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frog×電通のデザインコンサルティングNo.2

日本企業のイノベーションを促進するには?~ frog×電通が描くビジョン

2020/05/22

電通と世界有数のデザインファームであるfrogは、デザインによる企業イノベーションと事業成長を支援するため、2016年から業務提携をスタートさせました。

現在はfrogのイオン・ネデルク(Ion Nedelcu)氏が電通に常駐し、クライアント企業の顧客体験デザイン、成長戦略のためのサービスを、電通のスタッフと共に提供しています。

日本企業がイノベーションを創出するために必要なことは?デザインコンサルティングによってどのような事業課題を解決できるのか?

ネデルク氏と電通 CDCエクスペリエンス・デザイン部の岡田憲明氏の対談を通じ、frog×電通が描く「デザインコンサルティング」のビジョンを伝えます。

frog×電通
frogのイオン・ネデルク氏(右)と電通CDCの岡田憲明氏(左)

ユーザー体験に着目し、事業課題を解決

岡田:前回の記事では、デザインコンサルティングの概要について説明しました。

frog×電通のデザインコンサルティング

frog×電通のデザインコンサルティング1
frog×電通のデザインコンサルティング2
こちらがfrog×電通が行う「デザインコンサルティング」の範囲。コンセプトや戦略策定といったプロセス上流から、インタラクションモデルの開発・実装への関与、アクティベーションといった下流までを含む、総合的なサービスとして提供する。

今回は、frog×電通のビジョンを詳しくお伝えしたいと思います。その前段として、frogがデザインファームとしてこれまでどのような活動を行ってきたのか、紹介していただけますか?

ネデルク:frogはグローバルな拠点を持つデザインファームであり、世界中でデザインによるイノベーションを支援しています。昨年50周年を迎え、今では約700名の社員を有する企業に成長しました。コアとなる事業は、エクスペリエンスの創造。顧客体験に着目して事業課題を解決し、ユーザーに愛されるエクスペリエンスを提供しています。

岡田:frogは、過去にソニーやAppleのプロダクトデザインを手掛けていましたよね。プロダクトデザインだけでなく、経営戦略の立案などの上流工程から携わるようになったのはいつ頃からですか?

ネデルク:創業者のハルトムット・エスリンガーはインダストリアルデザイナーであり、frogでも長らくプロダクトを設計してきました。1980年代に入り、世の中のデジタル化が進むと、frogもデジタル領域に事業を広げ、最初のデジタルスタジオをテキサスに構えることに。それを機に、上流工程に範囲を広げてデザイン思考のコンサルタント会社としての機能を強化していったのです。

岡田:日本では、2010年代からデザイン思考が広く浸透し始めました。欧米ではデザイン思考による課題解決、ビジネス構築は一般的なのでしょうか。

ネデルク:そういったトレンドがあることは明らかです。もはやデザインを物理的で形のあるものとして捉えるのは、やめた方がいいでしょう。例えば車も、開発者視点ではなく、ユーザー視点で運転のしやすさや乗り心地を重視してデザインされています。他のプロダクトも、そんな逆転の発想によるデザインが増えています。

岡田:frogはデザインコンサルティングの先駆者として、成長を続けています。その強みはどこにあるのでしょうか。

ネデルク:一番の強みは、人材だと思います。クライアントに対し、なぜわれわれに仕事を依頼したのか尋ねると、まず「実績があり、信頼がおける」という点が挙がります。また、未来を予測できることも強みでしょう。難しいことではありますが、今後どのような未来になっていくのか想定し、クライアントがそちらに近づくようお手伝いをしています。

Ion Nedelcu氏

frogのデザイン力と電通のネットワークを融合し、イノベーションを加速

岡田: もともと電通はエクスペリエンス・デザインに取り組み、デジタルメディアでのサービスを提供していました。デジタルのソリューションを数多く手掛けてきたfrogとは、相性が良いはず。しかも、frogのプロダクトにはしっかりしたDNAがあります。上流工程にコミットするだけでなく、モノとしてのデザイン価値が高いところに魅力を感じました。frogは、電通のどこに魅力を感じて業務提携したのでしょうか。

