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周年プロジェクト、「はじめの一歩」

2020/11/26

企業の周年プロジェクト。それは、普遍的でありながら、いつの時代も担当者を悩ませるテーマです。周年は多くの場合10年ごとに巡ってきます。ということは、前回実施したのは10年前。その時の担当者は今やさまざまな部署に散ってしまい、ノウハウが継承されていないことが多々あるのです。

そんな企業の担当者から、「周年プロジェクトとは、そもそもどのように進めればいいのか」という相談をよく頂きます。自社のプロジェクトは何を目標とし、何から始めればいいのか。この記事で「はじめの一歩」を考えるきっかけを提供できれば幸いです。

何のためにやるのか?~周年プロジェクト、三つのチャンス~

「おかげさまで〇〇周年」。さまざまなところでよく聞くフレーズです。創業以来の歩みを振り返り、内外に向けて感謝の気持ちを表現する。もちろん、それも役割のひとつですが、周年プロジェクトの意義はそれだけにとどまりません。

周年は、企業や団体の存在、歴史と沿革、経営姿勢・事業内容などに注目の集まる、絶好の機会です。内外のステークホルダーから、好意のまなざしで企業を見る環境が醸成されます。周年プロジェクトを、日ごろなかなか取り組めない中長期的な課題に取り組み、社内外に向けて今後の骨太なビジョンを発信する契機と捉えるべきでしょう。

周年を自社の「過去と未来の結節点」と考え、単なるセレモニーで終わらせることなく、自分たちの「原点」や「強み」「将来のビジョン」などを見つめ直す機会として活用する姿勢が重要です。

周年には、三つのチャンスが存在します。

1.イノベーション・チャンス
周年は、企業の「来し方・行く末」を全社員が考える絶好の機会です。市場、社会など、外部環境の変化を見据えながら「次の50年・100年」を展望し、新規事業の立ち上げや企業文化の刷新など、新しい成長と成功の方向づけを行うチャンスです。

2.コミュニケーション・チャンス
企業として顧客・取引先・地域社会・従業員およびその家族などのステークホルダーに対して、新たなイメージ、期待感を獲得するチャンスです。企業レピュテーションの向上、エンゲージメントの強化に向けた絶好のアピールチャンスといえるでしょう。

3.マーケティング・チャンス
現在は商品・サービスの品質だけでなく、その背景にある企業文化や社会課題解決への姿勢、あるいはトップのリーダーシップなどによって、総合的に判断される時代です。周年は、こうした企業のバックグラウンドと能力を市場に再提示する良い機会となります。

あなたの会社は「何型」?周年プロジェクト施策マップ

周年プロジェクトにおいて考えられる施策をマッピングしたものが下記の図1です。

図1:周年プロジェクト 施策マップ

周年プロジェクト 施策マップ

周年プロジェクト施策は、下記の四つに大別されます。

1.経営ビジョン/戦略発信型施策
新たな経営理念や長期ビジョンの策定、それに伴う企業ロゴなどのビジュアル・アイデンティティーやブランドスローガンの改訂などが代表的な施策です。新社屋への移転や組織体制の改革なども周年のタイミングと合わせて推進されることもしばしばあります。

現在の自社事業に構造的な行き詰まりを感じ、抜本的な改革を検討しなければいけない企業、あるいはさまざまな事業を抱えた結果、強みが見えなくなっている企業にとっては、まずはこの領域から踏み込んで考えるべきでしょう。そのためには、数年前からプロジェクトチームを結成し、準備を進めていく必要があります。

2.インターナル求心力強化型施策
社史の編纂に始まり、記念式典の実施や記念冊子の制作、社内報特別号の発行、あるいは従業員からのアイデア募集などの社内コミュニケーション施策は代表的な例です。

そしてそれに加え、新たな社内制度の策定や教育プログラムの開発など、企業文化の刷新を目指した施策も有力な選択肢です。長い歴史の中で、創業時のDNAが薄れてきている企業、新たなビジョンは策定しているものの、従業員に十分に浸透しておらず、意識改革が進んでいない企業にとっては、インターナルの求心力強化は周年プロジェクトにおける重要なテーマとなります。

