loading...

鈴木おさむ×矢嶋健二が語る、新時代のタレント論

2020/08/20

デジタルやソーシャルメディアを活用し、個人の才能で勝負できる今、タレントはどのように生まれるのか?これからのタレントビジネスの行方は?

タレントの変遷を肌で知る放送作家の鈴木おさむ氏。鈴木奈々、須田亜香里(SKE48)、よしあき・ミチ姉弟などを擁する芸能プロダクション「ツインプラネット」の代表取締役であり、コンテンツプロデューサーでもある矢嶋健二氏。お二人を迎え、電通でデジタルやテクノロジー領域のビジネス開発を推進する奥谷智也氏が話を聞きました。

タレント論
左から、矢嶋健二氏(ツインプラネット代表取締役)、鈴木おさむ氏(放送作家)、奥谷智也氏(電通 統合マーケティングプロデュース部長)

ソーシャルメディアの台頭で、タレントの生まれ方が変わった

奥谷:最近はデジタルやソーシャルメディアから新しいタイプのタレントが多く出てくるようになり、タレントの生まれ方が変わってきたなと感じます。お二人はどのように感じていますか?

鈴木:テレビからスターが生まれていた時代は変わりつつありますね。この前、「M 愛すべき人がいて」(以下、M)というドラマの脚本を書いたのですが、浜崎あゆみさんのようなスターは、もう生まれにくい時代かなと思っています。

そもそも「売れるって何だろう?」と考えたときに、以前はテレビに出ていたら、「売れている」といわれていた。だけど今は、「売れる」の定義はいっぱいある。

奥谷:「売れる」の定義が増えたというのは興味深いですね。

矢嶋:今、「売れる」ためのメディアは、YouTubeやSHOWROOM、TikTok、Instagramなど、たくさんある。タレントも細分化していて、Instagramでは有名だけどYouTubeでは知られていない、TikTokでは有名だけどテレビには出てないから多くの人は知らない、というように特定のメディアだけで有名な人が多い。誰もが知っている圧倒的なスターは生まれにくく、各ソーシャルメディアで活躍するタレントが存在する時代ですね。

鈴木:昔、映画に代わってテレビからスターが生まれたように歴史は必ず変わっていきますから。でも長い間、テレビに代わるものは誰も想像がつかなかった。テレビが絶対王者であると信じていたし…。

矢嶋:もちろん今でもテレビにはテレビの価値があるけれど、それが全てではなくなってきた。同じようなことがタレントにもいえます。タレントって抽象的なイメージですもんね。これからは、例えばメンタリストのDaiGoさんみたいに肩書がある人、専門家に近い人の活躍が増えてくるかなと感じます。

鈴木: 1000万人、2000万人に支持されなくても、1万人の熱烈なファンがいるタレントも成立する。例えば1億円稼ぐタレントって、これまでならテレビでたくさん司会をやっていたり、音楽で売れていたりと方法論は限られていたけど、今はたくさんあります。

奥谷:確かにマネタイズが多様になり、ファンの人数が1万人でも、一人一人のファンの熱量やエンゲージメントが高ければたくさん稼ぐことは可能ですね。

鈴木おさむ

予想不可能!? 新時代のタレントの売れ方とは?

鈴木:昔と違うのは、成功しているタレントたちが、個人で稼げるようになったことです。例えば、ごく普通の女子高生なんだけど、実は、彼女がプロデュースした「つけま」が話題になって売れて1万人のカリスマになることもあり得る。

矢嶋: 今は本当に売れ方が多種多様で、自分を表現するメディアもそれぞれ使い分けていますよね。静止画が得意で写真の見せ方がうまいタレントはInstagramを主体にしたり、動画が得意なタレントはYouTubeやTikTokを活用したり、そのメディアで話題になったらテレビが取り上げ、フォロワーがさらに増えて認知度も上がる。

鈴木:最近の例では、「monogatary.com(モノガタリードットコム)」という、小説やイラストの投稿サイトから火が付いた音楽ユニットYOASOBIの勢いがすごい。サイトに投稿された小説「タナトスの誘惑」をもとに「夜に駆ける」という曲を作ったら、小説との相乗効果で話題になり、YouTubeのMVも人気になった。

