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為末大の「緩急自在」No.12

2021/10/12

アスリートブレーンズ為末大の「緩急自在」vol.12

為末大さんに「いま、気になっていること」について、フリーに語っていただく連載インタビューコラム。唯一、設定したテーマは「自律とは何か、寛容さとは何か」。謎の「聞き手」からのムチャ振りに為末さんが、あれこれ「気になること」を語ってくれます。さてさて。今回は、どんな話が飛び出すことやら……。乞う、ご期待。

為末さん寄り
──「自律と寛容」というお題の下で、今回は「ありがたみとは、何か?」というテーマを設定しました。前回の「さびしさとは、何か?」同様、ちょっと風変わりなテーマなので、なぜ、このテーマを選んだのかについて、例によってちょっと長めに前振りをさせていただきます。
為末:よろしくお願いします。

──この時代、ブランドや企業価値を高めたいとか、会社や個人の存在意義って何だ?とか、多様性が尊重される社会にしたいとか、女性の地位を向上させたいとか、あらゆる差別や偏見をなくしたいとか、そういったことが取り沙汰されているわけですが、その根底には共通する「何か」があるような気がしてならないんです。

為末:はい。

──でも、その「何か」がいまだに見つかっていない。定性的、定量的に、あらゆる分析が行われているけれど、いまひとつ、しっくりこない。

為末:うん、うん。

──きっかけは、「のれん代」という言葉と出合って、それってどういうこと?と思って調べてみたことにあるんです。「のれん代」の値踏みをまちがえて、企業買収の際に大損してしまった、みたいな。

為末:いわゆる、M&A(企業の合併・買収)用語ですね。

──そうです。単純にいうと、その企業やブランドが持っている誰もが納得する価値、つまりはブランド価値ということだと思うのですが、さらに調べていくと「損益計算書みたいなものが出てきて、もうお手上げ。一応、僕自身、大学で経済学を学んだ、ということになっているんですが、損益計算書におけるここの部分が「のれん代」にあたるわけです、などと言われてもまったくわけが分からない

為末:わははっ。

──そのときふと、「のれん代」とか「ブランド価値」というものを「ありがたみ」と言い換えてみたら、なんだかしっくりくると思ったんです。というわけで、アスリートであり、企業経営者でもある為末さんに「ありがたみとは、一体なんなのか」ということをぜひ、伺ってみたい、と。

為末:なるほど。

為末さん引き

──例によって長い前振りになってしまいましたが、最初にお伺いしたいのは、オリンピックなどでよく飛び交う「感動を、ありがとう!」という、あの「ありがとう!」って何だ?という話。個人的には大嫌いなんです、あの言葉。家で、ビールを手に、テレビを見ていただけだろう?「ありがとう!」もへったくれもあるか、と思うのです。

そもそも選手は、ビールおやじのために、血のにじむようなトレーニングをしてきたわけではないんだ!って、僕が熱くなってもしようがないんですが、この「感動を、ありがとう!」について、為末さんのご意見をまず、お聞かせください。現役時代、「ありがとう!為末!」みたいなことは、散々、言われてこられたと思うので。

為末:選手としては、純粋にうれしいですよね。世の中から「ありがとう!」と言われるだけのことを成し遂げたんだ、という気持ちになるし、その「ありがとう!」に感謝したい気持ちにもなる。その「ありがとう!」って何だ?ということでいうと、「思わぬ恩恵を得られた。自分では生み出せない気分を味わわせてくれた」ということなんだと思いますね。

──なるほど。

為末:1泊8000円くらいのホテルに泊まったら、予想を超えたサービスがあってびっくり、みたいな。ちょっと、もらいすぎちゃったかな、みたいな。

──ここまで走るか、為末!ウソだろう?ありがとう!みたいな。

為末:そう(笑)。でも、「ありがとう!」にも、温度差はあると思う。「為末さんの走りを見て、勇気をもらえました。ありがとう!」みたいな「ありがとう!」って、美しいじゃないですか。何年も前から応援してくれてたんだろうな、ということが一目で分かる、ぼろぼろになった「がんばれ、為末!」の横断幕とかね。その気持ちに、こちらもじーんとしてしまう。チケットの裏に、とりあえずサインしてください、みたいなものとは明らかに違う。

──分かるなあ。ぼろぼろになった横断幕。想像しただけで、泣けてくる。

為末:大事なことは「ありがとう!」に込められた思いや熱量。で、その思いや熱量は、なにがもたらすのかというと「時間」なんだと思うんです。

──「時間」ですか。

為末:マスコミも世の中も、瞬間的にはものすごい熱量で、それこそ沸騰するじゃないですか。でも、冷めるのも早い。選手としては瞬間的に沸騰する「ありがとう!」もうれしいのですが、汗ばむ手で、何年もの間、握りしめられたであろう横断幕から伝わってくる「ありがとう!」の価値とは、まったく別次元のものです。

──いい話だなあ。

為末:実はこれ、「スポーツファンビジネス」にとって永遠のテーマなんです。ビジネスという意味でいうと、瞬間的に沸騰する「ありがとう!」の方が、圧倒的におカネになる。何かの大会で優勝した、CM契約が生まれる、とんでもない金額の出演料が入る、関連グッズが売れる、ノベルティの使用料が入る、みたいな。

それはそれで、ビジネスとして大事なことなんだけど、本物のファン心理というものは、「最初のハードルに足をひっかけながらも完走した」とか「外しても優勝のウイニングパットを外した」とか、そういうところにグッとくるというか、そういうものだと思うんです。

──例によって、深いお話になりそうですね。(#13へつづく)

(聞き手:ウェブ電通報編集部)


アスリートブレーンズ プロデュースチーム 日比より

「ありがたみ」ということを、改めて僕自身も考える機会をいただきました。クライアントさんにとって、僕らの提案は「ありがたみ」を感じるものだったのか?そんなことを、これから、自分に問うていきたいと感じました。また、ありがたみは、「積み重ねた歴史の総熱量」が生むものだとすると、アスリートがスポーツに向き合った歴史が生み出す「体験談やナレッジ」は、まさに、ありがたいものだとも思います。アスリートが培ったナレッジを、世の中の課題解決につなげていきたいと思います。

アスリートブレーンズプロデュースチーム 電通/日比昭道(3CRP)・白石幸平(事業共創局)

為末大さんを中心に展開している「アスリートブレーンズ」。
アスリートが培ったナレッジで、世の中(企業・社会)の課題解決につなげるチームの詳細については、こちら

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