時代の変わり目に、20年後を読むNo.1
隠している本音を貯められるカード
2020/06/02
私たちは今、時代の大きな変わり目に立っている。
20年後の都市、生活、モビリティ-は、20年後のコミュニケーション、エンターテインメント、そして世界は、果たしてどのようになっているだろう。
近過ぎず、遠過ぎない。少し先の摩訶不思議な未来、ちょっと覗いてみませんか。
友人のカズオが、不思議な黒いカードを見せてくれた。
眺めていると「これはAIを搭載してるカードで、普段は口に出せない本音を音声で入力してこっそり貯めることのできる本音貯蔵カードなんだよ」と教えてくれた。
さらに彼はカードの利点について話を続けた。
「オーナーが貯め込んだ本音の量と質を競うバトル大会があって、それに勝つと賞金を獲得できるんだ」
「それだけじゃなく、交通違反があった時には溜まっている本音のポイント量で処分が軽減されるんだ。本音を隠すことで社会を安定させている、その見返りにってね」
またダメ押しで「貯まった本音を広告会社が買い上げてくれることもあるんだ。顕在化してない本音がマーケティング活動に有用なんだって。これがけっこう金になるんだよ」とまで言う。
なんとも良いことずくめのカードではないか。ボクも欲しいな、と思った時に彼がぼそりと言った。
「でもね、このカードは、絶対落としちゃダメなんだ」
「なんで」と聞くと彼は言った。
「落としたら、それまで隠していた本音を全部公表されちゃうんだ」
2040年の未来—隠している本音が貨幣価値を持つ—
本音というものは取り扱いが難しい。貯めてばかりいると精神衛生上あまりよろしくなく、本音をズバズバ口にすると周囲から人が去ってしまう。匿名だからといってSNSでやたらと吠えるのも炎上・身バレの危険性が高い。
デジタル技術により便利な世の中になった分、固い意志を持って口を閉じる判断が常に求められる。いや、フリックする指を止める判断か。
そんなことを考えながら作ったのが冒頭のショートショートである。われわれVision Design Lab.は20年先の未来について具体的な将来の生活シナリオを作成する集団だ。その妄想力をこれから楽しんでいただければと思う。
さて、なかなか言えないコトを抱えて苦しむ主人公の話といえば、イソップ寓話「王様の耳はロバの耳」だろう。
王様の髪を切る理髪師のみが知り得た情報。これを他言することは固く禁じられている。ああ誰かに伝えたい。でも言えば自分の命が危ない。その狭間で悩むうち、理髪師は病気になってしまう。きっと悩んでいる最中に免疫力が落ちたに違いない。
ちなみにイソップ寓話が生まれたのは古代ギリシャやメソポタミアで紀元前の話である。言えない本音を抱える悩みは昔から存在し続けているのだ。
しかし現代との大きな違いは、知り得た情報を瞬時に世界に伝えることができるインターネットがあるかないかだろう。今や秘密や本音を拡散させるのはカンタンなことである。しかし前述のように拡散には危険性が伴い、抱え続けていると病気になりそうだ。
だからこそ、これからは患者が本音を口に出すことを奨励し、耳を傾け、癒やすセラピーが増えるんじゃないか。そう思って調べてみたところ、傾聴セラピスト・傾聴心理士・傾聴療法士・臨床傾聴士などいろんな資格が生まれているらしい。なるほど需要と供給は表裏一体である。
その先には、これらを集めるプラットフォーム技術が発達しAIが内容を分析。言えなかった本音がオブラートに包まれながら可視化され、伝えたい該当者のタイムラインにふんわりした形で配置・露出される。そんなサービスが生まれるのではないか。伝えたかった本音が、間接的ながら本人にゆっくり浸透していく。
その結果、世界はいまよりも少し穏やかになるかもしれない。
え、私の隠している本音を話せですって?
勘弁してくださいよ、本音カードのポイントでおごりますから。
5年でも10年でもなく、20年先のデジタル時代を先見し、企業やブランドが進むべき方向を提示する。アカデミック&サイエンス面での裏付けも持ちつつ、シーズ発掘、ビジョン構築、ストーリーテリング、イノベーション創造を行う。
それが、電通デジタルクリエーティブセンターに誕生した、Vision Design Lab.です。
クライアントの皆さんがまだ技術研究に手を付けていない、少し先の未来を、人と技術にくわしい私たちが考え、具体的な将来の生活シナリオとして提示。
さまざまな未来のカタチを皆さんと共創し、未来につながるイノベーションに刺激を与えたいと考えています。