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コロナ禍における企業PR活動No.1

コロナ禍と、三つの企業広報戦略

2020/05/15

新型コロナウイルス(COVID-19)の流行により、深刻な事態の長期化が懸念されています。本連載では、こうした非常事態下における企業のPR活動について、さまざまな観点から論じていきます。

企業にとっての“危機管理広報”は、不祥事への対応だけではなく、コロナ禍のような非常事態時においても重要です。例えば、「密集」「密接」「密閉」の3密と関わりの深いイベントや新商品発表、記者会見が軒並み自粛になる中で、企業活動はどこまですべきなのか。悩み、手探りの日々を送っている企業は多いのではないでしょうか。

連載第1回では、企業広報戦略研究所(電通PR内)が国内企業を対象に実施した、コロナ禍に対する企業の取り組み、広報対応に関する緊急アンケート結果を見つつ、今後、企業がとるべき広報戦略について考察します。

<目次>
企業がコロナ禍において優先的に検討したこととは?
広報戦略①従業員に寄り添う「インターナルコミュニケーション」
広報戦略②物理的制約のある中でのメッセージ発信
広報戦略③企業のCSR活動、SDGs貢献

企業がコロナ禍において優先的に検討したこととは?

「コロナ禍における企業活動アンケート」と題し、当研究所で過去アンケートに協力いただいた企業、もしくは当研究所が主催したフォーラム、セミナーに参加いただいた企業に対してアンケート調査を2回実施しました。

「コロナ禍における企業活動アンケート」

・調査期間:第1回 2020年2月28日(金)~3月6日(金)
         第2回 2020年4月10日(金)~4月17日(金)
・調査対象:企業広報戦略研究所の調査に協力いただいた企業担当者(広報・危機管理、その他)
・サンプル数:1回目195社/2回目170社から回答 ※未回答は除く
・調査方法:インターネットアンケートサイトにアクセス、オンライン回答

以下は、4月に実施した第2回アンケート調査において「今後の1カ月程度の間、企業コミュニケーションについてあなたはどのような検討が必要と考えますか(複数回答)」を聞いた結果のグラフです。
コロナ禍における企業活動アンケート

上位には以下のような回答が集まりました。

■1位…「社内に感染者が発生した際に備えた公表の準備」(76.9%)

社内での感染者発生の可能性が高まるにつれ、広報・リスク担当者も対策、対外的情報発信の準備に追われていることが分かります。情報の独り歩き、フェイクニュースを避けるため、従業員の健康管理、安全確保に向けた企業姿勢は企業レピュテーションにとって最重要事項といえます。

■2位…「労働環境の変更による従業員ストレスへの配慮」(69.8%)

従業員の職種によっては、テレワークが困難で、仕事そのものが行えない事態も生じています。物理的制約から突如「社内失業」状態になり、雇用不安からくる心理的ストレスへの配慮は、まさに今、企業が全面的にサポートする姿勢を示さねばならない時期にきています。

さて、このアンケート結果を踏まえ、コロナ禍における企業広報戦略のポイントをまとめてみました。現段階では、以下の3点に絞られます。

①従業員に寄り添う「インターナルコミュニケーション」

雇用不安、精神面でのストレスを抱える現場に寄り添うメッセージ、温度感の伝わる言葉が、トップには求められています。

②物理的制約のある中でのメッセージ発信

コロナ禍では物理的制約の中で企業活動を行わなくてはなりません。具体的には、人を集めての会見ではなく、オンラインでの対外的発表が必須となっています。そうした場では、話の内容も、伝え方も、従来とは異なる考え方が必要になります。

③企業のCSR活動、SDGs貢献

3点目はコロナ禍における持続可能な社会に向け、企業としてどのように社会貢献するのかという姿勢です。この点でプレゼンスが示せない企業は同業他社に差別化を図られ、ESGでの銘柄選別、資金調達や収益など財務面にも影響してくると推察されます。

以下、詳細に考察していきます。

広報戦略①従業員に寄り添う「インターナルコミュニケーション」

まず、非常事態時におけるトップ(=経営層)から従業員へのメッセージについて考えてみましょう。

当研究所では隔年で「企業広報力調査」(※)を行っています。2018年度の結果では、企業が重要視するステークホルダーとして「従業員」が上昇傾向にあると分かりました。背景としては、人手不足、人材不足が挙げられます。今や企業は本格的に「健康経営」「ダイバーシティー経営」に乗り出しています。職場環境の改善が、離職率の低減につながり、従業員の組織に対するエンゲージメントを高めるからです。

