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「People Driven Marketing® 実践ウェビナー2020」レポートNo.6

顧客に寄り添うマーケティング最前線

2020/12/09

電通による“人”基点のマーケティング「People Driven Marketing(※)」(ピープル・ドリブン・マーケティング)も、4年目を迎え、「PDM4.0」として大きく進化しました。 

本連載では、電通人と企業のゲストたちが、マーケティングとデータの未来を語った「People Driven Marketing® 実践ウェビナー2020」3日間の模様を、ダイジェストでレポートします。

今回は、「カスタマーエクスペリエンスの先にある未来」をテーマに行われた、三つのセッションを紹介。データやデジタルテクノロジーを活用しながら、顧客視点でどのようにビジネスの変革を行えばいいのか?具体的な事例を交えながらマーケティングの未来像を示した各セッションについてお伝えします。

※People Driven Marketing
https://www.dentsu.co.jp/business/pdm/
電通が提唱する、データ&デジタル時代に対応した“人”基点の統合マーケティング・フレームワーク。課題を人(People)基点で捉え直し、電通グループが持つ最先端のマーケティング手法を統合して、顧客の持続的な成長を支援していく。
 
Dosolutionsサイトへのリンク
※課題解決マーケティング情報サイト「Do!Solutions」でも、本ウェビナーの特集ページを開設しています。より詳細なレポートはこちらへ。

これからのマーケティングのカギは、「寄り添い型CRM」

PDM実践ウェビナー2020最初のセッションは、クライアントのデジタルマーケティングを支援している、電通デジタルの魚住高志氏が登壇。これからの時代の「寄り添い型CRM」について、「カスタマーサクセス」の事例を交えて解説しました。

カスタマーサクセスとは、直訳すれば「顧客の成功」です。購入したモノやサービスを顧客により良く使ってもらうことで、顧客との信頼を構築し、その結果として事業成長が達成されるという思想です。これまでは主にB2Bの領域で語られていました。

魚住氏は冒頭、さまざまなサービスプラットフォーム企業が現在、カスタマーサクセスを重視したサービスを展開していることを述べました。

例えばAmazonは、蜂蜜と乳幼児向け製品を同時に購入した顧客に対し、「乳幼児に蜂蜜を与えるとボツリヌス症を発症する危険性があるので気をつけてください」という注意喚起を記したメールを配信しています。他にも、Netflixでは、しばらく視聴していない休眠客に対してメールを送り、契約を継続するか意思を確認。反応がなければ許可を取らずに自動解約するサービスを行っています。

「Amazonのメールは一見おせっかいのように見えますが、望ましくない事態の予防を見据えた注意喚起が顧客からの評価につながっています。Netflixの取り組みは自社の収益性を下げかねませんが、まさに顧客視点に立ったカスタマーサクセスの好例といえるでしょう」(魚住氏)

サービスプラットフォームはこのような取り組みを通じて、顧客の信頼と接点を構築。この動きが加速すれば、顧客は製品の性能や知名度よりも、ブランドから提供されるサービス体験で感じた親切さや好ましさを重視して購入を決めるようになり、既存市場で企業が培ってきたブランド価値が相対的に低下する恐れがあると魚住氏は指摘。

こうした現状を踏まえ、同氏は「企業はこれまでB2Bの領域だけに活用してきたカスタマーサクセスの発想を、B2Cの領域で使う必要がある」と訴えました。

さらに魚住氏は、B2C領域で顧客に寄り添ったCRMを実現するために、カスタマーサクセス志向のマーケティング全体像を提示。

カスタマーサクセス志向のマーケティング

「モノやサービスが購入された後、日常の中で顧客の信頼のベースを築く。この活動が、カスタマーサクセス思考のマーケティングです。そこで培った信頼のベースこそが、顧客の興味を再びモノやサービスに向かわせ、再購入へと導きます。つまり、ロイヤルティーの向上がアップセル・クロスセルにつながっていくのです」と述べました。

とはいえ、このようなモデルを企業が全社レベルでつくり上げるには、組織改革など手間も時間もかかります。そこで、電通デジタルでは、顧客の信頼と接点に課題を抱える企業に対し、小さく始めて成果を証明し、大きく育てる「カスタマープロトタイピング」という取り組みを提案しています。

