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加速するテレビ広告のDXNo.2

「テレビ広告の出稿プラットフォーム」誕生の経緯をエンジニアが語る

2020/08/26

CARTA HOLDINGS(以下、CARTA)と電通が共同で開発した、テレビ広告出稿用のプラットフォーム「PORTO tv 」。複雑で手間がかかるテレビ広告の出稿やレポーティングを簡便化。テレビ広告になじみのないスタートアップ企業なども手軽に利用できるサービスです。

本サービスのシステム開発に携わった、CARTAのグループ会社VOYAGE GROUP(以下、VOYAGE)のエンジニア・前田雅央氏に、開発秘話を聞きました。

前田雅央氏
「PORTO tv 」のシステム開発を手掛けたエンジニアの前田雅央氏

人の力とデジタルの力を融合。これまでにないテレビ広告枠購入のシステムを構築

──テレビ広告出稿用のプラットフォームというのは聞き慣れない概念ですが、初めに「PORTO tv」の概要を教えてください。

前田:「PORTO tv」は、広告主がテレビ広告もインターネット広告のようにダッシュボード上から簡単に発注でき、さらに効果検証までできるプラットフォームです。契約した広告主には、専用のダッシュボードが提供されます。この画面上で予算、エリア、ターゲット(年齢・性別)を入力すると視聴率などのデータに基づき、どれくらい広告がオンエアされて、どの程度視聴されそうかなどの指標を自動でシミュレーションします。

広告主は「PORTO tv」から出力されたシミュレーション結果を見て検討し、「PORTO tv」上から発注をかけます。注文は電通のラジオテレビ局(以下、ラテ局)が受け、広告主の希望内容をもとにテレビ局と交渉して発注します。広告のオンエア後は効果測定ができるのも売りで、WEB / APPコンバージョン計測ツールと連携して、CPA やCPI などの指標をダッシュボード上で閲覧できます。

PORTOtv

──テレビ広告枠の買い付けや広告効果の検証が、広告主の手元で手軽にできるのは画期的ですね。そもそもどのような経緯で、このサービスを開発したのでしょうか?

前田:CARTA は、VOYAGEと電通グループのサイバー・コミュニケーションズ(CCI)が経営統合し、2019年に誕生した会社です。VOYAGEはもともとデジタル領域に強く、これまでアドプラットフォーム事業としてSSP(広告枠を提供するメディア側のプラットフォーム)の「fluct」や、スマートフォンのアドネットワーク「Zucks AD Network」などを開発してきました。

私たちはインターネットに出稿する広告主と関わる機会が多いのですが、テレビにも広告を打ちたいが、どのようにすればよいか分からないという声を多く頂いています。というのも、テレビへの出稿はインターネットとは大きく異なり、これまでダッシュボード上でできるシステムがありませんでした。また、広告を打っても効果検証作業が複雑で、時間も要しました。そこで、私たちがデジタル領域で培った技術を生かし、インターネット広告と同じように出稿できるシステムを提供したいと考えたのが出発点です。

──開発に当たり、インターネット広告のプラットフォームと違うと感じた点はどこですか?

前田:インターネット広告のプラットフォームは、世の中に前例があるので、エンジニアは作りたいものをはっきりとイメージできます。ところが「テレビ広告出稿用のプラットフォーム」は、前例がありません。しかも私も含めVOYAGEのエンジニアは、インターネット広告にずっと携わってきた人間が多いので、そもそも「テレビ広告の出稿」の仕組み自体、理解が浅い部分がありました。

まさにゼロからイチを生み出す作業です。そこで、他のエンジニアと共に、テレビ広告を扱うラテ局をはじめ、現場の第一線で活躍する人たちに、テレビ特有の広告枠の種類や買い方、枠を買うときに意識していることなどをレクチャーしてもらい、ディスカッションを繰り返しました。その中で、「どういうプラットフォームを作りたいのか」「意識すべき点は何か」をお互いにすり合わせて明確にし、具体的なシステムを設計していきました。

質問への回答に戻ると、インターネット広告の出稿と大きく違う点として、テレビ広告の出稿は、良くも悪くも属人化されている部分が大きいと感じました。ほとんど無尽蔵に広告枠のあるネットと違い、テレビ広告枠には限りがありますから、テレビ局への交渉も経験や人のつながりに頼っている部分が大きいのです。

とはいえ、人の手による業務をすべてなくして、AIなどで自動化することは考えませんでした。なぜなら、属人性の高さはむしろ「PORTO tv」の強みになると感じたからです。

電通には、長年蓄積してきたテレビ広告枠のバイイングパワーがあります。ラテ局のメンバーが広告枠の売買に介在することで、より広告主の希望に沿ったテレビ枠の購入が可能になり、広告効果を高めることができます。

人が得意とする部分とシステムが得意とする部分を融合させることで、広告主にとってメリットのあるテレビ出稿を実現することを念頭に置いています。

──今後、技術的な面で「PORTO tv」をどのように進化させていきたいですか?

前田:「PORTO tv」をデジタルメディアのプラットフォームと融合させることが目標です。CARTAは、2019年にブランド広告主向けの統合マーケティングプラットフォーム「PORTO」をリリースしました。「PORTO」には、radikoやSpotifyといったオーディオメディアに広告を配信する「Premium オーディオ」や、屋外デジタル広告へ配信する「Premium DOOH」(Digital Out Of Home/デジタル屋外広告)などのサービスがあります。

「PORTO」と「PORTO tv」を一体化することで、例えばあるキャンペーンで、テレビ広告、インターネット広告、DOOHなどにどのように予算配分をすれば広告効果が得られるのかを予測し、出稿後は各メディアを統合した効果測定が可能になるでしょう。

多領域のスペシャリストが集い、DXを推進

──CARTAは、テレビ出稿だけでなく、国内電通グループのメディア領域のDX(デジタルトランスフォーメーション)を大きく加速すると期待されています。CARTAのテクノロジーを担うVOYAGEエンジニアとしての仕事の魅力を教えてください。

前田:エンジニアだからといって、上から言われたものをただ作るのではなく、各案件について、「なぜそれが必要なのか」「もっとこうした方がいいのではないか」という意見をどんどん提案していける土壌がVOYAGEにはあります。人と人との距離もかなり近く、営業をはじめ案件に携わるさまざまなプレーヤーと活発に意見を交わしながら、一緒に考えていくステップを大切にしています。

VOYAGEのエンジニアの特徴としては、プログラミング言語に精通している者、セキュリティーに詳しい者など、さまざまな領域のスペシャリストがいます。自分が詳しくない領域についても、他のエンジニアから適切なアドバイスがもらえるので、自分の専門分野以外の知見も深められます。

── 今、世間ではDXを推進する動きが加速していて、エンジニアの力がますます必要となっています。前田さん自身の今後の抱負を聞かせてください。

前田:「PORTO tv」では、これまで世の中になかったものを、自分とは立場の違う広告業界のスペシャリストたちと共に生み出しました。メディアのデジタル化が進む中で、DXを加速して、広告主、メディア、そして生活者それぞれにメリットのある環境を生み出すため、力を注いでいきたいと考えています。