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ワカモンのすべてNo.5

西辻一真×狩野珠奈:前編

「アグリ・ベンチャーを支える未来発想って?」

2014/02/19

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今回のゲストは、貸し農園から農業ビジネススクールまで幅広く展開するアグリ・ベンチャーの先駆者、マイファーム代表の西辻一真さん。ワカモンのリサーチャー狩野珠奈さん(電通関西支社)が、ビジネスのこと、西辻さん自身の働き方、そして若者と農業のこれからについて、いろいろと聞きました。


大きく変わった「農」の捉え方

狩野:西辻さんは大学の学部の先輩で、同じように農学を志しながら別の業界にいる者として、いろいろ伺いたいと思います。最近はよく雑誌などの対談にも出られていますが、若者、特に20代の子から「農業いいね」みたいな反響って、感覚としてありますか?

西辻:ここ数年めちゃくちゃ感じますよ。マイファームがスタートした2007年、リーマンショックの直後も手応えはあったんですが、それはもっと上の世代で、高度経済成長以来初めて経済が下降する可能性を感じた人たちが、将来のためとか、子どものためとか、ある意味「身を固める」ために農業に向かったんです。

狩野:すごく現実的ですね。その頃から菜園ブームや週末農業など“オトナ”の間で農業への興味度が高まり、さらに2008〜09年ごろから“ノギャル”という言葉が出てきて若者にも近い存在になりはじめたのかなと思います。

西辻:でもまだその頃も全然20代には響いていなかったんです。本格的に20代が興味を持ったのはやはり東日本大震災ですよね。震災後から若者がどんどん農業に来る形に変わってきた。マイファームが展開している農業経営ビジネススクール・アグリイノベーション大学校でも、最近は学生が結構いますからね。

狩野:彼らは本気で就農したいと思っていてある意味“ダブルスクール”と捉えているのですか?

西辻:多分まだ世間で「就農」って言うと、農業専従者みたいなイメージがあると思うんですけど、今大学校に通ってくる若者の中に、たとえば畑一面キャベツをひたすら作りたいみたいな農業志望の子はいないんですよ。

狩野:じゃあ、自分なりにビジネス展開を考えているということですね。いわゆる“第6次産業”として捉えている。

西辻:分かりやすい例でいくと、生産者ではなくて、田舎で畑付きのカフェがしたいっていうような“複合生産者”を目指す人が増えている気がします。

未来発想でビジネスを広げる


狩野:マイファームの事業の広げ方には興味深いものがあります。貸し農園でスタートして、畑に来る人に対するサービスが生まれてきて、そして農業家を育てる大学と、農を中心にどんどん生態系のように広がっていて。これはもともと構想があったのでしょうか?

西辻:構想じゃなくて、僕の発想がそうなのかもしれません。何か新しいことをしようと思った時に、この空間にある「今」を見るのではなくて、ここが5年後くらいにはどういう空間になっているだろうっていう「未来」を見て、そこに突き進んでいく感じで事業を考えていくんです。

狩野:なるほど。オトナになるにつれ、目先の課題発想に陥りがちですよね。最近の若者は、まずは就職できるかどうかへの不安が大きすぎて夢というよりも現実的な目の前の課題に奮闘せざるを得ない状況。そんな中、西辻さんの未来発想は新鮮に感じます。

西辻:逆にいわゆる企業のオジサンたちは今を見て考える。だから意見がかみ合わないのは当たり前だと思っていて。オジサンたちは「これがないから作ろう」という考え方をする。でも2~30代の若者は物余りの時代に生まれていて、「ない」っていう原体験が少ないので、基本的に素材は既にあってそれをどう活かそうかと考える。発想の組み立て方が違うんですよね。

狩野:それはすごく面白いですね。若いソーシャルベンチャーを起した方の声を聞いていてもやはり“今あるものを見方を変えて、付加価値をつけて”という発想で、そういう意味ではマイファームの「耕作放棄地」という今ある物を使うという点が共通してますね。

西辻:マイファームの事業も、耕作放棄地には魅力がまだいっぱいあるという前提でスタートしていますし。こういう考え方は、今ソーシャルベンチャーって言われる人たちに共通することだとも思います。

マイファームでは社長が一番下?

