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TikTokの活用法最前線~Z世代の利用実態からマーケティングソリューションまで~No.5

Z世代のTikTokトレンドと、新時代のタレント論

2024/07/04

「ショート動画」と呼ばれる数十秒程度のフォーマットがユーザーから広く受け入れられ、広告やPRに活用する企業が増えています。本連載では、電通メディアイノベーションラボの天野彬氏が、ショート動画を中心としたSNSマーケティングについての知見を発信しています(これまでの記事は、こちら)。

本記事は前回に続き、タレントやインフルエンサーを起用して、実際にショート動画を制作している金丸雄一氏(N.D.Promotion代表取締役)をゲストに迎えて、Z世代のTikTokトレンドおよび、広告・エンターテインメント業界はZ世代のタレント・インフルエンサーとどう向き合っていくべきか議論を交わしました。(2024年4月10日取材)

N.D.Promotionは、主に4つの事業を展開している芸能プロダクション
・SNSでの影響力の強みを持つタレントや俳優・インフルエンサーなどが所属する芸能事務所事業
・SNSを活用した広告を中心に企画の提案・キャスティング・クリエイティブ制作などを行う広告プロモーション事業
・Z世代女性に最新のトレンドを発信する媒体「Nom de plume(ノンデプルーム)」を運営するメディア事業
・Z世代のリサーチとインサイト分析を行うシンクタンク組織「Z総研」の運営
 

ショート動画

ユーザーのクリエイティビティこそTikTokの面白さの源泉

天野:「Z総研」の代表の1人でもある金丸さんは、Z世代のSNSのトレンドについてリサーチされていますね。最近の調査で印象的だったことを教えてください。

金丸:Z世代にとって、TikTokはトレンドの発信源の1つになっていて、ユーザーによるさまざまな動画が投稿されています。その中で私たちはZ世代のデジタルスキルについての調査を行いました。その結果、動画編集アプリ「CapCut」が普及していることもあり、Z世代の81%が何らかの形で動画編集の経験があることがわかりました(※)。

Z総研

金丸:また、スマホネイティブのZ世代は、日常的に新しい撮影手法や編集技法を探求しています。例えば、「フーフー飯店 錦糸町」という中華料理店がいまZ世代に人気なのですが、この店は、席の真上に荷物ラックがあり、そこにスマホを設置して動画を撮ることができます。そして、真上からだと面白い絵が撮れるかもと思って撮影し投稿したユーザーの動画が大バズりしたんです。

食事の動画はモッパン動画(食事の様子を撮影した動画)を中心にこれまで正面や横から撮るのが一般的で、真上からというアングルは斬新でした。評判を受けて、お店も公式サイトや公式SNSで「ここにカメラをセットすれば動画が撮れる」と発信しています。こういう新しい考え方やクリエイティビティは、Z世代ならではの発想だと思います。

天野:新しい撮り方の発明がユーザーから生まれていくのが面白いですね。フーフー飯店の事例は、日経新聞なども取り上げて注目していますし、同紙には私も所感をコメントしました。

金丸:コンテンツの幅もどんどん広がってきていますが、定番のダンスコンテンツは根強い人気ですね。最近は、ポケモンが公式で出した「ポケダンス」がすごくバズっています。僕たち上の世代にとっては難しく感じる動きでも、Z世代や若年層にとっては簡単でマネしやすいようです。中学校でダンスが必修化された影響もあり、Z世代はちょっとしたダンスをすることのハードルがすごく下がっていると感じます。TikTokのユーザー数が伸びてきた背景には、そういった教育側の改革も大きく作用しているようです。

天野:先ほどの話にもつながりますが、だからこそTikTokから新しい動画の撮り方が生まれたり、日々さまざまなミームが生成されてくるわけですね。

金丸:そういうことですね。例えば、友人と、「どっちがフォロワーを増やせるか勝負しよう」という話からTikTokの投稿を始め、TikTokerとして大きな注目を集める人もいます。そういったカルチャーは、今っぽいというか、僕たちの世代でいうと「友達と競ってダイエットしよう」みたいなノリじゃないですか。TikTokがZ世代を取り巻く関係性というのは興味深いものですね。

天野:みんな気負わず、ゲーム感覚でフォロワーを増やして、ノリでいろいろ発信するマインド。たくましくて素晴らしい。

金丸:さらに、調査結果では、「編集や撮影などのスキルを身につけて職業にしたい」と答えた人の割合が大変多かった(※)。国民皆クリエイター、のような時代が近づいてきているように感じます。

調査概要……調査機関:Z総研、調査時期:2023年9月8~10日、調査方法:インターネット調査、調査対象:全国、17歳以下72名、18〜22歳70名、23〜25歳11名、計153名


金丸雄一



 

自分の「好き」を極め、深い界隈・ファンダムにアクセスできる人が伸びる時代

天野:TikTokはいわば新しい才能を見つけるプラットフォームだと考えています。そもそもの特性が発見のための場であることがその裏付けにあるわけですが。そこから多くのユーザーが有名性を獲得していく時代になってきていますけども、インフルエンサーやタレントのマネジメントも行う金丸さんの視点から、今の時代の「人気の集め方」についてどう捉えているのか教えてください。

金丸:インフルエンサーやタレントの出自やルートが多様化しています。芸能的な話でいうと、5〜10年ぐらい前は、「仮面ライダー」や恋愛リアリティショーへの出演が登竜門となりブレークする、王道パターンのようなものが存在していていました。でも今は、例えばコスプレイヤーや専門系YouTuberがマスメディアに出るようになるなど、いろいろなルートが存在します。何をきっかけにブレークするか本当にわからない。いわゆる「(世間に)見つかった」というやつですが、どのような見つかり方をするのか僕たちプロでも日々予測が難しくなってきています。

