YouTubeクリエイターのすごさをUUUMと一緒に考えるNo.1
インフルエンサーの強みは“信望性”。YouTubeクリエイターのすごさを考える
2020/10/01
YouTuberやインスタグラマーなど、個の発信者が隆盛を極める中で、インフルエンサーの社会的な注目度が高まり、それに比例して広告主からのニーズが上昇しています。
なぜ、YouTuberは生活者に受け入れられているのか?その理由により深くアプローチするため、電通は2018年からUUUM株式会社と共同調査を進めてきました。本連載ではその成果を報告します。
連載では次の3点を解説します。
・YouTubeクリエイター(インフルエンサー)は今、生活者にとってどんな位置価を持つのか
・YouTubeクリエイターの動画を生活者が熱量高く見てしまう理由(脳波計測リサーチ)
・UUUM+電通の考えるYouTubeクリエイターのソリューション力
初回は、2018年末に実施したインフルエンサーの影響力についての調査知見のエッセンスをまとめ、本連載の後半につながる議論の下地を整えます。なお、当調査については既にUUUMからニュースリリースが発信されており、今回の内容もそれに準じるものとなります。
https://www.uuum.co.jp/2019/04/15/33670
先んじて、今回の調査から得られた発見をお伝えします。
1.生活者の購買プロセスにおいては、自分に合うという「親和性」の重要性が高まっている
2.インフルエンサーに対しては、個人の親しみや共感を意味する「信望性」を感じている
3.インフルエンサーの「信望性」は、その活動の内発性や本音感に支えられているインフルエンサーは、生活者の“新しい情報ポジション”として独自の価値を築いていることが分かりました。以下、1~3の発見について解説します。
自分に合っているか納得する「親和性」の重要性が高まっている
SNS普及後の生活者は、購買プロセスにおいて、自分が最適な選択をするために商品・サービスを合理的に比較検討するようになりました。それに加え、本当に自分に合っていると納得するための「親和性」を重視するようになっています。
ただし、「これまで生活者は価格やスペックを基に合理的に購買選択を行っていたが、現代では親和性や共感を重視するようになっている」という、耳当たりよく頻繁に語られる図式には、少々留保をつけておく必要があるでしょう。さも新しいシフトが起こっているかのように語られがちですが、筆者は別の見方を持っています。
「限定合理性」という考え方があります。“生活者の情報行動の多くが、得るべき情報の選択肢をすみずみまで検討して最適なものを選んでいる”というのはかなり理想的な仮定に基づいており、知識・時間・体力の制約から人々は最初に出合った「条件を満たすもの」に満足して探索を中断しているのだ、という見方です。つまり、合理的な判断は常に未完に終わり、その中断の仕方が変わったにすぎない、と捉えるのがより正確でしょう。
特に今回の調査では、「インターネットでものを買うことが多い現代人は、他者の推奨によってすぐに決めてポチるものだ」という多くの人が抱くイメージ──つまりは、「即断しがち説」が本当なのかどうか、それを検証したいと筆者は考えました。
結論を先に言うと、その仮説とは逆の示唆が得られました。インフルエンサーに影響を受ける人ほど購入に慎重な、賢い消費者であることが見えてきたのです。
私たちは「一般層」「SNS影響層」「インフルエンサー影響層」という三つのセグメントを設定し、商品の購買に至るまでに
「その商品に興味を持った」
「その商品について調べた」
「その商品を他の商品と比較した」
といったファネルにおいて意思決定のステップをいくつたどるかを聴取しました。
平均回答数は一般層で2.39回、SNS影響層で2.74回、インフルエンサー影響層で3.14回という結果が得られました。インフルエンサー影響層は一般層よりも、「買おう!」「決めた!」となるまでの検討回数が実は多く、慎重に検討を重ねる層であることが分かります。
同様のことが、認知から購入までの判断時間の長短についてもいえます。図表1は、左にいくほど即断をする率が高く、右にいくほどよく悩むということを示しています。一般層が10分未満、30分未満…といったところでより多く決断していくのに対して、インフルエンサー影響層はそのスコアが低いことが分かります。
特に“即断”といえる「1日未満まで」の割合を見てみると、「一般層>SNS影響層>インフルエンサー影響層」でした。つまり、即断をするよりも、ちゃんとものを考えていろいろな情報を収集して、その中でインフルエンサーに影響を受けることで最終的にものを買っているのです。
【図表1】
このような購買プロセスにおいて、商品購入の決め手になる意識変容として「その商品が自分に合うと感じた」を挙げたのは、一般層で33.9%、SNS影響層で38.0%、インフルエンサー影響層で44.0%となっています。インフルエンサー影響層は比較・納得のフェーズで「自分に合うかどうか」という親和性を重視しており、そこにインフルエンサーの情報発信が役立っていることが分かります。
この結果からは、SNS影響層とインフルエンサー影響層は必ずしもインフルエンサーの推奨で「衝動買い」するようなことはなく、「自分に合うか」という基準を大事にしながら丁寧に比較検討する「慎重な買い手」であることがうかがえます。
インフルエンサーの価値は「信望性」にあり。マスメディアへの露出で「信頼性」も上昇
現代の生活者はさまざまなメディアから日々情報を得ています。では、その横並びの比較においてインフルエンサーの情報発信はどんな価値を有しているのでしょうか。
