D2Cブランド開発の極意No.2
D2Cビジネスで勝つための秘策“UIGC”って何?
ある高級スイーツブランドの事例
2021/02/04
「D2C」とはDirect To Consumer。つまり企業や個人が、小売店舗や流通を介さず、生活者とオンラインで直接つながり、商品やサービスを販売するビジネスモデルです。
今やスタートアップのみならず大企業も取り組みを始めている領域ですが、D2Cブランドの立ち上げに当たって、「こうすれば成功する」という秘訣はあるのでしょうか?
本連載では、インフルエンサー・マーケティング会社タグピクのファウンダー兼会長にして、D2C専業マーケティング会社マルシェのブランドプロデューサーでもある泉健太氏に、D2Cブランド開発の極意を聞いていきます。
今回は「生活者の共感を生む商品開発とコミュニケーション」をテーマに、マルシェのD2Cブランド「BRANCHÉ CHOCOLAT(ブランシェ・ショコラ)」の成功事例を交え、泉氏ご自身が解説します。
<目次>
▼“共感”で拡散されたD2C高級スイーツブランド「BRANCHÉ CHOCOLAT」
▼D2Cブランドは“ストーリー・ファースト”でなければならない
▼ユーザーとインフルエンサーを巻き込む“UIGC”とは?
▼開発段階からインフルエンサーを巻き込めば成功確率が高まる
▼共感の源泉となるのは結局“本質的に良いもの、尖ったもの”
・泉健太氏とは?
タグピクのファウンダー兼会長。自身のSNSアカウント「@nikuterrorist」ではInstagram/TikTokを中心にフォロワー46万人超を有する美食家インフルエンサーの顔を持つ、ハイブリッド系経営者。
金融業界と上場企業のプロ経営者の経験を生かし、ブランディングと戦略コンサルティングで数多くの企業価値を向上させてきた“上場請負人”でもある。
・タグピクとは?
日本およびアジア圏に5000人のインフルエンサーを抱え、SNSブランディングによる共感形成の領域でトップクラスの実績を持つインフルエンサー・マーケティング会社。
泉氏や共同創業者の代表取締役・安岡あゆみ氏ら、役員や社員も現役インフルエンサーとして活躍し、SNSやD2Cの成功法則を知り尽くしている。2020年9月、D2C専業子会社「マルシェ」を設立。https://tagpic.jp/
・電通とタグピク
電通は、タグピクおよびそのグループ子会社でD2Cブランド開発を専門とするマルシェと業務提携を結んでいる。(詳しくは広報リリースを参照)
“共感”で拡散されたD2C高級スイーツブランド「BRANCHÉ CHOCOLAT」
2020年に設立したマルシェは、企業のSNSブランディングを支えてきたタグピク・グループにおける、新たな“D2C×インフルエンサー”専門会社です。
マルシェは「企業のD2Cビジネス支援」を行う会社ですが、実は2020年9月の会社立ち上げと同時に、まず自社開発のD2Cブランドをリリースしました。それが、日本発の高級D2Cスイーツブランド「BRANCHÉ CHOCOLAT」です。
リリース直後から非常に多くの反響を頂き、販売開始からわずか3分足らずで売り切れ状態になることもしばしば起きており、Instagramアカウントは開設4カ月で2.0万フォロワーを獲得。
インフルエンサーをはじめ、芸能人の方々も自身のInstagramアカウントに写真を投稿してくださるなど、SNSを中心に想定以上のスピードで認知が広がり、リピート数も順調に増加しています。
前回、「ブランドのストーリーや世界観に顧客が共感できるかどうか」がD2Cビジネスの成否を大きく左右することをお伝えしました。このBRANCHÉ CHOCOLATは、まさにその“共感”を軸に成功した事例です。
D2Cブランド開発において、「生活者の共感を生むコミュニケーション」を設計するのには具体的に何をすべきなのか、BRANCHÉ CHOCOLATの展開を追いながら見ていきましょう。
D2Cブランドは“ストーリー・ファースト”でなければならない
この記事をご覧の方の中には、企業の商品開発担当者もいらっしゃると思います。皆さんが新たに商品開発をする際、何から手を付けていますか?