ネデルク:電通は世界有数の広告会社であり、日本を代表する大企業です。われわれのスキルや欧米での経験と電通の知見を組み合わせれば、日本でも大きな成功を生み出せるのではないかと思いました。デザインコンサルティングに基づくモノづくりの手法はfrogが提供し、クライアントとの関係性や伝統的なメソッドについては電通とのパートナーシップが保証する。そのようなコラボレーションに期待しています。

岡田:業務提携後は、クライアントワーク以外にもfrogとさまざまな取り組みを進めてきましたよね。2018年の人材交流プログラムでは、frogからさまざまな背景を持つ5人のクリエイティブディレクター、ストラテジーディレクターを招き、電通のクリエイター58人に対してさまざまなワークショップやレクチャーを行いました。目的は、電通のクリエイターが事業課題の解決能力を習得・強化すること。デザインコンサルティングのメソッドを使えば、従来のマーケティング業務に関してもプロセスを改善できるのではないかと考えました。

ネデルク:ワークショップを通じ、電通のクリエイターの能力の高さを再確認しました。新しい課題解決の方法を常に探している、オープンな方が多いですよね。

岡田:ありがとうございます。私がこのワークショップで気付いたことは、2点ありました。一つは、ビジネスモデルのフレームの中で考えたアイデアの方が面白くなることが多いこと。従来、広告領域においては、クリエイターの自由なアイデアがクリエイティブのジャンプ率を上げることにつながっていました。

でも、顧客と共感し、コンタクトポイントを決め、その枠組みの中でアイデアを出すといったフレームワークの中でアイデアを考えることで、実に面白い発想が生まれてきたんです。電通クリエイターの価値をさらに発揮できる場が増えるのではないかと思いました。

もうひとつは、電通のクリエイターとデザイン思考の相性の良さ。デザイン思考は、ユーザーをどう観察し、どうやって共感して、どのようにアイデアを導くかが重要です。その点、電通のクリエイターはディレクターとして人や物事を観察する達人であり、意思決定をし、物事を推進するプロです。

電通クリエイター自体がデザイン思考を身に付けるのもよいですが、優れたファシリテーターの導きによって電通クリエイターが事業課題に対するアイデアを考えると、効率的にソリューションを展開できるのではないかと思いました。

ネデルク:例えば、どんなワークショップが印象に残っていますか?

岡田:ある鉄道事業者について、中期経営計画の内容を体現するサービスアイデアを考えるワークショップです。

まず、中期経営計画の読み解きや経営者へのインタビューから戦略を理解し、その上で企業が保有する資産やデータから、ペルソナを若い買い物客、インバウンド客、交通弱者と定義しました。そこから各コンタクトポイントを定め、顧客がどのような行動や感情なのかを考え、その行動の中からサービスチャンスと具体的なサービスアイデアやその体験を発想しました。

アイデアを自由に考えるクリエイターの発想力も重要ですが、顧客と共感しコンタクトポイントを設定したり物事をフレーム化する能力も非常に重要です。

岡田憲明氏

デザインコンサルティングを通して、イノベーションに寄与したい

岡田:日本は、イノベーションを生み出そうとしつつもなかなか結果が出ない企業が数多くあります。ネデルクさんの目には、こうした現状はどのように映っていますか?

ネデルク:日本に限らず、世界各国の企業でイノベーションに取り組んでいますよね。でも、シリコンバレーにクールなオフィスを構えることがイノベーションではありません。大切なのは、なぜイノベーションが必要なのか、戦略や目的をしっかり持つことだと思います。

また、事業部門がイノベーションをどう評価するかも重要です。イノベーションは、会社の未来の基盤づくりです。未知に挑むのがイノベーションですから、失敗はつきものでしょう。イノベーションと失敗は車の両輪のようなものと捉え、評価軸を見直すべきではないでしょうか。失敗を恐れず国内外でさまざまなチャレンジできたら、日本企業は今以上にイノベーションを起こせる可能性があります。