マネジメントの形態も大きく変化しています。旧来のタレントの育成は、テレビや大規模なイベントへの出演など、メディアへどれだけ露出させられるかが芸能事務所のパワーの源や序列の高さでありそこに最も営業のリソースを割いていました。

今はSNSを中心にセルフプロデュースやプロモーションができるので、その人の得意なことをよりどう伸ばしていけるかが事務所に求められていると感じます。

天野:出自が多様化という点は本当にそうですね。例えばゲーム実況で魅力的な人が人気を得てインフルエンサー化する例は枚挙にいとまがない。いったんファンがついてファンダムを形成できれば、多様な活動に開いていけるし、人気があればいろんなメディアから声がかかってタレントになる場合も多いと感じます。

金丸:ジャンルを問わず、推してくれるファンが一定数いれば、そこを糸口に有名になりますし、有名になるといろいろなチャンスが巡ってくるという循環のイメージです。以前のようにこういうルートでなければというのはなくなりつつあります。

天野:得意なことを伸ばすというプロデュース視点でいくと、いまの時代どんな資質が求められるのでしょうか?

金丸:オタク気質な人というか、自分の好きなことを極めている人が伸びやすいですね。後付けで、「〇〇が好き」と言ったところで、視聴者やユーザーからは見透かされてしまう。きちんとファンを得たければ、本気で熱意を持って取り組むことが大事です。例えば、日向坂46元メンバーの影山優佳さんは、根っからのサッカー好きで、サッカーに詳しいことで、サッカー好き界隈からも注目されていますが、このようなパターンがまさに典型です。

天野:その人自身が「深い」からこそ、それがわかる人たちからゆるぎない支持を受けるわけですね。「界隈」にアクセスするためには「にわか」ならぬ「深さ」が重要である。

金丸:本物感のある人は強いということです。新人タレントの面接をしていても感じるのですが、世の中には、他人にはまねできない技能を持っていたり、自分の「好き」を深く極めているのに発信していない人はとても多い。単純に発信の方法がうまくない人もいます。それではもったいない。より適切に発信すれば、そのジャンルのファンがどんどん増えてくるのだから、まずはそのことを知ってもらうことが必要です。そして、好きなことを深掘りするだけではなくて、いろいろなことに興味を持つという姿勢も欠かせません。「深化」と「探求」の両面が大事になります。

天野彬



 

どんな時代でも、ベットするべきは「人間」という資産

天野:テクノロジーの進化によってエンタメの形が変わり、広告もまさにその影響を大きく受けて端境期にあると思います。広告クリエイターとして、これから先のSNSマーケティングの展望を聞かせてください。

金丸:私が現在取り組んでいる領域の中でショートドラマや芸能の話をすると、ショートドラマのコンテンツ自体にはファンがついていても、そこからスターがなかなか生まれづらいという現状が気になっています。例えば、昔のテレビドラマは、コンテンツをきっかけにスターが生まれてきました。ですから、このショートドラマという領域で、スターはどうすれば生み出せるのかを日々考えていたりします。

天野:確かにメディアが多様化し同時に分散化したことで、みんなが注目するアテンションの極(=スターとなる存在)が縮小している印象です。

金丸:国民皆インフルエンサー化とつながる話ですが、よりおのおのの趣味趣向が細分化する中でマスなスターは生まれづらくなっている印象です。それに加え、これは仮説ですが、尺が短いので演者に対する没入感が少し薄いのかもしれません。YouTuberとTikTokerを比べると、YouTuberの方が熱量の高いファンが多い印象です。コンテンツの中で、そのタレントとファンの接触回数や頻度・時間をいかに増やして、どうファンになってもらえるかを考えています。

その他に気になっていることとして、今はスマホで見る縦型コンテンツが話題になっていますが、例えば、TikTokの横型バージョンのサービスが出てきたり、広い視野角を持つスマートグラスやMRデバイスが普及したりすると、縦型コンテンツか横型コンテンツかみたいな議論はあまり意味がない感じもしています。

天野:縦型にこだわる必要がないという点、同意です。実際にTikTokも中尺・横型視聴に対応してきていますし、人間の視覚の構造的に縦は見づらい面が否めない。話が飛びますが、だからこそ野球では縦変化する変化球を決め球にする投手が多いわけですよね。

また、さきほどのファンダムにアクセスできる人や、スター育成のお話で感じるのは、テクノロジーがどうなろうと、結局人を惹きつけるのは、その人間が持つバックグラウンド、つまり来歴とコンテクストなのだと思います。それが愛着と共感を生むので。最近は、AIによって作り出されたバーチャルタレントが話題になっていますが、造形的に人間そのものをAIが一瞬で作り出せたとしても、そこに深く感情移入することはできないでしょう。

金丸:その通りです。広告業界も、流行のプラットフォームやテクノロジーだけに重きを置くのではなく、「人」という資産にベットしていくべきです。私たちで言うと、あくまでも魅力的なタレントやインフルエンサーをメインに据えて、プラットフォームを横断してやれるようにしていかないといけない。プラットフォームに依存してしまうと、その盛衰次第で事業の方向性が大きく変わってしまうので。

天野:コンテンツがIP(Intellectual Property)と呼ばれることになぞらえるならば、まさにそれはHuman Propertyと呼べるかもしれませんね。知財はもちろん、人財への投資が重要であると。今後どんなテクノロジーやプラットフォームが出てきても、魅力的な人間という資産は変わらずエンタメや広告コミュニケーションの中心にあるものだと改めて再確認することができました。本日はありがとうございました!

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