3.広報/マーケティング支援型施策
周年広告・キャンペーンの実施、記念商品の開発、記者会見やシンポジウム等各種イベントの開催、ショールームをはじめとするPR施設の開設など、顧客とのエンゲージメント強化や企業としての認知、存在感の向上に向けた対外的なコミュニケーション施策が代表例です。

その際に忘れてはならないのは、周年ロゴや広告表現の目新しさだけでなく、「企業としてのストーリー」が一貫して流れていること。過去への回顧だけでなく「私たちは何者であり、これから何を目指すのか」をシンプルかつ骨太な言葉で語れることが、統合的なコミュニケーション施策の立案には不可欠です。

4.次代社会コミットメント型施策
企業として、これからの時代に何を残していくのかを明確にし、顧客だけなく広く社会に向けて、さまざまなステークホルダーに対しての貢献を果たしていくための施策です。

振興事業・財団活動、各種研究基金の創設や助成、大学との共同研究、講座の寄贈などが挙げられます。通常のCSR活動の延長線としてだけでなく、周年プロジェクトとしての意義を持つためには、その企業が「どんな社会をつくっていきたいのか」という次代社会へのビジョンを明確にする必要があります。

周年プロジェクトとは広報・宣伝などいわゆるコミュニケーションの担当部門だけで完結するものではありません。経営層のコミットメントはもちろんですが、経営企画、人事、総務、CSR、マーケティング、営業など、全社が一丸となって推進する「全社変革プロジェクト」であるべきなのです。

社内を一つにする周年コンセプトのつくり方

周年プロジェクトの企画・実施は、各部門がプロジェクトの目的・意義に対して腹落ちした上で、一丸となって取り組む必要があります。そのために不可欠なのは「周年コンセプトの開発」です。明確なコンセプトが存在することによって、統一した基本方針の下に各施策が実行され、自社の未来に向けてのありたい姿に向かっていくことができます。

逆に、周年コンセプトが不在だと、それぞれの施策を各担当部門の視点から立案することになり、企業全体としての意志が非常に見えにくくなります。

それでは、周年コンセプトはどのように策定すればよいのでしょうか。今回は、電通オリジナルのブランド構築フレームである「IVマトリクス」をご紹介します。

図2:IVマトリクス①

IVマトリクス①

縦軸をIdentity軸(概念⇔行動)、横軸をValue軸(社内⇔社外)とし、この2軸から構成される4象限をコンセプト策定の要素として設定します。そして、「業容/コアコンピタンス(競合に負けない強み)」「組織文化目標/行動の基軸」「顧客ベネフィット」「次代社会/市場へのビジョン」の4領域において、自社が既に掲げているビジョンや戦略、あるいは各種の調査によって得られた情報を、このモデルにプロットして整理していきます。

その収束のプロセスで、周年プロジェクトにおいて自社が発信すべき「ストーリー」が、以下のように浮かび上がってきます。

図3:IVマトリクス②

IVマトリクス②

「私たちは何者なのか→私たちは何を大切にしているのか→私たちは何が提供できるのか→私たちはどんな社会を実現するのか」。周年コンセプトとして、この4要素が一貫したストーリーで組み立てられていることが、施策の全体像を組み立てる上で重要です。

これらの要素が明確に規定されていることで、図1で示した経営ビジョン/戦略との整合性、インターナル施策の方向性、対外コミュニケーションのメッセージ開発、次代社会へのコミットメント施策の領域設定の基本方針となり、かつ、これからの自社が目指す姿の全体像を、一貫性をもって社内外のステークホルダーに対して提示することができます。

最後に、周年とはあくまで「変革のきっかけ」です。企業にとってその時点で最も重要な課題を解決し、目標の実現に向かう道筋づくりのために、戦略的に、かつ強い意志を持って推進していくことが重要です。電通グループは、周年プロジェクトを単なる「盛り上げ」に終わらせず、次の数十年に向けた持続的な成長のエンジンとして活用していくためのパートナーでありたいと考えています。