カスタマープロトタイピング

魚住氏は、「カスタマープロトタイピング」の三つのステップを紹介しました。

ステップ1:カスタマーサクセスが顧客にとってどうあるべきか、仮説と調査を実施。

ステップ2:カスタマーサクセスの取り組みを通じて、長期的にどういったKPIを定めるのか、何のKGIを押し上げるのかを策定し、一定期間でのプロトタイピングを計画。

ステップ3:実行に必要なチームアップをした後、具体的な活動をスタート。

「これまでのマーケティングは、『顧客にモノを売ることが企業のKPIにつながる』という考え方がベースになっていました。これからは、本来のCRMの意義である、顧客に寄り添ったおもてなしの重視、『気配り、目配り、心配り』に戻す必要がある」と、魚住氏。

そのための方法として、「まずは『カスタマープロトタイピング』という形で、できることから始めてみましょう」と締めくくりました。

「Do!Solutions」の記事はこちら


 

モバイルオーダーが変える、外食産業の未来

PDM実践ウェビナー2020

次のセッションでは、Showcase Gig代表取締役CEOの新田剛史氏と電通 データ・テクノロジーセンターの上原拓真氏が登壇。コロナ禍により広がりつつあるモバイルオーダーと、それに伴う外食産業の変化について紹介しました。

Showcase Gigと電通は、2020年4月に資本業務提携を開始し、外食・小売・メーカーに対して、モバイルオーダーを起点としたソリューション提案を行っています。

中でもメインとなるプロダクトが、モバイルオーダーをはじめとするOMO(※)サービスの構築を実現するプラットフォーム「O:der(オーダー)」で、次の三つが特徴です。

  1. テイクアウト向けのスマホ注文決済サービス「モバイルオーダー」
  2. 店内でスマホから注文と決済を行う「テーブルオーダー」
  3. 大きなスマホのような概念で、店頭で注文・決済ができるハードウエア「セルフオーダーキオスク」
※ OMO=Online Merges with Offline。オフラインとオンラインの融合・包摂を示す概念。顧客接点や販売チャネルを「ネットとリアル」のように区別せず、あくまでも生活者の体験価値を中心に据える考え方


オーダープラットフォーム
モバイルオーダーはアプリなどから注文し、お店に並んだり店員を呼んだりしなくても、商品を受け取れる便利なツール。アメリカや中国など海外では、ここ数年で非常にスタンダードなサービスとなっています。

上原氏は、「日本での認知度はまだ低いものの、コロナ禍で非接触を求める動きが強まったことで、急激に伸び始めました」と言います。

上原氏は、モバイルオーダーが普及した要因のひとつとして、外部プラットフォームとの連携も挙げました。Google、LINE、Instagramなどを経由して注文可能な仕組みをつくることにより間口が広がり、今まで利用したことのない層を取り込めたのです。

モバイルオーダーに関する利用動向調査

外食産業がモバイルオーダーを導入すべき理由とは何なのでしょうか?最も大きなメリットは、スタッフの工数削減と客単価上昇だと、新田氏は言います。

「注文の際にいちいちスタッフを呼ばなくていいので、ビールなどお酒の売り上げが上がりやすく、売り損じを減らすことにつながります。居酒屋や焼き肉店など、いわゆる純飲食と呼ばれる業態での導入が増えていて、店舗によっては来店客のほぼ100%がスマホで注文するという現象が起きています。客単価は、平均して8~10%以上も上昇しています」(新田氏)

モバイルオーダーはまだまだ進化の余地があり、従来の「イートイン」「テイクアウト」「デリバリー」に加え、今後はコンタクトポイントの増加や、データ連携によるさまざまな活用が見込まれます。

外部連携の事例として、GoogleマップのURLからモバイルオーダーができる、吉野家の先進的な注文システムが紹介されました。

「注文チャネルは多ければ多いほどよいと考え、一つのネイティブアプリにこだわるのではなく、外部と連携しやすいWeb APIの形でつくっていました。その結果、顧客にとって非常に分かりやすい導線が出来上がりました」(新田氏)

Showcase Gigでは、モバイルオーダーのメリットを体感してもらおうと2016年に都内にモバイルオーダー特化型のカフェをオープンしていますが、その応用形で生まれたのが、Showcase Gigが開発を手掛けたサントリーホールディングスのコンセプトショップ「TOUCH-AND-GO COFFEE Produced by BOSS」です。

「BOSS」のコーヒーのミルクやフレーバー、ラベルなどをカスタマイズ注文できるピックアップ専門店をオープン。LINEや店舗の端末から注文ができ、ロッカーで簡単に受け取れる仕組みになっています。     

TOUCH-AND-GO COFFEE Produced by BOSS 
セッションの最後には、外食産業の未来構想も語られました。店内で消費するイートインなどを「ON-Premises(オンプレミス)」とすると、家や店外での消費は「OFF-Premises(オフプレミス)」といわれています。この「OFF-Premises」において、どのようにデータやIDを活用していくのかが、この先の外食産業にとって重要なことなのだといいます。

