為末大の「緩急自在」No.11
アスリートブレーンズ為末大の「緩急自在」vol.11
2021/03/11
為末大さんに「いま、気になっていること」について、フリーに語っていただく連載インタビューコラム。唯一、設定したテーマは「自律とは何か、寛容さとは何か」。謎の「聞き手」からのムチャ振りに為末さんが、あれこれ「気になること」を語ってくれます。さてさて。今回は、どんな話が飛び出すことやら……。乞う、ご期待。
──「さびしさとは、何か?」というテーマの今回のインタビューも、いよいよ最終回です。前回、あらゆる人間関係においてさびしさを克服するには「信頼感」が大事、というところに話が及びました。さびしいから他人と関わる、さびしいから仕事をしてしまう、では基本的な解決になってませんものね?
為末:そうですね。ここで大事なのは、信頼関係を築くにためには時間がかかる、ということなんです。外交の首脳会議なんかでよく見られる光景ですが、お互いの国の事情を背負って会談に臨む人たちは、ともすればズブズブの関係になって「落とし所」を探りがたる。でも、それでは本当の信頼関係は築けないと思うんですよね。
──握手をして、終わり。みたいな。
為末:そうです。僕は「好敵手」みたいな関係が、いい信頼関係を生むんじゃないかと思っています。やるなあ、コイツ。みたいなことです。こちらが出したパスをちゃんと受け止めて、そのパスにこちらが予想した以上のものを返してきたときに、相手に対するリスペクトというか、真の信頼感が生まれると思うんですよ。いま、会社でも家庭でも、あるいは社会でも、なんとなく「さびしさ」が蔓延しているような気がするのですが、その本質は「心から相手を信じられる感覚」が薄まっているから、のように思います。
──分かります、分かります。世の中では「暗黙知」というワードが、最近、よく取りざたされるようになりました。つまり、個人が抱えている仕事上のメソッドを、できるかぎりデータ化して、みんなで共有しましょう。あうんの呼吸で仕事をするのはやめましょう、ということです。一見、さびしさから解放されるような感じがするのですが、なんだかそこに僕は違和感を覚えるんですよね。
為末:よく分かります。
為末:経営者のジレンマとして「会社を存続させるためには一人のタレントに依存してはいけない」ということがある。一方で、そのノウハウをデータ化してみんなで共有してしまった瞬間、ようするに「その仕事をやるのは、つまるところ誰でもいいんじゃん」ということになる。
──難しいさじ加減ですよね?
為末:そう。なので、すべてをデータ化して、データをもとに他人と会話するということには、僕は懐疑的です。暗黙知と言われると「それくらい、言われなくても分かるだろう?空気を察しろ」みたいなイメージがあると思うんですけど、僕は、こう考えています。つまり、「無意識に聞こえてくる情報にも、とてつもない価値があるのだ」と。カクテルパーティー効果、みたいなワードがありますが大勢がワイワイしている中で、自分にとって必要な情報がふと耳に入ってくる。これって、ネットで検索する、みたいなことからは体験できないことだと思うんです。
──ああ、それは会社員にとっても、かつての醍醐味だった。先輩と夜に酒を飲んでいて、ふとした瞬間に聞いた話とか、いまも心に残っています。
為末:でしょ。聞くつもりもないのに、耳に飛び込んできた話。そういうのが、
心に深く刺さるんです。
──さあ、これからフィードバック面談をやるぞー、とか言われても心に響きませんものね。心に響かないものだから、どんどんみな「さびしく」なっていく。
為末:僕は思うのですが、人と人とが信頼関係を築く上でもっとも大切なことは
「素直になること」ではないかと。具体的に言うなら「嫌いなことを、早めに表明しておけ」ということです。一瞬、相手に「コイツ、嫌な奴だな」と思われてもいい。「嫌な奴だけど、嫌いじゃない」みたいな感情が芽生えたときに、真の
信頼関係が築けるのではないでしょうか。
──世の中の経営者の悩みも、きっとそこにあるんでしょうね。
為末:そうだと思います。経営や人事に関して「感情的にえこひいきすること」は絶対に避けるべきだと思うのですが、「自分はこうしたいんだ」という意志なり基準なりをはっきりと示した上でのえこひいきは 、僕はアリだと思いますね。
──「さびしさ」というテーマから始まって、最後はリーダー論、経営論にまで話が広がってしまいました。今回も、ありがとうございました。
為末:こちらこそ。新たな発見があって、楽しかったです。
(聞き手:ウェブ電通報編集部)
アスリートブレーンズ プロデュースチーム白石より
アフターコロナ時代や働き方改革の中で問われる、信頼関係のつくり方。僕自身も試行錯誤する領域です。「効率」と「効果」が同時に求められる昨今、皆さまも多かれ少なかれ、苦心されているテーマではないでしょうか? 今回のコラムにはその解決に資する論点や切り口が多く内包されていたように感じます。そのひとつが、一面的ではない、表面的ではない、「素直さ」。言葉で言うほど簡単ではないですが、これを機にこのアスリートブレーンズでも強く意識をし、推進していきたいと思います。
アスリートブレーンズプロデュースチーム 電通/日比昭道(3CRP)・白石幸平(事業共創局)
為末大さんを中心に展開している「アスリートブレーンズ」。
アスリートが培ったナレッジで、世の中(企業・社会)の課題解決につなげるチームの詳細については、こちら。