狩野:昨年、本社を京都から須磨に移転されていますが、それは契約したい地元の八百屋さんに本気度をアピールするためだったと伺いました。あと、何か失敗した時には丸刈りにしてとか…(笑)。西辻さんのような強い意志の通し方には、なかなか踏み込めない気がします。

西辻:基本スタンスとして「自分は誰にも理解されない」って思ってるんですよ。未来だけ見て動くから。今を見ているお客さんや会社の仲間に、たとえば5年後のメリットを本当に理解してもらうのはすごくむずかしい。なので、できるだけ理解してもらえるよう、相手への姿勢は必死になります。5年後は絶対自分が正しいという自信があるから、本社も移すし、丸坊主にだってできる。

狩野:本社移転はきっと社内でも賛否あったと思うんですが、会社の中での仲間との関わり方とか、組織の捉え方ってどんな感じなんでしょうか?

西辻:うちの会社はちょっと変わっていて、社長の僕が一番下という組織図なんです。普通の組織はどんどん上に上がっていくけど、うちではどんどん下に向かって職階が上がっていく。僕の考え方では、お客さんと現場が一番今の正しいことを言っていて、そこから離れるほど未来のことを語り出すわけで、そこでお客さんから要望が出てそれを議論する時に僕たちが上にいると、「上げていく」ことって結構なハードルになると思うんですね。だから、社長は基本的にNOとは言わないっていうのが組織として大切にしていることで、判断はすべて未来との照らし合わせだということはいつも言っています。


狩野:“上と戦う”じゃなくて“深めていく”という印象で、新しい考え方ですね。そういう組織の作り方って、何か参考にされたものがあるんでしょうか?

西辻:ないですね。ただ2011年に一度会社が崩壊して、僕は社長を降りたことがあって、どうしてそうなったのか自分なりにいろいろ考えた、その反省から生まれているということは言えます。そういう意味で僕は安倍首相と同じで、1回失敗して社内復活したリベンジの人なので、ずっとやってるベンチャー企業の人よりも「これは壊れる」っていう危機察知能力は高くなったんじゃないかと思います(笑)。

狩野:起業時は、インキュベーションオフィスで出会った方とスタートして、同志という感じですよね。社でも“みんなでやる”ということを意識されているようですが、上下関係みたいなものを設けず、それぞれ役割を持って横連携しているような印象を受けます。

西辻:というか、僕って会社勤めの経験は1年しかなくてそこでマネージャ―みたいな経験もないですし、学生時代にクラスやサークルのリーダーをするタイプでもなかったので、人生の中で人をマネージングするということを全然やってきてないんです。僕はそこは得意じゃなくて、でも未来を考える思考力はだいぶ付いた…、なのでマネージメントは人に任せて、良いこと言うしかできませんよみたいになってます。

いつも会社では、みんなが理解できないことを言いだすわけなんですが、それはちゃんと未来を考えるからで…。たとえば、僕の強い思いでアグリイノベーション大学校に養蜂クラスを作ったんですけど、これが毎回満席で。

狩野:ミツバチですか?だんだん数が減っていくのを保護する方法論とか?

西辻:それはみんな言いますが、僕は全然違うんです。実はハチミツって腐らないんですよ、放っておくとハチミツ酒に変わるだけで。じゃあこれからはハチミツを採って直売所にずらっと置いて10年かけて売っていけばいいっていう、こんな商売ってないですよね。

狩野:在庫リスクゼロですね。改めて農業って面白いなと思います(笑)。

※対談後編は3/5(水)に更新予定です。


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【ワカモンプロフィール】
電通若者研究部(通称:ワカモン)は、高校生・大学生を中心にした若者のリアルな実態・マインドと 向き合い、彼らの“今”から、半歩先の未来を明るく活性化するヒントを探るプランニングチームです。彼らのインサイトからこれからの未来を予見し、若者と 社会がよりよい関係を築けるような新ビジネスを実現しています。現在プロジェクトメンバーは、東京本社・関西支社・中部支社に計14名所属しています。ワカモン Facebookページでも情報発信中(https://www.facebook.com/wakamon.dentsu)。