ニューノーマルで日本はどう変わる?生活者調査から導く未来の姿
~「コロナ時代のマーケティングソリューション」レポート(前編)~
2020/08/05
6月30日、「Dentsu Solution Webinar~第1弾~」を開催しました。一歩先のニューノーマルスタイル実現のために、onコロナ・withコロナの巣ごもり消費をチャンスに変えていくヒントを集めたソリューションウェビナーです。
SNSデータ分析や電通オリジナル調査から見いだした消費者変化や未来予測、また次なるマーケティング課題に対するソリューションを紹介したウェビナー内容をレポートします。
<目次>
▼「Twitterと独自調査から読み解くさまざまな生活者意識」(電通 谷内宏行氏)
▼「未来予想とマーケティングソリューション」(1)未来予測とAfterコロナの見通しについて(電通 澁川修一氏)
▼「未来予想とマーケティングソリューション」(2)生活者の行動/意識変化から読み解くニューノーマル時代の価値創造(電通 杉田和香氏)
「Twitterと独自調査から読み解くさまざまな生活者意識」(電通 谷内宏行氏)
コロナ禍において、日本の生活者はどう変化したか。谷内氏は、電通で実施したさまざまな調査データをひも解き、これからの日本には、「三つのお直し」が必要だと解説しました。
コロナに関するツイート量推移と、東洋経済オンラインでの感染者数(PCR検査陽性者数)の推移を重ねたグラフを見てみると、非常に大きなバズのピークがあるのは3月30日。それはちょうど、志村けんさんの訃報が伝えられたタイミングです。
半年前から「日本の日常」は少しずつ変化していきました。最初の異変は1月末。マスクが一斉になくなった「マスク騒動」から。やがて、消毒液やトイレットペーパーまでもが消えました。3月になると「休校要請」が出て、企業も「在宅勤務」に移行する割合が増えました。ですが、桜の開花の頃には少し「ゆるみ」が見られ、少なからぬ人々が花見へと繰り出しました。「また、すぐに生活に戻れるのではないか」と安堵していた直後、伝えられたのが「志村けんさんの訃報」でした。このショックこそ、日本の生活者に本当の危機意識をもたらしたものだった、と谷内氏は解説します。
3月30日以降も「緊急事態宣言」や「ステイホーム」「東京アラート」などの自粛や規制が波状的に展開される中で、次第に日本の生活者・企業は、元の生活ではなく「ニューノーマル」への移行を強いられていった、と谷内氏。自粛生活の末に起きてしまったのは、「萎縮する日本」の姿です。コロナ禍を乗り切り、新たな日常に変化していくために必要なのは
・自粛からの萎縮状態を → 温め直す
・旧社会慣習の違和感を → 編み直す
・ワークライフの比重を → 見つめ直す
ことだと提唱しました。
「緊急事態宣言」が発令された頃のツイートをバズ解析すると、かなり多かった発言は「声を掛け合って頑張ろう」という互助だったことも紹介。ネットは、非難や中傷など悪い文脈のイメージが強いですが、Twitter上には「みんなで励まし合う動きが顕著だった」ことをデータで提示していました。
また、「日本とアメリカのコロナに対する意識・行動調査」からもいくつかデータを紹介。「コロナが心配」という不安度がアメリカで73%なのに対し、日本は15ポイントも高い88%という結果や、「危険だから今やめていること」は、食料品の買い出し以外の全項目にわたって日本の方が高いという調査結果を報告し、日本の生活者の「自律的に自粛=ガマン」する国民性が分かると話しました。
「コロナ禍 生活者ディープインサイト調査」からは、「“明るい兆しが社会に見え始めている”と感じている人はまだ10%にも満たない」という結果に触れ、今、日本社会にはやはり「温め直し」が必須になっていると語りました。
そして、在宅勤務・リモートワークの急増によって、人々がその利便性に気づいたこと、満員電車などさまざまな旧習慣に対して、コロナ禍を契機に違和感が生まれていることをデータで紹介し、社会のあり方を「編み直し」することも必要だと強調していました。
さらに、在宅開始当初には「コロナ離婚」という言葉が出ていたものの、家族との密着生活が続いた時期を経て、今はお互いが気遣い合うことに慣れてきた時期であること、健康第一で、仕事優先ではない生き方を優先する考えが上位を占めてきていること表すデータなどから、家族を含めたワークライフバランスを「見つめ直す」時であることも読み解けると語りました。
