「People Driven Marketing® 実践ウェビナー2020」レポートNo.5
データマーケティングの最前線で行われている次の“打ち手”とは?
2020/12/04
電通による“人”基点のマーケティング「People Driven Marketing(※)」(ピープル・ドリブン・マーケティング)も、4年目を迎え、「PDM4.0」として大きく進化しました。
本連載では、電通人と企業のゲストたちが、マーケティングとデータの未来を語った「People Driven Marketing® 実践ウェビナー2020」3日間の模様を、ダイジェストでレポートします。
今回は、企業のデータ人材育成と環境構築を支援する電通クロスブレインによる日米のデータ活用動向紹介など、今企業に必要な「データ活用法」のヒントをお届けします。
※People Driven Marketing
https://www.dentsu.co.jp/business/pdm/
電通が提唱する、データ&デジタル時代に対応した“人”基点の統合マーケティング・フレームワーク。課題を人(People)基点で捉え直し、電通グループが持つ最先端のマーケティング手法を統合して、顧客の持続的な成長を支援していく。
「Always onマーケティング」の課題と解決。日本とアメリカのデータ活用最前線
データ分析のトップ人材が集まった電通クロスブレインの川邊氏と佐藤氏。データマーケティングの現在地をひも解き、次の一手を打つために必要な人材や職能について解説しました。
テクノロジーの進化に伴い、生活者の情報収集の行動は大きく変わりました。自分の欲しい情報を能動的に取りにいく行動が一般化し、一人ひとりが欲しい情報も、受け取りたいタイミングも異なります。
加えて、情報収集の仕方にも変化が起こっています。日本屈指のデータサイエンティストである佐藤氏は、「検索エンジンではなくSNSのタイムラインで自分の興味・関心にマッチした情報を得る人が増えています。一方、SNSに慣れていない世代は全く異なる方法で情報収集を行います」と、情報収集の手段が多様化している点を指摘しました。
このような状況の中で近年、注目を集めている言葉が「Always onマーケティング」です。Always onとは、「常につながっている」ということ。生活者一人ひとりに対して最適なタイミングで最適な情報を提供することで、企業と生活者の関係を良くしていくためのマーケティングコンセプトです。
Always onマーケティングをめぐるテクノロジーの中でも、特に川邊氏が着目しているのが、「サードパーティークッキーに代わるもの」です。ユーザーが訪問しているウェブサイトのドメイン以外から発行される「サードパーティークッキー」は、生活者一人ひとりに最適な情報を届けるターゲティング広告には欠かせない存在でした。
しかし、近年は個人情報保護の観点から、サードパーティークッキーが以前のように使えなくなりつつあります。直近までアメリカでデータアナリストチームのディレクターを務めていた川邊氏は、アメリカで議論されている「サードパーティークッキーに替わる“次の一手”」について解説しました。
一つは「ウォールドガーデン」(※1)と呼ばれる概念です。GoogleやFacebookなどのプラットフォーム企業が、生活者の個人情報を保護した状態で保有するエコシステムを指します。
このエコシステムをクライアント企業が活用することで、高度かつスピーディーな広告施策が可能になります。しかし一方で、ウォールドガーデンの中で起きていることが見えにくく、クライアント企業が自社で情報を適切に管理できないことが懸念されています。
そこで他の選択肢として川邊氏が挙げたのが、生活者データを活用するためのエコシステムを自社で構築する方法です。
「実際に自社でPII(Personally Identifiable Information、個人を特定できる情報)を収集し、自前のファーストパーティークッキーを連携させる仕組みを構築する動きも出てきています」と川邊氏。
このようなデータ基盤を自社で構築すれば、継続的に顧客理解を深めることができ、市場に出回っているさまざまなデータを自社基盤と連携させることも可能になります。
※1 ウォールドガーデン
プラットフォーム企業がユーザーの個人情報を保護した状態で保有する広告のエコシステム。そのエコシステムの中でクライアント企業が匿名化・統計化されたデータを活用し、精度の高いターゲティング広告を実施できる環境のことを「データ・クリーンルーム」という。
技術の高度化・複雑化が加速し、データ分析ができるマーケターの育成が急務に
サードパーティークッキーに代わるデータ分析・データ活用の環境が整いつつあると同時に、新たな問題として浮かび上がってきたのが「人材不足」です。
佐藤氏は、近年マーケティングの取り組みがコモディティ化しており、AI関連技術でさえも差別化が難しくなっている点について述べた上で、「技術そのものよりも、それをマーケティングの現場にどのように応用するかという“企画力”が求められている」と解説。
「企業にデータやAIを活用できる環境があっても、人材不足のために、事業への実装が容易ではない現状があります。特に、すべてのデータを一元的に分析し、一貫性のある顧客体験に向けて一丸となって動けている日本企業は、それほど多くありません」との見解を示しました。
マーケティングテクノロジーの高度化、複雑化が加速し、広範な分野で数多くのツールが生み出され、それぞれが成熟してきました。
「企業は専門家をパートナーに迎え入れてマーケティングテクノロジーを活用するわけですが、専門家の助けがあっても全てを理解するのは難しく、重大な見落としやエラーが発生しているのが現状です」(佐藤)
こうした課題を解決するために企業は何に取り組むべきでしょうか?川邊氏は「企業が“マーケティングデータアナリスト”を自社で採用し、育成すること」だといいます。
マーケティングデータアナリストとは、マーケティングに明るいだけでなく、データ分析環境の設計、構築、正しいデータ分析手法の選択ができる人材のことです。
「短期間で多くのマーケティングデータアナリストを採用するのが現実的に難しい場合、自社のマーケターをマーケティングデータアナリストとして育成することをおすすめします。本来のマーケティング業務を行いつつ、外部のデータ専門企業と協業し、データ活用に必要なスキルや知見を吸収して、人材育成のベースを築くことから始めるのです」(川邊氏)
もう一つ、重要なポイントとして川邉氏が挙げたのが「データ分析とデータ活用をスムーズに連携できる体制の構築」です。
- データドリブンマーケティングプランナー
- マーケティングデータアナリスト
- マーケティングテクノロジーエキスパート
- マーケティングデータエンジニア
の4つの職能をもつ人材が一つのチームになり、事業目標やブランドアイデンティティ、価値観などを共有することで、より大きな成果につなげることができると川邊氏は解説し、セッションを締めくくりました。