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ワカモンのすべてNo.6

西辻一真×狩野珠奈:後編

「農業にイノベーションを起こす若者たち」

2014/02/26

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前回に続き、アグリ・ベンチャーの先駆者、マイファーム代表の西辻一真さんにワカモンのリサーチャー狩野珠奈さん(電通関西支社)が、ビジネスのこと、西辻さん自身の働き方、そして若者と農業のこれからについて、いろいろと聞きました。

農の業界はまだまだ“ブルーオーシャン”

狩野:西辻さんは農学部からIT企業に就職して1年後、25歳で起業されていますが、ご自身のキャリアプランはどのように考えていたのですか?

西辻:まず、福井県の田舎で家族で家庭菜園をしていてすごく楽しかったという原体験があって、空き農地を利用してたくさんの人が面白い野菜を作って楽しめるよう、研究者になろうと思ったんです。ところが大学に入ってみたら天変地異が起きていて、先生から、世界の食糧不足を解消するために一人当たりの収量を増やすことが大学のミッションだと言われた。当時僕はまだ若くて経済原則もよく分かっていなかったので、それを聞いてすぐ、野菜作りを楽しむ人を増やすっていう自分がやりたいこととは方向が違うと思って。

狩野:農学部だと、ほとんどが大学院に進みますよね。そんな中で学部卒で就職。しかも農業とはまったく違うIT業界を選ばれたのはなぜなんですか。

西辻:3Kといわれる農業についてもっと楽しさを伝えていくことが必要、だから広告会社とかIT企業だと考えたんですが、「農業をしたいので将来は辞めます」っていう就職活動をしたので、ほとんど落ちてしまいました(笑)。

狩野:そこが一貫されてますよね。周りに何と言われようと、自分にとってはすべてが農業につながってるんだと。

西辻:でも今、僕たちだけじゃなく農業界で頑張ってきた人たちの功績があって、確実にいい流れが来ていて、今年か来年あたりくらい、社会人の脱サラ先ランキングに農業が入ってくるんじゃないかと思ってます。それは、一面キャベツを作るという方向ではなくて、未来型の農業で…。

狩野:確かに、最近は“攻めの農業”としてメディアでもよく取り上げられるトピックになりましたし、若者の間でもアグリビジネスの場で活躍する姿が紹介されています。自分で作った野菜を使ってレストランを展開するなど「自産自消」型のビジネスをしている方も多いですよね。

西辻:アグリイノベーション大学校に通う人たちを見ても、盛り上がりを感じるんです。たとえば、31歳モデルっていう女性が受講されていて、どうしてこんな人がって聞いてみたら、卒業後自分でセルフブランディングした野菜のパックみたいなものを作りたいって言うわけです。

狩野:“自分らしい” 農の取り入れ方、面白いです。ある意味、まだ農の業界はブルーオーシャン。有名人プロデュースとか商品開発とか、実は他の業界では当たり前のことも農の業界ではできていなかったんですね。広告も他業界のやり方を例にとることで、まだまだ展開の余地はあります。

西辻:毎週プーケットから通っている人もいるんです。あの島は農地自体は少ないんですけど、そこでできる農業を学びたいということで。あと韓国からアグリビジネスを学びにきている人もいます。

狩野:毎週ですか?日本の農業を海外で展開するという考え方、しかも個人レベルでのノウハウを輸出するのは新しいですね。

未来をリードするためには「若者、バカ者、よそ者」から脱却を


西辻:じゃあ実際に、これから日本の農業がどうなっていくかというと、ひたすら命を守る産業としての農業と、豊かな生活を支える、つまり長生き、健康をキーワードにした農業に大きく二極化してくることは間違いないんですよ。

狩野:とくにTPPなどが進んでいくと、まさにそういう付加価値の部分が重要になってきますよね。

西辻:実は来年くらいに、大学校に“ワサビ科”っていうのを作りたくて。これもやっぱり周りには、なんで就農科とアグリビジネス科というところにいきなり各論が来るんだと理解してもらえないんですけど(笑)、日本の農業は今後確実に健康が基軸になっていくわけで、世界に向けて日本の農業や食べ物が身体にいいということを発信するために、日本でしか作れないものはと考えてたどり着いたのがワサビなんです。