岡田:日本企業をひとくくりにすることはできず、大企業とベンチャーではステークホルダーの数や意思決定プロセスが全然違うのでプロジェクト設計が大きく変わってきます。会社ごとに難易度は変わると思いますが、どちらにせよ経営層レベルのステークホルダーがビジョンを持って意思決定し、組織として意思統一できることが大事だと思います。

加えてイノベーションの目標設定も重要です。イノベーションというと、ややもするとアカデミックで夢のある話のみだと思われがちですが、企業の中での文脈でいえば例えば単純にお金を稼ぐという事が主目的でもいいと思うんです。稼げる事業を創出しようと考えれば、真剣にイノベーションに取り組む人も増えると思います。

ネデルク:日本企業は、人材の配置転換がよく見られます。ですが、欧米ではほとんど異動がなく、特定の専門分野に留まります。日本企業が海外のパートナーに依存するのは、配置転換により人材が異動した際、その人に付随する知見が失われるからです。こうした企業体質もイノベーションが起こりにくい原因の一つかもしれません。

Ion Nedelcu氏その2

岡田:電通とfrogとの業務提携から約3年半がたち、課題も見えてきました。ネデルクさんは、今後どのような取り組みをしていきたいと考えていますか?

ネデルク:frogが重視しているのは、ビジネス上の課題に対応し、それによって顧客価値を生み出すこと。そして、ユーザーのエクスペリエンスを高めることです。もっとこの2点の質を上げることができるのではないかと思います。

また、日本の企業は、プロセスを重視します。しかもデザインコンサルティングを受けるのは初めてというケースが多いですから、AからZまで道筋を知りたいのは当たり前。各フェーズでプロセスを詳細に説明し、「だからアウトプットがこうなった」と理解していただくことが大事だと思います。電通とのハイブリッドモデルで、より多くのクライアントに質の良いサービスを提供したいと考えています。

岡田:確かに、デザインコンサルティングはまだ十分浸透しておらず、クライアントの理解も足りていないと感じています。ベンチャー企業の場合はインハウスでデザイナーや開発者も居るので、われわれと共同で上流部分を考え、ハンドオーバーして実施フェーズを彼らに受け継ぐことも可能です。大企業の場合は、戦略から実施まで通しでサポートする必要も多く、どうしても最初の段階から予算規模を求めてしまうのが課題です。

その上で現在検討しているのが、frogと電通のデザインコンサルティングにトライアルできるプロジェクトです。デザインコンサルティングの手法を体感し、確かに投資すべき領域だと理解してもらうためにも、トライアルプロジェクトのプランをいくつか用意しています。

ネデルク:そうですね。

岡田:電通としては、既存事業であるマーケティングやブランディングに関しても、デザインコンサルティングの考え方を取り入れたいという思いもあります。ネデルクさんは、日本での目標はありますか?

ネデルク:電通の良きパートナーでいたいと思います。そのためには、より多くの社員に声をかけてほしい。そうすると、電通の方々にもデザインコンサルティングの考え方をわかってもらえるのではないかと思います。違う観点、違う感じ方を、frogから学んでほしいですね。

岡田:frogとして、日本に拠点を構えることも考えていますか?

ネデルク:ええ、それが目標のひとつでもあります。電通とfrogのパートナーシップをより強固にし、クライアントに対するサポートを強化するためにも、われわれが日本に拠点を持つのは良いことだと思います。ローカルでの競争力も高まりますしね。

岡田:物理的な距離が近ければ、クライアントも話しやすいですよね。frogは上海にもスタジオがありますが、皆さん英語ができましたし、frogが行うデザインコンサルティングの手法を実施できる方ばかりでした。東京でも同じレベルに到達できれば、frogと電通の業務提携も成功だと思います。

ネデルク:その通りだと思います。日本にスタジオを置くことで、日本のマーケットによりマッチした人材育成ができると思います。その一歩として、ぜひ電通とのコラボレーションを促進したいですね。