手法に多少の差異はあれど、「マーケティング理論に基づいて市場調査や競合商品の機能を整理し、自社の優位性を見つけてターゲットを選定し~」といった具合が一般的だと思います。
しかし、D2Cブランド開発の場合、マーケティング以前にまず
つくり手の強い思い
からブランドが生まれるケースが非常に多いのです。
生活者の共感を生む方法はいろいろありますが、大切なことのひとつに「生活者の悩みや課題を解決すること」があります。そのため、そもそもつくり手自身がその悩みや課題の当事者であり、ひとりの生活者として感じたことが、商品開発のきっかけになっている……これは代表的な「ストーリー」の一例です。
D2Cブランドのウェブサイトには、そのような創業ストーリーが書かれていることが多いので、ぜひ読んでみることをお勧めします。
BRANCHÉ CHOCOLATは、インフルエンサーとしていつも“食べ歩き”に情熱を燃やしている私自身の、「日本各地に点在する本当においしい食材を、もっと世の中に知ってほしい」という思いから生まれたブランドです。
例えば、BRANCHÉ CHOCOLATは、“八女茶”を原材料にするところからスタートしています。高級抹茶といえば“京都”“宇治”というイメージがある人も多いと思いますが、実は福岡県の八女のお茶はお茶の全国No.1のブランドを決める品評会では1位に選ばれたブランドです(※)。
一部の料理人や美食家の中ではメジャーですが、一般の生活者にとって残念ながら、宇治抹茶ほど認知が高いブランドまでに至っておりません。
※八女茶、第74回全国茶品評会にて玉露の部1位を獲得!1位から20位まで八女茶が独占!!
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000066744.html
他にも日本には、まだ世間にそこまで知られていないけれど、食通やプロの料理人もほれ込む素晴らしい食材がたくさんあります。
私も一人の“食べ歩き”マニアとして、地域に根差した一流の料理人に調理された、一流の日本食材と出合う中で、
「日本のおいしい食材を使った世界一おいしいショコラのスイーツを生活者に届けて、“日本の本質的に良いもの”と出合う喜びや楽しさを世界に伝えたい」
「日本発の最高ショコラのスイーツブランドを世界に羽ばたかせることで、つくり手である生産農家の方にも還元したい」
と強く思い、このブランドを立ち上げました。
その思いに共感してくれている薬師神陸シェフは、もともと食べ歩き仲間。ある時、まだ構想段階だった「日本の良いものを使ってこだわり抜いた世界一の高級スイーツ」をつくりたいと話したところ、「俺、パティシエとちゃうけど、面白そうだから俺がつくるよ」と深く共感してくださり、一緒に商品開発することになったのです。
ちなみに、当時、薬師神さんがシェフを務めていた【SUGALABO(スガラボ)】は、世界のレストランランキング「LA LISTE(ラ・リスト) 2020」では、世界で最高得点を獲得し、世界で初めてルイヴィトンとコラボでレストランを大阪にも作った日本最高峰のフレンチレストランです。
超一流の素材に、超一流のシェフを集めるところからこのプロジェクトは始動しました。
その結果、BRANCHÉ CHOCOLATは私と同じような美食家、食やライフスタイルにこだわる方々、プロの料理人などからも共感され、支持されることとなり、彼らが積極的に認知拡大を後押ししてくれています。
BRANCHÉ CHOCOLATのように、マーケティング起点ではなく、つくり手の強い思いから商品開発を始めることが、人々の共感を呼ぶ“ストーリー・ファースト”のD2Cブランドを生むため一つのポイントです。そしてそのストーリーを伝え、広めるUX設計を、商品とセットで考えていくのです。
ユーザーとインフルエンサーを巻き込む“UIGC”とは?
