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「People Driven Marketing® 実践ウェビナー2021」レポートNo.4

カスタマーサクセスの実現に欠かせない、デジタルとデータの力

2022/03/23

電通による“人”基点のマーケティング「People Driven Marketing(※)」(ピープル・ドリブン・マーケティング)。

毎年アップデートを重ね、現在は「PDM5.0」に進化しています。

本連載では、電通人と企業のゲストたちが、マーケティングとデータの未来を語った「People Driven Marketing® 実践ウェビナー2021」3日間(2021年10月13~15日)の模様を、ダイジェストでレポートします。

3日目のテーマは「PDMの拡張」(キーノートセッションはこちら)。今回は、「“人”起点のデジタルトランスフォーメーション」の実践に関する話題を中心に3セッションを紹介します。

※所属や役職はウェビナー当時の情報です。
<目次>
スモールサクセスの積み重ねで、大きな変革を確実に前進させる
2000社以上の「デジマ診断」から見えた、デジタルマーケティング成功の3つのポイント
急ピッチのDX変革で見えてきた、人・組織の課題とは?

 
※People Driven Marketing
https://www.dentsudigital.co.jp/service/pdm/summary/
電通が提唱する、データ&デジタル時代に対応した“人”基点の統合マーケティング・フレームワーク。課題を人(People)基点で捉え直し、電通グループが持つ最先端のマーケティング手法を統合して、顧客の持続的な成長を支援していく。

スモールサクセスの積み重ねで、大きな変革を確実に前進させる

重平氏、阿部氏

「“売らない”マーケティング『カスタマーサクセス』 データで紐解く最新のCRM」と題したセッションでは、トレジャーデータの重原洋祐氏と、電通デジタルの阿部智史氏が登壇。カスタマーサクセス実践の方法について、データプラットフォーマーであるトレジャーデータの取り組みを交えながら紹介しました。

今、世の中はモノ消費からコト消費に移り変わり、ただ効率的にモノを作るだけでなく、継続的に使ってもらうための変革が企業に求められています。こうした潮流の中で注目を集めているのが、「カスタマーサクセス」。購入・契約後にモノやサービスをより良く使い続けてもらい、顧客との信頼関係を構築することで結果的に事業を成長させるという考え方を指します。

阿部氏はカスタマーサクセスがもたらす変革を、「お客さまへの伝え方・寄り添い方が変わる“コミュニケーションの変革”に始まり、その先には新たな提供価値を創出する“サービス・プロダクトの変革”があり、最終的には“事業の変革”につながる」と述べます。そして、カスタマーサクセスの実践に欠かせないのが「断片的な価値提供ではなく、一貫した顧客体験の提供」で、そのためには「データ」を有効活用して顧客理解を深めることが重要だと話します。

カスタマーサクセス実現のために

では、カスタマーサクセスを施策に落とし込み、データを活用して成果につなげるためには、具体的にどのようなことに取り組むべきでしょうか?

セッションでは、「カスタマーサクセス思考人材・組織」と「高速の実証PDCA」、2つのポイントが紹介されました。

①カスタマーサクセス思考人材・組織
近年、企業はDX推進のためにITアーキテクトやエンジニアといったIT人材の登用に注力しています。カスタマーサクセスの実践にはこうしたIT領域に加えて、マーケティングスキルやサービスデザインのスキル、IT人材と共通言語で意思疎通が図れるデータ思考、アウトプットと検証を素早く回すアジャイル思考、そして何よりも変革のマインドセットが必要です。

カスタマーサクセス人材・組織

こうしたスキルとマインドセットを有する人材組織が出来上がることで、「顧客の成功を定義し、組織のミッションや戦略に落とし込む“カスタマーサクセスデザイン”、そのためのデータ分析・活用や具体的な企画を実行する“施策実行・推進”、業務を最適化・標準化するための“IT・業務改善”、これら3つの役割を担うことができます」と阿部氏は解説しました。