狩野:ちょっと聞くと突飛な感じがしますが、未来から逆算し、かつ日本の強みをマーケティングしてますね。

西辻:もう一つ、これからを考える時に、よく「若者、バカ者、よそ者」って言われますが、ITベンチャーの先輩方を見ると、今彼らはもう若者じゃないですし、その分野に紐づく経験と情報量が多くなっていて、僕らもいずれそうなると思うんですね。だから、今ソーシャルベンチャーって言われる人たちは、未来をリードしたいのであれば「若者、バカ者、よそ者」からそろそろ脱却しないといけない。次の「バカ者、よそ者」は新しい子たちにということで、うちの場合アグリイノベーション大学校をそういう思いでやっています。

狩野:若者はなかなか未来をリードできる存在にはなれないということ?

西辻:続けられないんです。花火を打ち上げることはできるけど、それを10年間打ち続けようと思うと若者のままではむずかしい。これは逆に老舗企業へのメッセージとして、若者じゃないと花火はもう打てませんよということは言いたいです。言い換えれば、大企業からもうイノベーションは起きないと。

ありがとうの総量がステータス

狩野:今若者の間で、ソーシャルビジネスをやりたいっていう人が増えてきてると思うんですけど、西辻さんがめざすソーシャルビジネスの理想形ってありますか?

西辻:僕自身は、ソーシャルビジネスをやってるなんて思ったことは一度もないんですよ。それは僕だけでなくて、いわゆるソーシャルベンチャーって括られている人たちみんなが感じてることだと思うんですけど。ただ、社会にあるものを活かしてビジネスをしようとした時に、そこにある負の部分を何とかしようとしているからこう呼ばれているだけで。自分たちでは普通の中小企業だと思っています。

狩野:本(『マイファーム 荒地からの挑戦: 農と人をつなぐビジネスで社会を変える』)で書かれていた「ありがとう」の総量が自分のステータスだという考え方ですが、「ありがとう」を集めたいとかそういう価値観はどんなところから?

西辻:それは多分、僕が田舎で生まれたからっていうルーツが大きいと思います。田舎ならではのしがらみの中では、いかに多くの人から「ありがとう」を言われて、死んだ時にはたくさんお葬式に来てもらえるかみたいな、そういう感覚が強いので。


狩野:今若者たちが、投稿に「いいね!」をどれだけ押されるかが重要であるように?

西辻:そのリアル版とも言えますね。ちなみに僕は、2011年に社長を降りた時に時間ができたので、ずっと自分の人生設計を見直したりしてたんですけど、65歳で他界、50歳で引退しようと思っているんです。なのでマイファームにいるのは40歳までかな。

狩野:他界の年まで(笑)。40歳で会社を辞めるなんて、会社そのものにはこだわりないのですか。

西辻:マイファームは一つのツールであって、これが僕にとってゴールではないんですよね。でもトップランナーで居続けるためには、いつも一番むずかしいと言われているところに挑んでいきたいというのはあります。

狩野:西辻さんたちの功績もあって、今は初心者でも簡単にできる菜園キットが出てきてたりとか、これからは若者の「半農半X」みたいなことも増えていくだろうし、すごく農業に対して間口が広がったと感じます。最後に、若い人たちにどう農業を捉えてほしいとか、関わってほしいとか、描く未来はあれば。

西辻:野菜作りをしてみると必ずみんな、自分の力が及ばないことがあるということに気づくと思うんです。相手は自然であって、その成長はコントロールできないですから。育てるっていう時間を持つことで、自分について考える時間が生まれてくる。そういう意味で、農業がこれからの人たちの生活を豊かにしていく方向に行くといいな、という思いはあります。

狩野:ありがとうございました。今回西辻さんにお話を伺う中で、農の可能性を再認識しました。私も改めて農に向き合ってみようと思います。


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【ワカモンプロフィール】
電通若者研究部(通称:ワカモン)は、高校生・大学生を中心にした若者のリアルな実態・マインドと 向き合い、彼らの“今”から、半歩先の未来を明るく活性化するヒントを探るプランニングチームです。彼らのインサイトからこれからの未来を予見し、若者と 社会がよりよい関係を築けるような新ビジネスを実現しています。現在プロジェクトメンバーは、東京本社・関西支社・中部支社に計14名所属しています。ワカモン Facebookページでも情報発信中(https://www.facebook.com/wakamon.dentsu)。