話を基に、未来のお店を考えてみましょう。皆さんが「あったらいいな」と思う、キャンピングカーをテーマにしたお店はありますか。

池田:今日の話を聞いていると、キャンピングカーは暮らしを提案する意味ですごく可能性があるなと。例えば、旅するように暮らしたい人に向けたプロデュースショップとか。おそらくそういう価値観の人はこれから増えると思うので、そんな人に向けて、旅と暮らしが一体化したものを提案する店があれば。

小布施:不動産屋さんは、たくさんの物件を紹介していますよね。それはある意味、不動産での“暮らし”を提案している。一方、今日の話を聞くと街の「移動産屋」があったら面白いかもしれないですね。不動産の物件のような位置付けで、キャンピングカーが並んでいるような。

池田:物理的なハードとしては、みな同じキャンピングカーだけど、何をするかは本当に幅広いですよね。働く場所として使ってもいいし、休みに家族と全国を旅する用でもいい。

滝島:お客さまの中には、スタジオとしてキャンピングカーを借りたカメラマンもいます。スタジオ自体が移動するので、それがいろいろな展開になる。あとは、ある有名な美容師夫妻がキャンピングカーを借りて、普段お店に来られない遠方のお客さまの髪を切りながら旅したり。

小柴:不動産屋には物件情報がずらっと並んでいますが、移動産屋では、キャンピングカーという“モノ”が並ぶだけでなく、その車内で何をするかという“コト”まで提案されている。そんなお店だと面白そうですね。

小布施:オフィスに美容院にスタジオ、カフェ、八百屋さんでもいい。いろいろありますね。

小柴:小さい子どものいる家族は、純粋にキャラバン旅をしたくて見に来るかもしれないし、それ以外でも変化したい人、例えばずっと仕事を頑張ってきたけど、新しい何かにチャレンジしたい。そのときに気づきを得られる場所として、キャンピングカーと、その中でやっている“コト”を見に来るかもしれない。

中川:特にお店をやりたい人はいいですよね。お店がある場所で固定されているというのが今までの「固定観念」でしたが、タイヤがついたお店があってもおかしくない。屋台もそうですし、動けることはリスクヘッジになる。それを体現できるのがキャンピングカーですから。いろいろな“コト”の選択肢を提示する移動産屋があればいいですね。

池田:むしろ移動できるお店が増えたら、商店街自体が移動式になるかもしれませんよね(笑)。そういう未来も見えてくる。

滝島:実際、アメリカのポートランドは、人出の多い公園にクルマ型のお店が集まっています。そういう文化が定着していくかもしれません。

小布施:商店街に人が集まるのではなく、人が集まるところに商店街が移動してやってくるような。いいですね。この「街の移動産屋」は、“これからの生き方”を選べるお店。そんなお店があったら人気が出そうです。

そして座談会から生まれたスケッチは・・・!

イラスト/スケッチ 中尾仁士(電通クリエーティブX)
スケッチ 中尾仁士(電通クリエーティブX)