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【続】ろーかる・ぐるぐるNo.194

「What to say」を疑おう

2025/01/10

コンセプトの“製造”や“品質管理”の方法論について考える「Creative Dialogue(クリエイティブ・ダイアログ)」という対話の場を、電通グループ内を中心に300回以上実施してきました。

そこで語り合う内容の多くは、このコラムをお読みいただいている皆さまにとっておなじみのものばかりですが、毎回毎回、その時々の参加者によって話題の展開が変わるので、とても刺激的です。

ろーかるぐるぐる#194_干支置物

先日も、若手クリエイターの皆さんとCreative Dialogueをしていた時のこと。彼らは「まずWhat to sayを確定してからHow to sayに取り掛かる」という段取りを正しいと信じて疑わないようなので、次のようなことを話しました。

「それでは聞くけれど、What to sayってどのように確定するんでしょう?きっとターゲットに調査をして、肯定的な評価が得られた商品特徴がWhat to sayになったりするんですよね。つまりそこには、攻めるべき『ターゲット』がはっきりしているという前提があると思うんですが、いかがですか?」

これに対し、若手さんの反応は 「確かにそうです。ただ、ほとんどの商品の場合、ターゲットは明確だと思うんですけど……」というものだったので、以下のように話をつづけました。

「調査でユーザの年齢や性別といった属性くらいはわかるかもしれないですね。でも、その商品が解決している顧客の悩みといった『心理的要因』を明確にしたうえでターゲットを描けているケースって、現実にどれだけあるのでしょうね?」

「かつて味の素の『CookDo』は、『本格中華がご自宅で手軽に楽しめる』というコンセプト、そういうお客さまと商品の『つながり』をベースに成長していましたが、ある時、その伸びが停滞しました。つまりその時点で、解決すべき『顧客の悩み』がみえづらくなっていたのです。そんな状況でWhat to sayの調査をしても何にもなりません。

そこで同社は、さらなる成長のためにお客さまとの新しい『つながり』を探し求めました。そうやって開発したのが『中華団欒』というコンセプト。ホットプレートの焼き肉や冬の鍋のように、『家族の団欒を楽しむのにふさわしい献立は何だろう?』という悩みを解決する手段として『大皿に盛った本格中華』を打ち出したのです。この戦略が功を奏して『CookDo』は再び成長軌道に乗りました」

「もし、その商品独自のお客さまとの『つながり』が明確なら、クリエイターの役割は優れた『表現のアイデア』を提供すること、つまりHow to sayに注力すればいいでしょう。でも実は、ある時期の『CookDo』のように、お客さまとの『つながり』がわからなくなってしまっている商品ブランドって、けっこう多いと思うのです。そんな時、クリエイターに寄せられる大きな期待は、What to sayやHow to sayといった論理的世界を超越して、『コンセプト』を創造することではないでしょうか」

これを聞いた若手さんは、少し難しそうな顔をして「お話はわかるのですが、その場合『中華団欒』というコンセプト自体がWhat to sayで、ムービーとかグラフィックとかイベントとか、それぞれにHow to sayがあったと考えてはいけないのですか?」と聞いてきました。そこで答えたのは……

「たとえば有名なスターバックスの『サードプレイス』は、コーヒーや椅子といった用意すべきものというWhatだけでなく、居心地を楽しむためにはどんなコーヒーや椅子が良さそうかというHowの領域まで予感させてくれます。なぜなら、そもそも『コンセプト』とは、まだこの世の中に存在しない現実を仲間に予感させる『設計図』そのものだからです」

「逆に『コンセプト』を創造するときに必要なのは、『こうやって語り掛ければ、世の中が動くかも』という具体策と『なんで、その具体策がうまく機能するんだろう?』という抽象的な問いの間を行ったり来たりすることです。そして『こうやって語り掛ければ、世の中が動くかも』という『具体策』にWhat to sayとHow to sayの区別など関係ありません」

「『まずWhat to sayを確定してからHow to sayに取り掛かる』という段取りをうのみにし過ぎてしまうと、クリエイターに必要な『コンセプト創造』の力を身につけるチャンスを逃す危険性があります。脈絡なんてなくていいから『こうしたら、おもしろそうじゃん』って具体策を夢想するくらい、自由に発想しても良いのではないですか?」

この辺りで時間切れ。若手さんは笑顔で帰っていったけれど、どうだったのかしら。

ろーかるぐるぐる#194_図版01

近年、マーケティングのデジタル化によって、すべてを論理的、科学的に管理できるような幻想が広がっている気がします。しかし、そもそも人間の「創造」という行為は、そんな簡単にコントロールできるシロモノではありません。実は9年くらい前にも同じテーマを扱ったのですが、そんな危機意識から今回、もう一歩踏み込んだ内容を書いてみました。

■参考記事
ホントにWhat to sayは先に確定できるのか?  | ウェブ電通報

 

クリエイティブの価値について、これからも多くの方々と粘り強く「対話」していく覚悟を持って、新年をスタートいたします。

ろーかるぐるぐる#194_おせち写真①

ところでわが家の「おせち」。
 
黒豆が不作でびっくりするほど値段が高かったり、かまぼこの産地を小田原から山口県宇部に変えてみたり、自分で天日干した原木シイタケを使ってみたり、お煮しめ用のウドがどうしても手に入らなかったり、細かい違いはいろいろあるのですが、香川県の高松式「あん餅」の雑煮も含めておおよそ例年通り。

ろーかるぐるぐる#194_おせち写真②

おかげさまで家族三人、穏やかに新年をスタートできました。
 
年末の準備はてんやわんやでしたが、やっぱり手作りも良いものです。

どうぞ、召し上がれ!

続ろーかるぐるぐる#190_ロゴ
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お問い合わせ/担当:山田

書籍「コンセプトのつくり方」

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