※企業広報力調査 https://www.dentsu-pr.co.jp/analysis/
 

今回のコロナ禍でいえば、アマゾンのCEOであるジェフ・ベゾス氏による社員向けメッセージ(https://blog.aboutamazon.jp/initiatives_a-message-from-our-ceo-and-founder)は、まさに企業が従業員ら重要ステークホルダーに寄り添う姿勢を見せた好例といえます。

ベゾス氏はメッセージの中で、新型コロナウイルスに伴う世界的な危機に対し、同社が「世界中の人々に極めて重要なサービスを提供している」「多くの人々は私たちを頼りにしている」と訴え、米大統領をはじめ数多くの感謝のメッセージをもらっていることを伝えています。

このメッセージは以下の文章で締めくくられています。

(現在、私は)Amazonが最良な役割を果たしていく方法について、全ての時間と思考を集中しています。Amazonで働いている皆さんにも、Amazonが重要な役目を担い続けることを理解し、新しい支援の機会を探し続けていただきたいと思います。
(中略)
自身とあなたの愛する人々をどうか大切にしてください。私は、この現状を皆さんと一緒に乗り切ることができると信じています。

また、アマゾンは、“巣ごもり消費”による需要増大に伴う人員不足から、新たに世界で10万人の雇用を確保するとしています。同時に、コロナ禍において飲食・観光業等で失業してしまった人に対しても、「一時期でも一緒に働きませんか?」と呼び掛けています。このように「社会課題」を意識したトップメッセージには、広報的な戦略性も垣間見えます。

日本では、大打撃を受けている観光業において、星野リゾートの星野佳路社長が積極的にメディアに登場し、「こういう時こそ経営の力を発揮すべき」とのメッセージを絶えず発信しています。おそらくそのメッセージの半分はインターナルに向けており、現場を鼓舞することを意識しているのでは、ともとれる内容になっています。

広報戦略②物理的制約のある中でのメッセージ発信

さて、ここで冒頭の疑問に答えます。コロナ禍において企業広報活動は自粛すべきなのでしょうか。答えはノーです。

特に上場会社にとって、「事業の方向性」「重点施策」などについて、むしろ企業姿勢として積極的に何を課題として現在進行形で取り組んでいるかを示すべきタイミングといえます。

また、非常事態であろうと、トップ交代、新経営体制でのスタート期には経営方針を市場関係者、各ステークホルダーに対して示す必要があります。

ただし“3密”を避けるため、現在は企業の重要な発表もオンラインで行うことが一般的になりつつあり、対策が必要となっています。

例えばオンラインの会見では、ネットワークのインフラ環境や周囲の雑音などで、発言内容が聞き取りづらい可能性もあります。そのためホテルや大会議室でリアルに記者説明会するときよりも、2~3割、話す速度を落とさなくてはなりません。その分、話す内容もキーメッセージを凝縮する必要があります。ゆっくり話しても余裕がある、簡潔なスピーチライティングが求められるでしょう。

また、カメラを意識した視線の運びなど、求められる「分かりやすさ」のレベルが高くなるため、技術的な面を含めた事前リハーサルも重要になってきます。

それに加え、非常事態下でのメッセージ発信では、個人的な思いを含めた「エモーショナル」な要素も付加しないと視聴者側の集中力が持続せず、受け手の心に響かないという課題も新たに浮き彫りになりつつあります。前項でのベゾス氏や星野氏のメッセージが伝わるのは、経営者の「思い」を率直に語っているという面も大きいのです。

広報戦略③企業のCSR活動、SDGs貢献

最後に、現在企業が行うべきCSR活動について考えてみましょう。今や、コロナ禍を踏まえた新局面でのCSR活動、SDGs貢献が主流になりつつあります。

2~3月の段階では、企業による学童保育施設への物資無償提供などが目立っていました。そして感染者数が増加し、医療施設への負担がより深刻さを増してきた4月以降は、医療従事者に向けたメッセージや、具体的な支援策に注目と動きが集中しつつあります。

たとえ、全く医療従事者と関係のない企業であっても、「本業を通じてどのように社会に貢献できるか」という発想が必須となっています。

例として、軽度患者の受け入れをいち早く表明したアパホテルは、ソーシャルメディア上で好意的な言及が増えました。他にも、医療従事者に向けて物資提供などのサポートを行った企業では、自社のニュースを見た従業員から「この会社にいることが誇らしい」などの声が上がっています。当然ネガな反応もありますが、レピュテーション全体で見ると一過性です。

これからも社会課題と真に向き合った企業のCSR活動は、良い意味での“ブーメラン効果”をもたらし、従業員エンゲージメントを向上させ、企業レピュテーションを着実に高めていくでしょう。

次回は、コロナ禍で急速に進む、企業PR活動のオンライン化について詳しく解説します。