イノベーションを生む、ビジネス課題の解決手法~デザインコンサルティングとはなにか?
2019/12/06
電通は2016年から、世界的なデザインファームであるfrogとの業務提携をスタート。frogのデザイン力と電通の総合力を組み合わせて、「デザインコンサルティング」という新領域のソリューション提供を行っています。
本連載では、そもそもデザインコンサルティングとはどのようなものなのか?という基本や、実施の座組みなどを、frogとプロジェクトを行っているCDCエクスペリエンスデザイン部の岡田憲明氏が解説します。
上流から下流まで、デザインチームがプロジェクトを推進する「デザインコンサルティング」
frog×電通が提唱している「デザインコンサルティング」は、デザイン思考やエクスペリエンスデザインの考え方が土台となっています。
デザイン思考は、人の行動、心地よさ、共感などに着目し、主にインタビューやフィールドワークなどのリサーチを通じて人間にとって価値のあるものを考えます。そして、アイデアの創出とその価値検証を、各種類のトライアンドエラーを繰り返しながら行い、課題を解決する方法です。
エクスペリエンスデザインは、ウェブ電通報で過去にも述べていますが、事業開発や商品開発に当たり、さまざまな顧客接点における「ユーザー体験」に着目して課題を解決する手法のこと。さまざまな顧客接点のユーザー価値を考え、最終的には、エンドユーザーに優れた体験を提供することを目指していく手法です。
多くの企業や組織が、今、時代に即した課題解決を行うための新しい考え方や視点を求めています。課題により高いレベルでしっかりとコミットするため、frogと電通は、コラボレーションをして「デザインコンサルティング」を行っています。
私たちのパートナーであるfrogは、AppleのMacintoshなど、革新的なプロダクトデザインを手掛けたことでも知られる世界的なデザインファームです。全世界で700人以上のスタッフが働いており、そのうちの約7割がデザイナー。残り約3割がストラテジストとテクノロジストで構成されています。
プロダクトデザインの優れたDNAを受け継ぎながら、デジタルデザインやフィジカルデザイン、そして今日ではエコシステムやAIのデザインなどに取り組んでいます。デザイン、ビジネス、テクノロジー、それぞれの分野の人材が、互いの領域を理解しながら、ときに重なり合いつつ業務に当たっています。
frog×電通が行うデザインコンサルティングの最大の特徴は、ビジョンや戦略の立案といった上流工程からデザイナーが加わり、最終的な顧客接点となるモノのデザインをつくり、さらにはそこで生まれた成果物のアクティベーションまで一貫して関わり続けるというところ。世間で主流とされている従来のデザイン思考の考え方、つまり非デザイナーがデザインの視点で新しいアイデアを立案するものとは座組みが異なります。また、よくある「戦略立案など、ファネル上流部分にだけコミットする」という伝統的なコンサルティング業務とも大きく違います。
frog×電通のデザインコンサルティング
上流工程にデザイナーを投入するメリットは、人のさまざまな行動を踏まえながら、人にとって本当に価値のあることを自由に考え、その上でビジネスロジックを組み立てていけるところにあります。テクノロジーやビジネスありきではなく、出発点はあくまで「人にとってどういう価値があるのか」を考えることからプロジェクトがスタートします。
さらに、戦略に基づいたデザインを構築、インタラクションモデルを開発・実装してマーケットに送り出し、その後のアクティベーションまでデザイナーが中心となって行うことで、プロジェクトをブレなく実現していくことが可能です。
デザインコンサルティングを行うチームは、frogと電通、それぞれの組織から適した人材を選りすぐって構成されます。アートディレクター、ビジネスストラテジスト、デザインテクノロジストの3職種の人材を中心に据え、プロジェクトマネージャーが管理する形が基本です。その周辺に、ビジュアルデザイナーやインタラクションデザイナー、デザインリサーチャー、フロントエンドエンジニアが控え、一つ一つの案件に応じて臨機応変に対応します。
このチーム編成にすることで、「人にとってどういう価値があるのか」から始まったアイデアを、コスト面、技術面などから検討し、最終的に「実現可能な戦略」に落とし込めます。
デザインコンサルティングのチーム構成
frog×電通が目指すのは、1から1000を生み出すイノベーションを起こすこと
frog×電通にクライアントからいただくご案件は、大きく二つのタイプに分かれます。
「何かイノベーションを起こさなければならないことは分かっているけれど、何をやればいいのか分からない」
というものと、
「すでにあるものをなんとかしたい」
というものです。
前者の案件としては、例えば大手ハウスメーカーの顧客体験を変えるような新しいサービス・仕組みの構築を実施しました。また、後者の案件としては、上場企業の社内ポータルを企業の方針に則ったまったく新しいプラットフォームに変える取り組みを行っています。
さまざまな案件をfrogと一緒にやってきて、改めて感じているのが、「一つも同じ案件はない」ということです。同じメソッドを展開して、イノベーションの出来上がりということはまずあり得ません。必ず課題を聞いて、プロジェクトを設計して、一つ一つの顧客に対し、フレームや構造を変えています。
デザイン思考にはいくつものメソッドがありますが、世間を見ると、どの案件にも似たようなカスタマージャーニーマップやフレームワークを用いるなど、メソッドをそのまま当てはめているケースが本当に多いと感じます。よくfrogのスタッフと「それではデザイン思考の本当の価値が発揮できていない」と話しています。
また、0から1を生み出すことのみに注力し、アイデアは思い付くものの、それを具体的にカタチにして人々に価値ある体験を提供するところまでいかないケースも見られます。
frog×電通が目指しているのは、0から1の革新的なアイデアを生み出すことにとどまらず、1から100でそのアイデアのユーザー体験を深く設計し、100から1000で描いたユーザー体験を現実化する具体的なデザインを作成し、1000を減らすことなくその数を増やすアクティベーションを行い、イノベーションを起こすこと。つまり、コンセプトや戦略策定などの上流で議論をして終わるのではなく、生まれた1を、責任を持って世の中に広げることを目指しています。
次回は、電通に常駐しているfrogのIon Nedelcu氏との対談を通し、私たちのビジョンをより具体的に伝えていきます。