毎日のように来店していた常連さんの足が、コロナ禍によって店舗から遠のき、店側は、お客さんの顔は思い出せるのに何のアプローチもできないという相談も多く上がるそうです。だからこそ、「OFF-Premises」の世界でいかに存在感を示すかが重要となるとのこと。両氏は、今後モバイルオーダーがますます進化していくことを示唆しました。

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B2Bマーケティングで注目される「アクロスPDM」とは

PDM実践ウェビナー2020

最後のセッションは、B2BにおけるPDM活用として、ABM(Account Based Marketing)とPDM(People Driven Marketing)を掛け合わせた「アクロスPDM」(A×PDM)がテーマ。人によるセールスマーケティングからマス領域への拡張が進むB2B領域において、成功に向けた手法や思考法を紹介しました。

登壇したのは、法人向けクラウド名刺管理サービス「Sansan」を展開するSansanのマーケティング担当・北川裕彬氏。そして、同氏と共にB2Bマーケティングを担ってきた電通の衣川高史氏です。

冒頭では、Sansanの事例を紹介しながら、「B2Bならではの課題」をどのように克服してきたかが伝えられました。

これまで2社の協業でB2Bマーケティングに取り組んできたものの、最初はうまくいかなかったという両氏。その原因を衣川氏は、「B2B特有のファネル構造の理解がずれていた」と分析します。

「一人のファネルを深めるために何をすべきか。いわばBtoCっぽかったんですね。しかし、実際の現場では、1社につき1人の担当者だけではなく、決裁者なども登場しながら成約へ進みます。情報収集を求めている担当者と、意思決定をしている決裁者では、求める情報に違いがある。一人のファネルを考慮した戦略は、BtoBマーケティングでは不足だったんです」と、振り返りました。

コミュニケーションフロー

そこで、電通チームはアプローチの方法をイチから見直し、SansanオリジナルのP2Cを策定しました。

「P2C」(Pass To Contract)とは電通のマーケティング手法のひとつ。ユーザーがサービスを知ってから成約に至るまでの態度変容フローを定め、フローを深化させるための現課題を明確にし、「何を目的に」「何を実施し」「何で判断するか」を表現したもので、いわばコミュニケーションのための地図です。

どんな施策が出てきたとしても、このP2Cフレームに当てはめることで、自動的に
「実施する目的は?」
「何の課題を解決する?」
「期待する効果は?」
「どんなKPIで判断する?」
といったことが一目で整理できるといいます。

「このP2Cをつくる際は、主にSansan社内に蓄積していたデータを活用しました。各部署がこれまでお客さまと交わしてきたやりとりから、『業種ごとに決裁者の感じている業務課題に対し、われわれはどんな強みがあるか、どうすれば思い出してもらえるか』をマーケの視点で再整理しました。以降は、このP2CがプランニングとPDCAのよりどころとなりました」(北川氏)

さらに、効果的なB2Bマーケティングの手法として両氏が重要視しているのが、「アクロスPDM」(A×PDM)です。これは冒頭で述べた通り、B2Bのセオリーである「Account Based Marketing」(ABM)と「People Driven Marketing」(PDM)を掛け合わせたもの。顧客を「企業軸」と「人軸」の両方で捉えてコミュニケーションするために使われます。

アクロスPDMの考え方を示すのが、「3×3のダブルマトリクス」(下図)。赤い軸は、企業を起点とした捕捉(ABM)。青い軸が、個人を起点とした捕捉(PDM)です。

空欄になっている九つのセルは、企業を主語としたときの顧客のステータスを示すもの。例えば、「契約がない会社で、かつ初めてのリードになった人」などです。

アクロスPDM

「企業」といっても企業規模・業種・エリアによって、また「個人」にも職種や役職・興味や関心・課題によって、それぞれ刺さる情報は変わります。衣川氏は、「ターゲット像をざっくり捉えるのではなく、顧客のタイプを細かく分類し、どんな登場人物がいるかを考えながら戦略を設計すると成功につなげやすい」と言います。

最後に北川氏は、「PDCAを効率よく回すためにも、P2CやアクロスPDMに基づいたシナリオづくりが重要だと感じています。B2Cではなく、B2Bならではのファネル構造があるというところに、今後もしっかり目を向けて取り組んでいきたい」と宣言。

衣川氏は、「一回つくったものを、『企業』軸と『個人』軸でさらにつくり、ブラッシュアップし続けるという戦略レベルのPDCAが大切」と今後の展望を語り、セッションをまとめました。

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