最後に、コロナ期にバズったCMが、「大塚製薬・ポカリスエットのネオ合唱」や「ゼスプリのキウイ」「サントリーのBOSS」であったことを示し、「自粛に疲れた生活者にとって、今は温かなメッセージが響く時。『三つのお直し』をクライアントと共に実行していきたい」と述べました。
「未来予想とマーケティングソリューション」(1)未来予測とAfterコロナの見通しについて(電通 澁川修一氏)
「未来予測支援ラボ」でクライアント企業の未来を考える澁川氏の元には、クライアントから「afterコロナはどうなるのか?」という相談が後を絶ちません。未来予測支援ラボとは、電通の統合ソリューション(マーケティング)部門を母体に、クリエイティブ、メディア、テクノロジーなどさまざまな領域の経験を積んだ電通社員が集結したビジョンメーキング集団です。未来の社会について、電通らしい生活者の視点から発想しています。
未来予測支援ラボでは、すでに政府決定がされているワクチン開発への支援や5Gの早期展開などを踏まえ、ニューノーマル、そしてその先に向けた未来予測カレンダーを作成。そこからいつ、何を始めればいいのかを考えると、「もうすでにニューノーマルは始まっている」と澁川氏は言います。2022年のニューノーマル元年に向けて、今年の下半期から来年にかけてどれだけ準備ができるかが企業の競争力に影響するだろう、というのが未来予測支援ラボの見解です。
では、ニューノーマルに向けていいスタートダッシュを切るために、社会の変化をどのように把握すればいいのでしょうか。澁川氏は、今起きている社会変化を大きく四つに分けて解説します。
一つ目の変化は、できる限り「接触しない」社会となり、DXが大幅に進展するということ。政府の政策会議でも「対面でもデジタル」と掲げられているように、マイナンバーの普及促進も含め、紙・捺印に代表される事務作業のデジタル化を官民で加速度的に進めるという方針を例に挙げ、DXが浸透し自動化が進んだ結果、多様なデータがたまる社会になると説明。
次に挙げられる変化は、「接触」「密」「移動」が極めて貴重な機会となること。これまで抑えていたことを、「思いっきり楽しみたい」という生活者ニーズが膨らみ、旅、イベント、スポーツの価値が再認識されると予測。また、接触確認アプリなど、安心して「接触」するためのテクノロジー開発が進むと解説し、それらのテクノロジーを実装してプロトタイピングする場として2021年開催の「東京2020」が活用されるのであれば、社会や世界に対しての良い影響が期待されるとも述べました。
三つ目の変化は、社会の多重化。これまで当たり前だった効率重視志向が、社会全体で見直される可能性が高くなります。また、多拠点志向や居住エリアの嗜好の変化、働き方改革が進展することも社会の多重化のひとつです。数年単位の長期戦が予想されるコロナと付き合いながら、柔軟性がある企業経営が求められる時代に向かうだろうと話しました。
また四つ目として、グローバル経済と国際関係の変質に言及。人の移動が激減している中、ここ数年の日本経済の成長ドライバーになっていたインバウンドに大きな影響が出ています。先ほどのテクノロジーも活用しつつ、インバウンドを立て直し、日本ブランドの再構築を図るとともに日本の製品のクオリティーを世界に知らしめるチャンスと捉えるべきであると述べました。
こうした社会変化を受けて、ニューノーマル社会のトレンドはどう変わるのでしょうか。これまで予測されていた11の生活者トレンドを挙げ、今後の盛り上がり具合を矢印で表現しました。例えば、コロナ以前からのトレンドとされていた「所有から利用への移行」は、接触感染の恐れから下向きの影響を受けることになると予測する一方で、信頼できる製品を購入したいニーズなどから「透明性・真正性・本物志向」は追い風が吹くと予測しています。
このようにトレンド予測をする中で、5G/IoT関連を中心にDXはおよそ5年早まり、2025年以降だと思われていた「全てがつながる社会」は、思っているより早く来ると強調。例えばすべてが電子チケットに変わったとしたら、エンターテインメントやスポーツはどう変化するのか?そういった発想を、DXを前提に考えていくことが、自分たちのビジネスをどうするべきかのヒントになると話しました。
他方で、生産年齢人口の減少や過疎化といった、2020年に直面する日本の社会課題自体はコロナ後も変わらないと澁川氏。未来予測支援ラボでは2030年、そしてその先の社会を見つめて、クライアントとともにやるべきことを考えていきたい、と述べました。
