【グローバル】加速するサステナビリティ&サーキュラーエコノミーNo.1
「ソーシャルグッド」と「ソーシャルメディア」のいい関係
2021/03/10
世界では、サステナビリティーとサーキュラーエコノミー(循環型経済)に向けた動きが加速しています。その実現には、企業間の「調達・開発・生産・流通」だけでなく、人々の行動である「購入・使用・廃棄(回収)」をどのように巻き込んでいくかが鍵となります。本連載では、この潮流において、グローバルで何が共通し、何がローカライズされるべきか、ヒントを探っていきます。
今回は、電通SDGsコンサルタントの田中理絵と、電通総研プロデューサーの中川紗佑里が、2020年12月に電通と電通総研が共同実施した「ソーシャルグッド意識調査(※)」の結果から、ソーシャルグッドへ人々の参加を促す方法を考察します。
※ソーシャルグッド意識調査:日本・イギリス・アメリカ・中国・インドの5カ国で、ソーシャルメディアの利用者を対象に実施。ソーシャルメディアには、SNS、動画共有サイト・アプリ、メッセンジャーアプリの利用を含む。
<目次>
▼中国とインドが、欧米よりソーシャルグッド意識が高い理由とは?
▼SNS投稿者がソーシャルグッドの仲介役に
▼企業主導のソーシャルグッド活動を成功に導くヒント
中国とインドが、欧米よりソーシャルグッド意識が高い理由とは?
こちらは、日本・イギリス・アメリカ・中国・インドにおける、ソーシャルグッド意識調査の結果です。この結果を見た複数の方から、「アメリカやイギリスは、昔からソーシャルグッド活動が盛んだが、中国やインドの方がより高い割合となったのはなぜか」と聞かれました。私たちは、各国のインターネット普及率が、インターネットのアンケート結果に影響しているのではないかと考えています。
【インターネット普及率(2020年)】
イギリス95%
日本94%
アメリカ90%
中国59%
インド41%
出典:https://www.internetworldstats.com/stats.htm
上記を見ると、インターネットが広く普及している国と、おそらく都市部や経済的に豊かな層に偏っている国がありそうです。中国とインドについては、インターネット調査の回答者にアーリーアダプター(流行に敏感で、積極的に情報収集を行い、自ら判断する層)が多く含まれると考えられます。また、今回は一律「ソーシャルメディアの利用者」を対象としていますが(細かい定義はニュースリリースをご覧ください)、ソーシャルメディアの発信が盛んな人の割合は、インド・中国において回答者の約8割を占めています。
日本やイギリスはインターネット普及率が9割を超え、ソーシャルメディアも大多数が使っています。なお、日本のSNS利用率は69%(総務省情報通信白書 令和2年版から)で、今回の調査では「SNS発信が盛んな人と受信メインの人がおよそ半々」という状況です。中国やインドのように一定水準以上の生活レベルの人を中心にSNSが使用されている状況に比べて、日本やイギリスでは多様なバックグラウンドの人が見ることを前提としており、一つの方向に価値観が一致することは難しくなっているのかもしれません。
2020年にステイホームを強いられた際、中国で「加油(がんばれ)」の投稿に賛同コメントが集まった様子や、インドでTikTokの手洗いチャレンジ「#LifebuoyKarona」が広がった様子など、ソーシャルメディア内でのポジティブな団結が世界から注目されました。これらの事象からも、インド・中国ではソーシャルグッドを牽引する層がSNS投稿の多数派を占め、SNS内でのムーブメントを起こしやすい土壌ができていると考えられます。
SNS投稿者がソーシャルグッドの仲介役に
「日本人は奥ゆかしく、発言を控えることが美徳だ」と感じる方もいるでしょうし、SNS内のムーブメントが起こることがいつも良いわけでもありません。ただ「日本は他の国とは違う」と思い過ぎると、他国から学ぶ機会がなくなってしまいますので、ここでは、学べるポイントを抽出していきます。
図3の調査結果から、日本において「SNSを週1回以上投稿する人」は、ソーシャルグッド意識が高いことがうかがえます。SNS投稿を週1回以上するかどうかが消費行動に影響するならば、サーキュラーエコノミーの鍵を握る存在として、SNS投稿が習慣になっている人たちを巻き込むことは、日本においても大事になってきます。
ここで誤解なきようお伝えしたいのは、「複数のSNSを使っている」「SNSを毎日複数回投稿する」というような、SNS利用のヘビーな人ほどソーシャルグッド意識が高いわけではなかった(投稿回数そのものはソーシャルグッド意識との相関関係はない)ということです。
しかしながら「週1回以上のSNSの習慣的な投稿がある層」という、ゆるやかなくくりで見ると、どの国でもソーシャルグッド意識が高めになることが確認できています。つまり、ある閾値を超えたら、それ以上かどうかは関係がないのですが、投稿をあまりしないで読むだけの人と習慣的に投稿する人を分けると、国を問わず意識に違いが見られたということです。