②高速の実証PDCA
カスタマーサクセスデザインにおいては、顧客の成功に値する価値を探索する必要があります。例えば、物件検索サービスであれば、便利な検索体験を提供することはもちろん、その他にもおすすめ物件のレコメンドや、引越し手続きサポート、引越し先の施設やお店の紹介、衣食住のトータルサポートなど、“豊かな生活体験”を提供するためのさまざまな価値が検討できます。

しかし、実際には「組織/部署、デジタル/リアルを越境した取り組みは、例えば部署間のミッションの違いなどでコンクリフトが起きやすいので、スモールサクセスを積み重ねて少しずつ施策の規模を拡大していくことが重要です」と述べる重原氏。

このスモールサクセスを生み出す手法として2社が提唱しているのが「カスタマーサクセス・プロトタイピング」です。これは、プロトタイピングで素早く成果を証明し、変革の規模を拡大していくという手法。重原氏は「例えば、1万人の会員基盤がある事業者であれば、まずは500人のモニターに新しい顧客体験のサービスを提供する。そこでロイヤルティや購買数などの変化を実証し、徐々に大きな変革に変えていく。このようなイメージです」と説明しました。

カスタマーサクセス プロトタイピング

なお、トレジャーデータと電通デジタルは他3社と協働で、カスタマーサクセス・プロトタイピングの実装支援を行っています。

阿部氏は、「顧客体験や顧客成功の仮説設計から、具体的な施策や指標の企画、そして施策の実行からPDCAまで、さまざまな側面で皆さまをご支援したいと思っています」と述べました。

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トレジャーデータと電通が駆動させる、DXのエンジン
 

2000社以上の「デジマ診断」から見えた、デジタルマーケティング成功の3つのポイント

一柳氏、永富氏

続いて紹介するのは、「デジタルマーケティング最前線のリアル~電通オリジナル『デジマ診断ツール』から見えた3大課題と成功事例~」と題されたセッション。電通デジタルの一柳寿一氏、電通の永富亘氏が登壇し、デジタルマーケティングの最前線で起きている課題とその解決方法を紹介しました。

デジタルマーケティングが世の中に浸透し、新しいマーケティングテクノロジーやツールが次々と登場する中、デジタルマーケティングの最前線では3つのことが起きています。

①対応業務範囲の拡大
マーケティングテクノロジーの進化によって、デジタルで対応できる範囲が広がり、結果的に一人一人の業務範囲も拡大している。

②マーケティングテクノロジーの機能の拡大と関連部署の増加
機能が増えれば、管轄する部署も広がるため、複数部署を巻き込んだプロジェクト運営が増えている。

③必要な専門知識の高度化
①、②によってマーケターに求められる専門知識も広がり、高度化している。

一柳氏は、「これらの要因から、デジタルマーケティングのハードルは以前より高く、複雑になってきています」と述べます。

さらに、デジタルマーケティングには、次の4つの落とし穴があると言います。

  1. 今あるツールやデータの棚卸しをしていない
  2. 課題整理&優先順位付けができていない
  3. 施策実施における業務整理ができていない
  4. ツールを導入すること自体が目的になってしまっている

その結果、「業務が大変という理由で、いつのまにか仕組みが使われなくなってしまった」「ライセンス費や開発費の重複が発生してコストが上がってしまった!」「他社よりも先にデジマに取り組んだはずなのに、追い抜かれている…!?」といった問題が現実に起きているようです。

これらを回避すべく、電通グループでは「業務、人材、データをコアとした設計図の作成」を推奨。独自のフレームワークを用意し、“4つの落とし穴をふさぐ”デジタルマーケティングの構想策定を支援しています。

設計図をつくるために

「例えば、一見かっこいいクルマができているように見えても、クルマはエンジンや燃料がないと動きません。デジタルマーケティングでいうエンジンは『業務・人材』であり、燃料は『データ』です。それらが整っていないとあるべき姿は動き出せないのです」と、一柳氏は「業務、人材、データをコアとした設計図」の意義を解説します。