前回記事で、D2Cブランドに欠かせないプロモーション手法として、「インフルエンサーを起点としたSNSでの情報発信」について解説しました。
D2Cブランドは、SNSを認知拡大の主戦場とするため、ユーザーコミュニティーとインフルエンサーとの連携が欠かせません。自身の世界観に“共感”するファンを引き付け続けているインフルエンサーは、D2Cブランドが生活者の“共感”を集めるための媒介者として重要な役割を担うのです。
SNS上でユーザーの共感を生むために押さえておきたいポイントを、いくつかご紹介します。
①「UIGC」(User and Influencer Generated Content)
BRANCHÉ CHOCOLAT公式のSNSアカウントを見てもらうと分かりますが、広義のユーザー(インフルエンサーや一般ユーザー)を巻き込んだSNSの運用を心掛けています。
具体的には、BRANCHÉ CHOCOLATのInstagramのアカウント写真の多くは、ユーザーによる投稿写真を個別に許可頂き、掲載しています。
こうしたユーザーによるコンテンツをUGC(User Generated Content)と呼びますが、インフルエンサーを含めたUserを意味することから、当社では
UIGC(User and Influencer Generated Content)
と呼んでいます。
ユーザーやインフルエンサーの投稿を積極的に公式アカウントが紹介することで、より“共感”の輪が広がりやすくなるのです。
②「ブランドとインフルエンサーが持つ世界観の親和性」
D2Cブランドはストーリーや世界観への共感が鍵となる以上、「ブランドの持つ世界観」と、「インフルエンサーの持つ世界観」の親和性が重要です。
ブランドの世界観とマッチするライフスタイルを志向するインフルエンサーであれば、自然と投稿の熱量も高まります。ファンもその人のライフスタイルに共感してフォローしているため、ブランドを好きになってくれる可能性が高いでしょう。
BRANCHÉ CHOCOLATの場合、「日本各地の優れた食材」にこだわり抜いた高級スイーツなので、ライフスタイルへのこだわりが感じられるインフルエンサーに愛されるブランドに成長しています。
重要なのは、ブランドの世界観とインフルエンサーのマッチングです。単純に影響力のあるインフルエンサーをキャスティングしたり、たくさんのインフルエンサーにプロモーションをお願いしても、ブランドが持つ世界観に合わないと、結局うまくいかないのです。
仮に彼らの投稿によって商品が買われたとしても、その投稿と、実際に届いた商品やユーザー体験との間にギャップがあれば、二度と購入されることはないでしょう。
③「ユーザーとの信頼関係、ブランドの透明性」
D2Cブランドは、ユーザーとの信頼関係や透明性が問われます。例えば、商品写真、ウェブサイトなどのクリエイティブと、プロダクトの実物にギャップがあるのもNGです。
私たちも、写真のクオリティーにはもちろん徹底的にこだわっていますが、一方で実物とあまりにかけ離れた仕上がりにならないよう注意しています。「サイトで見たものと、届いた実際の商品の印象が違う」のは、ユーザーとの信頼関係を損なうからです。
開発段階からインフルエンサーを巻き込めば成功確率は高まる
ここからはさらに応用編として、「インフルエンサーを巻き込んだ商品開発」を紹介します。
一般的な商品開発でも、事前にユーザーアンケートやデプスインタビューなどを行うことはありますよね。D2Cブランドの場合は、アンケートやインタビューにとどまらず、そもそも「インフルエンサーと一緒に商品開発をする」のも非常に有効です。
ここで押さえておきたいのは、単に宣伝効果を狙って有名人を起用すればいいというものではなく、あくまでも「その道」の第一線で活躍しているインフルエンサーを起用することです。
なぜなら、その領域(今回で言えば美食系)に強いインフルエンサーなら「ソーシャルメディアで、スイーツなら、どんなものが流行るのか?」といったトレンドを肌感でつかんでいますし、「どんなプロダクトだったら投稿したくなるのか?」という、拡散する側の立場からのリアルな意見を開発に反映できるからです。
加えて、一緒に開発を進めることで、インフルエンサーにブランドを自分ゴトとして捉えてもらえるので、リリース後に熱量のこもった投稿をしてくれる可能性も高くなります。