SNS投稿の内容はさまざまでしょうが、「仲介役となって情報を周りに伝えることが多い人」と考えてみましょう。ソーシャルグッドが大事だと頭で分かっていても、世界を遠く感じたままでは、どう行動していいか分かりません。しかし、そこに仲介役がいたら、世界を身近に感じる人が増え、遠くにいた人々が参加しやすくなります。もし、自身の投稿内容が常にプライベートのひとときだとしても、投稿習慣がある人の方が、他者の投稿やニュース記事に対しても、「いいね!」や「シェア」をする頻度が高まるのではないでしょうか。
SNS投稿をする人を介して、これまで見えてなかった世界と身の回りをつなげる人が増えたとき、ソーシャルグッド活動は起こりやすくなるでしょう。2010年にTEDで、デレク・シヴァーズ氏が「社会活動はどうやって起こすか」のスピーチで述べたように、最初に踊り始めるイノベーターも大事ですが、それを見て、一緒に踊りに参加するノリの良いフォロワーとエンドーサーがいてこそ、社会活動のムーブメントが起きるのです。
企業主導のソーシャルグッド活動を成功に導くヒント
最後に、ソーシャルグッド活動を成功に導く二つのポイントを紹介します。一つ目は企業主導で、「ファクトに基づくビジョンを、経営層からステークホルダー全てに長期・継続的に伝えていくこと」です。
キーワードが毎年コロコロ変わる演説ではなく、企業独自のビジョンを一貫性と継続性を持って、事あるごとに繰り返し、言葉だけでなくビジネスを動かす事実を模範として示すことで、ビジョンは初めて浸透していきます。例えるなら、日頃から祈りや家訓を唱えていないなら、有事の時にいきなり唱えられません。何を信じ、どう行動すべきかを、普段から浸透させていることが大事です。ビジョンは、創業時からの社是や行動規範に立ち戻る場合もありますが、今後の変革を促すために、SDGsビジョンを追加することも有効です。
サーキュラーエコノミーを意識すると、ステークホルダーは株主・従業員・顧客だけでなく、バリューチェーンに関わる人全てにそのビジョンが伝わっている必要があります。さらに地域、NPO・NGO団体、研究者など、直接ビジネスに関わらない関係者に対しても、企業がポーズではなく実現に向けて根を張った取り組みをしていると信じてもらうことで、協業の可能性が開けていきます。
そのため、IRを意識したビジネス系メディアだけでなく、サステナビリティーに関心の高いメディア・団体との関係構築も意識して、事業を超えて広く社会に「長期・継続的にビジョンを伝えていくこと」の重要性はますます高まります。
逆に、実行していても発信しない企業は、透明性や社会貢献度が低いという評価になりかねません。ことソーシャルグッドに関しては、奥ゆかしさの美徳をいったん外して、積極的に広く発信することも企業が行うべき社会貢献のひとつなのです。
二つ目のポイントは、今回の調査で示されたように、SNS投稿をする人をソーシャルグッド活動に巻き込むことです。SNS投稿者が発信したくなるのは、企業活動ではなく、自分たちが仲介して伝えることで、他の人にも役に立ちそうな、知的で面白い、共有できる体験です。
ですから企業は、情報の受け手がME(私になにしてくれるの?という受け身)になってしまう発信ではなく、WE(それをきっかけに、私たちが企業と共に主体性を持って動く)となるよう、教科書のような「正しい」発信だけではなく、今こそ、みんなでやらなければならないというライブ感が求められてきます。
経営トップの長期・継続的なPRと、SNS投稿者が参加したくなるライブ感は、それぞれ個別で動かすのではなく、一連のストーリーにすることが成功の鍵です。しかしこれは、企業の一つの専門部署だけでできることではできません。ステークホルダーやさまざまな団体などと連携して、社会全体で積み上げたくなる物語をつくっていけるよう、それぞれの人が自分の役割を信じ抜き、片手間ではなく、本業として関わることが大事になってきます。
日本は、SDGsランキング17位で、企業・行政・教育の取り組みは世界的に見ても活発な国です。人々に十分接点はありそうですが、それでも今回の調査でソーシャルグッド意識が他国より低めにとどまったのは、得られた知識を生かして行動するための「WE(私たち)」として動けるコミュニティーが足りないのかもしれません。電通総研から発表された「ジェンダーに関する意識調査」においても、「学校」以外の分野では男女の平等感が低いことが示されています。
2030年に向けて日本でもソーシャルグッドを推進するコミュニティーの活動が増え、その活動を知らせるSNS投稿も増えていくでしょう。そこに積極的に企業も関わり、ビジョンを共有できる体験の場を持ち、時には企業もコミュニティーの一員となってつながっていくことがWEを動かす鍵となるのではないでしょうか。