リモートワークで進化する、新時代のデザインコンサルティング
2020/09/28
世界的なデザインファームfrogと電通がコラボレーションして取り組んでいる「デザインコンサルティング」。新型コロナウイルスの影響で定着しつつあるリモートワークによって今、ますますの伸展を見せようとしています。
リモート環境下で行われている“新たなデザインコンサルティング”とはどんなものか。離れているからこそ、デジタルだからこそ見えてきた可能性とは?frogとプロジェクトを行うCDCエクスペリエンスデザイン部の岡田憲明氏が、ニューノーマル時代のデザインコンサルティングについて解説します。
リモートワークには忖度が起こりにくい。だからフラットに議論できる
私たちが提唱している「デザインコンサルティング」とは、デザイン思考やエクスペリエンスデザインを含む、より広義な課題解決の手法です。アートディレクターやビジネスストラテジストなどから成るデザインチームがビジョンや戦略の立案といった上流工程から参加。顧客企業に入り、「人にとっての価値」に寄り添ったインタラクションモデルを開発・実装し、その後のマーケティングや広告活動まで、一貫して関わり続けています。
これら業務の、特に上流の部分と相性が良いと感じるのが、コロナ禍で定着しつつあるリモートワークです。現在は主に、課題を整理するワークショップやインタビュー、ヒアリングの際に、「Microsoft Teams」や「Zoom」、ホワイトボードアプリの「miro」を活用したリモートワークを行っているのですが、対面でのミーティングに劣らない、場合によってはそれ以上の成果が得られていると実感しています。
デザインコンサルティングにおける上流工程とリモートワークの相性が良い理由、そのひとつが「リモートワークには忖度が起こりにくい」こと。ウェブ会議ツールの画面はほとんどの場合「均等割り」です。社長であっても社員であっても、同じツールを使って、同じ条件で話し合わなければなりません。
また、自宅をはじめとする生活の場から参加する方が多く、リラックスして話し合えるところもポイントでしょう。会社ではパリッとしたスーツを着ている上司が普段着で登場したり、背後から子どもやパートナーの声が聞こえたり…。参加者が自然体に近いコンディションで、フラットかつのびのびと意見を言うことができるのです。
これはオフラインで行うワークショップで伝えている、「対等な関係で意見を言い合い、互いの意見を否定せずにアイデアを膨らませる」ことや「なるべくスーツでなくリラックスできる服装で参加しましょう」というルールを拡張したような感覚があります。
また、簡単にログが残せるところも、大きなメリットでしょう。動画、音声、チャットなどの履歴がすぐにデジタイズされるため、視覚的に分かりやすい状態で振り返りができます。開発やデザインといったアウトプット作業をしていて、「そういえばあのときの共通見解は何であったか?」と疑問に思ったときなど、すぐに答えを引き出すことができるのです。
これまでのようにタイピングした議事録やサマリーを掘り返すのではなく、もっと簡単に、加工されていない生々しい発言に立ち戻ることができる。上流と下流の行き来がしやすく、frogと電通が大事にしている“体験戦略から実際のデザインまでをつくる”というプロセスに一貫性が生まれ、クオリティーの高いものが効率よくつくれます。
距離や時間の制約が少ないところも魅力です。海外のfrog、国内の電通、そしてさまざまな場所で働く顧客企業の関係者など、あらゆるステークホルダーが簡単に、一堂に集まれるようになりました。また、時差を活用して、海外のチームが行った作業を、彼らが寝ている間に進めてしまうということも。こうしたコラボレーションが、リモートシフトでグンと加速しています。
冒頭でも述べた通り、デザインコンサルティングとは、人にとっての価値に寄り添い、デザイン思考で取り組むコンサルティング業務です。さまざまな人が本音でフラットに話し合うこと、そして、あらゆる情報にアクセスして何度も振り返り整理しながら本質を突き詰めることが欠かせません。こうした性質を持つデザインコンサルティングは、withコロナ、afterコロナの世界に適した業務です。世の中のリモートシフトによって、今、大きな価値を発揮しつつあると感じています。
frog×電通ならではの「効果的なオンラインワークショップ」とは?