BRANCHÉ CHOCOLATの場合、美食家インフルエンサーやプロの料理家のインフルエンサーなどに事前に協力していただき、
- 最近のスイーツのトレンド
- 味
- 食感
- 箱のデザイン
- スイーツの形状
- 切った時の断面の見え方
なども含めて、細部にわたって議論しながら、商品開発を進めました。
例えば、「和栗のカレ・オ・ショコラ」は生産量の少なさから“幻の栗”とも評され、日本最高峰の大きさを誇る「銀寄」(大阪・能勢町)を使っています。このプロダクト開発では、美食家インフルエンサーたちから
「撮影するときに断面が一番映えるので、大きな丸ごと1個入れた方がいい」
「栗スイーツと言えばモンブランなので、見栄えにモンブラン的要素を入れてほしい」
「栗やお芋など特有の口元にザラザラと残る食感が嫌いな人も多いので、なるべく口触りがなめらかな食感の方がいい」
といった意見を取り入れながら、何を原材料に含めるのか、“食べるプロ”と“つくるプロ”とで議論しながら、商品設計を行いました。
BRANCHÉ CHOCOLATが瞬間的なバズで終わらずに、
- 継続的に拡散され続け、
- 食べた皆さんがさらに拡散してくれる
という理想的な状態をつくることができているのは、スイーツ分野で絶大な信頼があるインフルエンサーからアドバイスを頂き、その人たちが納得するものができるまで試行錯誤を重ねた結果なのです。
共感の源泉となるのは結局“本質的に良いもの、尖ったもの”
ここまでD2Cビジネスにおける、生活者の共感を生む商品開発とコミュニケーションの方法についていろいろ解説しました。しかし、これらを一言で言えば、要するに「本質的に良いものをつくる」。これに尽きます。
なんだ、と思われるかもしれませんが、本質的に良いものでなければ、生活者はわざわざ高い送料を払ってまで購入しません。流通を介さないことで生まれた余剰利益をただ懐に収めるのではなく、「ユーザーに還元する方法」を考えることが重要です。
例えば、プロダクト自体の品質やUXも最高のものを求める。サイトのデザイン、パッケージのデザイン、箱を開けた瞬間の顧客の感情まで考え、こだわり抜き、妥協せずに一貫したブランドの世界観を提供する。
もちろん、浮いたコストで素材や品質にこだわるだけでなく、「価格を安く」するという利益還元の方法もあります。実際、SNSでは“プチプラ商品”を好んで投稿するインフルエンサーも存在し、多くのファンを抱えています。ただし、この場合も安ければいいというわけではなく、「安くて、良いもの」であることが重要です。
本質的に良いものをつくる。結局これが、共感を生むD2Cブランドづくりの第一歩であり、共感の源泉なのです。
そしてもう一つ、BRANCHÉ CHOCOLATの成功事例から導き出せるD2Cビジネスの極意として、
- 一点突破で、尖ったプロダクトをつくる
ことが挙げられます。
SNS上のプロモーションをはじめとするデジタルマーケティングは、ターゲットを絞り込んで効率的にアプローチできる点が大きな強み。たとえ万人受けしなくても、“特定の層”に強烈に響く商品であれば勝ち筋は十分にあります。この場合も当然、インフルエンサー選定が“共感”を広げる鍵になります。
競合のいないニッチ商品に振り切るのも一手です。逆に“オールターゲット”の商品は巨大資本の会社でない限りは、D2Cには不向きともいえます。
BRANCHÉ CHOCOLATは、スイス・ベルギー・フランスなどの外資系の高級チョコレートブランドの価格をはるかに凌駕する、超高価格帯を攻めた最高峰のショコラブランド。そもそも“超高級ショコラのスイーツ”の時点で、ある程度ターゲットが絞られますし、食材やディティールへのこだわりは他の追随を許さないほどに振り切った、いわば「尖がった」プロジェクトです。
最後に、今回紹介した、共感を生むD2Cブランドのポイントをまとめます。
- ストーリー・ファーストで商品開発をスタートする
- インフルエンサーを商品開発に巻き込む
- 本質的に良いもの、特定の層に響く尖ったものをつくる
これからD2Cビジネスを始める方、すでにD2Cビジネスを展開しているけれどうまくいかない方は、ぜひこれらのポイントを取り入れてみてください。