loading...

加速するテレビ広告のDXNo.3

テレビの運用型広告が拡大。「PORTO tv」ができることは?

2020/10/13

スタートアップなど、これまでテレビへの広告出稿を躊躇していた企業をターゲットに、“テレビの運用型広告”のサービスが広がっています。そんな中、CARTA HOLDINGS(以下、CARTA ※1)と電通は共同で、テレビ広告出稿用プラットフォーム「PORTO tv」を今年5月にリリースしました。

「PORTO tv」の強みは何か?テレビの運用型広告の今後は?

「PORTO tv」の事業主体である、CARTAのグループ会社VOYAGE GROUPでスタートアップと向き合ってきた土井健氏と、電通でテレビ局と向き合ってきた川瀬智博氏が、広告主に本当に提供すべきことは何なのか、語りました。

※1  CARTA HOLDINGS:インターネット広告のプラットフォームやメディア運営などを幅広く手掛けるVOYAGE GROUPと、電通グループのサイバー・コミュニケーションズ(CCI)が経営統合し、2019年に誕生した持ち株会社。

 

VOYAGE  GROUP
(左)VOYAGE GROUP取締役の土井健氏。インターネット広告事業に長年携わり、現在は、「PORTO tv」の事業責任者として、本プロジェクトを統括。(右)PORTO tv事業本部 プロダクトグロース部 部長の川瀬智博氏。以前は電通のラジオテレビ局に所属し、全国の放送局と交渉してテレビ広告枠の購入を行っていた。

デジタル広告と同じ感覚でテレビ広告の出稿や効果測定ができる

──「PORTO tv」は、広告主に提供される専用のダッシュボードから、テレビ広告を出稿できるサービスです。出稿前のシミュレーションや出稿後の「効果検証」が素早くできるのも大きな特徴ですよね。

土井:広告主が、ダッシュボードの画面に予算、エリア、ターゲット(年齢・性別)を入力すると、どれくらい広告がオンエアされて、どの程度視聴されそうかなどの指標を、視聴率などのデータに基づき、自動でシミュレーションします。

川瀬:「PORTO tv」のダッシュボード上では、さまざまな指標が確認できます。ただ、テレビ広告の効果測定でよく用いられるGRP(※2)などの指標は、テレビ出稿の経験がない企業にはなじみが薄いかもしれません。

そこで、「デジタル広告の知見は豊富だけどテレビ広告は分からない」という企業のために、CPA、CPI、IMP、CPMなど(※3)、デジタル広告でおなじみの指標をダッシュボードに示すようにしました。これらの指標を確認することで、予算に対してどのくらい広告効果が見込めるか把握しやすく、出稿に向けた次のフェーズへ早く移行できます。

土井:広告主はシミュレーション結果を検討し、「PORTO tv」上からテレビ広告を発注します。注文は電通のラジオテレビ局(以下、ラテ局)が受け、広告主の希望内容をもとにテレビ局と交渉して、広告枠を確保します。また、広告クリエイティブの発注も「PORTO tv」上からできます。そして、オンエア後は、各指標の実測値をシミュレーションと比較しながら効果測定ができます。

川瀬:「出稿によってどのくらいアプリがインストールされたのか」「どの広告枠が効果的だったか」「出稿コストに対してどれくらい効果があったのか」など、これまでのテレビ広告の効果測定では掴みにくかったデータが得られます。しかも、AIなどを使い計測作業を自動化して、最短でオンエア翌日に把握できるスピード感も魅力で、PDCAを高速で回していけます。

効果測定に基づくPDCAについては、CARTAがサポートします。CARTAは、アドテクノロジー領域で優れた実績を持つVOYAGE GROUPと、電通グループのサイバー・コミュニケーションズ(CCI)が統合してできた組織。例えば、CPIがちょっと合わなかったなら広告枠の買い付けコストを下げるようにしたり、逆にCPIベースで今回のエリアより少しでも安く出稿できるエリアを探したり、広告効果がより高まるように支援します。

※2 GRP(Gross Rating Point):広告出稿回数ごとの視聴率を足した数値。例えば視聴率10%の時間帯に4回CMを流した場合は、40GRPとなる。
※3  CPA(Cost per Action):コンバージョン1回当たりのコスト。CPI(Cost per Install):1インストール当たりの広告コスト。IMP(Impression):広告を流した回数。CPM(Cost per mille):広告表示(インプレッション)1000回当たりのコスト。


川瀬智博氏




テレビ広告とデジタル広告の豊富なノウハウを掛け合わせる

──「PORTO tv」のように、簡単に出稿できる“テレビの運用型広告”のサービスが今、増えています。その中において、「PORTO tv」の強みは何でしょうか?