frogと電通は、常に細やかな準備を行った上でワークショップを行っています。各クライアントに合ったオリジナルのプログラムを考え、ファシリテートの仕方や内容を精査して、各工程の時間を綿密に計算し、ワークシートやツール類を綿密に作り込む…。大枠のアジェンダだけを決めて即興に頼るのではなく、緻密さと組み立てを武器に、クライアントとアイディエーションや合意形成をしてきました。
これら対面のワークショップで培ったノウハウは、オンラインのワークショップでも生かされています。あらかじめワークショップの工程が分かるよう「miro」にアジェンダや資料を細かく整理して貼り付けておいたり、参加者が作業しやすいよう各資料やワークシートをデザインしておいたり。参加者一人一人にフレームと呼ばれるオンライン上の“机”を用意しておき、個別作業がしやすくなる工夫もしています。
しっかりと事前準備を行ったら、いよいよオンラインワークショップの開催へ。ポイントとなる工程の一つが、冒頭に行うアイスブレークです。対面ワークショップの場合にも自己紹介や交流のために行うことが多いのですが、オンラインの場合は、さらに「ツールに慣れてもらう」という目的が加わります。あるワークショップでは、参加者に「コロナが収束したらどこに行きたいですか?」と問いかけて、事前に用意した世界地図に付箋を貼ったり、名前を書き込んだりしてもらい、楽しみながら使い方を覚えてもらえるよう工夫しました。
その後は、成功基準を考え整理する「サクセスクライテリア」などの作成へ。プロジェクトの目的を決めるために、このケースでは直近と将来の成功指標に分けて成功基準を洗い出しました。関連するキーワードや意見を対面のワークショップと同様に付箋に書き出し、「miro」にペタペタ貼り付けて、カテゴライズしたり、ドットシールを貼って投票したりします。
オンラインの良いところは、動画や音声だけでなく、作成したマップやサクセスクライテリアなど、ワークショップが終了した状況と遜色無い状態ですべての履歴をデータとして保存しておけるところです。手元のPCですべてのデータを参照できるため、ワークショップの後、ストレスなくシームレスに実制作に入っていけるのです。
ちなみに「miro」は、コロナ以前からfrogで活用されていたツールです。「miro」の使用実績、緻密に練り込まれた対面ワークショップのノウハウ、そしてリモートの強みが掛け合わさり、より効果の高い、frog×電通独自のオンラインワークショップが生まれています。
リモートワーク×デザインコンサルティングは、今後も進化し続ける!
多くの強みがあるリモートワークでのデザインコンサルティング。一方で、課題も存在しています。
私が難しいなと感じているのが、絵的に物事を理解すること。ワークショップで話したこと、理解したこと、整理したいことを、その場でパパッとイラストやダイヤグラムにまとめ共有しにくいのです。対面の場なら手描きのものをその場でシェアすれば済みますが、オンラインの場合は、ツール上で絵や図を描いてもらったり、手描きのものを撮影してアップしてもらったりしなければなりません。
また、デザインコンサルティングの核の部分である人との共感も、ややしにくい部分があると感じています。相手の声、表情、ちょっとしたしぐさや息遣いなどを五感で感じ取る、いわゆる行動観察がしにくく、視覚のみに頼ることが多くなってしまいます。
ただ、こうした課題は、例えば新しいインプットデバイスや、ウエアラブルデバイスの登場などによって、なんらかの形で解決していくのではと予測しています。リモートワークによるデザインコンサルティングは、またまだ発展途上です。これからも変化し、進化し続けていくことでしょう。今後もトライアンドエラーを繰り返しながら、最良の形を探し続けていきたい。frog、電通、双方の知恵と経験を持ち寄って、未来のデザインコンサルティングを追求したいと思っています。