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TikTokの活用法最前線~Z世代の利用実態からマーケティングソリューションまで~No.4

Z世代を動かす、TikTokショートドラマ「勝ち確」企画術

2024/06/25

「ショート動画」と呼ばれる数十秒程度のフォーマットがユーザーから広く受け入れられ、広告やPRに活用する企業が増えています。本連載では、電通メディアイノベーションラボの天野彬氏が、ショート動画を中心としたSNSマーケティングについての知見を発信しています。

これまでの記事では、ショート動画の代表的なプラットフォームのTikTokについて、その革新性や、「TikTok売れ」のメカニズムなどを解説してきました。

今回は、タレントやインフルエンサーを起用して、実際にショート動画を制作している金丸雄一氏(N.D.Promotion代表取締役)をゲストに迎えて、TikTokのショートドラマの効果的な活用法(いわば「勝ち確」運用)はどんなものか、議論を交わしました。(2024年4月10日取材)

N.D.Promotionは、主に4つの事業を展開している芸能プロダクション
・SNSでの影響力の強みを持つタレントや俳優・インフルエンサーなどが所属する芸能事務所事業
・SNSを活用した広告を中心に企画の提案・キャスティング・クリエイティブ制作などを行う広告プロモーション事業
・Z世代女性に最新のトレンドを発信する媒体「Nom de plume(ノンデプルーム)」を運営するメディア事業
・Z世代のリサーチとインサイト分析を行うシンクタンク組織「Z総研」の運営


ショート動画

商品PRは、ショートドラマとスピンオフCMの「2本立て」が主流

天野:普段いろいろ情報交換させてもらっていますが、改めてのインタビュー、とても楽しみにしています!金丸さんはZ世代のインサイトに非常に詳しく、TikTokをはじめとするSNSのショート動画も制作されていますね。

金丸:はい。当社はTikTokに強みを持つタレントやインフルエンサーが所属していて、企業やブランドからTikTokを活用したPRの依頼を多く受けています。社内には制作専門のチームがあり、SNSで見られるショートドラマの制作をすることも増えています。

天野:TikTokでのPR投稿について、企業からの依頼が増えている背景は何でしょうか?

金丸:ブランドとZ世代との接点が希薄になっているという課題が、背景にあるようです。Z世代に対して、商品やサービスをどのように認知させて体験につなげればいいか、模索している企業が多い印象です。あるいは、新しいPR手法にチャレンジしたいという場合もあります。最近でも、ある企業で、商品顧客の年齢層が上がってきていて、Z世代との新たな接点を作るためにショートドラマを提案し、制作しました。

天野:確かに、Z世代向けにTikTokを活用する手法は広く普及してきました。そんな中で、ショートドラマによるプロモーションはどのようなものなのでしょうか?

金丸:ショートドラマでは、基本的に「プロダクトプレイスメント」と呼ばれる、ドラマの中に商品を自然な形で入れ込む手法を取っています。それ以外にも、ショートドラマ本編とは別にスピンオフのCMを制作することもあります。こちらは本編とは違い商品をストレートに訴求する目的で制作しています。

ドラマは純粋にコンテンツとして楽しんではいただけるものの、商品の露出がメインではないため機能などの訴求が弱くなってしまう。そこで、ドラマを見た人がより深掘りして商品への理解を深めてもらうのが、スピンオフCMの狙いです。

天野:認知のためのショートドラマ×理解促進のためのスピンオフCM。2本立ての構造でファネルをカバーしていくわけですね。テレビの番組+CMとも似た印象を持ちましたが、はじめから狙っていたのでしょうか。

金丸:いいえ、最初からこの2本立てでショートドラマの制作をしていたわけではありません。ショートドラマを何度も制作していくうちに、クライアントさんからのフィードバックなども踏まえ本編のプロダクトプレイスメントだけでは伝えきれない要素が多いと感じたので、2本立てに作り方を変えました。

そもそも企業サイドとしても、「さりげなく」しか商品が映らないドラマ本編だけに予算をかけるのは難しいでしょう。どちらかというと、スピンオフCMを作る予算プラスアルファで、本編ドラマを作るという考え方かと思います。1本のCMの契約の中で、演者には本編ドラマにも出演してもらえるので、コスト面でも出稿企業側にメリットはあります。

ショート動画

 

恋愛とミステリーが、二大人気コンテンツ

天野:TikTokのPR投稿について、いまお話しいただいたような「勝ちパターン」が確立されてきているのは興味深いです。ショートドラマ制作を希望する企業は増えていますか?

金丸:確実に増えているように感じます。私たちが5年ほど前に制作を始めた頃は、SNSのショートドラマ自体を知らないクライアントさんが大半でした。最近では、こういった手法があることはすでに知られていて、ユーザーとのコミュニケーションの一手法として一般的になってきた印象があります。

天野:どんな業種のクライアントが多いですか?