そんな中、今度は人気ミュージシャンが出演している、一発撮りで収録されたパフォーマンス映像が人気のYouTubeチャンネル「THE FIRST TAKE」に出演。オリジナルアレンジを公開してまた爆発して、2000万回再生を突破。その後、「めざましテレビ」が取り上げたんです。この間、たったの数カ月ですよ。

矢嶋:YOASOBIの世界観って、おしゃれなんですよね。芸能人にも反響があって、香取慎吾さんは同曲をカバーした動画をYouTubeで配信し、それも話題になってましたね。

鈴木:ラジオでYOASOBIのAyaseくんが言っていたんですが、「良いもの作るだけでは絶対にダメだ」と。これはいろいろなYouTuberも言ってますが、関連動画がアップされるようにキーワードなどの分析も必要だと。要はただのクリエーターではなく、プロデューサーでもなければいけないんです。

矢嶋:従来のやり方だと「曲ができました」ってライブハウスやイベントで楽曲を披露し、そこにお客さんを動員したり、メディアを呼ぶという流れで認知を広めていったと思うんですよ。でも、YOASOBIはまったく違うやり方で、ものすごいスピードで人気になりましたね。今、売れ方が全く変わり、スピードも速く予測不可能って思っている大人たちがいっぱいいると思います。

奥谷:プロデュース能力に長けたクリエーターこそ圧倒的に価値が大きいわけですね。

矢嶋健二

アスリートにも似ている、YouTuberのテレビ活用法

矢嶋:テレビのキャスティングも、ネットやソーシャルメディアを意識してますよね。「TikTokですごい」「YouTubeですごい」っていう肩書を持った上でテレビに出るパターンが多い。そういうタレントは、テレビを一個のメディアとして活用している感覚なんでしょうね。

鈴木:そうそう。僕の知り合いのYouTuberも言ってましたよ。「テレビよりYouTubeの方が圧倒的に稼げる。だけど、テレビではYouTubeと違うキャラを出せるので、認知度アップの作戦のひとつとして出るのはアリ」みたいなことを。

奥谷:あえて別のキャラクターを作ってテレビに出るというのは面白いですね。

鈴木:テレビに出てYouTubeの売り上げを増幅させたいわけだから。同じものをテレビで見れたら、本業の価値がなくなってしまう。そういう意味では、YouTuberってアスリートに似ていますよね。ストイックなプロ。アスリートとして球場にいる自分と、テレビに出ている自分は違うみたいな。

奥谷:アスリートというのは本質ですね。戦う舞台があり、結果がスコアとして明確。という中で、順番はソーシャルメディアが先で、テレビは後なんですか。

鈴木:その傾向はあると思います。最近はネットやSNSで流行っているものをテレビで紹介することがめちゃくちゃ多くなりましたよね。

僕はYouTuberの知り合いも多いけど、テレビ局の会議で、「この芸能人とYouTuberがコラボしたらどうだろう?」とか、「この芸能人にYouTubeを作ってもらおう」とか、たくさんの企画が出るけど、どれも難しいかなと。YouTubeで跳ねている芸能人が全くいないわけではないですが、基本的に芸能人の中でYouTube一本に命をかけてやろうと考えている人は少ないし、YouTubeだけに命かけているYouTuberに勝つのはなかなか難しいかなと。

 奥谷 智也

テレビがもっと面白くなるためには?

奥谷:これからテレビとデジタルメディアが共存していく中で、両者のWIN-WINの関係ってどんな形なんでしょう。

鈴木:今のところ、「M」が一個の成功パターンを出したんじゃないかなと思っています。このドラマは、テレビ朝日とABEMAの共同制作だったので、そのおかげで規模も大きくなりました。そして、テレビ朝日が地上波で放送した後、TVerでは見逃し配信を一切しないで、全部ABEMAビデオで配信しました。

インターネットテレビ局単体でドラマを作るより、地上波とセットの方が、ビデオの再生回数も桁違いに上がる。やっぱりテレビの影響力はすごいですから。地上波とデジタルが組むやり方は、今後も増えるんじゃないかなと思います。