一方で、「目の前の施策実施だけで手いっぱい」「会社に構想策定の必要性を説明するのはすごく難しそう」という声も多いとのこと。そこで、電通グループではデジマ環境構築において必要な要素を手軽に診断でき、かつ今後の戦略方針まで提示できる「デジマ診断ツール」を開発しました。

デジマ診断の目的

「デジマ診断」は、すでに業種別にスコア化している2000社以上の診断結果をもとに自社のデジタルマーケティングの状況を「戦略立案」「施策実行」「データ/環境整備」「業務定着」の4項目で診断し、結果に応じたアクション案から、構想策定の必要性を判断する材料として活用することができます。

デジマ診断の診断項目
デジマ診断サンプル

「スコアで自社のデジタルマーケティングの進捗を客観的に見えるようにし、さらに業界平均と比較することで自社の立ち位置が分かるようになります。各項目のスコアが全体的に低ければ課題が多くあることになり、個別の対処よりも構想策定に取り組み、自社のデジタルマーケティングの設計図を描く方が良いことが見えてきます。このように、デジマ診断を行うことで、構想策定に取り組むべきか、個別の改善で対応できるかが分かるので、方針立案および課題意識の社内共有にも役立ちます」と、永富氏は「デジマ診断」の活用メリットを解説しました。

さらに、セッションでは2000社以上の診断結果から「KGI/KPIの設定に納得感がない」「ナレッジを全社的にシェアできていない」「導入ツールの機能を実はよく知らない」という3つの大きな課題が見えてきたことについても言及。それぞれの解決策を提案しました。

①KGI/KPIの設定に納得感がない
→解決策:出口を設定する

今取り組んでいるデジマの目的は何か、その目的達成に近づいているかを測るために、追わなければならない指標は何かを一度突き詰めて考える。自分たちが納得できるKGI/KPIを作り、それがデータとしてどうやったら取れるのかを考えていくと、今の段階でKGI/KPIとしては何を設定すべきかの出口が見えてくる。

②ナレッジを全社的にシェアできていない
→解決策:情報共有の仕組みを作る

成功のポイントは、自社の風土をうまく活用すること。ナレッジシェアはウェブ上でテキストが良いのか、それとも動画の方が良いのか、一度マネジャーが取りまとめてから発信する方が良いのか。あらゆる方法の中からどれが自社の風土にマッチして活性化しやすいかを突き詰める。情報共有が進めば、各チームが同じ検証を繰り返す必要もなくなり、取り組みの効率化につながり、デジマのスピードアップが見込める。

③導入ツールの機能を実はよく知らない
→解決策:マニュアルを策定する

各ツールベンダーの操作マニュアルではなく、自社のデジマを進めるために必要な業務をまとめたマニュアルをオリジナルで作る。まずは企画を考える人に認識してもらえる業務マニュアルを作り、機能の詳細を知りたい場合の問い合わせ先も明記することで、利用が広がる。

実際にデジマ診断の結果から、「マニュアル作りができている」と回答している企業は、未実施の企業に比べてスコアが約2.5倍高く、「情報共有の仕組みがあり、いつでも参照することが可能」と回答している企業は、未実施の企業に比べてスコアが約3倍高くなることが分かりました。

一柳氏は、「出(デ)口を設定する」「情(ジ)報共有の仕組みを作る」「マ(マ)ニュアルを策定する」という、「デジマ」こそがデジタルマーケティング成功の3大ポイントであり、「他社と差をつけるためには先ず“マジ”(マ→ジの順)に取り組むことが成果につながるのです」と、本セッションをまとめました。

※2022年3月現在、「デジマ診断ツール」は「D-compas」という名称にてご提供しています。「compas」はCheck Of Marketing Platforms And Strategiesの略称となり、幅広くデジマ課題を発見し、解決策を導くという思いを込めています。
 

急ピッチのDX変革で見えてきた、人・組織の課題とは?