金丸:偏りはなく、ジャンルレスですね。これまで、アパレル、求人、化粧品、コンシューマープロダクト、ウェブやITサービスなど、幅広い業種のクライアントさん向けにショートドラマを作ってきました。

天野:改めて、ショートドラマの定義、そして魅力について聞かせてください。

金丸:1話あたり数分と尺は短いですが、テレビドラマと同じようにショートドラマも老若男女に人気があるコンテンツです。ストーリーの内容にもよりますが、メインの登場人物がいて、サブの登場人物がいて、といろいろな個性や背景を持った登場人物が出てくるので、視聴者は自分に近いキャラクターに共感しやすく、展開するストーリーを自分ゴト化しやすいというのが強みだと考えています。

天野:ショートドラマの「つかみ」はスワイプされないようによく練られていて、視聴者の共感を生むようなフックが特徴的ですよね。ところで、ショートドラマのジャンルは、恋愛ものとミステリーが多い印象なのですが、実際にジャンルとして強いのでしょうか?

金丸:全体の傾向を見ていると視聴数が伸びやすいのは、この二つですね。恋愛ものは、自分の経験と重ね合わせて見られるコンテンツが多いです。恋愛あるある系のコンテンツと言えばわかりやすいかと思います。ミステリーは、「最後どうなるんだろう?」と続きが見たくなるようなギミックの効いた作品が目立ちます。ショートドラマの監督さんなどと話していると、ホラーなどはショートドラマとなじまないせいか、視聴数が伸びづらいと聞くことがあります。もちろん工夫の仕方によっては伸ばす方法はあるかと思いますが、向き不向きはジャンルによって多少あるように感じます。

天野:確かにショートドラマでホラーを見る機会は少ないかも。ゲーム実況やその切り抜きでホラー系のものを見ると結構面白いんですけどね。

金丸:あくまで仮説ですが縦型というフォーマットと相性が良くないのかもしれません。ホラーはライトに見るというより没入して見ないと怖く感じられないのですが、横型の方が、左右に余白があり、何が出てくるかわからない緊張感があるのではないでしょうか。縦型ならではの恐怖の演出という工夫が必要かもしれませんね。

ショート動画

天野:金丸さんが考える、ショートドラマを多くの視聴者に見てもらうコツはありますか?

金丸:TikTokの場合、「ドラマ冒頭」に視聴者を引き込むポイントを作ることを意識しています。例えば、一番盛り上がるシーンを最初に見せるような構成は効果的ですね。その他にもTikTokは他のプラットフォームに比べ音声ONで視聴しているユーザーが多いこともあり、楽曲で引きを作ったり、SE(効果音)を効果的に盛り込むことが大事な要素となります。

天野:TikTok以外にもショート動画のサービスが盛り上がりを見せていますが、例えばInstagramのリール用にショートドラマを制作する場合との違いがあれば教えてください。

金丸:制作実績はありますが、Instagramのリールに比べてTikTokの方が再生はされやすい印象があります。リールで配信するなら、Instagramのキレイな世界観に合わせたショートドラマを作ることが大事なのですが、その結果、他の投稿とトーンがなじみ過ぎてしまい、想定外のリアクションや大きな反応が取れないという印象を受けました。その点、TikTokは雑多なコンテンツの中に、突如キレイな映像が出てくるとより目を引きます。

天野:そういった「違和感」がスワイプの手を止めるというわけですね。そういえば、ショートドラマが購買行動に与える影響について、調査もされていましたよね。

金丸: Z総研の調査では、Z世代の67.8%以上が、TikTokのショートドラマ広告がきっかけで、商品やサービス、ブランドに興味を持ったことがあると答えています。さらに、Z世代の43.9%が、商品を購入したりサービスを利用したことがあると回答しました(※1)。

Z総研

天野:TikTokのショートドラマ広告が、Z世代への認知拡大や購買行動に影響を与えていることがわかりますね。自著などを通じてUGC(※2)とPGC(※3)の最適なバランスについて取り上げたことがあるのですが、TikTokにおいてもUGCはもちろん、作り込まれたPGCが求められ、そして効果を発揮するようになっているのだと実感します。

次回は、Z世代のTikTokトレンドや、広告・エンターテインメント業界はZ世代のタレント・インフルエンサーとどう向き合っていくべきか、金丸さんにお話を伺います。

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※1 調査概要……調査機関:Z総研、調査時期:2023年12月16~17日、調査方法:インターネット調査、調査対象:全国 17歳以下135名、18〜22歳68名、23〜25歳12名、計女性215名。構成比(%)は小数点以下第2位で四捨五入しているため、合計しても100%になっておりません。
※2 UGC(User Generated Contents):一般ユーザーによって制作・生成されたコンテンツ。
※3 PGC(Professional Generated Content):プロによって制作・生成されたコンテンツ。


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