それとテレビはやっぱりプライドを持って、媚びずに面白いと思うものを作ることですね。とはいえ、面白いことを考えている人が持っているコネクションや、外部のプロデューサーの力は相当必要かなって思いますよ。

矢嶋:そう、役割分担ですよね。テレビはテレビの役割がある。テレビで全部を終結させようとするのではなく、役割を理解しながら一個のコンテンツを作っていく。テレビとネット、お互いが尊重し合うことで、タレントの関わり方もいろんな方法論が生まれてきそうです。

鈴木:マネタイズも変わってくるんじゃないかな。例えばですよ、タレントがテレビにスポンサーを引っ張ってこれたら、タレントにもロイヤリティーが入るようにしよう、みたいな。売り上げはテレビ局だけじゃなくて、みんなが頑張った分だけ入るようなシステムになっていくんじゃないかと。

奥谷:面白いですね。新たにサステナブルなインセンティブ設計ができるかもしれませんね。

タレント論2

ゼロ→イチ後から始まる、タレントとプロダクションの関係性

奥谷:タレントプロダクションも、タレントビジネスの方法論が変わってきていますよね。

矢嶋:そうですね。稼げる人は、プロダクションに所属していなくても、テレビに出なくても稼げるようになってきて、これまでのタレントプロダクションのビジネスの前提が変わってきています。

大事なことは、タレント自身がまだ表現しきれていない魅力をいかに引き出すかということ。タレントの価値を客観的に見て、テレビがすべてではなく、SNSでの表現の仕方や個性やストーリー性を生かしたプロデュースまで全方位で考えて、ふさわしい場やパートナーを見つけて提案していくのが、これからのプロダクションのあり方ではないかと考えています。

弊社は、新しく「ビジネスパーソナルシップ」というサービスを始めたのですが、これは事務所所属や個人事務所やフリーランスなどの枠にとらわれず、活躍するさまざまな個人にフォーカスして、その人個人にとって必要な部分だけを提供するサービスです。

マスメディアへの営業活動のサポート、SNS上の誹謗(ひぼう)中傷、権利侵害などのリスク管理、プロジェクトファイナンスなど資金調達の手助け、経理や納税、現場へのマネジャー派遣など。これまで芸能プロダクションとして培ってきたノウハウを生かして、個人で芸能活動する際のさまざまなニーズに応えていくサービスです。芸能プロダクションが一から十までタレントを管理してやるのではなく、役割分担ですよね。

奥谷:タレントの能力に新たなビジネスが掛け合わされるとリターンが大きくなる。それをアレンジしてくれるプロデューサーが必要になってくるということですね。

鈴木:昔は芸能人になりたいというと、ゼロからイチの価値を作ることをプロダクションがやっていた。でも今は、タレント本人が自力でゼロからイチを作れる時代。これからは、イチから先をどう伸ばすかがプロダクションの役割になっていく。

例えば、TikTokで人気のタレントに、「『THE FIRST TAKE』に出たら最高だよね?」って提案するような。でも、出るのは、かなりハードルが高い。今、プロダクションが持つべきコネクションは、テレビ局に加えて、いろいろなメディアやその中のチャンネルがすごく必要だなと感じます。

矢嶋:新しいメディアを開拓してファンを増やす他にも、タレントによっては、その子の商品プロデュース能力を伸ばすことにも貢献できそうです。コロナ禍によってネットで買い物をすることが増えました。従来のタレントの商品イメージモデル契約ではなく、自分の個性や強みを持っていれば、その子がプロデュースするものが売れ始めています。企業とタレントがコラボしながら、自身のSNSを活用しながらダイレクトにユーザーに伝え、本当に良いものを売っていくこともできる。

奥谷:素晴らしい才能に対してどういうストーリーを書いてあげるとスケールするか。タレントの個の力だけだとそのスピード感が1→2→3ぐらいだけど、プロダクションのサポートがあれば、1→10→100→1000にもなりそうです。今後ますます新しいタレントビジネスが加速しそうですね。本日はありがとうございました。