高野氏、小林氏

最後に紹介するセッションは、「お客様の笑顔の創造へ トヨタファイナンスのデジタルコミュニケーション変革への挑戦」。トヨタファイナンスの高野克之氏とファシリテーターとして電通デジタルの小林大介氏が登壇し、トヨタファイナンスのDX事例をもとにデジタルコミュニケーション変革の要諦を紹介しました。

トヨタ自動車はグローバル規模でクルマを販売すると同時に、各国で金融サービスも提供しています。その中で国内の販売金融事業を担うのがトヨタファイナンス。「期待を超える金融サービスで、モビリティ社会の未来とお客様の笑顔を創造します」をミッションに掲げ、自動車ローン事業やクレジットカード事業のほか、スマホ決済アプリ「TOYOTA Wallet」など、幅広い金融サービスを展開しています。

同社は2021年に発表した事業戦略「VISION2025」の中で、これまで手がけてきた「クルマまわりのサービス」から、これからはモビリティサービスの決済、生命保険・損害保険、旅行やECサービスなどの「生活サービス」にも拡大し、お客様一人一人のニーズに合ったバリューを提供することで、「お客様の笑顔を創造」することを宣言しています。

この「お客様の笑顔を創造」をけん引することをミッションに掲げているのが、同社のCX本部。デジタル化・データドリブン、スマートコンタクトを通じてカスタマーサクセスの最大化を目指し、そのためのアクションとして「カスタマージャーニーをベースに徹底した顧客視点で考えること」や「常にデータを事実として捉えること」など、メンバーの行動指針も明確に策定しています。

高野氏は「書類の手続きや電話受付といったアナログの顧客接点をデジタル接点にシフトさせるとともに、従来の“CRMアプローチ”に加え、これからはデータ利活用でお客さま一人一人に合ったバリューをOne to Oneで提供する“カスタマーサクセス”をデジタルアプローチで仕掛けることがポイントです」と話しました。

顧客理解にもとづくOneとOne

続いて、具体的なDX施策について紹介がありました。CX本部は2018年に「デジタルコミュニケーション戦略」を立案し、ビジネス全体のカスタマージャーニーを整備。約2年でDXに必要なデジタルマーケティングツールやデータ基盤を一気に構築しました。全社的な動きとしては、2019年に「事業構想改革プロジェクト」が立ち上がり、従来の自動車ローン・カード以外の新事業を順次展開しています。また、CX向上施策として24時間365日ウェブで照会・手続きできるメニューの拡充やFAQ更改、チャットボット導入、スマホアプリやウェブサイトのリニューアルも同時に進めました。

「現在は自動車ローン契約者向けウェブ機能の拡充や、会員サイトの統合プロジェクトを進めています」と、高野氏はさらなるCX向上に取り組んでいることを説明しました。

このように短期間でトヨタファイナンスのDX変革をけん引してきたCX本部ですが、プロジェクトを進める中で初めて見えてきた課題もあるといいます。

まず、基盤・ツールの導入に関しては、ツールやデータに詳しい有識者が社内に少なく、導入に対する理解を得ること自体も簡単ではなかったようです。さらに、急ピッチでツールの導入や組織の拡大を実施したこともあって、デジタル化が目的になってしまい、DXマインドやCX(顧客体験)視点の醸成がまだ追い付いていないという課題も生じているとのこと。「加えて、ツールを使いこなすスキル、データを分析するスキルもまだまだ足りていないと思います」と高野氏。

こうした課題を解決すべく、現在は改めて「カスタマーサクセス」という最初にやりたかったことに立ち返り、軌道修正に取り組んでいるとのことです。「まだまだアナログ接点が多いので、まずはお客さまとのデジタル接点の構築、データ取得、データ活用をしっかり行う。その上で、顧客視点で考える力、データを使いこなす力を組織全体に広げていきたいと思います」と展望を語りました。

小林氏は、「やはり人づくり・組織づくりが非常に苦労されているポイントであり、DX成功を左右するカギになるのだと感じました」と述べて締めくりました。
 


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