川瀬:ひとつは、テレビ広告に長年携わってきた電通独自のノウハウです。これは他社にないものだと自負しています。テレビへの広告出稿に慣れていない企業は、シミュレーションやオンエア後のレポーティングの内容をどう捉えて、次の出稿につなげればよいか悩むケースも多いでしょう。

電通には過去のテレビ広告の実績データや、認知度調査など、さまざまなデータが大量に蓄積されています。そうしたデータを分析する多様なツールやスタッフの知見もあります。これらをうまく組み合わせて、番組ごとの視聴者のペルソナを描くこともできます。レポーティング+αのアドアイスができることが強みですね。

さらに、電通には、何十年にもわたるテレビ広告のバイイングのノウハウもあります。ネットと違い、テレビの広告枠は数に限りがあります。どのエリアで放送したらいいか、どの年代に見てほしいかなど、広告主の希望を踏まえて、より効果が高そうな枠を押さえる必要があります。この買い付けはネットの自動取引とは違い、テレビ局との交渉が必要なため、機械任せではできません。

土井:川瀬さんが述べたテレビ広告のノウハウに加え、デジタル広告に精通していることも強みです。日本のインターネット広告費は今年、テレビメディア広告費を抜き、日本の広告費全体に占める割合が最も大きくなりました。しかし、デジタル広告に長年携わってきた私がテレビの領域に携わり感じたことは、テレビ広告の価値が企業にきちんと理解されていないのではということです。

テレビ広告は、実はCPMなどのデジタル指標に換算すると意外と安いこともありますし、番組間にCMが流れる広告フォーマットは、生活者に受容性の高いものです。効果をきちんと可視化・分析できれば、メディアプランニングにおいて、もっと存在感を発揮できるはず。われわれはデジタル広告に精通しているからこそ、デジタル広告とは違う、テレビ広告の価値がよく分かるんです。

川瀬:その通りで、「PORTO tv」には、電通が培ってきたテレビ広告の知見とVOYAGE GROUPのデジタル広告の知見の両方があります。それゆえに、デジタル広告にお金をかけているけどテレビには出稿したことがない企業や、デジタル広告の効果が薄れてきて次のステップを考えている企業に対し、テレビ広告の提案がシームレスにできると考えています。

土井健氏

テレビの運用型広告の市場はまだまだ拡大する

──「PORTO tv」、そしてテレビの運用型広告について今後の展望を聞かせてください。

土井:テレビの運用型広告市場は、これからもっと拡大していくでしょう。まずは競合他社も含めて、みんなでテレビの運用型広告の市場を大きくしていき、テレビ広告の価値を再認識してもらうことが大事です。今は市場形成のフェーズだと捉えています。

私は、これまで10年以上にわたりインターネット広告事業に携わってきました。スタートアップの経営者と話をする機会が多いのですが、スタートアップは、テレビ、ネット、音声、DOOH(Digital Out Of Home/デジタル屋外広告)など、さまざまな広告メディアの中で「絶対これしかない」という先入観は持っていません。事業や会社の成長のために、その時点で、どのメディアに広告を出すのが一番効果的かを考えてマーケティング活動をしています。

そうした企業にテレビ広告を利用してもらうためには、テレビ広告を試していただくためのハードルを下げることが大きなポイントです。「PORTO tv」を含め、テレビの運用型広告市場が広がる中で、「これまでより低料金で出稿できるようだ」ということは認知されてきたようです。そして今年からは、テレビ広告の効果を可視化して、ネットの運用型広告のようにPDCAを回していくためのサービス市場が本格的にでき始めたと感じています。

川瀬:私も同感です。この流れを加速させるためにも、「PORTO tv」をさらに使いやすく進化させたい。それと同時にテレビ局とも課題を共有して、どうすれば企業にとってテレビ広告が利用しやすくなるかを考えていくことも必要です。

土井:そうですね。「PORTO tv」はリリースして終わりではなく、サービスを充実させる余地はまだまだありそうです。例えば、「PORTO」には、radikoやDOOHなどのデジタルメディアの統合プラットフォームもありますが、将来的には、ここに「PORTO tv」を加えることで、各メディアの広告効果をシームレスに検証したり、さまざまなメディアを横断したプランニングができたり、キャンペーン効果を高められると考えています。もちろん、他の方向性も考えながら、「PORTO tv」を企業の成長に寄与できるものにしていきたいですね。

川瀬:最後に一つ。「PORTO tv」のようなデジタルプラットフォームをつくっても、すべてAIに任せて自動出稿ができるわけではありません。プラットフォームはクライアントの利便性を高めてはくれますが、本当に広告主に満足してもらうためには、結局は人の力が大きい。ですから、「PORTO tv」のチームでも、私たち営業サイドのスタッフは、相談のしやすさやクイックレスポンスを大事にしています。それぞれの企業にとって、テレビ広告がどのような価値を持つのかを真摯に伝えていくことも、われわれの大きな使命だと考えています。