図表2は、インフルエンサー影響層の視点で各メディア・情報源を「信頼性」と「信望性」の軸でグラフ化したものです。前者は、社会的な信用、伝統といったリソースを裏付けとするもので、後者はパーソナルな親しみ、好感、共感性を意味しています。どちらがより重要かということではなく、情報メディアの多様化によって生活者は異なる判断基準を明確に持つようになった、という仮説の検証が目的です。
※「信頼性」については、調査項目の、サービスやメディアは「広く認知されている」「価値が保証されている」「これからも長く続いていく」の合計スコアを尺度として用いています。一方、「信望性」については、「好感や親しみ」「等身大である」「相性が良いと信じられる」のスコアを合計したものです。
【図表2】
縦軸が信頼性のスコアを指しており、テレビやポータルサイトが上位にきています。そしてテレビ・新聞の公式サイト、新聞、雑誌などが続きます。具体的なスコアは、テレビは信頼性が77.0%、信望性は24.7%。有名ポータルサイトAは信頼性が69.3%、信望性は17.7%。どちらも信頼性では優位となっており、第2象限に位置しています。毎日ちゃんと新聞が届くことなど、情報の質はもちろん、それを支える社会的な装置の盤石性が影響していると考えられるでしょう(メディアの社会性・産業性の側面)。
その一方で、信頼性は高くないが信望性は高いものとして、「家族・友人・知人」や店舗での店員との会話、あるいは口コミなどが挙がります。確かに日常的にこうした場で得る情報には一般性はないものの、「私」にとって親しみや共感といったフィルターをくぐって浸透してくるものに他ならないわけです。
では、信頼性と信望性はトレードオフなのでしょうか?
そうではないことが第1象限に注目すると分かります。ここに位置するYouTubeクリエイターは信頼性が54.7%、信望性が66.1%。そして、Instagramクリエイターは信頼性が55.1%、信望性が68.5%となっています。信頼性に加え、他のメディアや情報源と比較して信望性が高いスコアとなっており、どちらも特異的なポジションを獲得しています。
またYouTubeよりもYouTubeクリエイター、InstagramよりもInstagramクリエイターの方が信望性スコアが高いことも、ここでの論旨に合致しています。
なお、信頼性と信望性は対立する指標ではありません。信望性の高いインフルエンサーも、信頼性の高いマスメディアに露出することで、より自身の信頼性を高めるといったサイクルが生まれます。
具体的な調査設問で確認すると、YouTubeクリエイターについて、「他のメディア(テレビやネットなど)に出ているのを見かける」ことが「広く認知されている」ことだと思う人は、一般層で55.5%、SNS影響層で50.2%、インフルエンサー影響層で42.3%となりました。一般層の方が高いスコアになっているのが示唆的です。同様に、Instagramクリエイターについて、雑誌に出ていることで「価値が保証されている」と思う人は、一般層で40.5%、SNS影響層で16.4%、インフルエンサー影響層で26.1%となっています。
ここから、インフルエンサーもまた他のメディアとの関係性の下で成立していること、つまり重複効果が発生していることが分かります。
インフルエンサーの信望性は、活動の内発性や本音感に支えられている
インフルエンサーの信望性は何によって担保されているのでしょうか。調査結果から分かったのは、インフルエンサーが“個”としての発信を全うできているか否かということでした。
YouTubeクリエイターについて、「本音で発言している」ことが、信頼性を高めると考えるのは、一般層で51.9%、SNS影響層で56.8%、インフルエンサー影響層で71.1%となりました。また、「純粋に楽しんでいる」ことが信頼性を高めると考えるのは、一般層で39.1%、SNS影響層で36.0%、インフルエンサー影響層で50.0%となっています。
同様に、Instagramクリエイターについて、「本音で発言している」ことが信望性を高めると回答している人の割合は、一般層で42.9%、SNS影響層で44.6%、インフルエンサー影響層で50.0%となりました。
YouTubeクリエイター、Instagramクリエイターは、動画再生回数/チャンネル登録数・フォロワー数など量的な指標も生活者側からチェックされていますが、今回の調査で分かったのは投稿姿勢の重要性です。
純粋に楽しんでやっているという自発性が感じ取れるかどうかが鍵であり、「やらされている感」ではなく、その人自身の楽しさや内発性によって「その人が発信している情報を信頼できるな」「参考にしてみようかな」と思えるわけです。
これに関連して、西原彰宏氏、圓丸哲麻氏、鈴木和宏氏による論文「デジタル時代におけるブランド構築―ブランド価値協創」(2020年)における興味深い整理を紹介したいと思います。いわく、企業が一方向的にブランド構築を行う「ブランド価値説得」から、企業と消費者がともにブランドをつくり上げる「ブランド価値共創」を経て、現代ではその両者に加えてブランド構築に寄与する第三者=BIT(Brand Incubation Third-party)とが連動し合う「ブランド価値協創」のパラダイムが見られるというのです。私たちの議論も、まさにその第三項についてのものだったと捉え返せるでしょう。
インフルエンサーは、いわば生活者と企業の間に立つ存在「第三項」。その「私」がSNSを通じて「公」として発信できているという両面のバランスこそが、インフルエンサーの発信の価値を支えているのです。