「未来予想とマーケティングソリューション」(2)生活者の行動/意識変化から読み解くニューノーマル時代の価値創造(電通 杉田和香氏)
「禍」という文字が使われるコロナ禍は、人の努力で防ぐことができるものだとする杉田氏。震災のような防ぎようのない天災の場合、被災者と応援者がいて復興に励みます。しかしコロナ禍は、「一億総被禍者」。みんなで防ぐために法やシステムを変え、それによって行動や価値観が新しくなっていくと述べます。
それゆえに、これから行っていくことは復興ではなく、「再構築」。生活者が再構築をしていく中で、企業も提供すべき価値やスタンスの再構築が迫られていると言います。生活者に起きた再構築はどんなものなのかを見極めるために、「どんな変化が起きたのか」「収束後どうしたいのか」の2軸で生活者に調査を実施。6月1日からの3日間、全国20~70代の男女2000人を対象に行った調査を報告しました。
生活者の生活領域における意識や行動に関する各90項目の調査結果を、コロナを契機とした「増減実態」と、収束後の「増減意向」の2軸4象限で分析。これからのチャンスの芽を見つけていきたいという思いからこの4象限分析を、「チャンスポートフォリオ」と名付けました。
この4象限マップを見ることで、収束後まで何が残り、何が回復していくのかなど、生活者の再構築のあり方が一目瞭然。コロナ禍を経たこれからの価値観、その下で消費を動かすドライバー欲求、そして各生活のテーマやカテゴリーにおけるカテゴリーヒントを発見することができると解説しました。
チャンスポートフォリオから発見した価値観と消費のドライバー欲求を、行動マップと意識マップと共に見てみると、「自然に触れ合うことは人間にとって大切である」「家族友人との暮らしを大切にしたい」といった意識・行動は定着ゾーンに位置。また「好きな人には直接会いたい」、それに伴い「おしゃれを楽しみたい」という意識・行動は回復ゾーンにあります。この結果から、人間本来の欲求に忠実な“人間性の回帰”がデフォルトとなることを予測しています。
一方で、「残業や通勤」「儀礼的な接待」などの仕事関連、「国や大きな組織に頼っていれば安泰だ」という意識は消滅ゾーンに入っていることに注目。他力に頼ってはいられないと、自分の身は自分で守る、リスクに備えるといった意識が定着しつつあるという結果を紹介しました。つまりこれは、自分の力で生きていく自律意識・サバイバル意識が覚醒していることを意味しており、生活者はこれまでの慣習ではなく、自分の意志やルールで要・不要をジャッジするように再構築されている様子がうかがえると説明。これらの調査から、これからの消費を動かす六つのドライバー欲求を提示しました。
また、各生活・テーマにおける「消費の風向きと動かすヒント」を示す、「カテゴリーヒント」について言及。健康・食・美容などの10カテゴリーを、チャンスポートフォリオ分析。その中から「ホーム」(家族・家事・住まい)についての見解を紹介しました。
こうした生活者の再構築に対して、企業は何を再構築していくべきなのでしょうか。これまで人は、コストに対する価値が高い時に価値を感じていました。しかし、コロナを機にそれは変化。コストに加えて、感染などの「物理的リスク」、世間にNOと言われたくないという「心理的リスク」も含めて価値を図るようになっていると言います。
また、消費を促すにはリスクの低減と同時に対価の魅力づけも重要だとし、その分かりやすい例として、「応援消費」を挙げます。応援という大義が心理的リスクを下げ、かつ消費することで自分の欲求を満たす。「応援消費」はごく一例ですが、この両立が、今後必要になっていくと話しました。また、対価の提供は、リアルな刺激に飢えている中で、リアル体験、バーチャル体験、その融合であるニューリアル体験など、どんな体験方法で提供するのか、生活者の期待への応え方の設計も重要であると述べました。
企業価値が再構築すべき事項はいろいろあるが、その出発点は、社会や生活者にとってその企業にどんな存在価値があるのかを見直すことだと杉田氏。価値観や欲求、企業への期待といった生活者のニーズと、企業が持っている資産や思いとの接合点こそが存在意義であり提供すべき価値。そこを改めて見直し、再規定して、広告に限らない各種ソリューションのお手伝いをしていきたいと語りました。